カナズミシティ到着。お楽しみあれ。
「とうちゃーく、っと」
カナズミシティに着いた。
特に意味もなく最初の一歩を踏み出してみる。前になんとなく観てたテレビのインタビューで、初めての冒険の話をしてたどっかの博士の助手さんのマネ。あれは町を旅立つ時だったけど。
地元であるトウカも不自由ない程度に発展はしていたが、それでも遠目からもその威容を誇るデボンコーポレーションを抱えるこの都市はやはり圧巻の景観だ。
「おー、久しぶりだなあ」
それを目にするあたしの心情はそれだった。
ここカナズミは、あたしがトレーナーズスクール時代に良く通っていた。スクールを辞めた現在はすっかり疎遠になっていたので、あれから変わりない様子でちょっと安心感がなくもない。
懐かしさついでに辺りを見回す。お、いあいぎりオヤジの家。悪さしてゲンコツもらったのはもうイイ思い出だ。そのあとひでんマシンもくれて、かっこいいから今でも覚えさせたままになっている。……どうやっても忘れさせられないからとかではない、断じて。
「さーて、ジムはどこだっけな」
追想もそこそこにして。まずは本命の場所を目指すとしよう。
本当にしばらくぶりなので記憶が曖昧だけど、どうせ目立つとこにあるのが相場な施設だ。このまま進んでいけば見付かるだろうさ。
「――おっ、あったあった」
そうこう歩いてくと、間もなくポケモンジムが見えてくる。
以前はどのタイプのジムだったっけ? まあ今さらどうでもいいか。確かなのは、そこが今はいわタイプエキスパートのジムであることだ。
ふと、傍らの看板に目を通す。
「『岩にときめく優等生』、ねえ」
なんとまあ、ぴったりすぎる肩書きだこと。思わずクスッとする。
それはさておき。あたしはその扉を気軽に押し開けた。
「たのもお~~~!!」
バン、と勢いよく開け放つと、ちょうど扉の真ん前に目的の人物がいた。
これで不在ならハズかった。安堵するあたしと対照的に、目の前のその子は当然の来訪者に一瞬驚いた顔を見せて――それがあたしであることに気付いてか、怪訝そうな表情で出迎える。
「――ヒヨリさん? どうして貴女がここに」
「久しぶり、ツツジ。まだ化石は好き?」
スクール時代の知り合いに、あたしは満面の笑みを返した。
通された応接室にて、早速ツツジからのお小言を受ける。
「まったく、来るなら来るであらかじめ連絡してくださりませんか? こちらにもおもてなしをする用意というものがあるんですからね」
「あっはっはっは、サプライズせいこーう」
お茶を出しながらジト目を向けてくるツツジに、あたしは適当に笑って受け流す。
ツツジが対面のソファに着いて、呆れたように息を吐く。
「相変わらず貴女は、トレーナーズスクールを辞めても問題児ですわね」
「いやぁ、優等生のツツジに言われるとぐうの音も出ないねえ」
あたしとツツジは、ポケモントレーナーズスクールの元・同級生だ。
といっても、互いの言う通りツツジは優等生であたしは問題児。水と油みたいな関係性だ。勉強一筋、真面目一辺倒なツツジとサボり常習、不真面目生徒なあたしとは真逆の存在と言っていい。
それはカナズミシティジムリーダーを務めている彼女と、日々をふらふら過ごしているあたしの近況でも如実に表れている。
本来ならば関わり合いにならないような間柄だが、ツツジとはスクールを辞めた今も連絡を取り合っていた。
「これはもう一度わたくしが面倒を見る必要がありそうですね……」
「それはカンベン。許してお願い」
目が据わるツツジに許しを乞うておく。
スクール在籍の時から正反対な人間であるあたし達だけど、それでもこうして顔を突き合わせる仲になっているのは、当時のツツジが先生に頼まれてあたしの面倒を見てきたことがあったからだろう。
ちょくちょく授業を抜け出してサボっていたあたしに、ツツジはその都度お小言を言いに追いかけてきた。その頃から石みたいにカチコチ頭の委員長タイプだったツツジは、先生からの頼み事として実直に関わってきて、あたしは毎度めんどくさい目に遭ってきたし、真っ当に授業受けるより疲れるような思いもした。
――いや、思い返すとマジでロクな思い出ないな。サボり場所まで来てずっと横で説教垂れてきたり、鬱陶しいから追い払おうとバトルで負かしたら泣かれたり、それを宥めようとアイス買ってやったら「石の方がいい」なんて言いやがったり。根負けして授業に参加したらしたで、やたら得意げな顔されて無性にハラ立った。
結局あたしはスクールを辞めるも、その縁でツツジとはそれなりの付き合いを維持している。
「――これはキンセツジムのダイナモバッジですわね」
そんなツツジにバッジの件を説明し、実物を渡すとすぐに判明した。
ああそっか、キンセツのジムバッジだったのか。道理で知らなかった訳だ。――そんな顔したらツツジにまたジト目を向けられた。授業で習ったんだろうけど、その知識を元・不良生徒に求めないでほしい。
ともあれ、これで解決した。
「そんじゃあバッジは預けるから、持ち主探して届けてやってよ」
そう言い残し、あたしは席を立ち上がった。
するとツツジから声が投げ込まれる。
「待ちなさい。まさかもう帰るつもりではありませんよね?」
「え? そのつもりだけど……」
用は済んだし、もうあたしがやることはないんだが。
本心からのあたしのリアクションに、対するツツジは勝ち気な笑みを浮かべる。
「せっかくジムに来たんですから、挑戦してみたらどうですか? わたくしとしても、スクールでの貴女との勝敗数の差を縮められる良い機会ですしね」
「いや、お構いなく。帰って寝たいんだけど」
「いいからやりますわよ! あえて指摘しますが、さっきジムの前で『たのもう』と言っていたのを聞き逃していませんからね!?」
ついノリで言ったことを引き合いに出され、渋々受け入れる。こうやってムキになるとツツジはもう聞かないからなあ。
言われるがままジムにあるバトルフィールドに向かい、それぞれその両端に立つ。
ジムリーダーの趣味趣向が出まくってる化石や石の展示物に囲まれた中、審判による開始の宣言に応じてボールを構える。
「行きなさい、ノズパス!」
「ノズッ」
ツツジが出してきたのはノズパス。いきなりエースか。
ならばと、こちらも手持ちを呼び出す。
「行け! ――コイル!」
「ンビーっ!」
あたしの方は手持ちの二体目。
ジグザグマがきんのたまと間違えて拾ってきた、コイル(色違い)だ。
「……ジグザグマではないんですね」
「有利狙うのは基本でしょ。授業で習った」
「いや、そうでなくてもわたくしが負け越しているのですが……まあいいですわ。ノズパスの特性を分かってのことなら受けて立ちましょう! 今日は勝たせてもらいます!」
まだ根に持ってんのか。
それはそうと。確かにノズパスの特性は『じりょく』。はがねタイプのコイルはそれによって交代ができなくなる。いくら相性は有利でも、かなり厳しくなるだろう。
――ま、それでこそ面白くなるってもんだけど。やるからには勝たせてもらうぞ?
真面目優等生×不良生徒の組み合わせは良い文明。
●ツツジ
カナズミシティポケモンジムのジムリーダー。ORASではトレーナーズスクールの在籍生なので、こちらでも生徒設定。ヒヨリとはスクール時代の顔馴染みで、先生の頼みであったものの積極的に世話を焼いていた。真面目すぎるために不自由もあったので、不真面目ながら自由人なヒヨリを憎からず思っていた一面も。
●コイル
まじめな性格。特性は『がんじょう』。ヒヨリとの出会いは、ジグザグマがきんのたまと間違えて拾ってきたことがきっかけ。同種と異なる金色のボディはヒヨリから「めっちゃイカしてんじゃん」と言われてから自慢のアイデンティティ。
次回、ツツジ戦。お楽しみいただければ。