駆け込み訴え   作:灯火011

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予防注射から、戻ってきたよ。


駆け込み訴え・リターンズ ~トウカイテイオー、注射の痕~

 …ああ、君か。

 

 …うん、ボクだよ。トウカイテイオー。

 

 …さっきぶり、かな?

 

 

 

 

 

 …ちょっと、声、小さいって?

 

 …そりゃあ、そうだよ。だって、ボクは…ボクは、戦い抜いてきたんだから。あの、恐怖の…注射と。

 

 …終わったよ。うん、終わったんだ。

 

 …見てくれよ、この腕。

 

 …まだ、ちょっとジンジンする。

 

 …あの人が、トレーナーがさ、

 

「ほら、もう終わったぞ。大丈夫だったろ?」

 

 なんて、ケロっとした顔で言うんだ。

 

 …大丈夫なわけないじゃないか!

 

 ボクの心臓が!

 

 どれだけバクバク言ってたか!

 

 トレーナーは知らないんだ!

 

 …でさ。

 

「チクっとしますよー」

 

 って、お医者さんは言ったけどさ。…チクっ、じゃなかったよ。もっとこう…ズーンって感じで…。痛いのは、ほんの一瞬だったかもしれない。でもね、その一瞬が、ボクには永遠に感じられたんだ。針が…針が刺さる瞬間、ボク、目、つぶっちゃった。情けないだろ? 帝王なのにさ。

 

 あの人は、ボクの頭をポンポンって叩いて、

 

「よく頑張ったな、テイオー」

 

 って。…その言葉、ちょっとだけ、嬉しかったけど…でも、やっぱり許せないよ! なんでボクが、こんな思いをしなくちゃいけないんだ! ボクは、ターフを駆けるために生まれてきたんだぞ! 注射針に怯えるためにいるんじゃない!

 

 手元のそれは何だって?

 

 …ハチミー、トレーナーがくれたんだ。スペシャルなやつだって。…でも、なんだか、いつもの味と違う気がする。…美味しいはずなのに、喉を通っていかない。…まだ、胸がドキドキしてるのかな。

 

「来年もまたあるからな」

 

 だって。…聞こえたかい? トレーナーの悪魔みたいな囁きを。来年!?

 

 また、この恐怖をボクは、また、味わえって言うの!?

 

 …もう、やだよ。ボク、もう、注射なんてこりごりだ…。

 

 マックイーンに、この姿、見られたくないな。きっと、

 

 「何をだらしない顔をしているのですか」

 

 って、眉をひそめられちゃう。カイチョーなら…カイチョーなら、どうだったんだろうな。きっと、平然と注射を受けて、涼しい顔でトレーニングに戻るんだろうな。…ボクは、ダメだな。やっぱり、ボクは…ボクは…。

 

 …でもさ、それでもボク、逃げなかったんだ。

 

 ちゃんと、腕を出して、歯を食いしばって…耐えたんだ。

 

 …えらいだろ?

 

 …うん、えらいって言ってくれよ

 

 誰か、ボクを褒めてくれよ。

 

 じゃないと、この、心の傷が、癒えないんだ。

 

 …ああ、なんだか、眠くなってきた。…疲れたのかな。…そうだよね、あんなに緊張したんだもの。…今日はもう、何も考えたくない。…ただ、静かに眠りたい。

 

 …でも、夢に、あの注射針が出てきそうで怖いな…。

 

 …聞いてくれて、ありがとう。…君がいてくれて、よかった。…少しだけ、ほんの少しだけ…楽になった気がする。…また、明日からは、いつものボクに戻れると…いいな。

 

 …うん、きっと大丈夫。

 

 ボクは、トウカイテイオーだからね。…うん…。

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