戦術人形が指揮官を愛するまで_表 作:イエローケーキ兵器設計局
「指揮官様〜♪」
「ん〜?どうした?」
「だいしゅきでしゅ〜♪」
「俺もだぞ〜。げっ、AK-15にAK-12、き、君達のことも愛してるぞ〜。」
「まだ何も言っていませんが。」
「そうよ、指揮官。」
そう言いながら指揮官にキスをねだる2人。
「指揮官様も大変でしゅねぇ……。」
あたしたちの出会いは冬の塹壕で、指揮官様があたしを地獄から救い出してくれたのがきっかけでした。
回想〜数ヶ月前のセヴァストポリ〜
「火力を集中!撃って撃って撃って〜♪」
迫撃砲と榴弾砲の支援の下にSG人形とSMG人形達が塹壕を潜りながら突き進んでいく。あたし達はMGとSRの火力で敵の抵抗を抑えるのが仕事。
「ぎゃあっ!」
1つ向こうの火点でPzB39が被弾して倒れる。あの叫び方からしてCPUを抜かれはしなかったらしい。
「HQ!HQ!敵火点への攻撃支援をお願いしましゅ!」
「……。」
聞こえるのはノイズだけ。あたし達は捨てられてしまったらしい。まあ、仲は悪かったし今更あのクズに会いたいとも思わなかったから寂しさはない。
「……この……じゅつに……ょう……!」
急に無線が入電するがノイズが酷くて聞き取れない。
「そこの戦術人形!頭を下げろ!轢くぞ!」
男声の警告通り頭を下げると巨大な鉄の塊があたしの上を通過していった。思わず腰を抜かしてしまったけれどこれが今の指揮官様との出会いだった。
戦車があたしの頭上を通過すると敵火点に主砲を撃ち込んで破壊し、車体後ろに騎乗していた増援の戦術人形4人組の内の1人がPzB39の居た火点に走り込んでいく。
「戦術人形、立てるか?」
もう一人の高身長のAR人形が私に手を伸ばす。その手をあたしは掴んだ。
車体の後ろに隠れて銃火をやり過ごしながら敵勢力の塹壕に入って出くわした敵人形を蜂の巣にして、あたし達は遂に目標施設を占領した。
〜回想終わり〜
保護された後で聞いたけれど故指揮官……指揮官と呼ぶのも憚られるセクハラ女の居た司令所は戦艦の艦砲射撃により崩壊、現指揮官様は戦闘工兵車に搭乗して前線にいた為に無事だったという。
「指揮官様〜♪えへへ〜♪」
椅子を乗り越えてその大きな背中にくっつくと温かくて安心して……少し眠くなって……ぐぅ……。
指揮官様の背中でお昼寝してしまいました。
「ふわぁ〜……指揮官様、おはようございましゅ?」
「ようやく起きたか。おはよう、MG42。」
「あるぇ?あたし、何でここに?」
「覚えてないのか。自分でここまで登ったことも。」
「あー!思い出したでしゅ!」
「そうか。わかったら早く降りろ。椅子が耐えられん。」
「もう少し……だめでしゅか?」
「はぁ……椅子を壊すなよ。」
「やった〜♪」
指揮官様の戦車は特別製と聞いたけれど詳細は教えてくれなかった。教えてくれたのはSMG人形やSG人形の突入を支援する為の道を切り開く工作車両が指揮官様の戦車である、ということ。そしてあの日、前線に突撃したのは指揮を引き継いだから、ということ。
回想〜数ヶ月前のグリフィン基地〜
「MG42、着任しましゅ!」
「PzB39、着任するわ。」
「……イズマッシュ・サイガです。はぁ……どうして行く先々、女ばっか……。」
「M3です……よ、よろしくお願いします!」
生き残りの戦術人形達が回収されて再編されました。至って普通のあたしと、冷静なパンツァービュクセ、(セクハラ指揮官に虐められてトラウマになった)女嫌いのサイガ、本来は作戦に参加する予定は無かったのにセクハラ女の怒りを買って放り込まれた結果生き残ったM3……生き残ったのはそれだけでした。
「あー……よ、よろしく頼む。俺はこの基地の責任者の……俺の名前なんだっけ。」
「指揮官、ニコライです。」
手を差し伸べてくれたAR人形が指揮官の耳元で囁く。
「そうだった、そうだった。ニコライだ。よろしく。こっちはAK-15。お察しの通りアサルトライフルタイプだ。」
少しだけ微笑みを湛えるAK-15は、あの日の戦場で会った時は無愛想で鉄面皮な人形だという印象を受けたけれど、戦場の外にいる今はそう感じない。
「AK-12よ。」
目を開いてただそれだけを言う人形。こちらもAR人形だとか。
「AN-94です。よろしくお願いします。」
淑女、という2文字が似合うAR人形だった。あの(表現規制)もこうであったなら……。
「RPK-16よ、よろしくね。」
不気味。少なくとも……何を考えているかはまだ分かるけれど、分からない方が良い気がするMG人形と思った。
「一応、一人一部屋あるから自由に使ってくれ。それから……。」
簡単な説明を受けて自室を案内されて、案内役が去って一人。
「MG34お姉しゃま……。」
あの崩壊したとされる指揮所からなんとか逃げ延びられただろうか。きっとそうだ。逃げ延びているに違いない。生きていれば必ず会える必ず……必ず……うっ……ううっ……。
一人、泣いているとノックの音が響きました。開けると指揮官様と、銃身の曲がったMG34と誘導ビーコン、そして赤い紙片を持ったAK-12が立っていました。
「傷心のところすまない。どうしても君に渡さないといけないものがあった。」
「もしかして……。」
「……そう、貴女の姉の戦死届よ。」
「MG42、読んでくれ。これは君の姉が書き残した君への最後のメッセージだ。」
差し出される白に赤や黒の斑点の交じる紙片にはどの黒よりも黒い丹念な姉の字が並んでいた。
あなたがこれを読んでいる時、この記憶を持つ最後の私はもう機能停止しているでしょうね。私がこの指揮官を道連れに自爆する、なんて言ったら止められちゃうから勝手にやりました。ごめんね。海軍基地への攻撃計画が決まったときからお姉ちゃん達は指揮官を排除する計画を実行に移すつもりでした。あなたがここに居なくて本当に良かった。もし次に会うときがあったらあなたを覚えていないかもしれない。その時は……教えてあげて。過去の私が何を考え、何を思い、何をしたのか。最期に、優秀で誰に対しても優しい妹を持ったことを誇りに思うわ、さようなら、私の最愛の妹。-MG34とその他有志の人形より
「お姉様……。」
「MG42、落ち着いたらお墓を作ろう。彼女達の為に。」
翌日。
あたし達生存者は崩壊した基地から回収された遺体と義体を一体一体、埋葬しました。
「指揮官様、本当にこの……(表現規制)も埋めるのですか?」
「……そうだ。彼女は一応これでもここの職員だ。殉職者である以上、埋めざるを得ない。」
「そうでしゅか……。」
指揮官様達は人間も人形も分けることなく一人一人の穴を掘って丁重に埋葬していきました。
〜回想終わり〜
「指揮官様、まだお仕事が終わらないのでしゅか?」
「残念だがそうすぐには終わらないんだ、これが。」
書類を見てみたけれどあたしには難しい内容だった。
「君たち戦術人形の実力を最大限引き出すには、俺のように事務方を担う存在が必要、というわけだ。」
唐突なノックの音が指揮官控室に響く。
「どうぞ。」
「失礼します、指揮官。」
サイガ12が入室する。その後ろにはM3も一緒だった。
「指揮戦車の整備、終わりました。」
「お疲れ様。」
指揮官が席を立つと、M3はもう怯えていなかった。
「ありがとう、二人とも。」
「くすぐったいよ、指揮官。」
「はわわわ!」
指揮官様が2人の頭を撫でると毎回のようにこのようなことを言う。よく言えば言うべきことを分かっている。悪く言えば……プログラム通り。でも、いつもと違う点があった。指揮官様が手を止めると……。
「指揮官、もっと。」
「わ、私からもお願いします!」
プログラムが誰かによって書き換えられたのか、はたまた自分で書き換えたのか。でも、あたしも自分で書き換えたのかもしれない。
「MG42、君の射撃訓練はいつだった?」
「えーと……そろそろでしゅね。行ってきましゅ。」
「行ってらっしゃい。」
訓練場はいつだって殺伐としている。それもそのはず、警らに立つ時以外はここだけが唯一、正当な理由で武装できるエリアなので警備が厳重。更にうっかり弾薬の消費量の申請ミスをやらかすと清掃割り当てが長くなったりとペナルティが……もう間違えられない……。
「MG42、さっきぶりね。」
「AK-12。」
あたしと彼女の間に火花が散る。もちろん本当に散った訳ではないけれど心情的には多分散ってるだろう。
「私は認めたわけじゃないわよ。」
「わかってましゅよ〜。」
AK-12はあたしと会ってからずっとあたし達を警戒している。
「指揮官様は皆の指揮官、違いましゅか?」
「……。」
ぼう〜っ、と目を見開いてあたしを見ていた彼女が目を閉じた。
「……そうね。確かに皆の指揮官だわ。」
ふぅ……。
「MG42にAK-12、ここに居たのか。」
指揮官様。
「指揮官、何か用かしら?」
さっきの殺意すらこもっていた態度を一変させて見えない尻尾を振り回すAK-12。
「いや、な。君たちに仕事だ。」
「なんでしゅか?」
「1週間後に演習を行うんだが……ちょうど良かった、君たちにはペアになってもらう。」
「は?」
「え?」
「詳細は後で送るよ。じゃあ、職務に戻るから、ごゆっくり。」
残されたあたし達は呆気にとられていた。
正気に帰ったAK-12は情報を確認するなり、あたしの肩を叩くと休戦と協調を持ちかけてくる。
「頑張って1位を取りましょう?」
情報を確認すると1位のペアは、指揮官と1週間の休暇を共に出来るとある。答えは勿論……。
「やってやりましゅよ〜。」
これは地獄の始まりなのかもしれない。それでも……指揮官様の為になら地獄でも煉獄でも奈落でも墜ちていこう。
MG34
:前指揮官を巻き添えに同僚人形達の総意で敵艦砲射撃を誘導した。