厄災はキヴォトスでも変わらない   作:導師ンョ゛・ハー゛

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やはりBotWは神ゲー



ミレニアムの廃墟

 

シャーレの朝は静かに始まった。カーテンの隙間から差し込む光が、事務室の書類の山をやわらかく照らしている。

 

パソコンのファンが回る音と、紙をめくる音だけが空気を揺らす中、ソファに寝転がっていた先生が、突如カシャリという電子音で目を覚ました。視線を上げると、そこにはスマホを構えたまま硬直している早瀬ユウカの姿があった。

 

“……”

 

「……っ!?」

 

目が合った瞬間、ユウカの頬が真っ赤になる。

 

「ち、ちがっ……今のは、えっと、記録用というか、監視記録であって……!」

 

バタバタとスマホを後ろ手に隠しながら、意味不明な言い訳を口走るユウカ。しかし、先生のまぶたはまだ半分以上落ちていた。ぼんやりと彼女を見たまま、口元には微かに寝起きのゆるんだ笑みが浮かんでいる。

 

“……んー……おはよう、ユウカ……”

 

「っ……!?」

 

無防備で、警戒心のないその声に、ユウカは再び目をそがわせ、顔をそむけた。まるでそれ以上見られたら自分の中の何かが崩れてしまいそうで。

 

「せ、先生……! と、とにかく! 顔を洗ってきてください! 身だしなみです、身だしなみ!」

 

声は妙に張り詰めていて、しかしどこか空回りしている。ユウカは手元の書類をかき集めるふりをしながら視線を逸らし続けていた。

 

先生は目をこすりながら、頭を小さく振るとゆっくりと身体を起こした。

 

“……うん、そうするよ”

 

まだ完全に覚醒していない頭で立ち上がり、のそのそと洗面台のあるスペースへと向かう。背後から感じるユウカの視線に気づいていたが、何も言わずにそのまま歩き去った。

 

──少し冷たい水で顔を洗い、鏡を見る。

寝癖は直りきっていないし、目の下にはうっすらとクマもある。それでも、これで少しはマシになっただろうか。少なくとも、生徒に写真を撮られても恥ずかしくない程度には。

 

“……撮られてたんだよな、実際に”

 

ひとりごちて、苦笑する。

 

身だしなみを整えて戻ると、ユウカはすっかりいつもの顔に戻っていた。何事もなかったように机に向かい、書類に目を通している。

 

「先生、ここの項目ですが、確認印お願いします」

 

その声に促され、先生もまたいつもの業務へと戻っていく。

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

数時間後、山のように積まれていた処理は一段落つき、事務室には少しの余裕が生まれていた。ふとした合間に、先生は何気なく口を開いた。

 

“そういえば、昨夜……というか、深夜かな。屋上から変な光を見たんだ。青白くて、無音で……まるでビルの隙間を滑るように飛んでいってた”

 

その言葉に、ユウカの手がピタリと止まる。

 

一拍置いて、彼女は少し視線を落としたまま口を開いた。

 

「……ああ、その話、まだ知りませんでしたよね」

 

静かな口調。けれどそこには、少しだけ疲れたような、遠い過去を振り返る色があった。

 

「以前、その“謎の光”の目撃情報がたくさんあって、すごく騒がれてたんです。メディアも巻き込んで、私たちの学校にも問い合わせが殺到して……」

 

「でも、その時期に連邦生徒会長が失踪して、それが大ニュースになって。さらにその後、“先生”が外からやってきて、シャーレができて……話題は全部そっちに持っていかれました」

 

「今ではもう、都市伝説みたいな扱いです。忘れてる人のほうが多いかも」

 

それはきっと、あの時の騒動に直接立ち会っていたユウカだからこそ言える言葉だった。

あまり良くない記憶を思い出させてしまったことに、先生は少しだけ申し訳なく思う。

 

“……そっか。じゃあ私が見たのは、その“忘れられた光”だっのかな”

 

それ以上の言葉はなかった。

静かな事務室に、ページをめくる音だけが再び流れ始めた。

 

さらに先生たちが作業を続けていると、机の上に置いているタブレット型デバイス──“シッテムの箱”の自称メインOSのアロナにより、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部からの要請が先生に伝えられた。

 

先生たるもの生徒の悩みに答えない理由はない。

 

先生はふと視線を上げ、ユウカにひと言だけ告げた。

 

“ユウカ──ちょっとミレニアムに行ってくる。残り、頼めるかな”

 

唐突に名前を呼ばれたユウカはわずかに驚いた表情を見せた後、すぐにうなずき、机上の書類をまとめ始めた。

 

「わかりました、先生。お気をつけて」

 

扉に手をかけると、先生は軽く会釈を返し、事務室をあとにした。廊下を抜ける足音が遠ざかるころには、ユウカの静かなペン先だけが、残された仕事を着々と進めていた。

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

ゲーム開発部からの要請が先生の元に届いた、まさにその頃。

 

自分の拠点を探し求めていた少年は、ミレニアム自治区の外れにひっそりと佇む「廃墟」へと足を踏み入れていた。今や地図にも記載されていないその場所は、朽ち果てた鉄骨の残骸や崩れかけた壁、雑草の這うアスファルトに覆われ、かつての発展を感じさせる。空には薄曇りの光が漂い、廃墟全体にくすんだ陰影を落としていた。

 

彼は無言で足を踏み出しながら、注意深く周囲を見渡す。風に揺れる看板が一つ、カラン、と音を立てて地面に落ちた。耳を澄ませば、金属の関節が軋むような音があちこちから聞こえてくる。

 

──警備ロボットだ。

 

その姿を確認すると、彼はすぐさま近くの廃材の影へと身を隠した。灰色の金属装甲に身を包んだロボットたちは、無言で周囲を巡回している。数は多い。見える範囲だけでも十数体はいた。

 

だが、彼にとってそれは障害にはならなかった。

 

矢筒から静かに一本の矢を引き抜き、弓を構える。息を殺して狙いを定め、わずかに指を弦から放す。

 

ヒュッと風を裂く音。矢は一直線に飛び、ロボットの頭部に命中。火花とともに機体が崩れ落ちた。彼は即座に移動し、次の物陰へ。再び矢を放つ。

 

ひとつ、またひとつと、彼はまるで狩人のように静かに数を減らしていく。だが、敵の数は思った以上に多く、狭い通路や瓦礫の奥から次々と現れる

 

そのたびに弓を引き、狙いを定め、放つ。淡々と、効率的に。だが──。

 

(……数が多い)

 

そう心の中で呟いた彼は、動きを止めることなく、次の矢を収めた。そして、右腕に力を込める(がんばりゲージを溜める)

 

右手の指先が、力強く、乾いた音を立てた。

 

“パァン”

 

空気が震えた。雷光が天を照らし、直後、あたり一帯が稲妻に包まれる。轟音と閃光の中、ロボットたちは次々と内部から焼かれ、火花を散らして爆発していった。

 

【ウルボザの怒り】。

 

雷鳴の加護を帯びたその力は、特殊な雷を天から落とし、廃墟の空気を一瞬で焦げ臭く変え、敵意を抱いていた機械たちをすべて沈黙させた。

 

静けさが戻る。

 

彼はふぅと息を吐き、ようやく姿を現した。ベージュのズボンに赤いTシャツ、拾い物のキャップを目深にかぶったその少年は、腰につけたデバイスに手を伸ばすと、軽く構えて「カシャリ」と一枚自撮りを残す。

 

火花の残る瓦礫の道を、彼はひとり、ゆっくりと廃工場へと歩き始めた。

 

彼は荒れ果てた工場の入り口を見つめる。連邦生徒会長の命令で“立ち入り禁止”とされたのも前の話。連邦生徒会長が疾走した今、ここへの侵入者に対する警護もなくなり、誰でも入れる状態になっていた。彼は静かに扉の脇に立ち、肩越しに周囲を見渡すと、ゆっくりと押し開いた。

 

内部は薄暗く、機械油の匂いと埃だけが満ちていた。足元の床板はところどころ抜けかかっているが、彼は躊躇なく奥へと進む。一歩、また一歩。やがて工場の中心部に差し掛かったとき──

 

〈……接近を確認〉

〈対象の身元を特定します……〉

〈エラー〉

〈再特定します……〉

〈エラー〉

〈対象「UNKNOWN」、資格がありません〉

〈ただちにこの場を立ち去ってください〉

 

天井のスピーカーが無機質な声を反響させた。

それを聞いた瞬間、彼の胸に「ここに何かある」と確信が走る。

 

彼は足を止めず、周囲を注視しながらさらに奥へ進んだ。壁際に並ぶ制御パネルの配線、床のひび割れ──。しかし、どこを探しても先に進めるような仕掛けは見当たらない。だが彼は諦めなかった。

 

廃工場の空気は、先ほどと変わらず、冷たく澱んでいた。彼は先程音声が流れた場所へと戻った。壁のパネルは剥がれかけ、床には埃と錆が混ざり合った痕跡が広がっている。
あらゆるものが時間に蝕まれ、静かに朽ちようとしていた。

 

──だが、その静寂の中に、微かに感じる“違和感”だけが確かにあった。

 

彼は背中から鉄パイプを取ると、軽く振りかぶり、天井へと投げつける。


鋭い金属音が、乾いた空間に反響した。

 

次に壁。


続いて床へ。

 

無造作に見える動作だった。けれど、彼にとっては意味のある一連の行為だった。

 

“理由”はなかった。

あえて言うなら、それは──

 

『蛮k…英傑の勘』

 

数えきれないほどの危機と冒険を潜り抜けてきた彼が、己の身に染み込ませた、確信に近い直感。

 

三度、鉄パイプが床に当たったときだった。
その音が、変わった。

 

これまでと同じ硬質で均一な響きではない。わずかに空洞を思わせる、乾いた、軽やかな音。その一点だけが、周囲とは違っていた。まるで下に“何か”があると、音が教えてくれているかのようだった。

 

彼は立ち止まり、目を細める。無言のまま膝をつき、手のひらで床をなぞり、静かに耳を澄ませた。

 

……確かに“下”がある。

 

英傑の勘は、またしても彼を正しく導いていた。

 





【ウルボザの怒り+】
とある砂漠に住まう種族の族長が少年に託した雷の加護。
発動者の意志に応じて、周囲にいる“敵”とみなされた存在にのみに、選別された雷が性格無比に落ちる。
その雷は自然に発生する雷よりも強力で、瞬時に戦場の均衡を覆す力を秘めている。
3回の使用制限があり、使い切ると約4時間のクールタイムが入る。

他の英傑も強化済みです。
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