トウカでの一幕。あのジムリ登場です。
カナズミから帰ってきてしばらく。
「しけた賞金どーも。これに懲りたら二度と子供相手にバトルを仕掛けて小遣い巻き上げるようなしょうもないマネすんなよな」
「く、くそぅッ……!」
変わらずあたしは地元のトウカで気ままに過ごしている。
今日もマナーのなってないこわいおじさんトレーナーがいたので、これをさくっと成敗しておいた。こわいおじさんを叩きのめす分類上こわいおねえさんなあたしは絵面的になんかアレだが……こっちには「スゲー!」「かっこいい!」と持て囃す近所の子供たちがバックにいるので、あたしの方だ正義だ。オーケー?
悪質トレーナーが逃げ去り、その被害を免れた少年少女が群がってくる。
「ありがとうお姉ちゃんっ!」
「やっぱ姉ちゃんのジグザグマつえーなぁ!」
「どういたしまして。礼はいいけどお前らも気を付けろよ? ポケモン勝負だからって何してもいいと思ってる輩がいるんだからな。不用意に子供だけで町の外に行かないこと。分かったかー?」
はーい、という元気な声が口々に上がった。うむうむ、良い返事だ。
「けどもったいないよなー。それだけ強いんならチャンピオンとか目指せばいいのに。姉ちゃんのジグザグマも強い技覚えさせればもっともっと強くなりそうなのにさぁ」
「いいんだよ、別に目指してないから。だったら強い技とか覚えさせたって持て余すだけだろ? つまりそういうことだよ」
あたしがそう答えてやると、つまんないのーとの声も上がる。他の子もなんか同意見っぽいが、それを軽くあしらって家に帰るよう促した。子供らは素直に解散していく。
「……やれやれ、まったく」
子供は簡単に言ってくれるよなあ。
ぶっちゃけ、あたしは他よりバトルの腕は立つと自覚はしている。それだけポケモンを鍛えてきたって自負があるし、この間ストーンバッジをゲットしたのは記憶に新しい。
でも、それはそれとして。さっき子供に答えた通り、あたしは別にそれで高みを目指そうという気はない。あくまで趣味の範囲内でポケモン勝負が達者なだけで、上に昇り詰めようとは思ってないのである。
基本的に怠惰なのだ、あたしは。自分のやりたいことをやりたいようにやりたいので、やる気がなければやらない主義である。そして、殿堂入りやらリーグ制覇やらはあたしの気が乗らないものだった。
だけどそれを良しとしない意見もあって――
ふとスマホの画面を見やる。
『決めましたか?』
『その気があれば推薦状をお送りしますわ』
『返事なさい』
『もしかして見てませんの?』
『既読ついてるから無視してますわよね』
『だいたい貴女はいつもいつもだらけてばかりで――(以下長文説教)』
『答えないとそちらに行きますわよ』
『ねえ』
『わたくしたち親友ですわよね???』
『不在着信』
『分かってましたが確かに貴女はそういう不良生徒でしたわよね』
『その根性ノミとハンマーで叩き直して差し上げますわ!』
こっわ。メンヘラ彼女のメールかよ。
流石にツツジも本気じゃなくて本の受け売りで送ってきてるんだろうけど、度が過ぎたら本当に押しかけてきそうだ。あいつのしつこさはジムリーダーになっても健在なようで。てかノミとハンマーって。あたしの根性発掘しないでもろて。
でもなあ……やっぱしめんどいわ。ジムバッジ届けるだけならまだしも、ジム巡りとかまったく気が進まない。評価してくれるのは嬉しいが、それとこれとは別問題である。
「ま、いいや。今日はのんびり過ごそーっと」
なのでそういう結論になる。
ジムバッジなんて急を要する用事でもないだろう。ツツジは後が怖いけど、また適当に石あげれば機嫌取れるだろうよ。それより今は自分のしたいことをする方が最優先である。
さて帰ってもう一寝入りするか――と思ったその時、
――うわあぁっ!?
聞き覚えのある病弱少年の声が耳に届いた。
……さっきといい、まさかツツジの念が事態呼び込んでないよなあ?
そんな疑惑を覚えつつ、聞き捨てられないので仕方なく声のした方向に駆けていった。
「うぅ……っ」
駆け付けた先には、やはりと言うべきかミツルくんがいた。
ぐったりするラルトスを抱えてたじろぐその病弱少年の前には一匹のポケモンが。
「ナムコォ……!」
あれは――野生のシザリガーか!
「ジグザグマ! すなかけ!」
「ぐぅ!」
すかさず出したジグザグマのすなかけに怯んだ隙に、ミツルくんを安全な間合いまで避難させた。
「大丈夫か、ミツルくん?」
「ヒヨリさん……!」
おーおー、まるでヒーローが助けに来てくれたような眼差し向けてきて。あたしはホウエンジャーじゃないんだぞ。むず痒いから止してくれ。
そんなミツルくんを置いて、あたしとジグザグマはシザリガーへと向かい合う。
「次はあたしが相手してやるから掛かってきな」
「シザアァッ!!」
人差し指で招いて挑発すると、面白いくらい乗ったシザリガーが迫り来る。
ハサミを振り上げ猛然と飛び掛かる――クラブハンマーか!
「避けろ!」
指示と共にあたしも安全圏に飛び退けば、凄まじい威力のクラブハンマーが炸裂する。
アスファルトの地面に凹みができた。まともに食らえば一堪りないな。
そう頭を過った矢先、端から感心したような声が上がった。
「――今のクラブハンマーの威力、もしや特性『てきおうりょく』か? こんなところでお目にかかるとはな」
落ち着き払った声色で、下駄履きの男が歩み寄ってくる。
あれ、あの人って――
「センリさん!」
「大丈夫かい、ミツルくん? 声を聞いて飛んできたのだが」
あー、センリさんね。この前トウカジムに赴任してきた新ジムリーダー。いま思い出したわ。
そのセンリさんはミツルくんの無事を確認した後、こちらへ頼もしそうな笑顔で尋ねてかけてくる。
「それで。手助けは要るかな?」
「や、お構いなく。とっとと済ますんで」
軽く断りを入れてから、改めて戦闘に向き直った。
ジグザグマに牽制させられていたシザリガーが再び猛然と襲い掛かってくる。
「街中でそう暴れるなよなっ。ジグザグマ、しっぽをふる!」
応えたジグザグマが尻尾を振り立て、シザリガーはそれに目を奪われてしまう。
防御が緩んだ。長引くと危ないし一撃で終わらせよう。
「いあいぎり!」
あたしの指示でジグザグマが構えを取り、一呼吸の内に鋭く爪を振るった。
ザン、という風切り音から数秒遅れ、シザリガーが倒れ込む。
「……ほう。大したものだ」
「す、凄いですヒヨリさんっ!」
「ざっとこんなもんよ」
称賛の声に自慢っぽく返しておく。
意外にタフなシザリガーはふらふら立ち上がり、すごすごと棲み処である池の方へと逃げ去っていった。
その姿を見送っていると、
「――あ、あのっ!」
ミツルくんがあたしと、センリさんに向けて声を掛けてくる。
未だ目を回すラルトスを抱え込むミツルくんは、いかにも申し訳なさそうに口を開く。
そういえばそのラルトス、センリさんの息子と捕まえに行ったって言ってたか。
「ご、ごめんなさいっ。ボク、シダケに行く前にどれだけやれるかって、ヒヨリさんのようになりたくて挑んでしまって……!」
「なんだって? なんて無茶をするんだ。今回は無事だったが、まだ実力も身に着けていない内は迂闊な行動はするものではないよ。それがポケモンを育てるトレーナーとしての初歩だ」
「はい、ごめんなさい……」
項垂れるミツルくん。うん、センリさんの言う通りだ。あたしのようにー、とかちょっと責任覚えるが、そこはセンリさんがしっかり釘を刺してくれたので聞き流すとしよう。
そんなセンリさんが徐にあたしの方に向かい合った。
「さてと。思わぬ事態はあったが、むしろ君の腕前を見られて好都合だった。……君がヒヨリさんだね?」
「そうですが……あたしに何か用で?」
「ああ。君のことはカナズミのジムリーダー、ツツジさんから概ね連絡を受けていてね。曰く、実力はあるのだが無気力なのが玉に瑕とかなり愚痴を零されたよ」
あ、ツツジのヤツ! 埒が明かないと地元のジムリーダーに話したな!? 汚いなさすが優等生きたない。先生にチクる感覚でジムリーダー仲間利用すな!
くそぅ、今度会っても石あげないからな……
あたしの恨み言を察してか否か、センリさんは苦笑した後にこちらを真っすぐ見据える。
「そんなトレーナーを導くのもジムリーダーの務めだ。いま時間はあるかな? ジムで話そうじゃないか」
有望な人材を見付けたかのように、不敵な笑みを浮かべてセンリさんは言った。
どうでもいいがヒヨリはトレーナーでいうところのこわいおねえさんだと最近になって気付いた件。近所の子供にも好かれているタイプのこわいおねえさんです。
ツツジはあれを真顔で送ってるか、ハイライト消した目で送ってるかはご想像にお任せします。私は後者希望です。
●センリ
新任のトウカシティポケモンジムリーダー。ほぼ原作ママ。この時点で息子である原作主人公を旅に送り出している。
●シザリガー ♂
トウカシティの水辺を牛耳るヌシ的存在。特性は『てきおうりょく』。余談だがゲットの案もあったけど手持ち候補の仲間入りが立て続くのでボツに。鳴き声が個人的ツボ。
次回はセンリとの話し合い。お楽しみいただければ。