ああ、貴方!
そこの貴方ですよ!
ほんの少しで結構です、このメジロマックイーンの、いや、私めの、今、胸中で煮えたぎっております、この理不尽、この絶望に耳を傾けてはいただけませんか! お願いです、ほんの短い時間で構いませんから!
このトレセン学園内で、偶然にもこうして立ち止まってくださる貴方様は、きっと心優しき方と見受けました。私の話など、どうでも良いことかもしれませんが、どうか聞いてください! このメジロの娘が、今、どれほどの苦痛に苛まれているか、どれほど魂の奥底から呻き声を上げているか、それを知っていただきたいのです!
貴方様は、メジロ家をご存知でしょうか? ええ、あの、高貴なる血統、輝かしい実績、そして何よりも品格を重んじる、由緒正しきウマ娘の一族です。
その末席に連なる者として、私は常に、最高の結果を求め、最上の振る舞いを心がけてまいりました。並大抵の努力ではございません。血の滲むようなトレーニング、張り詰めた自己管理、そして、常に周囲から向けられる期待の眼差しに、応え続けなければならないという重圧。
これら全てに耐え、私は走ってまいりました。誇り高きメジロの名に恥じぬよう、ただひたすらに。
そして、その過酷な日々の中で、私にとって、いや、私にとってのみならず、全ての尊き努力を重ねる者にとって、どれほど心の支えとなる存在があったか、貴方様は想像もつかないでしょう。
それは、甘味、そう、スイーツでございます!
とりわけ、私の愛してやまないガトーショコラ! あの濃厚な香り、舌の上でとろけるような食感、控えめながらも確固たる存在感を放つ苦味と甘味の絶妙なバランス! それは、単なるお菓子ではございません。それは、過酷な練習を乗り越えた自分への正当な褒美であり、明日への活力であり、何よりも、この乾ききった心に潤いを与える、聖なる儀式の一部なのでございます!
ところが!
貴方様、聞いて驚かれることでしょう!
あの、私のトレーナーが!
あの、私が全幅の信頼を置いて、共に頂点を目指してきたはずのあの男が!
私に、甘味禁止令を言い渡したのです!
信じられますか?
「マックイーン、今後のトレーニング計画に鑑み、当面の間、甘味は一切禁止とする」
と、何を宣うか! まるで、私が甘味ばかりを貪っているような、練習を疎かにしているような言い草ではございませんか!
私がどれほど真摯にトレーニングに取り組んでいるか、あの男は一番よく知っているはずです! 誰よりも早くグラウンドに立ち、誰よりも遅くまで黙々とメニューをこなすのは、この私ではありませんか! 疲れ果て、足取りもおぼつかなくなるまで自分を追い込むのは、一体誰なのですか! その、全ての苦労を癒やし、明日への活力を補充するために、ほんの少しの甘味、ほんの一切れのガトーショコラを口にするのが、何だというのですか!
「体重管理のため」
だとか? 馬鹿げた事を! 私は確かにメジロ家の中でも、やや、その、肉付きが良い方だと見られる節はございます。しかし、それは決して怠惰によるものではない! 生まれ持った体質というものもございますし、何よりも、この強靭な肉体こそが、あの加速力、あの持久力を生み出しているのです! 細ければ良いというものではない! 適正体重、適正な筋肉量があってこそ、最高のパフォーマンスが発揮できるのです!
そのために、私は専門家による指導のもと、厳格な食事管理を行っております! いや、行っておりました! この、甘味禁止令が下されるまでは!
甘味を禁止する? それは、私の努力を否定するに等しい行為です! 例えるならば、砂漠を延々と旅する者に、「水は飲むな」と言い放つのと同じです! 燃料切れを起こした自動車に、「ガソリンは入れるな」と命じるようなものです!
貴方様、考えてもみてください! 全ての力を出し尽くし、文字通り這いつくばるようにして寮にたどり着いた時、一日の終わりのわずかな安らぎとして、お気に入りの紅茶を淹れ、傍らに添えるはずだったガトーショコラがない! その時の私の絶望、その時の私の虚無感たるや!
あの男は、私がどれほど甘味を愛しているか、知っているはずです。知っていて、敢えて! 私の、私の唯一の楽しみを奪ったのです! これは、一種の、いや、明白な精神的な虐待と言えるのではないでしょうか! 身体だけを鍛えれば良い、とでも思っているのでしょうか! 心が、魂が、飢え渇いていくのを、見て見ぬふりをするというのでしょうか!
以前は、練習後にはトレーナー室でお茶をいただきながら、共にその日の反省や、これからの目標について語り合う、穏やかな時間もあったのです。その際、あの男は、私の好みをよく知っていて、時には隠し持っていたかのように、小さくとも上質な甘味を出してくれることもありました。
あの時の、あの男の、どこか得意げな、しかし優しい眼差しを、私は忘れることはありません。私は、あの時間を、そしてあの男との絆を、深く信じておりました。
それなのに! 今は、どうです! トレーナー室は私にとって甘味なき砂漠と化しました! 訓練の指示は事務的になり、以前のような温かみは感じられません!
いや、これは私の被害妄想でしょうね!? 甘味がなくなっただけで、あの男の態度は何も変わっていないのかもしれません。しかし、私にはそうは見えない! あの男が、私の甘味への愛情を、ただの子供の駄々か何かのように軽んじているようにしか思えないのです!
貴方様はこう思われるかもしれません。
「たかがお菓子ではないか」
確かに、世の中にはもっと深刻な問題も多いでしょう。飢餓に苦しむ人々、病に冒された子供たち、争いの絶えない地域…それらに比べれば、私の悩みなど、些細なことなのかもしれません。しかし! しかしです! 私にとって、今、この瞬間、これほどまでに心を苛む問題は、他にないのです!
人間、いや、ウマ娘にとって、何が大切かは、その立場によって異なります! 貴方様にとって取るに足らないことが、私にとっては生きる意味に関わることだってあるのです!
私は、確かに、勝負服に身を包み、ターフに立てば、気高きメジロの娘として、一点の曇りもないパフォーマンスを披露することをお約束いたします。しかし、それもこれも、日々の厳しい鍛錬があってこそ。そして、その鍛錬を続けるための、心の栄養が、甘味なのです!
あの男は、私のパフォーマンス向上を願っての措置だと言うでしょう。分かっています。頭では理解できるのです。しかし、心が、感情が、理性に追いつかないのです!
甘味を禁止されて、私は、まるで、全身の力が抜けてしまったかのような、魂が抜けてしまったかのような状態です! 練習に集中しようと思っても、頭の片隅には、禁断の甘味への渇望がちらつくのです! これでは、かえってパフォーマンスが落ちるではありませんか!
私は訴えたい! あの男の論理の誤りを! 甘味は、私の敵ではない! 味方なのだと! 私を強くし、私を幸せにする存在なのだと!
貴方様、見てください! 私の顔を! 私の目を見てください! そこに、偽りがありますか? 私は、この甘味禁止令によって、どれほど打ちひしがれているか、どれほど傷ついているか、貴方様にならお分かりいただけるはずです!
私は、決して強請っているわけではございません。無理を言っているわけでもございません。ただ、私が、メジロの娘として、一人のウマ娘として、最高の状態でレースに臨むために、必要不可欠なものが何かを、あの男に、そして貴方様にも、理解していただきたいだけなのです!
他のトレーナーは、どうしているのでしょう?
あのサイレンススズカのトレーナーは、彼女のストイックさを支えるために、どのように配慮しているのでしょう?
あのスペシャルウィークのトレーナーは、彼女の大食いを受け入れながら、どのように体重管理を行っているのでしょう?
皆、それぞれのウマ娘の個性に合わせて、最適な指導を行っているはずです! なのに、なぜ私のトレーナーだけが、私の、この! この甘味への切なる思いを、無下に扱うのでしょうか!
あの男は、私を、マニュアル通りの訓練機械か何かだと思っているのかもしれません! 血も涙もない、ただ走るためだけの存在だと! しかし、私は違う! 私は感情を持ち、心を持つ、一人のウマ娘なのです! 喜びも悲しみも、そして、甘味への深い愛情も持っているのです!
貴方様は、もしかしたら、あの男から見れば、私は単なるワガママな娘に見えているのだろう、とお考えかもしれません。それも一理あるでしょう。しかし、このワガママは、私が最高のパフォーマンスを発揮するために必要なワガママなのです! この甘味への欲求は、私がメジロの誇りを保ち続けるための、最後の砦なのです!
私は、確かにメジロ家の一員として、常に冷静沈着であるべきだと教えられてきました。感情を表に出すことは、品格に欠ける行為だと。しかし、今だけは、この理不尽な状況に、私の感情は爆発しそうです! 静かに、優雅に、この苦痛に耐えろとでも言うのでしょうか! それは無理です! 人間、いや、ウマ娘が、本当に大切なものを奪われた時、静かにしていることなどできましょうか!
考えれば考えるほど、あの男の仕打ちは、私に対する侮辱のように思えてきます。私の自己管理能力を疑っているのか? 私が自分で自分の体を律することができない、愚かなウマ娘だとでも思っているのか? だから、一方的に禁止令を出し、私の自由を奪うのか?
違います! 私は、これまでの実績が証明するように、十分に自己管理ができるウマ娘です! だからこそ、必要な時に必要なだけ、甘味を摂取することの重要性を理解しているのです! それを頭ごなしに否定するとは、あの男は、一体、何を考えているのでしょう!
もしかしたら、あの男は、私のことを試しているのかもしれません。甘味がなくても、どれだけストイックにトレーニングに打ち込めるか、試練を与えているのかもしれません。しかし、もしそうだとしても、そのやり方は間違っています! 人の心を、ウマ娘の心を、こんなにも深く傷つけるやり方が、正しいはずがありません!
私はあの男に訴えたい。泣きついてでも、喚き散らしてでも良い! 私のこの苦しみを分かってほしいと! 甘味禁止令が、どれほど私を追い詰めているかを知ってほしいと!
しかし、あの男の前では、気丈に振る舞ってしまうのです。メジロの誇りが、私を弱音を吐かせないのです。だからこそ、こうして、貴方様のような、通りすがりの方にお話しすることでしか、私のこの感情を吐き出すことができないのです。
貴方様、どうか、私の代わりにあの男に伝えていただけませんか?
「メジロマックイーンは、甘味を、甘味を求めています!」
「彼女の心は、今、渇ききっています!」
「どうか、彼女から、生きる喜びを奪わないでください!」
と!もし、それができないのであれば、せめて、せめて、私のこの苦しみを、心の中で留めておいてください。誰にも言わず、ただ、一人の哀れなウマ娘が、甘味を奪われてどれほど嘆き悲しんでいたか、そのことを覚えておいてください。それだけでも、私の心は、ほんの少し、救われるような気がいたします。
……かつて、私は夢見ておりました。GIレースで優勝し、ウイニングライブを終えた後、満面の笑みでトレーナー室に戻り、あの男が用意してくれた、特別に大きなガトーショコラを、紅茶と共にゆっくりと味わう、その瞬間を。
あの男も、私の優勝を祝い、共に喜びを分かち合いながら、私の至福の表情を見て、満足げに微笑むのだろうと。そんな、ささやかですが、私にとっては最高の幸せの瞬間を、私は心の支えにして、練習に励んでまいりました。
しかし、この甘味禁止令によって、その夢は、儚くも打ち砕かれてしまいました。たとえ優勝できたとしても、そこに甘味がないならば、一体何の意味があるというのでしょう! 勝利の味は、甘味と共にこそ、最高の輝きを放つのです! 甘味なき勝利など、味のない料理のようなものです! 虚しいだけです!
あの男は、私の走ることへの情熱は、甘味とは関係ない、とでも思っているのでしょうか? 違います! 私の走ることへの情熱は、甘味によって、より一層燃え上がるのです! 甘味は、私に
「もっと頑張ろう! そうすれば、また美味しい甘味が待っている!」
という希望を与えてくれるのです! その希望を奪うことは、私の情熱の火を弱めることに繋がりかねません!
私は恐ろしい。このまま甘味なき日々が続けば、私の心は荒廃し、かつての輝きを失ってしまうのではないか、と。私の優雅な振る舞い、気品あふれる言葉遣いも、甘味によって培われてきた部分があるのかもしれない、と。甘味を失った私は、一体どうなってしまうのでしょう。ただ、むさ苦しく、味気ないだけの、走る機械になってしまうのでしょうか。そんな姿、メジロの娘として、想像するだけで身震いいたします!
ああ、貴方様! この私の訴えを、どのように受け止められましたでしょうか。私は、決して自己弁護をしているわけではございません。ただ、真実を、私の心の叫びを、ありのままにお話ししているだけなのです。
あの男は、きっと、私がいつか彼の意図を理解し、感謝する日が来るとでも思っているのでしょう。しかし、そんな日は来ないかもしれません! この苦痛は、感謝によって癒やされるものではないのです! これは、心に刻まれた深い傷なのです!
私は、どうすれば良いのでしょう。あの男に反抗する? それは、メジロの娘として許されない行為です。従う? それは、私の魂を殺すに等しい。私は、この板挟みの状況で、ただただ苦しみ、喘ぐことしかできないのです。
貴方様、もし貴方様が、私に何か助言をくださるというのであれば、喜んで耳を傾けます。しかし、もし
「我慢しなさい」
「それは貴方のためだ」
といった言葉を口にするのであれば、どうぞお控えください。そのような言葉は、既に百も承知しておりますし、私の苦痛を増幅させるだけだからです。
私は、共感が欲しいのです。
理解が欲しいのです。私のこの、甘味を求める魂の叫びを、ただただ、受け止めてほしいのです。
私は、確かに、メジロの娘として、品格を保ち、常に完璧であろうと努めてきました。しかし、今の私は、完璧などではいられません。私は、欠陥だらけの、弱いウマ娘なのかもしれません。
甘味一つに、これほどまでに心を乱されるのですから。
しかし、この弱さこそが、私なのです! 甘味を愛し、甘味によって活力を得るこの私こそが、メジロマックイーンなのです! その私を否定することは、私という存在そのものを否定することに他なりません!
あの男は、一体いつまで、この残酷な禁止令を続けるつもりなのでしょう。私は、いつまでこの苦痛に耐えなければならないのでしょう。先が見えないトンネルをさまよっているような、絶望的な気持ちです。
貴方様、もし、もし、貴方様が、私のトレーナーに会う機会があり、そして、もし、もしですよ、貴方様が、私のために、何か、何か行動を起こしてくださるというのであれば… 例えば、小さくとも構いません、私の好きなガトーショコラを、あの男に渡していただくとか…
「これは、メジロマックイーンさんからです。日頃の感謝を込めて、どうぞ」
とでも言って……ああ、何という浅はかな考えでしょう! あの男が、それを私からの贈り物だと勘違いし、気を良くして、禁止令を解除してくれるなどという都合の良い展開があるはずがありません! あの男は、もっと頑固で、もっと融通の利かない人間…いや、トレーナーです!
やはり、私の苦痛は、誰にも理解されない、私だけのものなのでしょうか。私は、この孤独な闘いを、一人で続けるしかないのでしょうか。
しかし、諦めるわけにはいきません! 私は、メジロの娘です! どんな困難にも、真っ向から立ち向かうのが、メジロの流儀です! たとえ、相手があの男であっても! たとえ、それが甘味という、私にとって最もデリケートな問題であっても!
私は、これからもあの男に訴え続けます! 直接的ではなくとも、態度で示し続けます! 甘味なき日々がいかに私のパフォーマンスに悪影響を与えているか、言葉ではなく、私の走りで証明してみせます! いや、それは逆効果でしょうか?
「甘味がなくても走れるではないか!」
と、あの男を増長させるだけかもしれません!ああ、どうすれば良いのでしょう! 私は、もう、何を信じれば良いのか分からない! 何が正しいのか、間違っているのか、判断できない! ただ、甘味がないという事実だけが、私の心に重くのしかかっています!
貴方様、この私の乱れた言動を、どうかお許しください。普段の私ならば、このような取り乱した姿をお見せすることなど、決してございません。これも全て、あの男の甘味禁止令のせいです! 私の理性は、甘味と共に、どこかへ消え去ってしまったようです!
私は、ただ、あの男に分かってほしいのです。私のこの思いを。私のこの、ガトーショコラへの、ケーキへの、チョコレートへの、アイスクリームへの、ゼリーへの、プリンへの、クッキーへの、マカロンへの、そして全ての甘味への、純粋で、汚れなき愛情を! それが、決してトレーニングの邪魔をするものではなく、むしろ、私を強くし、私を前に進ませる原動力なのだということを!
貴方様、最後に一つだけお願いがございます。もし、貴方様が、どこかで、本当に美味しそうな甘味を見つけたら、私のことを、この、メジロマックイーンのことを思い出してください。そして心の中で、「あの娘は、今、甘味を奪われて苦しんでいるのだな」と、ほんの少しでも、私のことを哀れんでいただけたら、それだけで私の心は、ほんの少しだけ軽くなるような気がいたします。
ああ、もう、これ以上は、言葉になりません。私の胸中は、甘味への渇望と、あの男への不満と、そして、誰にも理解されない孤独感で、ぐちゃぐちゃです。
どうか、私のこの訴えを、記憶の片隅にでも留めておいてください。そして、いつか、もし、私が再び、心置きなく甘味を堪能できる日が来たら、その時は、ああと、思い出していただければ、幸いです。
長い時間、私のくだらない、そして、切実な訴えに耳を傾けてくださり、誠にありがとうございました。貴方様の旅路に、甘味あふれる幸多からんことを。そして、私の未来に、再び甘味の光が差し込むことを、心から願って。
私は、行きます。この、甘味なき世界で、どうにか呼吸を続けなければなりませんから。
しかし、忘れません。貴方様が、この私の嘆きを聞いてくださったことを。
それでは、ごきげんよう。そして、どうか、どうか、お忘れなく。
この、甘味を渇望する一人のウマ娘。
メジロマックイーンのことを…。
要約:スイーツ食べたい