カラカラとキャスターの音が聞こえてきた方に目を向けると、ストレッチャーを押すジョーイさん。隣にはタブンネもいて、ストレッチャーの上にはすっかり傷の無くなったモンメンが乗っていた。
「お預かりしたモンメンはすっかり元気になりましたよ」
「タブンネーっ」
「モンメン! よかった……ありがとうございますジョーイさん」
モンメンは運ばれている間は少し縮こまっていたが、レイの姿を見つけると嬉しそうにふわふわ浮いて近寄ってくる。
「モメ! モメメ!」
「あはは、くすぐったいって」
レイの顔に近付き、その周りをぐるぐると回っているモンメン。ふわふわの毛並みがとてもくすぐったい。
「この子、野生のモンメンでしたよね? どうして1番エリアに?」
「ああ、それは」
ジョーイさんに事のあらましを話す。レイの話を聞いていたジョーイさんは徐々に怪訝な顔になっていく。
「向かうのであれば、コナカシティでポケモンレンジャーの方に要請をしてもいいかもしれませんね」
「ポケモンレンジャー……そうか、その手があったか」
ポケモンレンジャー
フィオレやアルミア、オブリビアでは野生のポケモンの協力を得て、自然災害の解決や悪人の取りしまりなどをしているらしいが、ここリトスでは主に野生のポケモンや自然の保護や監視に当たっているトレーナーたちのことだ。
特に森林や山脈に隣接している都市に多く駐在し、日夜その業務に奔走している。
コナカシティはリトスレンジャーユニオンの本部が置かれている都市だ。タイミングによってはトップレンジャーの手を借りることもできるかもしれない。
「ありがとうございます。コナカに着いたらレンジャーベースを訪ねてみます」
「いいえ。どうかお気を付けくださいね」
再度礼を言ってキサラキポケモンセンターを後にする。目指すはコナカのもり。そのためにコナカシティで森へ向かうための準備とレンジャーへの要請を済ませなければ。
事態は一刻を争うかもしれない。急いでコナカシティへと歩みを進めていく。
****
【コナカシティ】
1番エリアとの境目にある門を潜ると、いよいよコナカシティへと到着する。円形に広がるこの街は、リトス地方でも一番大きな街だ。
西の門から先には2番エリアとその先にこうせきのほらあな。東の門からはコナカのもりへと出ることが出来る。中央には一際大きい建物が建っており、低層階はコナカポケモンジム。高層階にはコナカポケモンリーグ本部が置かれている、まさにリトス地方の中心の街と言っていいだろう。
形としてはパルデア地方のテーブルシティに近いかもしれない。
コナカのもりには「どく」や「ねむり」、「まひ」といった状態異常を駆使してくるポケモンが数多くいる。その最たる例は、今レイの隣を浮遊しているモンメンだろう。とくせいのいたずらごころにより先制で「ねむりごな」などの粉技を駆使してくるため、ここを抜けるにはくさタイプのポケモンは必須だ。
だがそれだけで終わらないのがリトス流。
道中にはむしタイプのポケモンやどくタイプのポケモンも跋扈しているため、それらの対策となるポケモンも必要となる。昔はクルメから旅立つトレーナーの登竜門とも呼ばれていたほど。
そのための準備として、それらの状態異常に対応できるアイテムを複数種類購入しておくことが必要不可欠だ。
「所持金は博士の手伝いで貯めた費用が結構あるし、多めに買っておこうか」
コナカシティに着いてからまずレイ達が向かったのはコナカデパート。レイも数えられるほどとはいえ、このデパートに買い出しへと訪れたこともあるので、勝手は知っている。
通常リトス地方ではポケモンセンターとフレンドリィショップが同じ建物内にあるのが一般的だが、このコナカシティでは利用客が多いことに加え、様々な物品が必要になることもあり、ポケモンセンターとは別にこういった形でデパートがある。
コナカポケモンセンター内にもフレンドリィショップはあるので、「どくけし」などといったポケモン用の道具を購入するのであればそちらでもいいが、デパートはレンジャーユニオンに立地が近いので、そちらへと向かった形だ。
「状態異常回復系のアイテムはそれぞれ10個ほどでいいかな……。博士に貰ったキズぐすりは10個しかないから、これも20個くらい買って。モモンのみとクラボのみもいくつかあるから『どく』と『まひ』はいいとして、ねむけざましをあと5個買おうかな」
デパート二階のポケモン用グッズを物色していく。何もないに越したことはないが、何かあると仮定して動いた方が有事に備えられる。
「そういえば、すっかり元気になったね」
「メ?」
デパートで買い物を済ませた後、レンジャーユニオンに向かう道中で隣を歩くモンメンを見てふと思う。
「これから君を傷付けた元凶の元にいくんだけど、大丈夫かな」
「メェ! モメ!」
キッと目つきを鋭くしてファイティングポーズのような姿勢になるモンメン。やる気は十分といったところ。なんともまあ、あれだけボロボロにされたのにこの様子、随分とずぶとい性格のモンメンのようだ。
「大丈夫そうだね。それじゃ予定通り、ポケモンレンジャーの人に手伝ってもらって解決しに行こう」
「ヒバ!」
「メェ!」
デパートから出てコナカシティの東の方へと歩みを進めると、それなりに大きな三階建ての建物が見えてくる。あれがリトスレンジャーユニオン、その本部だ。
自動扉を潜り中に入ると、ロビーの入り口の左右はソファースペースのある待合室となっており、向かって右手側には階段、左手側にはエレベーターが設置されている。正面には受付があり、二名の女性がそちらに座っている。
レイに気付いたその女性たちは立ち上がり、こちらへと声をかけてくる。
「こんにちは。本日はどうなさいましたか?」
「実はですね……」
「ん? なんだ? トラブルでもあったか?」
受付の方に事情を説明しようとした時、階段の方から低くてとてもよく通る声が聞こえた。
思わずそちらの方を振り向くと、階段から降りてきた人物は白髪の壮年男性だった。容姿としてはイッシュ地方のソウリュウシティジムリーダーのシャガに似ているだろう。高齢にもかかわらず逞しい肉体をしている。
「ソウガさん! お疲れ様です!」
「ソウガって……コナカジムリーダー!?」
「ん? 知っているのか坊主」
「そりゃあ知ってるに決まってるでしょう!」
コナカシティジムリーダー、ソウガ
リトス地方のジムリーダーで一番強いと言われている人だ。ドラゴンタイプのポケモンを主に使い、激しい攻撃と堅牢な守りを使い分けて戦うと聞く。
「カッカッカ! 確かにそうかもなぁ」
(なんというか、随分と豪快な人だな……。メディアとは大違いだ)
メディアに露出しているソウガのイメージは寡黙でストイック。質疑なども簡潔な内容で済ませていることが多いので、今目の前にいる本人は、そのイメージとはかけ離れており、レイは困惑していた。
「んで、レンジャーユニオンに来たってこたぁ、何か問題でもあったんだろ。話してみな」
「は、はぁ……」
面食らったものの、レイとてもう大人だ。その話をする前に先にすることがある。1番エリアで会ったモンメンの事を話し、これからリトスのもりに向かうので、レンジャーに手を貸してもらいたい旨を伝えた。
「そりゃあまた……珍しいな。リトスのもりは好戦的なポケモンもいるにはいるが、住処を追い出すほどの傍若無人なのはいなかったはずだが」
「ええ、その点が私も引っかかっているんです。ですので、こうしてユニオンを訪ねた形です」
「そうだな……よし坊主!お前名前は?」
「レイです」
「レイ!その件、ワシが手伝う!」
「……え?」
「なに、街とその近辺の治安を守るのもジムリーダーの仕事だ。それに、お前さんからはポケモンに対する思いやりが感じられたんでな。いいトレーナーの素質だぜ、そいつぁ」
ベテラン、とまでは言わないが、不確定の事象故に力を借りることが出来れば上々だと思っていたところにこの提案。レイにとっては願ったり叶ったりだ。
無論、レイにこの提案を断る理由がなく、期せずして現時点での考えうる限りの最大戦力の手を借りられることとなる。
「ありがとうございます。それでは、私と一緒にリトスのもりに調査に来てください」
「ああ。準備は出来てるのか?」
「もちろん、整えてからこちらに来てますから」
「そりゃあいい」
ニィ、と笑ってソウガはレンジャーユニオンの出口へと歩き出す。遅れないように、レイとヒバニー、そしてモンメンも急いでソウガの後を追ってユニオンから出ていく。
「お前さん、駆け出しのトレーナーか?」
「まあ、はい。今日トレーナーになったばかりです」
「トレーナーになりたてってのに、随分と冷静に事を運ぶんだな」
「え?」
ユニオンから出て、コナカシティの東の門に向かっている最中、ソウガからそのような言葉が投げかけられた。
「どんな年齢でもな、トレーナーになりたてってのは浮かれてるもんだ。歳を重ねてるほどそれをおくびにも出さねぇがな。お前さんくらいの歳なら、なんでも出来ると思い込んで一人で解決しようと突っ走る危ねぇヤツもいんのさ」
何も言いだせず、レイは黙ってしまう。
「それをお前さんはレンジャーに頼るって手段を取った。事前に準備してたってこたぁ、元から頼るつもりだったんだろ?」
「ええ。私一人に出来ることはたかが知れてます。何が起きてるかわからない以上、強いトレーナーやそういった事情に慣れているレンジャーを頼るべきだと思いまして」
「なるほどなぁ」
立派な顎髭を撫でつつ、ソウガは空を仰ぎ見る。
自分の判断は間違っていないはずだ。実力を過信し、自分だけが危険な目に合うのならいいが、隣にはパートナーのヒバニー、そして保護したモンメンもいる。彼らを無闇に危険にさらすことは、それこそトレーナーとして失格だろう。
「それが悪いこととは言わねぇが、時には冒険すんのもまたトレーナーには必要なことだ」
「……」
「ああ、勘違いすんなよ? なにも無謀なことをしろって言ってるわけじゃねぇ。挑戦とちょっとした冒険もしなきゃいけねぇってだけだ。今回はお前さんの判断で間違ってねぇがな」
ソウガの言っていることは恐らく、いやしっかりと正しいのだろう。名を上げているトレーナーというのは誰しも一度ならず、何度もそういったことを経験しているはずだ。
無謀と挑戦の境目その塩梅が、レイにはまだわからないだけだ。
「そう……ですね。覚えておきます」
「焦るこたぁねぇさ。少しずつ試せばいい」
事情を話したわけではないが、なんとなく察しているような言い方。
年の功なのか、それとも強いトレーナーが持ち合わせている感性なのか、今のレイにはそれがわからなかった。
コナカシティ ポケモンジム
リーダー ソウガ
【質実剛健のドラゴンフォース】