バッドエンド確定の鬱ゲー世界を全速力で駆け抜ける 作:ブルジョアジー
「……はぁ……はぁ……」
オルドナ外縁地帯。
男がやってきたこの廃墟。その最奥に無造作に置かれた鎖を手に取る。
その瞬間、鎖はまるで生きているかの如く形を変えブレスレットとして男の手首に収まる。まるで現実とは思えない超常現象が目の前で発生している。それに対して、男は目を輝かせた。
そして、男は安堵したようにため息を一つ吐いた。
「……焦って突っ走ったのが仇になったか。
男は独り言ちる。
「……最優先は、やっぱり仲間集めか」
◇
《ASTRAL ECLIPSE》というゲームがある。
ジャンルとしては、ストーリー重視のダークファンタジーRPGと言ったところか。文明が発達した異世界を舞台に、異能を持った主人公が国家に反逆するというのが大まかなストーリーである。
恒星『リヴィア・ソール』の異常放射によって、世界中に『
病に耐えられず即死する場合もあれば、失明や体の部位の腐食。脳の機能停止、細胞の異常増殖などという重篤な症状から、視力の低下、慢性的な頭痛、腹痛。虫歯や肌荒れなどの比較的軽微な物。そして、手足の筋力の増強、聴覚の発達、記憶力の向上といったメリットとなる物まで幅広い。
そんな病が蔓延るこの世界で、『異能』と呼ばれるほどの特殊な力を『星彩病』によって手に入れた者たちがいた。
彼らを『
というのが、ゲームの大まかな世界観。
そしてゲームの舞台はオルドナという巨大連邦国家。
かつて引き起ったエーテル災害。恒星の異常放射によって星彩病が各地で発生し、世界が混沌と化した時代。
いち早く異能力者たちを積極的に活用し、エーテル研究を推し進めたことで覇権国家となったオルドナは、表向きはかつての混乱を二度と引き起こさないということを名目に徹底的な管理社会へと化した。
星彩病患者を分類・監視・制御し、国家にとって有益なエクリプトだけを選別することで徹底的な階級社会へと変貌し、国民は選民思想に染まるようになった。
エクリプトたちを始めとした星彩病患者の分類で差別されるディストピア社会となっている。
エクリプトを頂点として、星彩病のステージに応じたカーストが築かれるという階級社会。エクリプトに及ばないが異能と言えるだけの能力を持った『適応型』。
異能とまではいかないが、身体機能の向上のように、発症によってその人自身にメリットが発現している『異常型』。
星彩病に患っていない『未発症者』、発症によってデメリットが発現する『劣化型』。星彩病によって、自我をも失い異形となる『星骸種』など。
最後の星骸種に関しては人間ではなくなっているため除外するにしても、この世界は星彩病の症状によって分類され、カーストが決定される世界である。
そんな世界で、主人公たちはレジスタンスとして国家に歯向かう。というのが大まかなあらすじとなる。
そして俺はそんな世界に転生した一般人である。前世で《ASTRAL ECLIPSE》をプレイしたことがあると言う記憶を持った、正真正銘一般人であり、世間的にはついこの前に星彩病を患った『異常型』の患者である。
とは言っても、医療機関からは何も症状が出ていない稀有な星彩病患者として、一応の分類として『異常型』にされているに過ぎない。ただの一般人だ。
――というのは、当然嘘だ。
俺が前世の記憶を思い出したのは、星彩病に罹った時。すなわち、俺の星彩病の症状こそが
俺は本来は『異常型』ではなく、『適応型』の星彩病患者である。いや、この特殊性から鑑みるに『星の継承者』と判定される可能性すらある。
だが、俺はこれを公に出さずに隠蔽している。そのため、医療機関からの診断結果は少し特殊な『異常型』としか思われていない。
こんな世界でこんな能力を持っているなんて知られたら、俺が何をされるか分かったもんじゃない。政府に拉致られてモルモットになる未来が容易に想像できる。
俺はそんな未来は御免だ。だから、自身の境遇を隠している。
それに、俺は前世の記憶を思い出し、この世界がゲームの世界だと理解して悟った。
――もたもたしてたら死ぬ。
とね。
何を言っているのか分からないと思うが、安心してほしいちゃんと説明しよう。
と言っても、説明なんて必要ないくらいには単純明快。この世界が『鬱ゲー』と呼ばれているからだ。
主人公は国家を相手に、星彩病患者を平等に扱い誰にでも人権を認めるべきだと考えるレジスタンス組織、
星彩病によって破滅した人や国家の抑圧から逃げてきた人たちで構成されている組織であり、基本的には新たな秩序を求めて戦う人々だ。
まあ、これだけならなんて事のない物語になるだろうと思うし、実際そうなのだが。
問題なのは主人公の能力にある。
ゲームで実際にプレイヤーが操作するキャラクターには『星読み』という未来を視ることができる能力が備わっている。これにより、敵の行動やトラップなどを先読みして立ち回ると言うゲームシステムとしてプレイヤーに面白い体験をさせてくれるのが特徴なのだが……。
ゲーム中盤になると主人公の能力がただの未来視ではないことが判明する。
その能力とは、『視た未来を“確定”させる』というもの。
つまり、プレイヤーが能力を使用した段階で仲間が死ぬ。世界が滅亡する等の未来を視てしまえば、どう足掻いてもその通りの結果しか訪れない。
プレイヤーの選択によって世界が滅びてしまいました。あーあ。
という、なんとも胸糞悪い展開を押し付けてくる正真正銘の鬱ゲーである。
ストーリー中盤でこの事実を知った主人公は何とかして未来を変えることはできないかと奔走するのだが、そのどれも無駄足となる。
このゲーム自体がバッドエンドしか存在していなく、ルートによっては国家が崩壊する。オルドナの民が大勢死ぬ。下手したら世界滅亡の可能性だってある。そのため、前世の記憶を思い出した俺としては気が気でないのだ。
原作開始まで残り5年。
主人公が『星読み』の能力に目覚めるのは原作開始と同時だ。
それまでに俺は、何とかして主人公が観測できる未来を変える必要があった。
俺に許された選択肢は二つ。ここで覚醒前の主人公に接触するか、3年後に設立されるだろうレジスタンス組織、
俺はここで後者を選ぶ。
ここで主人公に接触することもまあ悪くないのだが、『星読み』という能力に目覚める前。言ってしまえば星彩病を患う前の主人公に接触して未来にどんな変化が及ぶか分からない。
それに、突然知らない男がやってきても未発症者として普通に社会生活を送っている主人公からしたら俺はただの不審者だ。
俺が主人公に干渉することで『星読み』の能力の覚醒を阻害できるとも思えない。星彩病の発症は、この世界で恒星の光を浴びた人間なら誰しも発症する可能性があるからだ。
だから、俺は夜の残火に入ることに決めた。
そこである程度の信頼を得て、いずれ入ってくる主人公に警告をする。なるべく遠い未来を視るなと。
まあ、それはあくまで保険だ。俺は夜の残火の一員としてより良い未来を掴み取れるように努力する。これがまあ、一番丸いだろう。例え主人公が未来を観測してしまっても視た未来が良い結果であれば、確実にハッピーエンドが訪れるのだ。
だから、俺の最終目標は原作に介入しより良い方向に未来を変えること。
そのために態々、オルドナの外縁地帯である
原作知識でここにあることは知っていた。鎖の形をした神器、
前世の記憶を思い出すなんていう症状だけで、特殊な力を持たない俺が扱える唯一の武装だ。
とはいえ、焦りすぎた。
星骸種が蔓延る無秩序領になんの装備も戦闘能力も持たない俺が突っ込むなんて正気じゃなかった。
下手したら死んでいた可能性だった十二分にある。
前世の記憶を思い出して焦っていたことは否めないが、やはり焦ってしまう。
「結果オーライだったが、今後は気を付けよう。幻鎖よりもまずは仲間集めからだったな。反省反省。……さて、死ぬ気で頑張ろう」
でなければ死ぬだけだ。