ヒヨリの旅立ち。ちょい駆け足かも(保険)
――ミツルくんがシダケに引っ越す際、
「僕も向こうで元気になったらジムに挑戦します! その時はヒヨリさんに負けないくらい強くなるので、一緒に頑張りましょうね!」
と、曇りなき眼で言い残された。無邪気に逃げ場なくしてくるのやめてほしい。喉元すぎてきてワンチャンバックレられんかと魔が差してきたところにそれは逃げられないじゃん。ピッピ人形かエネコの尻尾プリーズ。
そんな訳で、あたしもこれからトウカを発つ。
目指すはポケモンジムのあるムロタウン。トウカシティまでの行きの船を手配してくれた親切待遇()のセンリさん曰く、自分に正式な挑戦をするのなら各地のジムバッジを集めてくるのが条件とのこと。先日トレーナーとして旅立った息子さんにも同じように言い渡したらしい。で、カナズミジムのバッジをゲットしてるあたしは、次に近いムロジムを薦められたのだ。
上手く踊らされてるようだが、あのバトルのちゃんとしたリベンジ戦をするためにもここは言う通りにするとしよう。
せめてもの抵抗でいつもの散歩スタイルで、ミツルくんの両親とかの知り合いに挨拶を済ませ、その足で104番道路に面する海に停泊している船に乗り込む。――ハギ老人にも顔見せたかったが、今日は生憎と留守らしいな。
住み慣れた地元を離れ、あたしはこうして旅立っていった。
「おーい嬢ちゃん、あんまり身を乗り出して海に落ちないでくれよ?」
「へいへい。落ちたら泳いで家帰りまーす」
船の運ちゃんに未練っぽく冗談を返しつつ、海の上を走る船上からの景色を眺める。
思ったより悪くない海での旅路。あたしは満喫する一方、コイルは塩水が天敵すぎてボールから出てこず、ジグザグマはといえば景観そっちのけで船の揺れを楽しんでいる様子だ――おい待てジグザグマ、ここ海の上だぞ。また何処から拾ってきたそのきんのたま。
そこから道中? 水道中? は問題もなく進み。じきに目的の島に着いた。
「とうちゃーくっ」
桟橋から船を降り、上陸。いやあ、揺れないって安定する。
ここがムロタウンか。こっちは初めて来た。ほんとにあったんだまであるなあ。サンダルを脱いだ足の裏で直に触れる砂浜の感触は、心なしか
しかしトウカやカナズミと比べたら流石は離島の町、何もねえ。フレンドリィショップもないのは相当だぞ。都会暮らしとしてはどう生活してるか疑問レベルだ。
「よし、そんじゃあまずはっと」
それはともあれ。着いて早々、あたしは町の外れへと足を運ぶ――
あたしの手持ちはノーマルタイプのジグザグマと、電気・鋼タイプのコイルとの現状二匹だ。
そして、ここムロのポケモンジムは格闘タイプ使いのジムである。
後は分かるだろう。うちの面子、格闘にめっちゃ不利なのだ。
もちろん、たとえ相性不利でもあたしご自慢のポケモンたちなら圧し勝つ自信はある。そう鍛え上げてきた自負はトレーナーとしてあるつもりだ。
だが、相手はリーグにその実力を認められたジムリーダー。舐めて掛かれないのはツツジやセンリさんで体感している。そう甘く見れなかろう。
そこで、あたしはこの『石の洞窟』で新たな仲間を探しに来ていた。
「ジグザグマ、ずつき! コイル、でんきショック!」
ついでにトレーニングを兼ね、洞窟内を観光がてら進んでいく。
しかしすっげえな。まさに洞窟って風情だ。カナズミにも似たようなトンネルがあるけど、やはり天然ものってなると趣が違う。かと思えば古い壁画もあるし、実に見応えがある。
ズバットやイシツブテなど、こういう場所にいがちな野生ポケモンを危なげもなく捌いていく頼もしいお供たちに、この二匹ならやっぱ勝てるんじゃね? と親バカ心出てきたところで、開けた場所に出た。
「おー、これまた良い場所だ」
ちょうど上手い時間だし、ここらで昼休憩にするか。
テレビで見たけど、ガラルとかパルデアではポケモンとのキャンプやらピクニックを楽しむ文化があるらしい。あたしは基本出不精であるが、ちょっとそういうのに魅了は感じる。いつか行ってみたいもんだ、いつかね。
そう想いを馳せながらさて食うかとしたその時、
「――クチぃ」
匂いに誘われて一匹の野生ポケモンがとことこ近寄ってきた。
「お、食いたいか?」
「クチぃ!」
弁当からおかずを摘まんで見せると、あざといくらい喜ばれる。
そんな欲しいなら仕方ない。一つくれてやろうじゃないか。
可愛らしい仕草に微笑みながらそれを差し出すと、そのポケモンはくるりと体を反転させ、
あたしごと食い付こうと開かれる大あごを、ひらりとかわしてやった。
「クチッ!?」
「悪いけどバレバレなんよ、クチートちゃん」
そのまま身を翻して距離を取り、あたしは得意げに言い放つ。
――どっかの優等生に無理やり参加させられた授業の知識が活きたわ。
目論見が外れ、逆に欺き返された『目的』のポケモン――あざむきポケモン・クチートは、本性を表すように大あごの牙を剥き出して襲い掛かってきた。
「ジグザグマ!」
迎え撃つ形でジグザグマを差し向ける。
対するクチートが、その大あごでもって『いかく』。不覚にも威圧されたジグザグマの直後の攻撃は、大あごを盾にして難なく防がれてしまう。
そうしてまた大あごを開き、生え並ぶ牙で捕らえんとしてくるクチート。ガツンッ! バクッ! と力強い音を立てて噛み付いてくるのを、ジグザグマは軽やかにかわす。
「気圧されるなよっ、お前はできる子だ!」
「ぐぅ!!」
あたしが喝を入れると、威勢よくジグザグマが応えてくれる。
ここで交代するのが常道だろうが、うちの相棒はそうやわな鍛え方していない。これでもいわタイプ相手に勝利積んだ実績持ちだ。攻撃下げたくらいでなめてもらっちゃ困る。
せっかくだし、力試しもさせてもらおうか。
クチートが再び襲ってくる。鋼のあごを開き、向かう
が、すでにジグザグマはそこにおらず。クチートは驚きの表情。
その隙に、
「クチぁ!?」
堀った穴から飛び出したジグザグマの攻撃を喰らうクチート。
あなをほる。旅立つ前に覚えさせていた技だ。今まではわざわざ覚えさせる必要性を感じていなかったが、この旅を機に見直して手持ちのわざマシン(ジグザグマが拾ってきた)を引っ張り出してきたのである。早速見せ場があった。
「もう一度だ!」
応えたジグザグマが再度穴に潜る。
一方のクチート、行動を先読みし出てきたところを狙うようだ。今度こそ牙で捉えようと大あごを地面に向けている。かなり
――だが、それでもこっちが取らせてもらう。
「技連結!」
あたしとジグザグマとが編み出した技術、見せてやる。
クチートは頭部の大あごが武器であるために、それで攻撃するのに後ろ向きとなる。なので視界は大あごの陰もあってかなり制限されるのだ。
そこを利用し、ジグザグマはクチートの死角へと素早く掘り進め、間髪入れず土の中から飛び出した。
「あなをほる、からの――いあいぎり!」
飛び出したジグザグマは、そのまま爪を構える。あなをほる攻撃の勢いに乗せたいあいぎり。重さに鋭さを兼ねた攻撃は、完全に死角を取られたクチートへと繰り出された。
ザン、という斬撃音。数瞬の後、クチートが力なく崩れ落ちていく。
すかさずあたしはボールを投げ込み――見事捕らえたボールが一つ、二つ、三つと揺れ、最後にカチリと音を立てて静まった。
「――クチート、ゲットだぜってな」
「ぐぐぅ!」
幸先よく狙いのポケモンとゲットできた。久々だな、この感覚。思えばこうしてまともにポケモン捕まえようとしたのは、それこそジグザグマ以来だったなあ。
なんだかトレーナーしてる実感を、今さらながらに覚えるあたしなのであった。
オメガルビープレイ一周目でいじっぱりクチート一発ゲットした思い出。以降エースとしていち早くレベルカンストするほど先陣切ってた。
●クチート ♀
いじっぱりな性格。特性は『いかく』。石の洞窟内ではかなり腕が立つ個体だった。擬態には自信があったのだが、ヒヨリに見破られてショックだった模様。
一応言っとくとジグザグマには何のバックボーンとかない設定です。ただなんか色々拾ってくるコミカル枠。いつか『アレ』もしれっと拾ってくる予定。
次回、ジム挑戦。お楽しみいただければ。