【リトス地方 1番エリア】
ここはクルメタウンとコナカシティを繋ぐ道路。道中にはキサラキタウンがある。
なだらかな平地であるので、ここからでもキサラキタウンとコナカシティが見える。
この道はここ10年で何度も通った道だ。故に今はまだあまり旅をしている感覚がない。
「もう慣れ親しんだ道ってこともあるし、なんだか緊張感を持てないなぁ」
「バニ!」
ヒバニーはボールから出して一緒に歩いている。随分と人懐っこくてようきなヒバニーだが、レイとヒバニーは出会ったばかりである。話をしながら並んで歩くことで、少しでも親交を深めていこうという算段だ。
1番エリアで見かけられるポケモンは数多く、レイもよく知っているポケモン達だ。
むしポケモンであれば、「イトマル」や「タマンチュラ」に「クルミル」。
とりポケモンであれば、「ポッポ」や「ヤヤコマ」に「ツツケラ」。
ノーマルタイプのポケモンならば、「ビッパ」や「ジグザグマ」に「ウール―」。
他にも「スボミー」や「ピチュー」などのポケモン達が生息している。
特にクルメタウンやキサラキタウンでは、野生のポケモン達とも共存して過ごしているところが見られるので、そういったのどかな風景を身に来る観光客もたまに見かけるくらいだ。
「一度この先のキサラキタウンに寄って行ってもいいんだけど、コナカシティから先の冒険の準備はコナカシティでも出来るからなぁ……。ヒバニーはどうしたい?」
「ヒバ?」
キサラキタウンを拠点に1番エリアの更なる調査をしてもいいが、博士はクルメタウンに住んでいるし、なによりその手伝いで1番エリアについてはだいたいのことが分かっている。
なのでここで時間をかけるより、コナカシティの先の調査から進めるべきではあるが、一人で旅をしているわけではないので、ヒバニーの意見も伺うべきだろう。
「この旅の目的自体はまだ決まってないけれど、一先ずはリトス地方全域のポケモン調査をしていこうと思うんだ。私はこの辺りに熟知、というほどではないけどそれなりに知っててさ。故にこの先のコナカシティの先にある森か洞窟から進めたいんだけど……」
「バニ?」
流石にちょっと難しかったかな……。さっきまでのようきさはどこかへ行ったヒバニーは、考え込むように首を傾げている。
「ヒバヒ! バニバニ!」
それから間を置かずに、大きく頷いた。
「お、じゃあそれで行こうか。コナカのもりも、こうせきのほらあなも実は行ったことがなくてね。コナカシティで準備してから向かおうか」
「バニー!」
コナカのもりはコナカシティの東に広がる森で、ここはむしポケモンやくさタイプのポケモンが多くいる。「どく」や「ねむり」といった状態異常を使ってくるポケモン達も数多くいるので、「どくけし」や「ねむけざまし」は必須だろう。
こうせきのほらあなはコナカシティの西にある2番エリアの道中から、その先の3番エリアに行くために必ず通る必要のある洞穴で、状態異常を駆使するポケモンは少ないものの、暗所からの「ふいうち」に備え、多めに回復アイテムを購入しておく必要があるだろう。
どっちに向かってもいいが、森はあまり1番エリアとタイプ的な違いはないため、洞穴の方を先に調べたいところだ。
1番エリアに生息しているポケモン達は元々温厚な気質ということもあり、こちらから過度に干渉しない限りは襲われることもない。未だ抜けきらないピクニック気分と共に、コナカシティへ続く道を歩いていた時にそれは起きた。
ガサガサ、と近くの草むらが揺れる。
最初は風かと思ったが、どうもその音と草むらの揺れはこちらに向かきていることに気付くにそう時間はかからなかった。
「! ヒバニー、何か来るぞ……!」
「ヒバ!」
もしかしたら、興奮した野生のポケモンが飛び出してくるかもしれない。その時に備え、レイもヒバニーも構える。
一際大きなくさわけの音と共に飛び出してきたのは、随分と傷付いた一匹のポケモンだった。
あっ! 野生のモンメンが 傷だらけで 飛び出してきた!
そのモンメンはこちらを見てびっくりしたようで、急いで踵を返し逃げ出そうとしていたが、体力はあまり残っていなかったのだろう。力なくその場に倒れ込んでしまった。
「モ……メ……」
「モ、モンメン!? 1番エリアには生息していないはず……。なんでこんなところに……」
モンメンはコナカのもりに生息しているポケモンだ。他のエリアには滅多に行かないはずなので、1番エリアで見かけるのは本来ならばあり得ないことだ。加えて随分と傷だらけ。コナカのもりで何かがあったのは間違いないだろう。
「いや、それを考えるのは後だ」
そう、原因を探るのは後。今はこの傷付いたモンメンの手当てを行い、一刻も早くポケモンセンターへと連れていくのが最優先。
すぐさまレイはモンメンの近くに駆け寄り、バッグから「オレンのみ」と少量の薬草と取り出す。
オレンのみをくだものナイフで少し切り、薬草と一緒にすり鉢に入れて混ぜる。十分混ざったものを木製のスプーンで救いあげると、モンメンの口元に持っていく。
「……モメ?」
「ほら、体力を回復させる薬だ。警戒しているかもしれないけれど、君を助けるために食べてほしい」
警戒しながらもレイに悪意がないと感じたのか、恐る恐る薬を口に含むモンメン。
オレンのみで和らげたとはいえ、薬とは苦いもの。含んだ瞬間苦さでモンメンの顔がしかめられたが、少し楽になったのか、先ほどより苦痛な表情ではなくなったような気がする。
しかしこれはあくまで応急処置だ。すぐにでもポケモンセンターで本格的な治療を行う必要があるだろう。
「ヒバニー、近くにキサラキタウンがある。そこのポケモンセンターにモンメンを連れて行こう」
「ヒバ!」
「ごめんね、少し我慢して」
野生起きたことだろうと言われればそれまでかもしれないが、見てしまった以上見て見ぬふりはできない。それに、もしコナカのもりでなにか異常が起きていた場合、このモンメンは証人だ。ポケモン博士見習いとして、なにが起きているのか調査をする必要があるだろう。
モンメンを抱え、ヒバニーと共にキサラキタウンへと駆け出していく。
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【キサラキタウン】
ほどなくしてキサラキタウンへと着いたレイとヒバニーは、急いでポケモンセンターへと駆け込んだ。
「ジョーイさん! この子を助けてくれませんか!」
「バニバニ!」
駆け込んできたと共に大声を発したレイに、なんだなんだと数人の利用者がこちらへと視線を向ける。あまり大勢の視線に晒されるのは得意ではないが、今は緊急事態。気にしている場合ではない。
「どうされました?」
騒ぎを聞きつけ奥から出てきたジョーイさんは、レイの様子からただ事では無いと感じ、冷静に話を伺う。
「さっきコナカシティに向かっていたんですが、この子が傷だらけで飛び出してきまして。応急処置はしましたがダメージが大きく」
「わかりました。その子をお預かりしますね」
ジョーイさんにモンメンを預け、センター内のソファーに腰掛ける。
こうせきのほらあなへと向かうつもりだったが予定変更だ。モンメンをコナカのもりに返すとともに、そこで何が起きたのか調査をする必要があるだろう。
「レイ、どうしたんだ?」
ふと声を掛けられ見上げると、ツーブロックが似合う掘りが深い顔の男性、レイもよく知るベテラントレーナーのカツがいた。
「ああ、カツさんでしたか」
「話は聞いていたが、ありゃモンメンだよな。なんだって1番エリアに?」
「それがわからないんですよ。モンメンが回復したら コナカのもりに調査に行くつもりです」
「調査ってお前ポケモンが」
そこまで言ったカツの目にはレイの隣に座っている、不安そうにポケモンセンター内を見つめるヒバニーが目に入った。
「そいつはヒバニーじゃねぇか。もしかしてトレーナーになったのか?」
「あはは……実はそうなんですよ」
「そりゃ安心だな。俺ぁてっきり一人でコナカのもりに行くのかと思ったぜ」
「まさか。手持ちもいない状態でコナカのもりは行かないですよ」
カツはレイがクルメタウンに来てすぐからの付き合いのトレーナーだ。
若い頃はリトスポケモンリーグでジムバッジ集めもしていた凄腕のトレーナーらしい。なんでも、元リトスリーグチャンピオンとも戦ったことがあるとか。今は引退して地元で子供たちにポケモンバトルについて指南している。
レイも彼からは色々とポケモントレーナーとしての知識や常識を教えてもらった。レイにとってはトレーナーとしての先生のような立ち位置だ。
「だが、ここまで逃げてくるってこたぁ相当なことが起こってる気がするぜ。あそこには鍛錬中のトレーナーとかもいるから、よっぽど問題ねぇとは思うが、用心するに越したことはねぇ。くれぐれも気を付けろよ」
「ええ、わかってます。無駄に意地を張って怪我を負うのはごめんですから」
「ならいい」
そういうと。カツはポケモンセンターの奥の方へと目を向ける。二人と一匹揃って奥を見ている格好だ。傍から見たら親子のようにも見えるかもしれない。
ふと思い出したのか、カツは「そういえば」とレイに視線を戻す。
「トレーナーになったってことは何か目標でも出来たのか?」
「ああ、いえ……博士に言われて……」
「ああ……じいさんのいつもの無茶ぶりか……大変だなお前さんも」
「まあもう慣れたものですけどね」
ははは、と二人して苦笑いをする。その様子を見たヒバニーは何のことだか分からずに首を傾げていた。
「しっかしせっかくトレーナーになったんだ。なにかやりたいこととかないのか?」
「やりたいこと……」
カツさんが言っているのはおそらく、例えば強いトレーナーになるとか、リトスリーグでチャンピオンになるとかそういった類だろう。
確かにそれらは名誉のあることだ。バトルを生業にしているトレーナーを例にすると、ジムリーダーや四天王・チャンピオンはそういったトレーナーの憧れの的である。しかし自分でもわからないが、そういった欲求というか、夢というのはない。
ならばポケモンコンテストに関わるポケモンコーディネーターになりたいかと言われるとそうでもない。珍しいポケモンはいるのならば一目見たいと思うことはあるが、自分には夢がないのだ。
「夢といったものは特にないんです。漠然とした思いも」
「……」
「けれど、この度でそれが見つけられたらと思います。一先ずはリトスのポケモンを調査しながら」
結局は今までやっていたことの延長線。なによりこちらは慣れているということもある。
無論、自身が今までいたフィールドから離れれば勝手が違ってくるのは承知の上だ。それでもレイはポケモンの調査を一先ずの主目的にする。
「視点を変えてみるといいぜ。何か違ったものが見えてくる」
簡潔にそれだけ伝えたカツは、「悪い、これからバトル指南があるんでな。ここらで失礼するわ」と言ってポケモンセンターを出て行った。
これまで、特に博士に引き取られてからの10年、自分から何かをしたいと思ったことは極端に少なかったように思う。
今だってそうだ。自分から言い出したとしても、博士はポケモンをくれて心よく送り出してくれただろう。
視点を変える。
言葉だけならば単純だが、その実かなり難易度の高い行為であることは間違いないだろう。考えや価値観を変えるというのは一朝一夕に出来るものではない。
「夢か」
これを機に考えてみるべきなのかもしれない。この旅によって得られるもの、それらから何かを見つける、言うなれば自分探しの旅。
「よし! ヒバニー!」
「ヒバ?」
パンッと頬を叩いて立ち上がり、ヒバニーの方を見る。
出会ったばかりのパートナーは不思議そうにこちらを見上げたが、レイの目に宿る炎を感じ取り、ヒバニーもまたソファーの上で立ち上がった。
「これから何があるかわからないし、どう転ぶかわかんないけど、色々と試せることは試してみる。付き合ってくれるか?」
「ヒバヒ!」
「ありがとう。それじゃあまずはモンメンを森に帰すところからだ!」
「ヒバー!!」
再びヒバニーと拳をぶつけ合う。何もないキャンパスなら、何色にも塗れるということだ。
一部ポケモン研究という色に塗られているが、それ自体は好きでやっていること。ここに継ぎ足していければいい。
パートナーと決意を固めたその時、センターの奥からストレッチャーのキャスターの音が聞こえてきた。
エルフーンにフェアリータイプがあって、なんでドレディアにはないんでしょうかね。
まさか、蝶舞とのシナジーを恐れて……?