よかったら見てやってください。
暗闇の中暁が1人、佇んでいた。
そこには無数の赤白い糸が張っている。
体は動かない。
完全に固定されていた。
結果的に仲間の足を引っ張った。
その事実が己を苦しめる。
黒服、とやらの人物との契約。
それは己の犠牲で自らの宝物を守るというものだった。
最初は断った。
だが状況は一変し、結局は自らの意思で契約を行った。
希望は朽ち、宝物は今にも消えてしまいそうだったからだ。
しかし己が犠牲になれば全てが解決する。
残された選択は一つしか、無かった。
だが、現実は違った。
無駄死にだった。
契約内容に嘘偽りは何一つ無い。
ただ、己の思考が浅いだけだった。
扉の奥の光景が頭に浮かぶ。
嗚呼、どうしてだろうか。
もっと利口な考えはあった筈なのに。
何故口車に乗ってしまったのだろう。
己が思わずして周りにも迷惑をかけてしまった。
その後悔の念が己の顔に現れる。
結局、守るべき物は守る事は出来ないのだろうか。
そう思ったその時、「とんとん」と扉の方から音がした。
……黒服だろうか。
黒服。
己を追い求め続け、先程あの憎き軍事会社がこの地を破壊尽くす原因となった大人の研究者。
要するに、この借金騒動物語の黒幕である。
とても許すべき者ではないだろう。
しかし現在では契約のせいで残念ながら己は奴の所有物だ。
反抗しようとしても拘束具をつけられている為、やれる事なんて殆ど無い。
今できる事と言ったら奴を睨みつける事ぐらいだ。
ドアの方向へ首を向く。
……ドアノックのつもりらしい。
律儀な奴だ。
わざわざする必要など無いだろうに。
奴にはそれほど余裕があるのだろう。
……嗚呼、腹が立つな。
そう思った瞬間の事だった。
彼女は目を見張った。
……そりゃそうだろう。
その扉がこちらへ向かって吹っ飛んで来たのだから。
———————————————
"ッチ、外れたか……。"
扉が吹っ飛んだ衝撃で煙が上がる。
そのせいで姿は見えない。
……だが、懐かしい声だ。
"久しぶりだな"
フッ、と鼻で笑う。
……黒服じゃない。アイツだ。
はぁ……。
できれば今日は、今日だけは会いたくなかった。
「久しぶりだね」
「風の噂によればヘルメット団の頭領になったんだって?」
煙から浮き上がる影を睨みつけながらそう返す。
その声は自分ながらに少し震えている様に感じた。
"ああ、名もスター団。いいだろ?"
"でもまぁ……今はそれどころじゃないけどな"
煙が消え始め、その影の姿が少しずつ色づいていく。
「…………」
そして———
"恥を知れ、小鳥遊ホシノ"
龍は、現れた。
"お前がやった事——それは、ユメに対する侮辱行為だ"
金色の装飾を纏った鱗が至る所に光を反射する。
「あのジャラちゃんが立派になって……おじさん感動しちゃうなぁ」
声を振り絞ってそんな戯言を発す。
"話から逃げるな"
だが、無駄だった。
"お前の後輩の奴らから聞いたぞ"
"自分を犠牲に皆を助けるだぁ?"
"ふざけるな"
瞬間、体が震え始める。
怒り。
その感情ただ一つが龍から感じられた。
"よく考えろ。それでユメは喜ぶか?"
「………」
"だろ?"
「……でもアビドスが救えるかもしれなかったんだ!」
声を荒げる。
胸が痛い。息がしづらい。
自分は正しい事をしたつもりだった。
その思いが空気の振動となった。
"「無駄死に」だったのに、か?"
「確かにダメだった!!みんなの足を引っ張った事には反省してる!!けど私だって皆とアビドスを思って——!!」
"はぁ……"
"気持ちだけじゃ意味ねぇんだよ"
「………」
何も言い返せなかった。
気持ちで行動した結果、騙され、ここに送られた人間が感情論を論じたところで何の意味もなかった。
龍は己の尻尾を右へ、左へと一定のリズムで揺らす。
"お前、あの時俺に言ったよな"
"「感情論だけでどうにかなるならユメ先輩は死んでいない」ってよ"
ドクン、と心臓の音が響いた。
"その結果がこれだ"
龍は手を大きく広げながら薄暗く笑った。
"惨めだよなぁ……"
"それを言っていた張本人が感情論を主張するなんてよ"
視線が痛い。息が苦しい。耳鳴りがする。
「………」
"結局、お前の行動は空回りだった"
"現実を受け入れやがれ"
彼女を軽蔑する様に龍はそう、轟く。
"ユメは死に、俺もこの船から抜けた"
"後はお前だけだ、ホシノ"
そう言い残し、龍は腕を振るう。
すると糸がハラハラと、辺りに光をばら撒きながら舞い落ちた。
"どう思うかは勝手にしろ"
龍は出口の方向に体を動かす。
"所詮、もう他人事だ"
"俺はどう思われようと気にしねぇ"
そして龍は首を小さく彼女に回し、ゆっくりと口を開いた。
"ただ、一つ言わせてもらうとするなら——
「もうあの頃には戻れない」
——だな"
その声がただ、壁に反響する。
カチ、カチ、と時間だけが過ぎていった。
少し経った後、一つの大きな影が光へ進み始めた。
地面から硬い物同士がぶつかり合う音が聞こえ、次第に小さくなっていく。
そして影が遠のき消えていく、その瞬間の事だった。
「うぁ……ぅ……」
微かなしょっぱさがそこに、生まれた。
"……はぁ。"
◆
龍は1人の少女を抱えながら階段を登る。
少女は手足の力が抜けている様だが、息はしている。
寝込んでいるようだ。
龍は階段を登りきり、ドアを開け、外に出る。
そして顔を空へ向けた。
……嗚呼、いつも通りの輝かしく美しい太陽だ。
そう嘆く。
その姿はまるで雨が降るのを期待しているようだった。
龍は一歩、また一歩へと地面を見つめながら前へ施設の出口へと進んだ。
そして突然、龍は背後へ振り向きながら口にした。
"生き残りか……"
そこには、機械仕掛けの人間が銃口を龍へ向けていた。
だが彼の体はボロボロで、所々から電線が飛び出ており、銃を持つその腕は小刻みに揺れているようだった。
「貴様は一体………一体!!」
「……何者なんだ………ッ!!」
彼は憎しみを込めてそう叫ぶ。
"そうだな……"
その質問に龍は答える。
"強いて言うならば………"
「バンッ」
銃声がひとつ、鳴った。
"………。"
龍の動きが止まる。
そして顔が、俯いた。
ただ、少女は抱えられたままだ。
数秒の沈黙が訪れる。
「や、やった……か……?」
男は疑心暗鬼になりながらも銃を構え、俯いた龍に近づく。
その刹那———
"残念、それは禁句だぜ?"
男の右の腹から腕までの部分が消し飛んだ。
"人の話はよく聞けよ"
そう龍が呼びかけた後、男はその場で仰向けに倒れ込みぽつりと呟いた。
「嘘だろ……」
"あぁ、スケイルノイズで一掃してたから撃つ暇もなかったのか"
「俺は確かに頭を……」
"腕前は確からしいな"
龍は少女を近くに寝かせ男のそばに座り込み、不敵に軽く笑いながら男に自身の腕の鱗を見せつけた。
"悪いな。生憎弾は効かねえ体なんだ"
「……化け物め」
"上等だ"
男の体から茶色い液体が辺りに流れ込む。
すると癖の強い、油の異臭がそこから這い出てくる。
「……ここまでか」
"安心しろ。メモリーは残してやるよ"
"俺は優しいからな"
龍は誇らしげな顔でそう自慢した。
「人の部隊を全滅させた癖によく言うわ」
フッと男は龍を鼻で笑い、目を閉じる。時が近い様だ。
"どうする?最後の最後にわるあがきぐらいは出来るが"
龍はキョトンとした顔でそう質問する。
「こっちから願い下げだ」
"そうか"
その答えを聞いた龍は立ち上がり、数秒間己が抱えていた少女に顔を向ける。その時の龍の表情には少し虚しさを感じられた。
そして男に目線を戻す。
"さて、最後に自己紹介だ"
"なんだかんだと聞かれたら答えてあげるのが世の情け、ってな"
龍は優しい声でそう呟き、地を強く踏み直す。
"俺の名はジャラランガ"
"ドラゴン・かくとうタイプのうろこポケモン"
男の意識は段々と朦朧としていくのに対し龍の声はより大きなものへと変わっていき、彼の鱗から激しい金属音が木霊する。
そして——
"アビドスの———
恥晒しだ"
目の前が真っ暗になった。
◆
彼の使命はたった一つだった。
彼女に恩返しする。
そう誓っていた。
彼女は美しく優しい少女であった。
彼女に命を助けて貰った時、彼は彼女の願いを知った。
その時、命に変えてでも彼女の願いが叶えてみせようとそう、誓ったのだ。
だが、それは叶わなかった。
圧倒的な運命力が彼に彼女を引き離したからだ。
彼女は遺言を一つ残し、散っていった。
彼はひどく悲しみ、そして憤怒した。
その日からの事だった。
彼は別人の様になってしまった。
自分の事を"恥晒し"と自称する様になり、荒くれてしまったのだ。
これはそんな龍の物語。
沈んだ暁は未だ、訪れていない。
600族です。防御種族値破格の125です。コライドンと同じタイプです。
弱いわけがないのだ。対戦よろしくお願いします。