戦術人形が指揮官を愛するまで_表   作:イエローケーキ兵器設計局

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 MG42がAK-12と組むほんの少し前。
 ターゲットはくたばった。ようやく指揮官の下に帰れる。それが"過貫通作戦"終了後に思ったことだった。


2. PzB39の場合_表

今日は私が副官を担当する日。時刻は……16:51といったところかしら。

「指揮官、ハグして頂戴。」

「急だなぁ……どうした?」

「してくれないの?指揮官。」

「はぁ……わかったよ。おいで。」

 指揮官の腕の中は温かく、そして良い香りがする。命懸けで帰ってきた甲斐があった。

「温かくて好きよ、指揮官。」

「その割には……。」

「それ以上は、ね。」

 指揮官の口を人差し指で制止する。私に貴方の横に立つ資格はないもの。

 

 私と指揮官の出会いはずっとずっと前。貴方に助けられたあの日からずっと好きだった。

 

 思い出話〜過去の抹消された事件〜

 それは私がまだ民生用人形だった頃。武装組織に拘束されて数日が経ったあの日。目の前の見張り役が唐突に倒れ、貴方が走ってきた。

「大丈夫か?動けるか?」

「え、えぇ……貴方は?」

「俺か?俺は……あー……。」

 戦闘服に身を包んだ貴方は私を拘束するロープを切るなり、抱き抱えて見張りから奪ったバトルライフルを振り回し、遭遇する民兵……いえ、民兵と呼ぶべきではなくて無法者と呼ぶべきかしらを撃ち倒して外へ連れ出してくれた。

「俺は……うーん、言っちゃって良いのかな……一介の傭兵だよ、としか言えないかな、うん。」

 そう言って私と自分ににハーネスを装着すると風船を打ち上げ、更にこう言った。

「快適な空の旅を。」

「どういう意味かしら。」

 貴方はただ笑って上を指差す。見上げると低空を巨大な飛行機が風船目掛けて飛んできていた。

「レナ少佐!コース適正!いつでもバッチコイだ!」

 貴方がインカムに吠えると、二人して身体が空を舞った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 急激なプラス方向のGに翻弄されながら振り向くとワイヤーを引っ掛けた飛行機は急上昇しながら機体を横滑りさせ、機首を下げると左ロールを打ちながらまた機首を上げて私たちを固定するワイヤーを機体上部に叩きつけようとしているのが、終わり際になってようやく見えた。

「レナ少佐、いくら頑丈とはいえなかなか酷い扱いじゃないか!」

 貴方がそう吠えて、ワイヤーを伝って機体上部のポッドへと連れて行ってくれた。

 

 

「フルトン回収は初めてか?」

「ええ。初めてよ。」

 ポッド内で床に座っていると貴方に声をかけられた。今思うともう少し愛嬌のある話し方をすれば良かった。

「空の旅はどうだった?」

「最悪ね。服が傷んじゃうんじゃないかと思ったわ。」

「それはすまん。」

 こんな事、今じゃ言えないわね。

「君はこれからPMCの戦術人形となる。拒否権はない。済まないがあのエリアではこれが普通なんだ。」

「そう……給料は出るの?」

「ああ、しっかりと。上層部に請求するさ。」

「誰の指揮下に入るの?」

「それはだな……おや、通信だ。」

 インカムで淡々と答える貴方。了解したと呟いた貴方はこう言った。

「俺の指揮下に入るらしい。ようこそ、あの世に最も近いこの世へ。」

 私の運命の歯車が切り替わったのはこの時だった。

 

 思い出話〜過去の抹消された事件〜 終わり

 

 

 私は今、丘にある基地が見渡せる墓場に居る。夕焼けに染まる墓石を前に立ち続けて1時間が経った。もうそろそろ完全に日が落ちてしまう。

「ここに居たの。別に良いのに。」

「……。」

 後ろから声を掛けられた。墓石の下に埋まってはいない義姉に。

「済んだことだし、今の私は健在じゃない。」

「でも私は……。」

 振り向くと未だに右目から夕日が覗いていた。

「やっと振り向いてくれた。ただいま。」

 

 PzB38"義"姉さんは"腹違いの双子の"姉にして、指揮官のかつて事実婚関係にあった戦術人形で、今は離れて一人で作戦を続けている。私が救助されるきっかけになったのもこの人。義姉が指揮官から離れることになった遠因は……私。

 

「ニコライ君は元気?」

「ええ。」

「そっかぁ。」

 相変わらずボサボサの髪に、泥や潰れた苔で汚れた服、似て異なるねじれの位置に存在するのがPzB38。指揮官はなんで私ではなく義姉を選んだのだろうか。そして、義姉もなぜ指揮官を選んだのか。

「大きくなったねぇ。」

「変わってないわよ。それよりも、そっちはどうなの?」

「ぼちぼちね。目的の情報は見つからずじまい。次はノヴァヤゼムリャかしら。」

 諜報活動の一環として時に山に紛れ、時に輸送機から飛び降りる義姉。ズボラで指揮官にベッタリで、脱いだ服を放置するような義姉の姿は今は無い。

「一旦帰ったら?」

「そうねぇ……。また貴女に目を撃たれないなら良いかしら、ね。」

「……ごめんなさい。」

「あはは、ごめんごめん。帰ってきたら一回はその顔を見ないと、ああ帰ってきたんだなって、帰ってきたんだって、思えなくて。ねぇ、案内して頂戴よ。ニコライ君には黙っておくから、ね?」

 私の腕に掴まって歩く義姉。私が義姉の目を奪ったのは事故ではない。明確な殺意があった。私は指揮官が欲しかった。私も見て欲しかった。だからといって撃つ理由にはならないのは分かっていた。義姉はいつも笑っていた。私が銃を向けた時も、銃が暴発した時も、秘密を共有した時も、だから姉さんが嫌いだ。

 

「ただいま。おぉ、こんばんは。私はPzB38。PzB39の姉よ。」

「AK-12、彼女は指揮官の家族だ。警戒しなくて良い。」

「……こんばんは。」

「こんばんは。貴女、AK-12と言うのね。よろしくね。」

 義姉が右手を差し出すとAK-12が素直に握手する。一瞬だけ目を開いて、すぐに閉じた。

「私はAK-15。指揮官の護衛担当をしている。」

「夫が世話になっているわ。」

 義姉が"夫"を口に出した瞬間、空気が固まった気がした。

「おやおや、ニコライ君は人気者ね。」

「指揮官のところまで案内します。どうぞ。」

 4人で歩きだす。行き先は司令室。

 

 コンコンコン。

「AK-15です。」

「どうぞ。」

「失礼する。」

 指揮官は椅子に座っていた。

「……PzB38。」

「ニコライ君。」

「おかえり。」

「ただいま。」

 

 私たち、お邪魔者は退室する事にした。危険物を持っていたらAK-12がしょっぴいていただろうけれど特に何もしなかった、ということは、本当に会いたかっただけなのだろう。

 

 数十分後。私とある程度そっくりな戦術人形が指揮官と出てきた。最初は義姉だと気が付かなかった。ボサボサだった髪はかつてのウルフカットに整えられ、汚れて破れもしていた服も新品同様に整えられていた。喪った右目もようやく修復されて両眼視できている。

「あっ、僕の愛しい妹。」

「姉さん、そんなキャラだったっけ?」

「たまには良いでしょ、たまには。それと……もうあのネタは使えないわね。」

 そりゃあ修復したらそうなるでしょうね。

「ニコライ君には私から話しておいたから。」

 え?

「あの表情を見てよ、あの鉄面皮。」

 図ったわねっ!

「PzB39、大丈夫か?」

 指揮官?

「え、ええ。」

「君の姉の事は任せろ。俺は……君さえ良ければ……君を含めて皆を愛したい。」

 ペチン。

「あっ……。」

 

 思わず指揮官の頬をビンタして屋上まで逃げていた。途中までAK-12やら義姉さんやら皆が追いかけてきていたけれど、終いには指揮官だけになっていた。

「はぁ……はぁ……PzB39。すまん。」

「指揮官。」

「俺が悪かった……はぁ……はぁ……。」

「指揮官。」

 指揮官の頬に両手を添える。

「指揮官、好き。助けられたあの日からずっと、誰にも渡したくなかったくらい好きなの。」

「PzB39……。」

「姉さん達に先を越されて……冷静じゃなかった事を反省しているの。だから……。」

 抱き着いてボソリと。心からの言葉を貴方に。

「我儘な私だけど……もし、愛してくれるなら、皆と同じくらい愛して欲しい。」

「……分かった。」

「ありがとう。」

「……ところでこの腫れはどうやったら治るかな?」

 未だに指揮官の左頬が真っ赤になっていた。この染まり方は紅潮ではない。

「い、医務室に行きましょう。」

 

 指揮官が人形用の補修剤を塗っているのを見てしまった。




 刻印システムの制御があれば普通は暴発なんてしないんです。ええ。彼女はPzB39に選ばれなかったんです。何故か?それは分かりません。でも、解説は後で行います。

PzB39の好きな曲:青い瞳(天空のエスカフローネ イメージソング)
「"いつかは終わる一時の恋でも あなたは永遠を私に残すだろう"……ここが好きなのよね。指揮官、貴方は私に永遠を残してくれるのかしら?」
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