鹵獲したVロボの胴体をDAが一か月かけて解析した結果、通信元はシュタルフクス王国であり、所有する人工衛星を経由した通信で操作されていることが判明した。
しかし、それが判明したからといってリコリスがギロチン……カリスを殺害するために現地入りできるかというと、それは政治的なあれこれで難しい。
犯罪者引き渡し条約を結んでいる友好国であれば相手の国の警察に情報提供することで対処してもらえるかもしれないが、シュタルフクス王国は当てはまらないため、やはりどうにもならない。
結局、相手が諦めるまで千束が囮となって撃退を続ける以外にDAができる対策は見つからなかった。
それどころかDA的には千束が追いかけ回されるだけで他に被害が及ばないなら特に介入とかしないで放置してもいいんじゃないかという意見すら出ているらしい。
「せっかく私と先生が苦労して確保したのに……!」
閉店後のリコリコでミカからDAの不甲斐ない有様を聞かせられた千束が地団駄を踏んだ。
「気持ちは分かるが落ち着け」
ミカが宥めても千束の気持ちは収まらない。
「だって相手の名前も、どこから通信してるのかも分かってるんだよ!? こう、ハッキングとか色々あるでしょ! なんのためのラジアータなのさ!?」
千束はコンピューターの知識はそれほど持ち合わせていないが、映画でサイバー戦的なあれこれを沢山見ているので、それが現実でもできるものと考えていた。
「……ちょうど昨夜試したらしいぞ。反撃でラジアータがウイルスに感染したとかで大変だったらしいが」
DAは人工衛星の制御を奪って墜落させるためにラジアータを使って攻撃をしかけた。
その結果、ラジアータが一時的に機能不全に陥り、DAは人工衛星へのサイバー攻撃を諦めた。
カリスのサイバー戦能力は程々だが、コンピューターウイルスの開発能力だけは高いのだ。
「もーやだ! 私もそんなに暇じゃないのに! いつまであいつに悩まされなきゃなんないの!?」
史上最強のリコリスである千束といえども、見えない存在がいつどこで襲ってくるか分からない現状はストレスが大きい。
「肌も荒れちゃって手入れが必要でさぁ……前まではそんなことしなくてもモチモチのツヤツヤだったのに!」
「当て付けか、おい?」
十代だった頃に比べて肌トラブルが増えてきた二十代半ばのミズキが額に青筋を立てた。
「……まあ、なんだ。ギロチン……カリスが千束に執着しているおかげで最近は奴の被害者が出ていない。それは喜ばしいことじゃないか」
ミカがそんなことを言った瞬間、リコリコに楠木から電話がかかってきた。
しばらくして受話器を戻したミカは深刻そうな顔で千束とミズキに告げた。
「リコリスが二人、カリスに殺害されたそうだ」
◯
千束さんと会話だけして首を刈れずに泣く泣くお別れしてから一か月半、私はついに趣味の時間を確保することができました。
「では三人とも、私の身体をしっかり守ってくださいね」
「お任せくださいカリス様」
「カリス様が向こうに行ってる間は俺が絶対守るんで」
「私もしっかり守ります! ですからあの女を倒してください! 私のおやつのためにも!」
おバカな上に幼馴染であるがゆえ、ちょっぴり不敬な護衛隊の三人組に見送られながら、私は彼の国に運び込んでおいた新型Vロボとの同調を開始しました。
現地の拠点から出発して、向かう先は千束さんが拠点としている喫茶店に扮したDAの支部……リコリコです。
シュタルフクス王国とこの国は時差が八時間ほどあるので、私の方で午後の早い時間に行動していてもこちらでは喫茶店としての営業が終わる遅い時間です。
千束さんがまだリコリコに残っているかは微妙なところですが……いなかった場合にどうするかはその時考えるので、とりあえず行ってみましょう。
『おじゃましますわ』
鍵のかかっていない扉を開けると、おそらく侵入者を察知するために設置されたであろうベルが鳴りました。
「ん? すみません、今日はもう閉店時間でして……」
店の中には肌の黒いおじさんがひとりだけ。
千束さんは見当たりませんね……。
『千束さんはいませんの?』
「おや? 千束の知り合いですか?」
おそらくこの人もDAの人なのでしょうけど、今回のVロボは声に合わせて頭部もこの国の若い女性のようにしてあるので、私が誰なのか一向に気付いてもらえません。
埒が明かないので、私はおじさんに拳銃を突き付けて脅すことにしました。
『ワタクシですわ。千束さんの首を刈りに参りましたの』
銃を向けられているというのに、少し驚いた顔をしただけでおじさんは騒ぐことなく会話に応じてくれました。
「……ギロチン……いや、カリスか」
『はい、ワタクシはカリスですわ。千束さんを呼んでくださいます?』
「千束ならさっきお前に会いに向かったばかりだ。そのためにお前の標的ではないはずのリコリスを二人も殺害したんじゃなかったのか? なぜその場で待たなかった?」
……リコリスを二人殺害?
『なんのことでしょう……まったく身に覚えがありませんわ。ワタクシ、ここまで寄り道せずに来ましたのよ?』
「なんだと!?」
おじさんが慌てた様子で誰かに電話をかけました。
「千束! 私だ!」
よく分かりませんが、要求した通り千束さんを呼んでくれるみたいです。
私はもはや不要となった銃をしまっておじさんと千束さんとの会話が終わるのを大人しく待ちました。
「……む? いや、千束がいいなら構わないが」
千束さんはおじさんに何を言ったのでしょうか、急におじさんが受話器を私に差し出してきました。
「千束がお前と話したいそうだ」
『まあ……お借りしますわ』
私はおじさんと代わって千束さんに声を届けました。
『もしもしお電話代わりましたわ。どうですのこの声? これならよろしいでしょう?』
せっかく言われた通り音声関連の機能を新調したというのに……千束さんの反応は素っ気ないものでした。
『んなこたどうでもいい! リコリス殺してないってほんと!?』
私はちょっぴり傷付きましたが、これから戦う千束さんに弱みを見せてもいいことはないので、それを隠して冷静に事実を伝えます。
『ワタクシそちらの国ではまだひとりも殺していませんわ。初夜のお相手は千束さんと決めていますの』
『おっ、おう……びっくりするから変な言い方しないでよ』
……千束さんは今の私の言葉の何に驚いたのでしょう?
特に変なことは言っていなかったはずですけど、自動翻訳の結果がおかしかったのかもしれません。
もし今回も千束さんの首を刈れなければ、次回までに翻訳機なしで会話できるようにこの国の言葉を練習しておくことにしましょう。
『とにかく、やってないならいいや。じゃあね』
そして千束さんは電話を切りました。
私は無言でおじさんに拳銃を向けました。
『はいもしもし?』
『千束さん!』
『うわぁ!? 耳元で大声出すなよ! 今度は何!?』
『何!? じゃありませんわ! ワタクシ千束さんの首を刈りに来ましたのよ!? 早く喫茶店の方に戻ってきてくださいまし!』
『後にしろ! 私今から仕事!』
そして千束さんは再び電話を切ってしまいました。
これでは何度かけても同じでしょう。
『状況を教えていただけませんこと?』
そこで私はおじさんから聞き出すことにしました。
「……頭部を持ち去られたリコリスの遺体が二人分発見された」
『まあ……理解され難い趣味だと自覚していたのですけど、世の中には物好きもいるものですわね』
「……そうだな」
適当に話を合わせたのではなく、やたらと実感がこもった同意の言葉でした。
おじさんも何か世間的に少数派とされるような嗜好を持っているのかもしれません。
まあ、別に関心はありませんけど。
「千束の仕事はリコリス殺害犯への対処だ」
『犯人の目処はついておりませんの?』
「お前なら千束が行けば自分から出てくるだろうと思っていたから、これまで捜索は一切していなかった。だが、それでもDAがラジアータで探せばすぐに見つかるだろう」
『ではそれほど時間はかかりませんわね。ここで待たせていただきますわ』
私の本体はベッドの上に横たわっているので意味のある行動ではありませんが、目の前で立たせておくとおじさんが気まずいでしょうから、喫茶店内の端の方の座席にVロボを座らせました。
「……コーヒー、飲むか?」
『あら、お気遣い感謝しますわ。ですがこの機体に飲食機能はありませんので、遠慮させていただきますわ』
それから私とおじさんはしばらく黙っていましたが、三十分ほど経っても千束さんからの連絡がないので、暇を持て余した私は再びおじさんに声をかけました。
『質問してもいいですかしら?』
「……なんだ?」
『あなた、今回はどうして千束さんに同行していませんの? 前回は運転手の女性の方と一緒にあなたもいましたでしょう?』
Vロボが見たものは映像として記録されています。
私はアンドリューが使った機体の記録映像で千束さんの二人の仲間の姿を見ました。
「リコリスが殺害された現場の周辺には狙撃に適した身を潜められる場所がなかったからだ」
『前回の狙撃はあなたでしたのね。いい腕ですわ』
「どうも」
『ですがそれなら狙撃銃以外の……対戦車用ロケットランチャーなどを持ち出せば良かったのではありませんの? リコリスの少女たちと違ってあなたの体格であれば扱えるでしょうし、それがワタクシに有効であることは既に御存知でしょう?』
「足を悪くしていてな。前に出ては千束の足手纏いにしかならない」
『でしたらおすすめの義足がありますわ。生身と変わらない動きを実現できますのよ』
「それはすごいな。だが、高いだろう? とてもじゃないが手が出せない」
『あら……残念ですわ』
おじさん……名前を教えていただきましたがミカさん……と雑談して時間を潰すことさらに三十分、千束さんから仕事を終えたという連絡はまだありません。
『……千束さんにしては手間取っていますわね』
「……そうだな。DAに確認してみよう」
ミカさんはDAのどなたかに連絡しました。
それからしばらくして受話器を置き、深刻そうな表情で言います。
「犯行のタイミングがラジアータの機能不全と重なっていたせいで、犯人の捜索が難航しているそうだ」
Vロボを動かすための通信用衛星にこの国から不正アクセスがあったという記録は確認済みです。
誰の仕業かと思ったら、DAでしたか。
『あれ、あなた方でしたのね。でしたらワタクシが仕掛けた罠も踏み抜いたはずですけど、ラジアータは復旧できましたのね』
不届き者に容赦する理由などないので、本来なら完全にシステムを破壊し尽くすようなウイルスです。
回避できなかったとしても復旧できたのですから、DAの技術力は賞賛に値します。
「ああ……だが機能不全に陥っていた間の犯行はまったく記録されていない。おかげで八方塞がりだ」
『既に復旧しているのですわよね? 犯人は人の頭部を二つも持ち歩いているのに、見つけられませんの?』
人間の頭部は意外と大きく、複数を完全に隠して同時に持ち運ぶのはかなり難しいです。
私はいつもVロボの腹部に備わっている保存液入りで冷凍機能付きの生首保管庫に入れて運びますけど、一個ずつが限度です。
「ラジアータはそこまで万能じゃない。町中の監視カメラに透視機能が備わっていると思うか? 死体だろうと銃だろうと、箱に入れて車の荷台に積まれているとすれば、外に出されるまで発見できない」
『……困りましたわね』
これでは千束さんの仕事がいつまで経っても終わりません。
私の自由時間にも限りがあるので、早々に対処する必要があります。
『ワタクシにも責任の一端がありますので、今回は特別に協力いたしますわ。ちょっとお待ちくださいまし。知り合いの情報屋の手を借りますわ』
「協力はありがたいが……ラジアータで見つけられないものを情報屋が見つけられるか?」
『そちらの分野ではワタクシ以上に優秀な方ですので、きっとどうにかしてくれますわ』
私はVロボの通信機能で懇意にしている情報屋……正確にはハッカーですけど……に連絡しました。
『もしもしウォールナットさん? 今度新作の光学迷彩について解説いたしますので、ワタクシの真似をする奇特な方を見つけ出してくださいまし』
◯
ウォールナットは世界一のハッカーとして裏社会に広く知られる謎の存在だ。
この人物は金銭目的ではなく、自分の知らないことがあるのが許せない、全てを知りたい、というカリスに負けず劣らずの特殊な行動原理で犯行を繰り返している。
ある時、そんなウォールナットがシュタルフクス王国の医療用機械義肢に目をつけ、カリスが設計に使っていた私物のコンピューターをハッキングした。
ウォールナットのハッキング能力はカリスのウイルス作成技術を上回り、目的の情報を盗み見るところまではつつがなく行なわれた。
しかし、いざ情報に目を通す段階で問題が発生した。
カリスの発明はあまりにも高度で、資料を見ただけでは何も理解できなかったのだ。
ウォールナットにとって機械工学は専門外でもドローンを自作できるくらいの知識はあった。
それに対してカリスが作る機械は専門家でも資料を見ただけでは到底理解できない代物だったから、さすがのウォールナットも太刀打ちできなかった。
ここまでやって何も分かりませんでしたと諦めるようなウォールナットではなかったが、再度ハッキングしたところで何か変わるわけでもない。
そこでどうしたのかというと……素直にカリス本人に連絡を取って解説を頼んだのだ。
それをカリスは授業料として望む情報を貰う条件で了承した。
ウォールナットが技術を盗んでシュタルフクス王国の産業を脅かすようであれば抹殺しなければならないが、ただ知るだけで満足というのであれば世界一のハッカーと友好関係を築く方が利となる。
趣味が絡まない時のカリスは冷静に為政者としての判断を下したのだ。
こうして互いに直接会ったことはないまま、打算から始まったカリスとウォールナットの交流は今に至るまで続けられている。
◯
『……犯人の居場所が判明しましたわ。ここからそう遠くないですわね。ちょっと行って始末してきますわ』
そう言ってリコリコを出ようとしたら、ミカさんに呼び止められました。
「待て! お前が行くのか!?」
『あら、駄目ですの? 千束さんの現在位置はかなり離れていますし、ワタクシが動いた方が早く終わりますわよ』
「いや、それは……まずい、はずだ。相手がリコリス殺しの犯人とは言え、この国でリコリス以外による殺しが行われること自体が望ましくない……と思うが……」
リコリスの標的を部外者が代わりに殺害する。
そんな特殊な状況に前例などないのでしょう。
ミカさんは非常に困惑した様子です。
『でしたらDAに犯人の居場所を伝えなさいな。ワタクシの貴重な時間を奪った不届き者なんて千束さん以外のリコリスに任せてしまえばいいのですわ』
「その場合は情報をどうやって掴んだのか尋ねられて話が拗れる」
『……そうですわね。敵であるワタクシから提供された情報を信じるほど愚かなはずありませんわよね』
ならばやはりDAの都合など無視して私が犯人を始末するのが一番ではないか。
そう考えた直後に私はふと名案を思い付きました。
『千束さんのリコリス制服に予備はありませんこと?』
「ん? 任務中の破損に備えて何着か置いてあるが……それがどうした?」
『ワタクシに貸してくださいまし。外套のフードでしっかり顔を隠せば、監視カメラに映ったとしても千束さんがやったことにできると思いますわ』
しばらく黙り込んで考えたミカさんは、どうやら私の提案に乗ってくださったようで、倉庫から千束さんがいつも着ている赤い服を取ってきてくれました。
『よろしいのですわね?』
「銃を所持するリコリスを二人も殺害した危険人物を長く野放しにするくらいなら、お前の手を借りてでも早々に解決した方が良い……そう判断した」
『賢明な判断ですわ。では、お借りしますわ』
私はミカさんから千束さんの服を受け取り、この場でVロボを着替えさせようとしました。
「待て! 更衣室は向こうだ!」
『Vロボの着替えなど見られて恥ずかしいものではございませんけど……』
「もしも誰かに見られたらややこしいことになるだろう! 頼むから更衣室を使ってくれ!」
……今回のVロボの外見は完全に人間の少女ですからね。
口を動かす機能などないのでしばらく観察していれば人間ではないと分かりますけど、咄嗟の判別は難しいかもしれません。
そういった問題が生じる危険性は確かにあるので、私は言われた通り更衣室を使って着替えを済ませました。
◯
「あいつを犯人のとこに行かせちゃったの!?」
ミズキが運転する車の中で千束はミカからその知らせを聞いた。
『千束たちの到着を待っている間に次の被害者が出るかもしれん。最悪を避けるためだ』
現状では千束だけを狙っているカリスと異なり、今回のリコリス殺害犯は一般人に刃を向ける可能性すらある。
DAにとってリコリスの死は問題とならないが、一般人から死者が出て、その隠蔽が間に合わない事態になれば、組織が解体に追い込まれるレベルの大失態だ。
そうなった時、責任の大部分を押し付けられるのは対処を任されていた千束なのだ。
それを避けるためなら、ミカはカリスの手を借りることに何の躊躇いもない。
『安心しろ。後で尋問するために生け捕りにしてくれと頼んだら快諾してくれた』
「やべー奴のくせに意外と話通じるの何なの……?」
とはいえ完全に任せきりにするのは怖いので、千束は急いでリコリス殺害犯の潜伏場所に駆け付けた。
『あなた頑張りましたのね。頸椎の間を通して綺麗な直線で首を刈る……素人は簡単と思うようですが、実際は極めて繊細な技術が求められますわ』
「分かってくれるでござるか……! そうなんでござる……拙者は長年かけて腕を磨いたのに、あの女どもが現れたせいで!」
そこで見たのはカリスがリコリス殺害犯と思われる侍みたいな服装の丁髷男と楽しそうに談笑している姿であった。
「……君ら何してんの?」
『千束さん!』
「おお、こちらが姫殿の……」
『ええ、今ワタクシが一番推している首ですわ』
「どんな紹介だよ」
カリスも丁髷男も戦意がない様子なので、千束はげんなりしながらここで何があったのか問いただした。
『ワタクシ、ここに来てすぐにそちらの立派な首級が目に入りまして……滑らかで素晴らしい断面ですわね、と思わず口にしてしまいましたの』
カリスが指差した先には二人のリコリスの頭部が置かれている。
同僚の死体を見るのは初めてではないため千束が取り乱すことはないが、見ていて気分の良いものではないのですぐに目を逸らした。
「拙者も銃を使う者と交わす言葉などないと思っていたのでござるが……姫殿は斬首に造詣が深く、つい話し込んでしまったのでござる」
その流れで聞き出したという丁髷男の犯行理由をカリスが千束に共有した。
その理由というのがなんとも千束には理解できないものだったが、一応こうだ。
丁髷男は少年時代に時代劇で見た悪人に天誅を下す正義の侍に憧れ、山に籠って剣の修業を二十年間も積んだ。
そして一刀のもとに首を落とす技量を身に着けた丁髷男は山を下り、うきうきしながら悪人を探し歩いたが、行く先々で彼よりも早くリコリスが悪人を射殺していた。
ふざけるな!
悪人を処刑するならば銃弾による射殺ではなく刃物による斬首だろう!
この国に生まれた者としての誇りはないのか!?
そんな不満を抱えながらも諦めることなく獲物を探すこと数日、町中で刃物……刀が手に入らなかったのでホームセンターで買った鉈……を常に持ち歩く要注意人物としてDAにマークされていた彼は、ラジアータの機能不全でDA本部からの指示がなくなり混乱状態に陥った現場の暴走でリコリスに襲われた。
そしてリコリスに対する苛立ちがあった丁髷男は、まだ誰も殺していない自分を殺そうとするリコリスたちは悪人であると見做して、容赦なく返り討ちにしたのであった。
ちなみに落とした首を持ち去ったのは、記念すべき初首級として、しっかり化粧を施してから人の多い場所に晒すためだったらしい。
ひと昔前の罪人のように首の隣に罪状を書き連ねた看板も立てる予定もあったそうだ。
「……うん、色々言いたいことあるんだけどね……まずそもそもマークしてたなら犯人が誰かなんてすぐ分かったはずでしょ!? 本部の人たちは何やってたの!?」
リコリスの存在が生首と一緒に白日の下に晒される瀬戸際だったのだ。
ここ最近はカリスの被害を抑えるための生贄にされている恨みもあり、千束はDAの怠慢を強く罵った。
『ちなみにお侍さんは風呂敷に包んだ首級を担いで、この格好のままここまで徒歩で帰ったらしいですわ』
「……えぇ」
千束はさすがに呆れ過ぎて何も言えなかった。
『ラジアータとやらに頼り切りだからでしょう。自分の足と目で探すということを忘れてしまったのですわ』
「……確かにDAが刑事ものの映画みたいな捜査したって話は聞いたことないかも」
『データしか信じない人間は愚劣になる……ワタクシの知り合いの言葉ですわ』
「銃にかまけて侍魂を忘れた組織の末路としては順当でござるな」
「そもそもあんたたちがいなきゃこんなことになってないんだけど?」
千束はこれまでの人生で誰かに嫌味を言うような陰湿な真似などしたことなかったのに、今回ばかりは口が動くのを止められなかった。
『違いありませんわね。ですからこの件については最後まで責任を持ちますわ』
「拙者、姫殿の国で死刑執行人として雇ってもらうのでござる! 侍魂を忘れたこんな国、拙者から捨ててやるでござるよ!」
「あっそ。二度と帰ってくんなよー」
それから丁髷男はカリスが手配した隠蔽業者クリーナーをタクシー代わりに使ってこの場を立ち去った。
わけあってリコリスでありながら不殺を貫く千束は、仕事で倒した悪人をいつもクリーナーに引き取ってもらっているので、結果だけ見ればいつも通りなのだが……なんか凄く複雑な気分だ。
『さて、これで千束さんのお仕事は完了しましたでしょう? ここからはワタクシの用事に付き合っていただきますわ』
「……疲れたから今度にしてくんない?」
とりあえず千束はこれ以上何もせずにさっさと帰宅したかった。
『何をおっしゃいますの!? 千束さんは今回の件で何もしてないはずですわ! それなのになぜ疲れますの!?』
「おめーのせいだよ! こっちはいつ殺人鬼が襲ってくるか分からない生活が五カ月も続いてて、もう限界なの!」
『ですが』
「あ゙ん?」
『あの』
「あ゙あ゙ん!?」
千束の剣幕に押し切られたカリスは折れた。
『……またの機会といたしますわ』
こうして今回もカリスの敗北で終わった。
「……あっ。あいつ私の服持ち逃げしやがった!」
ただしカリスがただ時間を無駄にしただけかというとそうでもなく、これまでVロボを失うばかりだったカリスは初めて戦利品を持ち帰ることに成功したのであった。
奪われたリコリス制服はカリスによって完全に分析され、その材質から強度まで全てを暴かれることになる。
なお……戯れに試着してみると、カリスには胸元がきつかったらしい。