首刈コリス   作:ことのはだいり

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誤字報告ありがとうございます。助かってます。


第15話 Count your sins

 ジンさんの指導を受けるようになったたきなさんは、ゆっくりと、しかし着実にその実力を伸ばしています。

 この調子なら一般的なファースト・リコリス程度の能力水準に到達するのは時間の問題でしょう。

 ろくに喋らないジンさんがまともに他者を指導できるのか不安だったのですけど、向上心に溢れるたきなさんは何も言わずとも見て覚える努力をしてくれるみたいです。

 意外とこの二人、相性がいいのかもしれません。

 ……いっそのこと、たきなさんがジンさんと恋仲になってしまえば良いのでは?

 私の目的はたきなさんに私の千束さんを奪われないようにすることです。

 たきなさんが他の男のものになってしまえば、それは叶います。

 暗殺よりも平和的で、ファースト昇格を待つよりも手っ取り早い……完璧じゃないですか!

 

「ねぇ皆さん、たきなさんとジンさんってお似合いだと思いませんこと?」

 

 思い立ったら即行動です。

 たきなさんとジンさんが訓練のため不在となったリコリコで、私は皆さんにそんな話を切り出しました。

 それに対する皆さんの反応は奇妙なもので、なぜか発言した私ではなく千束さんに注目が集まり、千束さんはばつが悪そうに顔を逸らしました。

 

「……あ〜、あのねこりす、そういうのって思い込みで動くと大変なことになるから、じっくり慎重に裏を取るとこから始めた方がいいよ」

 

「早とちりしたアホは経験に学んだみたいだな」

 

 クルミさんがにやにやしながら言いました。

 

「こりすぅ、お前は賢いんだから歴史に学べよ〜」

 

 話が分からず私が首を傾げていると、既に軽く酔っているらしいミズキさんが大笑いしながら教えてくれました。

 

「あんたがこっち戻ってくるちょっと前に、千束ったら別のおっさん相手におんなじことして盛大にやらかしたのよ。たきなの恋を応援する〜! 恋のキューピッドになる〜! って。んで、喫茶リコリコは〜、お通夜の会場になりました〜!」

 

 千束さんが両手で顔を覆い隠し、ミカさんが苦々しい表情を浮かべました。

 

「まあ……店内で一般人を射殺しましたの?」

 

 私は神妙な顔を作って言います。

 

「そのような危険人物、今すぐDAに送り返すべきですわ」

 

「どの口が言うか! 少なくともお前よか安全だわ!」

 

「ワタクシがいつお客様を殺したと言いますの!?」

 

「たきなだって殺しとらんわ!」

 

「……いやでも心には致命傷受けてたぞ?」

 

「あんの振り方は最高だったわ〜」

 

「やめろミズキ」

 

 ミカさんが私たち全員を見回して言います。

 

「お前たちもだ。掘り返すな」

 

「そうだぞこりす! せっかくみんな忘れてたのに!」

 

「……千束さんが勝手に思い出しましたのに」

 

 私が悪者扱いされるのは釈然としません。

 

「とにかく! 人の恋愛事情に首突っ込む行為はみんな不幸になっちゃうから禁止! 違反したら嫌いになるぞ!」

 

 そこまで言われては諦めるしかありません。

 

「了解しましたわ。千束さんに嫌われるなんて耐えられませんもの」

 

「今は嫌われていないんですか?」

 

 唐突にどこからか飛んできた不愉快な質問に思わず声を荒げてしまいます。

 

「いませんわよ! 誰ですのそんな当然のこと聞いたのは!?」

 

 不届きな質問者を探すと、そこには地下で訓練に打ち込んでいたはずのたきなさんが佇んでいました。

 

「うぉぅ!? たきな、いつの間に!?」

 

 大声を出して大げさに驚いた千束さんを筆頭に、私も含めてこの場の全員が驚きました。

 

「今です。音と気配を消して動く技がちゃんとできてるか、皆さんで試して来いと言われたので。どうでしたか?」

 

 私たちが話に夢中だったせいもありますけど、たきなさんは私たちの誰にも接近を気取らせませんでした。

 

「完璧でしたわ」

 

「そうですか。では下に戻ります」

 

 用件を済ませたたきなさんはのうのうと立ち去ろうとしましたが、そんなことはさせません。

 

「お待ちなさい。あなた聞き捨てならないことをおっしゃりましたわね」

 

「……?」

 

 たきなさんは私が何を言っているのか理解できないとばかりに首を傾げました。

 まるでうちのおバカさんたちのような反応に私はますます苛立ちました。

 

「言いましたでしょう! 今は嫌われていないんですか、と! 何をどう考えたら千束さんがワタクシを嫌っているという発想に至りますの!?」

 

「えっ……だって千束、普段は全然そんなことしないのに、こりすさんの悪口だけは沢山言いますし……」

 

 たきなさんの勘違いに対して、私は努めて冷静に反論します。

 

「たきなさんは千束さんとの付き合いが短いからご存知ありませんのね。千束さんは親しい人に対しては意外と言葉遣いが汚いのですわ」

 

 例としてミズキさんやフキさんの名前を出すと、どうやら心当たりがあったらしく、たきなさんは納得してくれた様子でした。

 

「そうだったんですね。でも、それならこの前のコーヒーによる拷問は何だったんですか? とても親しい人にやるような仕打ちとは思えませんでしたけど」

 

 私は淑女らしく微笑んで千束さんの意図を解説してあげます。

 

「たきなさんは千束さんとの付き合いが短いからご存知ありませんのね。千束さんは親しい人に対しては拷問紛いの苛烈な罰ゲームや失禁不可避の過激なドッキリを仕掛けますのよ」

 

 例として去年の夏に千束さんがミカさんとミズキさんまで協力させて幽霊ドッキリを仕掛け、私が泡を吹いて気絶した話をしてあげると、たきなさんではなくクルミさんが「ミカまで何やってんだ」と呟きました。

 実はお茶目さんなミカさんは照れ隠しに後頭部をかいていました。

 

「そんなことまでしてたんですか? 私にはやらないでくださいね」

 

 たきなさんは呆れた様子です。

 近いうちにリコリコから去るたきなさんが心配する必要は皆無ですよ、と私は心の中で呟きました。

 

「それじゃあ……」

 

 そんな調子で勝利を確信していた私に、たきなさんは不意に言います。

 

「こりすは自分だけ気持ち良くなって満足したらひとりで先に寝ちゃうから嫌い! あと色んなもの垂れ流しで汚い! って千束が言ってたのは」

 

「びゃぁぼろろろろろ」

 

 私は死にました。

 

          ◯

 

「こりす〜? おーい、こりすー!」

 

 膝から崩れ落ちて天を仰いだまま動かなくなったこりすの頬を千束が軽く叩いた。

 こりすの反応はなく、変わらず白目をむいて大口を開け、口の端から唾液を垂らしている。

 

「こりゃ駄目だわ、完全に魂抜けてる」

 

「うわすっげえ顔……写メっとこ」

 

「やめろミズキ、死体の辱めは人としてあるまじき行為だ」

 

「たきなのキルスコアがまた増えたな」

 

 突然のこりすの失神に驚いて硬直していたたきなはクルミに肘で脇腹を突かれて正気に戻った。

 

「私は何もしてませんけど……こりすさんは大丈夫ですか? 救急車呼びますか?」

 

「あーいいのいいの」

 

 電話をかけようとするたきなを千束がやんわりと押しとどめた。

 

「ある意味病気ではあるけど、病院行って治るもんでもないから。安静にしてれば復活するよ、たぶん」

 

「そんな適当な……結局、千束はこりすさんが嫌いってことでいいんですか?」

 

「たきな妙にこだわるね……どぉしたぁ? 愛しの千束さんがこりすに取られるかもって不安になっちゃった?」

 

「違います」

 

 千束の推測をたきなは即座に否定した。

 

「職場の人間関係が悪いとろくなことになりませんから」

 

「真面目だねぇ。たきならしいや」

 

 千束は苦笑しながら言う。

 

「まあ、嫌いってことは絶対にないよ。いちお命の恩人だし」

 

「恩?」

 

「知りたい? じゃあ超大作映画級の千束さんの活躍を聞かせて進ぜよう。あれは今から二年ほど前……」

 

「あっ、長くなるなら後で聞きます。先生を待たせているので」

 

 そう言ってたきなは足早に立ち去った。

 

「えっ、ちょっ……私の活躍への興味は訓練以下か!?」

 

「まあたきなはそうだろうな……」

 

「うひゃひゃ、千束もフラれた〜! 他人の失恋は最高の肴ね〜!」

 

「おいミズキ、飲み過ぎだ。まだ昼だぞ」

 

 こうして、たきなは千束とこりすの関係性を知ることなくこの日を終えた……と思いきや、夜になって時間ができた途端にたきなは千束に詰め寄った。

 

「では聞かせてください」

 

「……え? 何を?」

 

「千束とこりすさんの話です。後で聞くって言ったじゃないですか」

 

 そう言って永遠に後回しにされると思っていた千束は、たきながしっかり自分に興味を持っていると分かって満面の笑顔を浮かべた。

 

「なんだよちゃんと聞きたいんじゃ〜ん」

 

「当然です。興味を持たないリコリスはいません」

 

 リコリスである千束に命の危機が訪れるとすれば、普通ならばその原因はリコリスとしての任務であり、まさか病気とは思わない。

 最強のファースト・リコリスである千束の命が危ぶまれ、同じくファーストであるこりすに救われるという、ファーストが二人がかりで挑んだ任務とはどのようなものだったのかと、たきなは興味津々なのだ。

 そんなたきなの真意を知らない千束はますます調子に乗った。

 

「よっしゃ! そこまで言うなら聞かせたるわ!」

 

 千束は座敷席で複数の座布団を重ねた上に座り、錦木亭千束を名乗ってこりすとの戦いの歴史を語り始めた。

 

          ◯

 

 自分だけ気持ち良くなって満足したら先に寝るとか独り善がりで最低じゃないですか幻滅されるに決まってますでも言われたら直してました何で直接言わずに他の女の口から言わせるんですか酷いですいやでもつまり直接言わない程度に気遣われているということです前向きに考えましょう好感度が上がらない理由が判明して良かったと思うべきです。

 

「…………………………ぶはぁっ!」

 

 心に整理をつけた私は息を吹き返しました。

 

「ぉ゙っ゙……ごひゅ、ごぼぉ……大丈夫……まだっ、まだ挽回できます……まだ取り戻せます……落ち着きなさい私……」

 

 過呼吸を自己暗示で落ち着かせて、ようやく動けるようになった私は真っ先に千束さんを探しました。

 私がいつまでも嫌われ……好かれなかった原因が千束さんの性欲を満たせていなかったことだと理解できたので、早速押し倒して気持ち良くなっていただこうと考えたのです。

 それなのに……またしてもたきなさんが!

 

「ちょっ、ちょーいちょいちょい! 何だその手は!?」

 

「本当に機械なのか確かめようかと」

 

「だからって乳を……いや、まあ誰もいないしいっか」

 

 たきなさんは私に先んじて千束さんを押し倒し、千束さんのお胸を揉みしだいていました。

 

「何してますのおおおおお!」

 

 レーザーで穴だらけにしてやりたい衝動を必死に抑えて、私はたきなさんのけしからぬ所業を止めるべく声をかけました。

 

「あっ、こりすさん」

 

「げっ、面倒なのが面倒な時に……」

 

 明らかに邪魔者扱いされていますけど、今は気にしていられません。

 このままではたきなさんに千束さんを盗られてしまいます。

 そんな最悪の事態にならないよう、しっかりたきなさんを抹さ……いえそれは最終手段ですから、まずは私と千束さんの関係性をはっきりさせて、たきなさんが割り込む余地がないことを知ってもらいましょう。

 

「千束さん! ワタクシという者がありながら、他の女の子にあのような淫行を許すなんて……ワタクシの妻としての自覚はありませんの!?」

 

「妻じゃねぇ」

 

「妻ですわ! 千束さんはワタクシの娘の名付け親ですのよ! 親二人の関係性を夫婦と言わずに何と言いまして!?」

 

「そりゃ……いや、う〜ん……」

 

 千束さんは答えに詰まりました。

 血縁がなければ親ではないと言うのは簡単でも、本当の親に代わって自分を育ててくれたミカさんを親のように慕っている千束さんがそんな酷いことを言えるはずがないのです。

 私は勝利を確信しました。

 

「……? こりすさんは男性だったんですか?」

 

 それなのにまたしても……またしても井ノ上たきながぁ!

 勝ち誇る私に不意に詰め寄ってきたたきなさんが、なんと私の股間を弄ってきたのです!

 

「ひっ……!?」

 

 私は悲鳴をあげて飛び退きました。

 同性であっても……むしろ同性であるからこそ、他人からいきなりそこを触られたら普通の感性があれば身の危険を感じるものです。

 

「たきなさんあなた見境ありませんの!?」

 

 千束さんが視線で「貴様が言うか?」と訴えていますけど心外です。

 同性を相手に濃密な肉体的接触を求めているのは同じでも、私は千束さん以外の方に首を触らせるつもりなんて微塵もありません。

 対してたきなさんは千束さんのお胸のみならず私の股間にまで触ろうとしたのですから、悪辣でふしだらな痴女の変態です、変態ノ上たきなさんです。

 

「えっと……ついてませんでしたけど?」

 

 憤る私に変態ノ上たきなさんは悪びれることなくのたまいました。

 

「ついているはずがないでしょう! あったらとっくに千束さんとの既成事実作りに使っていますわ!」

 

「既成事実?」

 

 たきなさんはそれが何を意味するのか理解できなかったようです。

 リコリスはそれを想定して育成されていないのである意味正常な反応ですけど、それはつまりその気もないくせに千束さんと濃厚接触をしていたということを意味します。

 私は千束さんを愛し、千束さんに愛される努力を何年も続けているというのに、千束さんを愛しているわけでもないたきなさんが千束さんの愛を奪い取ろうとしているのです。

 もはやたきなさんに対しては呆れてものも言えません。

 そして代わりに、大人の恋愛を知らないお子様なんかに目移りした千束さんに対する怒りが湧きました。

 

「千束さん! ワタクシとたきなさん、どちらが大切ですの!? はっきりなさって!」

 

 私は身体を震わせながら問いかけました。

 

「たきなに決まってんだろ?」

 

 千束さんは即答しました。

 

「……あら、耳が遠くなったようですわね」

 

 私は聞こえなかったふりをしました。

 

「だってたきなは年下でかわいいし……」

 

 千束さんは私の聞こえないふりを無視して私よりもたきなさんが好きな理由を羅列し始めました。

 

「仲間思いだし映画いっぱい観てくれるし髪さらさらでいい匂いするしかわいい下着穿いてるし」

 

 たきなさんが耳まで真っ赤になって震えています。

 

「純真無垢で変な性癖ないし裏口リコリスじゃないし漏らさないし私利私欲で人を殺さないし」

 

「それもうワタクシの悪口じゃありませんの!?」

 

 私もきっと顔が真っ赤になっています。

 怒りで。

 

「こうなったら……井ノ上たきな! 決闘ですわ!」

 

「わかりました」

 

 たきなさんが目にも止まらぬ速さで銃を構えて、一切の躊躇なく私の胸の中心目掛けて発砲しました。

 

「いっ……いきなり何しますの!? ワタクシを殺すつもりですの!?」

 

 飛来物停止の結界に阻まれて空中で静止した銃弾は、千束さんが愛用している赤い非殺傷弾ではなく、冷ややかな金属光沢のある実弾です。

 さすがに結界なり防弾リコリス制服なりで防がれる前提で撃ったのだと思いますけど、それでも一応は味方であるはずの私に対して抵抗なく引き金を引けてしまうのはどうかしています。

 

「ちょっ、ちょ〜いちょいたきな、駄目だよこんな場所で撃っちゃ。壁薄いんだから」

 

「えっ? でも決闘って……」

 

 私の身を案じた千束さんに注意されても、たきなさんに悪びれる様子はありません。

 怖い……さっきまで普通に話していた知り合いから突然不意打ち気味に命を狙われるのってすごく怖いです。

 悪逆非道で冷酷無比な、人にあるまじき悪鬼羅刹の所業です。

 こんなおっかない子、一刻も早く千束さんの近くから排除しなくては。

 

「そんな西部劇の保安官がするような決闘ではありませんわ! 銃は使わないのでしまってくださいまし!」

 

「じゃあ拳ですか?」

 

「拳でも何でも暴力は禁止ですわ! 決闘の方法はこれから説明しますので、ちゃんと人の話は最後までお聞きなさい!」

 

 私は服のポケットから折り畳まれた一枚の広告を取り出して広げ、たきなさんと千束さんに見せました。

 その内容は私の所有する神社が主催する夏祭りの告知です。

 

「この催事でそれぞれ露店を出して、より大きな利益を出した者が勝者ですわ! これはリコリスとしてではなく、喫茶リコリコの店員としての誇りをかけた決闘でしてよ!」

 

 私はたきなさんに人差し指を突き付けて宣告します。

 

「敗者はワタクシの作った電気刺激式強制自白装置で他人に決して知られたくない恥ずかしい秘密を明かしていただきますわ!」

 

 私をすぐに上げられないのであれば、たきなさんの方を下げてやればいい……完璧な策略です。

 

「何それ!? こりすそんな面白いもの作ったの!?」

 

 さらに都合の良いことに千束さんも乗り気なようです。

 

「ねっ、たきな! やろーよ!」

 

「……千束は私に恥をかかせたいんですか?」

 

「あぁん、違うよたきな〜」

 

 冷ややかな目で睨まれた千束さんがたきなさんに縋り付こうとしましたが、私が引き剥がすまでもなくたきなさんが押し返したので黙って成り行きを見守ります。

 

「なら何が目的なんですか?」

 

「決まってんじゃん! こりすの恥ずかしい秘密を聞き出してやんの!」

 

「まあ! これまでも沢山あられもない姿を見せてきましたのに、千束さんはワタクシの全てを知りたいと言いますのね!」

 

 千束さんが羞恥に悶える私を見たがるなんて、正直ちょっと……いえ、とても興奮します。

 

「……いやまあ、確かにこりすの人に見せられない姿はこれまで散々みてきたけど……あれ、もしかしてこれ、既に知ってる秘密しか出てこない感じ?」

 

「そんなことありませんわ! ワタクシ、千束さんにも伝えていない秘密の十や二十は抱えて生きていましてよ!」

 

「えっ、怖っ……たきな! この勝負絶対勝つよ!」

 

「いえ、私は」

 

「決まりですわね!」

 

 たきなさんは最後まで渋っていましたけど、私と千束さんの二人がかりで押し切りました。 

 

          ◯

 

「これより……第一回リコリコ露店何しよう会議を始めます」

 

 座敷席でテーブルの上に両肘を乗せて、組んだ両手で口元を隠した千束が、同じテーブルを囲む者たちに宣言した。

 

「あれ、クルミと先生は?」

 

 敵であるこりすがいないのは当然として、他にも二人ほど姿が見当たらない。

 

「ガキンチョなら罰ゲームあるって聞いた瞬間こっち裏切って向こうについたわよ」

 

「ジンも雇い主を裏切れないからとこりすについた」

 

 そういうわけなので、たきなチームは千束、ミズキ、ミカを含めた四人だ。

 もしも決闘に敗れた場合、この四人は運命共同体としてそれぞれ恥ずかしい秘密を晒すことになる。

 

「たきな……この戦い、必ず勝つわよ」

 

「ああ、絶対に負けるわけにはいかない」

 

「……お二人とも気合が入ってますね」

 

「長く生きてるとやばい秘密のひとつやふたつはできちゃうものなんだよ」

 

「おい誰が年増だって?」

 

 たきなには本人の知る限りでは暴かれて恥ずかしいと思えるような秘密はなく、普段から隠し事なんてせずあけっぴろげに生きている千束も今回の罰ゲームをそれほど怖いと思っていない。

 それに対して大人たちにこの罰ゲームは致命的だ。

 婚活関連で幾らでも恥をかいてきたミズキはもちろん、ミカに至っては最悪愛しの人との誓いを破る羽目になりかねない。

 

「材料は店のものを好きに使っていい。商品の案を出してくれれば私が試作する」

 

「うはっ、先生が本気だ! 勝ったな!」

 

 喫茶店を十年間続けてきたプロが本気で商品を作るのだ。

 千束は勝利がぐっと近付いたと確信して豪快に笑った。

 

「いや待て……相手はこりすだ。そう簡単にはいかないだろう」

 

 しかし千束と対照的にミカの表情は険しかった。

 

「え〜、先生が味方なら絶対勝てるよぉ。だって私、こりすが料理してるとこなんて見たことないよ?」

 

「そういえば、こりすさんはいつも接客担当ですし、賄い作りのローテーションにも入ってませんよね。料理はできないんじゃないですか?」

 

「甘い! あんたたち、あいつを甘く見過ぎよ!」

 

 珍しく酔っていないミズキがいつになく真剣な表情で言った。

 

「こりすは料理できないんじゃなくて、しないのよ。おっさん泣かせないためにね」

 

 千束とたきなの視線がミカに集まった。

 ミカは苦々しい表情を浮かべてミズキから話を引き継いだ。

 

「部下にせがまれてよくお菓子作りをしていると言うから、技量次第で調理業務も任せようと思って試しに店のレシピで幾つか作ってもらったんだが……格が違った」

 

 ミカは手で目元を覆って天を仰ぎ見た。

 

「あれと比べたら私が作る甘味は軍用携帯食料だ」

 

 絶妙に分かりづらい例えのせいでいまいち事の深刻さを理解できなかった千束とたきなが顔を見合わせた。

 

「同じレシピで作ったのに違う味になることってあるんでしょうか?」

 

「いや普通はならんだろ。でもこりすは結構卑怯な真似するしなぁ……こっそり自腹で用意した高級食材を使ったとか?」

 

 千束の推測を聞いたミカは首を横に振って否定した。

 

「いいや、材料は間違いなくうちが普段使っているものだったし、レシピにない隠し味を加えてもいなかった」

 

「じゃあなんでそんな違いなんて……」

 

「おそらく寿司と同じ理屈だ。あれも同じ材料で作っても新人と熟練者とで信じられないほど差が出ると聞く」

 

 寿司は調理の工程のみ見れば一口大の酢飯の塊に生魚の切片を乗せて握るだけの簡単な料理だが、本当に美味しく作るためには膨大な修行が必要とされる。

 それは魚の切り方や酢飯の温度管理、握る時の力の強さといった調理過程における細かな要素の積み重ねが寿司の出来栄えを大きく左右し、環境条件次第で変動し標準化できないこれらの調理技法が長年の修行で磨き抜かれた職人の感覚によってのみ成立するためだ。

 そして朱雁こりすという女は、そんな職人たちが努力の末に至る境地に、生まれ持った才覚だけで最初から達している。

 

「飲食店を始めて十年、私もそろそろ熟練者を名乗れると思い始めていたが……今思えば酷い自惚れだったな」

 

 乾いた笑みを浮かべるミカがあまりにもいたたまれないので、千束とたきなはこれ以上この話を深堀りするのはやめておこうと頷きあった。

 

「味で不利ならアイデアで勝負じゃ! SNS最盛期の今、味は二の次! 映えとバズりで売る時代! この千束さんが新時代のムーブメントを起こしたるわ!」

 

 千束がしゅばばばっと紙に絵を描き、完成したそれを自信に満ちた様子で堂々と広げてみせた。

 

「どうよ!? 名付けて千束スペシャル延空木エディション!」

 

 千束の絵はお世辞にも上手と言えず、いまいち実物を想像しづらかったが、とりあえず年内に完成予定の新しい電波塔にちなんだ自己主張の激しい超巨大パフェを作りたいことは皆に伝わった。

 

「あんた祭りの露店で大食いチャレンジやるつもり?」

 

「前代未聞だな」

 

「大注目間違いなしじゃわ……」

 

 腕を組んで神妙に頷く千束にたきながため息をついた。

 

「純利益で勝負するんですから、原価が高くなりそうなものは駄目ですよ。ソフトクリームだけならともかく、千束はどうせ色々トッピングするつもりですよね?」

 

「当然!」

 

 たきながさらに深くため息をついた。

 喫茶リコリコではトッピングが豪華過ぎて売れば売るほど赤字となる千束スペシャルというパフェを取り扱っている。

 適正価格で売ろうとすれば少数の物好きしか手を出さない値段になるだろうし、それで勝負に出れば敗北は確実だ。

 

「それならせめてかき氷にしましょうよ。氷ならほぼ原価タダですし」

 

 千束に意見を覆させるのが難しいと知っているたきなは現実的な妥協案を提案した。

 

「えっ……まさか水道水凍らせて作るつもり?」

 

「普通そうじゃないですか? 店のお冷に入れる氷もそうですし」

 

「駄目だよそんなんじゃ! どっかの山奥の湧き水で作った氷とかじゃなきゃバズんないよ!」

 

「ミネラルウォーターで作れと? それこそ駄目ですよ。高くつきます」

 

「ぐぬぬ……ミズキと先生はどう思う!?」

 

「とりあえずあんたの考えたパフェは論外ね。採算取れないから」

 

「かといってかき氷は競争相手が多いだろうしな。決めるにしても他を検討してからだな」

 

 それからも千束が突飛な案を出し、それを元にたきなが現実的な修正案を作っては千束が嫌がるという流れの繰り返しで時間が無為に費やされた結果、夏祭り当日までに材料の発注が間に合わないという事態に陥ったたきなチームは、喫茶リコリコに残されていた材料でどうにか作り出せたあんこ入りベビーカステラで勝負に挑むこととなった。

 

「あ〜やばいやばいやばい! あんこ入れて特徴出してみたけど、それだけじゃ絶対バズんないし! せめて山葵入りのハズレも作って……」

 

「馬鹿なこと言うんじゃないわよ! 子供狙いでいくって決めたのに、そんなもん混ぜたら寄り付かなくなるでしょうが!」

 

「それに、いくら勝負に勝つためとはいえ、わざと不味く作るなんて私は嫌だぞ」

 

「う〜〜〜〜〜……はぁ、それもそうだね」

 

 罰ゲームは嫌だが、勝つために客の笑顔を奪うのも何か違うなと納得した千束は、敗北の運命を受け入れた。

 別に恥かいても死ぬわけじゃないし、せっかく祭りで露店を出す側になれる貴重な機会なのだから、最大限楽しもうと気持ちを切り替えたのた。

 

「よっしゃ! じゃああとは商品名だけ決めよう! あんこ入りベビーカステラだとちょっと長いし……リコリコカステラなんてどう!?」

 

「それだとベビーじゃないカステラと間違えそうね」

 

「場所によっては鈴カステラとも言うだろう? 鈴あんこなんてのはどうだ?」

 

「センセさすがっ! ねえ、たきなもそれでいいよね!?」

 

「えっ……何がですか?」

 

 話を振られたたきなは考え事に没頭して話を聞いていなかったようだ。

 

「だから〜、名前だよ、売り物の名前! 祭りの露店といったら暖簾に商品名をでっかく書くのがお決まりだからさ〜、ここでどれだけセンスある名前付けたかで売れ行きが決まると言っても過言じゃない!」

 

「……商品名、ですか。それなら、ちょっと気になってたんですけど……」

 

「おっ! もしかしてたきなもアイデアある感じ!?」

 

「いえ、アイデアというか……昔、こっちに転属してくる前にいた場所で同じものを見た時は、まったく違う名前で売られてたはずで……」

 

「あ〜、ベビーカステラって場所によって結構名前変わるからね。たきなが前いたのって西の方だったよね。そこじゃなんて呼ばれてたの?」

 

 その後、たきなが平然と口にしたその名称を聞いた三人は、偶然口に含んでいたお茶を揃って盛大に吹き出した。

 そしてなぜそんな反応をされたのかと首を傾げるたきなをよそに、千束の強い推しによってその名称で売り出すことが決まった。

 

          ◯

 

 たきなさんとの露店勝負に向けて、私が選んだ商品は飴です。

 本当はもっと料理らしい料理を作るつもりでしたけど、見た目に特化させてくれればネット工作でいくらでも客を集めてやるというクルミさんを信じて、私の精密機器そのものな手先の器用さを最大限に活かせる飴細工を作ることにしました。

 世界一のハッカーと名高いクルミさんが宣伝し、現地で私が大道芸のごとく飴細工作りの腕を見せつけて注目を集め、サイレントの異名を持つジンさんが無言で淡々と会計する……完璧な布陣です。

 そして夏祭りの当日、私の飴細工の売れ行きは順調でした。

 原価が安いということもあり、たきなさんのお店がよほど上手くやらない限り私の勝利は確実……勝ちましたねおほほと高笑いしていたその時です。

 

「わ〜〜〜〜〜! やばいぞこりすぅ!」

 

 裏方専門だからと店を手伝わずに祭りを遊び回っていたクルミさんが酷く慌てた様子で駆け込んできたのです。

 

「あらクルミさん、どうかいたしまして?」

 

「たきなの店がめちゃくちゃ繁盛してる! あいつら超バズってるぞ!」

 

「なんですって!? あちらは何を売ってますの!?」

 

「それは、ち……いや、僕の口から言うよりも直接見に行った方がいい」

 

 飴細工の在庫は十分だったので、私は店をクルミさんとジンさんに任せて偵察に出ました。

 店の立地でどちらかが不利にならないようにと、それぞれ反対側の神社の入り口に店を構えていたので、たきなさんの店までかなり距離があったのですが……その距離の半分あたりから、人々がどこかの店の順番待ちの行列を作っています。

 

「あら、こりすちゃんじゃな〜い。敵情視察ぅ?」

 

 しかも案内のプラカードを掲げて行列の整理をしていたのがミズキさんですから、人々の目的がたきなさんのお店であることは確実です。

 ミズキさんは大行列を背後に勝利を確信した様子で私に声をかけてきました。

 

「ええ、まあ……この様子だと、よほど回転率が悪いようですわね」

 

 それでもまだ単に客を捌けていないだけの可能性があったので、私は冷静に答えました。

 

「ふ〜ん、そんじゃ見に行ってみたら?」

 

「言われずともですわ」

 

 終始にやついていたミズキさんを置き去りにして、私は少し駆け足でたきなさんのお店に向かいました。

 そして、そこで私が目撃したのは……。

 

「ち◯ちん十個まいどぉ!」

 

「ち◯ちん焼き五個、お待たせしました!」

 

 暖簾に大きくち◯ちん焼きと書かれた屋台で、笑顔でち◯ちんと連呼する千束さんとたきなさんの姿でした。

 

「あっ、こりすさん」

 

「おっ、こりすもち◯ちん欲しいのかぁ? 横入りはなしだぞ〜」

 

「いりませんわよそんなもの! あなたたち公共の場で何を売っていますの!?」

 

「ち◯ちん焼きです」

 

 たきなさんは平然とその言葉を口にしました。

 

「ちっ……え?」

 

「ち◯ちん焼きです」

 

 私が聞き間違えを疑っていると、たきなさんは再度同じ調子でその言葉を口にしました。

 視線を少したきなさんから逸らしてみると、そこには大量の小さな球体が山積みになっています。

 ……嘘、でしょう?

 まさか、これ全部男性の……。

 

「ぷっ、くくく……勘違いしとるなきみぃ? 言っとくけどこれ、なんてことないあんこの入ったベビーカステラだから」

 

「ベビー……カステラ?」

 

 確かに言われてみるとベビーカステラにしか見えません。

 

「え、で、では……この名称は?」

 

「ん〜? この名称じゃよくわかんないな〜。質問があるならし〜っかり読み上げないとねぇ?」

 

 とても楽しそうな千束さんにいたずらっ子のような笑顔を向けられた私は、覚悟を決めてその言葉を口にします。

 

「ち……ち◯ちん焼きというのは」

 

「聞こえな〜い! もっとはっきり、おっきな声で!」

 

「ち◯ちん焼き! というのは! いったい何なんですの!?」

 

「ぶっは! よくできました!」

 

 それから千束さんは私が公衆の面前ではっきりとその言葉を叫べたご褒美と言って、どうしてベビーカステラにそんな名前が付けられているのか教えてくれました。

 そもそもベビーカステラという食べ物は地域によって異なる名称で呼ばれるそうで、ち◯ちん焼きというのはこの国の西の方、ちょうどたきなさんがDA本部の管轄区域に転属してくる前に活動していた地域で稀に使われる呼び名とのことです。

 そしてその名称なら確実に注目が集まると考えた千束さんの意向により喫茶リコリコ特製ベビーカステラはち◯ちん焼きとして売り出され……目論見通りの大繁盛です。

 

「いや〜、これなら絶対売れると思ったよ!」

 

「私はどうしてこんなに上手くいったのか今でも分かってませんけど、さすがは千束です」

 

「いやいや、こんなおも……いい名前出してくれたのはたきなだよ? だからこれはたきなの手柄だって!」

 

 ……どうやらたきなさんは性知識をお持ちでないようで。

 ファレノプシスの子たちも大半はこんな感じでしたし、リコリスとしては典型的なのでしょう。

 かわいそうなので真実を教えて差し上げましょう。

 

「たきなさん、あなたが先程から恥じらいなく口にしてきたその単語は」

 

「ちなみに! ち◯ちんってのはこの調理器具に付いてる鈴が鳴る音から取ったらしいよ!」

 

「へえ……そうなんですね」

 

「うん、私調べたから間違いない! こりすも、まさか何か他の変なものとか想像してないよね? いやぁ、あるはずないかぁ! こりすはいいとこのお嬢様だもんねえ!?」

 

「くっ……ええ、変なものなんて何ひとつ思い浮かべていませんわ」

 

 あわよくばたきなさんを羞恥で精神崩壊させてやるつもりでしたが、千束さんに先手を打たれてしまい、この場はおとなしく撤収するしかありませんでした。

 

「戻ったか! どうするこりす!? 話題は完全に持ってかれてる! このままじゃ負けるぞ!」

 

「わかっていますわ……」

 

 私の飴細工の売り上げも決して悪くはありません。

 しかし、それ以上にたきなさんたちのち◯ちん焼きが売れ過ぎています。

 

「お前のそのでかい胸で誘惑するのはどうだ!? ちょっとはだけりゃはみ出すだろ!」

 

「馬鹿なこと言わないでくださいまし! ワタクシは痴女ではなく淑女でしてよ!」

 

「ならジンを脱がす!」

 

「……!?」

 

「そんなものミカさんしか喜びませんわ! クルミさんの裸体の方がまだ小児性愛者に需要ありましてよ!」

 

「…………………………!?」

 

「おいミカって……いや、今はいいか。需要で考えるなら一番脱ぐべきはお前だろ! ほら脱げ! さっさと脱げ!」

 

「この……! そちらがその気ならこちらも実力行使ですわ!」

 

 私は自分の浴衣がはだけないよう押さえながら、クルミさんの浴衣を剥ぎ取ろうと手を伸ばしました。

 

「おっほん! 君たち、そこまでにしなさい」

 

 そこに偶然居合わせたリコリコの常連さんのひとり……警察官の阿部さんが介入してきました。

 

「あら、阿部さん」

 

「お前か。見ての通り、僕ら今取り込み中なんだが」

 

「その取り込みというか取っ組み合いの果てに公序良俗が乱されそうだったからねぇ……立場上見過ごせないよ」

 

 阿部さんの言い分に私とクルミさんは激しく反抗します。

 

「ここはワタクシの私有地でしてよ! 公序良俗の概念をワタクシに適用するのは間違っていますわ!」

 

「だいたい向こうに僕らよりも遥かに反してる奴らがいんだろ! 取り締まるなら向こうにしろ!」

 

「いやぁ、向こうのは調べたら本当にそういう呼び方する地域もあるみたいだし、それに言うだけならそんなに……見せちゃったらたとえ私有地でも駄目だけどね。君らはこの国の法律には詳しくないのかもしれないけど、一応そうなってるから」

 

 忠告を終えた阿部さんは不公平を詫びるつもりなのか去り際に飴を多めに買ってくれました。

 ですが……その程度の売り上げでは焼け石に水で、私の上品で芸術的な飴細工は最終的におよそ二倍もの差をつけられてち◯ちん焼に敗北しました。

 

          ◯

 

「……あっ……あっあっあっ」

 

 喫茶リコリコにて、暴れないようにワイヤーで拘束された状態でヘルメット型の自白装置をかぶせられたジンが白目をむいて呻いている。

 

「ちょっとこれ大丈夫?」

 

「電流に対する正常な反応ですわ。後遺症はありませんのでご安心くださいまし」

 

 千束の疑問に答えたのは、ジンの隣で彼と同じように拘束されているこりすだ。

 ちなみにクルミもこりすの隣で縛られている。

 

「じ、じじじ、実は……サイレント……気に入ってる……だから……仕事を募集する時……その名を積極的に……出して、いる」

 

 ジンの人に知られたくない秘密を聞いて、千束やミズキがぷぷぷっと笑い、クルミはにやにやしていた。

 たきなとこりすは心底どうでもよさそうな無表情で、唯一ミカだけがジンを不憫に思っていた。

 

「……そうか。私もかっこいいと思うぞ」

 

「……!」

 

 頬を赤く染めたジンがミカを見つめる。

 ジンとミカ、二人の男たちの間に何かが芽生えかけたその時、無粋にもクルミが口を挟んできた。

 

「結局それ自分で名乗り始めたのか?」

 

「そ、そそそ、それ、はっ!」

 

 クルミに質問されたジンが自白装置によって強制的に答えさせられかけたものの、答えるよりも早く宙に浮かぶこりすの手が自白装置をはずしてくれたおかげで事なきを得た。

 

「あっ、おい何すんだ!」

 

「何するんだはワタクシの言葉ですわ! ここでジンさんに複数の質問をしたら後に控えるワタクシたちも同じ数だけ苦しみが増えましてよ! クルミさんあなた理解していませんの!?」

 

「げっ……そうか、確かに」

 

「私たちは〜」

 

「増やすのもありだと思うわよ〜?」

 

「なしですわ! ほら次、ワタクシが禊をいたしましてよ! 傾聴なさいまし!」

 

 悪魔のようなにやけ顔の千束とミズキに余計なことをさせないよう、こりすが自ら自白装置をかぶった。

 

「あひっ……あっ、わっ……ワタクシの、あひっ、現在の、おっ……義肢は…………………………千束さんの手足の形を完璧に模していますわ〜〜〜〜〜!」

 

「えっ、気持ち悪っ」

 

「ああああああああああ!」

 

 千束からの好感度がマイナスに振れてしまったのを見てしまったこりすは白目をむき泡を吹いてぶっ倒れた。

 

「……こりすさん、死んじゃいましたね」

 

「いーよいーよ、しばらくしたら生き返るから、ほっときな。そ、れ、よ、り〜」

 

 カリスから自白装置を回収した千束の視線に射抜かれて、クルミがびくりと震えた。

 

「さあさあさあさあクルミちゃ〜ん? 君今おいくつなのかなぁって実は千束さんずっと気になってたんですよぉ?」

 

「や、やめろー! それは、それだけは駄目だ!」

 

「うひひ、観念せい!」

 

「のわ〜〜〜〜〜!」

 

 ブッピガァン! と異様に重厚な音を鳴らしながら自白装置がクルミの頭を包み込んだ。

 

「それじゃあ聞かせてもらいましょう……知りたがりのクルミが誰にも知られたくないと思ってる、トップシークレットを!」

 

 自白装置がクルミの脳に電流を流し込み、千束の質問内容に従って今この時に周りにいる者たちに最も聞かれたくない情報を強制的に吐き出させる。

 

「ぼ、ぼぼぼぼ、僕は……例の銃取引の時に、ラジアータをハッキングした」

 

「……ほえ?」

 

「……ん?」

 

「……あら?」

 

 思っていたのと違う情報が出てきて呆気に取られる千束、ミカ、ミズキ。

 その一方でこれまではカウンター席に座って興味なさげに罰ゲームを眺めていたたきながゆらりと立ち上がり、次の瞬間にはクルミの目の前に迫っていた。

 

「その話詳しく」

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