STALKER:Fox Hunt 作:abubu_nownanka
目が覚めると、キツネはしばらく動かずにいた。ぼんやりと空を見る。青い青い空。雲がふわふわ流れて、ゾーンの光がチラチラ漏れる。気持ちいいな。手足を動かしてみる。手は元通りスベスベ。大事な包帯はどこかに無くしちゃったけど、ちゃんと動く。頭に手をやる。ふさふさした耳、ちゃんとある。尻尾もピョコンと動く。よし、今日もキツネだ。
キツネのお家は、ゾーンにある小さな洞窟。誰も入って来れないし、ゾーンがだいじにだいじに守ってくれるから、いつでも安心。ピカピカ光る石、つるつるしたガラス、トゲトゲの鉄、キツネが集めたガラクタでいっぱい。ゾーンで拾った宝物。キツネはいつもの袋を引っ張って、宝の山から這い出して、草を踏む。サクサク、気持ちいい。裸足でゾーンを歩くのが好きだ。
ゾーンはキツネの庭だ。触れれば身体がバラバラになる突風が、目と鼻の先をシューっと流れる。ヒュウヒュウ、歌ってるみたい。でも少しも怖くない。ゾーンはキツネに意地悪しないから。今日はどこへ行ってみよう? キツネは耳をピクピク動かし、鼻をクンクンさせる。ゾーンが囁く。そっち、そっちだよ、って。
歩く歩く。壊れた家、ひび割れた道、キラキラ光る草。手に持った袋がズルズル。ゾーンの中心に近づくと、だんだん空気が重くなる。普通の人は一呼吸で死んじゃう。ゾゾゾって身体が震えて、目がぐるぐるして、ドサッて倒れる。キツネは見たことある。でも、キツネは平気。いっぱい歩いた時みたいに、ちょっと息が大変になるだけ。真っ赤な空の下を歩く。空はドロドロ、血みたいな色。ゾーンが深呼吸してるみたい。
ギザギザにえぐれた地面の真ん中に、何かが見えた。真っ赤で黒い塊、ふわふわ浮かんでる。キツネは手を伸ばす。パシッと掴むと、ズッシリ重い。丸くて、冷たくて、ちょっと脈打ってる。アーティファクトだ。ゾーンがくれたプレゼント。キツネはニコニコ笑う。今日の宝はこれにしよう!袋に押し込むと、赤くて黒い光がチラチラ漏れる。ゾーン、ありがとう!
そばで、大きな影が動いた。背の高い、ぶくぶくに太った身体。牙の生えた顎がガチガチ鳴る。ミュータントだ。ゾーンにいっぱいいる、変な生き物。キツネをジーッと見下ろしてる。何もしない。ただ見てる。キツネはクスクス笑って、鼻をピョコンとつついてみる。ミュータントがビクッて動く。おかしい!キツネはゲラゲラ笑って、スキップしながら歩き出す。
歩く歩く。空がまた青いところまで来た。ゾーンの中心は面白いけど、ちょっと息苦しい。青い空の方が気持ちいい。お腹がグウって鳴る。キツネは耳をピクンと動かし、ミハイルのところへ行こうって決める。ミハイルはおやつをくれる。最初に会ったときも、キツネにチョコレートをくれた。今は干し肉、甘いキャンディ、熱いスープ。今日見つけた宝は、ミハイルのお土産にしてあげよう。ミハイル、大好き!
ミハイルのこと考えてたら、何かを思い出して、ちょっと立ち止まる。たぶんキツネになるよりも、ずっと昔のこと、誰かが檻に入ってる、つめたくてさむくて、周りには小さい子がいっぱい。大きな人が大きな声を出していて、みんな泣いている。思い出したら、ちょっと耳がへにゃってなったけど、でも段々おかしくなってきた。ゾーンには、こわいことなんて何もないのに。クスクス笑って、またキツネは歩き出す。
大きな建物が見えてくる。固い壁、鉄の門、スタルカーがいっぱい。ゾーンで宝物を探す人たち。キツネも門をくぐる。門番の人が見るけど、何も言わない。キツネはゾーンの子だから、みんな慣れてる。階段をトントン降りると、美味しそうな匂いがする。ミハイルのシチューだ!
中に入ると、煙と笑い声。スタルカーたちがお酒を飲みながら、楽しい話で盛り上がってる。キツネもカウンターに飛び乗る。「ミハイル、ご飯ちょうだい!」ミハイルがニコニコ笑う。「お、キツネか。今日も元気だな。」キツネは袋からお土産をカウンターにコロンって置いてあげる。「これ、ミハイルにあげる!」
隣に座ってたスタルカーがビックリして、お酒をプッて吹き出す。アーティファクトがドクドク脈打って、赤くて黒い光でカウンターがキラキラ。ミハイルが慌てて布で包む。「おいおい、キツネ、こんなもん置くなよ!」ビックリした顔がおかしくて、クスクス笑う。尻尾をパタパタ振る。
ミハイルが熱いシチューのお皿を置いてくれる。キツネはスプーン持って、パクパク食べる。美味しい!ジャガイモがホクホク、肉がジュワッ。ゾーンの宝物より、ミハイルのご飯が宝物だ。キツネはシチューを食べながら、椅子に座って足をブラブラさせる。
そうだ。グレブ、来るかな?グレブはゾーンを怖がってたけど、ちゃんと生きてた。ゾーンもグレブが気に入ったみたい。キツネはグレブも好きだ。ゾーンを一緒に歩くの、楽しかった。今日も来たら、また一緒にゾーンに行こう。面白いとこ、いっぱい見せてあげる!
キツネはシチューを食べ終え、スプーンをペロッと舐める。スタルカーたちがキツネの周りで騒がしい。ミハイルが追い払ってるみたいだけど、キツネは何も聞こえないことにする。静かになったから、キツネの耳はゾーンの音を聞く。いつも地面の深く深くで、ゾーンに張り巡らされた、光る大きな川が流れてる。スタルカーも、ミュータントも、生き物全部を繋いでる。遠くの方が、ザワザワして、もっと大きな何かが動いてる。キツネの胸もザワザワする。ゾーンが呼んでる。グレブのことも、ゾーンが呼んでる。
キツネはカウンターで耳をピクピク動かし、グレブを待つことにした。ゾーンは待っててくれるから、急がなくていいよ。シチュー、もう一皿食べちゃおうかな!