異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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ターキッシュリーフ 2

 

 たぬきというとおとなしくて基本的に人間を襲わないイメージがあるのだが、ここのたぬきはそうでもないらしい。

 いや、魔獣なんだから俺の知るたぬきとは別物というのはわかっているつもりなのだが……。

 俺たちが会話をしているうちにたぬきたちがじりじりと距離を詰めてきている。

 

「それじゃあ早速、火縄銃の力を見せてちょうだい」

 

「ああ」

 

 期待に弾んだセーラの言葉に頷く俺。しかし、それが出来るかどうかはセーラ次第だ。

 

「ここからだと間合いが近すぎる。セーラの方でやつらの足止めを出来るか?というかやってもらえないとやべえ」

 

「お安いご用よ」

 

 切実な俺の願いをあっさりと請け負ったセーラは手にした杖を掲げると、とん、と杖の先で地面を突いた。

 何かが起こることを期待してセーラの様子を注視していたのだが、セーラの様子に変化はない。

 いったい何をとセーラに問う前に、たぬきたちから悲鳴が上がった。

 慌ててそちらを確認すれば、そこには藻掻くような仕草をするたぬきたちの姿。

 必死に身体を動かそうとしているように見えるのに、その場からまったく動く気配がない。

 その姿に違和感を覚えてよくよく観察すれば、胴体だけを激しく動かしていて四肢がまるで動いていなかった。

 まるで、四肢をその場に縫い止められてしまったかのようだ。

 

「んん……?」

 

 その原因を探ろうと木の影で薄暗い地面を良く見れば、地面に薄い膜……いや、水たまりのようなものが出来ていた。

 

「いや……ありゃあもしかして氷か?」

 

「大正解。地面ごとラクーンドッグの脚を凍らせて動けなくしたの」

 

「ははあ……なるほど、これが魔法か」

 

 氷にどれほどの強度があるかはわからないが、とりあえずたぬき程度では氷にひびも入らない程度の強度はあるようだ。

 

「こんな簡単に魔獣を拘束できるなんて、便利なもんだな。セーラの恩寵は氷魔法ってことか」

 

 感嘆と共にセーラに聞くが、セーラは首を振った。

 

「いいえ、私が今回得たのは治癒魔法よ」

 

「治癒?それじゃあこの氷は……?」

 

「氷魔法は何代か前に得た力よ」

 

 俺は思わず、なんでもないようにのたまったセーラに視線を向けた。

 

「何代か前って……もしかして、転生前に手に入れた恩寵を持ち越しているのか?」

 

「ええ」

 

 あっさりと頷くセーラに俺は驚愕して叫ぶ。

 

「ええって、そんなこと出来るのかよ!?」

 

「出来ちゃうのよ。これが。なにせ今の私はセーラだけれど、魂はエリザヴェータでもあり、イルゥク・ハアンでもあるんですもの」

 

 何やら哲学的なことを言い始めたセーラ。

 正直なんのこっちゃな話であったのだが、持ち前の前世知識と厨二心とを総動員して彼女が言いたいことを解釈する。

 

「ああっと……つまり、エリザさんだかイルクさんだかとして生きた魂がそのまま輪廻しているから、次の人生でも過去の恩寵が使えると」

 

「その通り。で、魂と力の発現の関係性についてなんだけど──」

 

「ああ、いい、いい!ただでさえややこしい設定詰め込まれてるのにこれ以上情報を増やさないでくれ!」

 

 嬉々として語り始めようとするセーラを、俺は慌てて遮った。

 

「ええ~!」

 

「ええ~、じゃありません!それよりも今は目の前のたぬ……魔獣の対処が先だろう?火縄銃の力を見るんじゃなかったのかよ」

 

 不満そうなセーラをなんとかなだめると、彼女は渋々引き下がった。

 

「……まあいいわ。確かに、今日の目的はアクシア君の火縄銃だものね」

 

 時間がかかりそうな講義が始まる前に話が終わってほっとしつつ、俺はさっそく火縄銃と道具の入った皮袋を具現化する。

 

「さて。俺が生きていた世界の銃ってのは宿で説明した通り、鉛玉を火薬の力で飛ばして当てる武器だ。飛び道具としちゃあ弾速も貫通力も弓矢の比じゃねえ。俺のいた世界じゃこいつが世に普及してからというもの、槍だの弓だのっつー今まで戦争で使われていた武器をみんな駆逐しちまったぐらいだ」

 

「そんなに強力な武器なの?」

 

 説明を聞いて目を見開くセーラに俺は重々しく頷く。

 

「ああ。おまけに使い方もお手軽かつ簡単でな。あまりにも簡単に扱えるもんだから分別のつかない幼子がこいつを弄くってうっかり人を殺しちまったり、貧しい国で少年兵がたくさん戦場に出て問題になったりしたりよ」

 

「それは……便利なのも考え物ね」

 

「まあなあ。ま、そんな銃の解説をした上で、こいつの実射に入るわけだが……」

 

 きらきらと目を輝かせるセーラの視線を受けながら、俺は皮袋を漁り道具を取り出す。

 もちろん俺は火縄銃など扱ったことはないのだが、装填の手順も射撃方法もなんとなく頭に入っている。

 どうやらこれも恩寵の一部であるらしい。

 そりゃあそうだ。ただ武器を渡されただけのド素人が直ぐに魔獣とやり合えるようになるなんてことは普通はない。弓矢だって本来は目標物に当てられるようになるまで訓練が必用なのだから。

 実にご都合なことであるし、どうしてそんな知識まで手に入れられるのか気になるところではあるが、今はありがたくその力を使わせてもらうまでだ。

 

「まず銃口から火薬を注ぎ込みます」

 

「ふんふん」

 

 取り出した小袋の中の黒い粉──黒色火薬を銃口にさらさらと流し入れる俺を興味深く眺めるセーラ。

 

「次いで銃口から弾丸を入れたら細長い棒(カルカ)で突いて押し込みます」

 

「ふんふんふん」

 

「今度はこっちの火蓋を開いて点火用の口薬を火皿に注入します。火蓋は安全のために一度閉じておきましょう」

 

「……うん」

 

 俺は自然と説明口調になりながらも手順を進めていく。頭の中では三分でクッキングなBGMが流れる。

 

「この火ばさみに火を点けた火縄を挟み込むんだが……火い点けるのがめんどくさいな。セーラ、ちょっとこの縄の先端に火を点けられるか?」

 

「うん……」

 

 セーラに火縄を示して見せると、彼女は軽く杖を振って先端に火を点けてくれた。やはり転生の回数を重ねているだけあって火の魔法も抑えているらしい。

 

「ありがとうよ。それじゃあこの火の点いた火縄を火ばさみに挟んでっと……。それじゃいくぞ。でかい音がするから耳を塞いでろ」

 

 準備を完了した俺はセーラに注意を促してから銃を構えた。

 狙いは当然必死に凍った地面から足を引き剥がそうとしているたぬきたちだ。

 そして、閉じていた火蓋を開いてよくよく狙いを定めると引き金を引く。

 引き金に連動して火縄が火皿に落ちると同時に鋭い破裂音が響く。

 銃口から火薬の燃焼によって発生した白い煙が上がり、大きな音に驚いた鳥たちが鳴きながらばさばさと飛び立っていく。

 俺は構えた銃を下ろしてたぬきたちの様子を確認すると頷いた。

 

「うん、外した」

 

「外したの!?」

 

 なにやらセーラが驚愕の声を上げているが、目の前のたぬきたちは大きな音に驚いて硬直してこそいるがダメージを受けた様子はまったくない。

 

「ちょっと引き金を引くときに狙いがぶれたのかもしれねえなあ。それじゃあ二射目に入るか」

 

 俺は先ほどと同じ手順で発射準備を進めていく。時間にして大体一分弱といったところか。

 

「さて、今度はしっかりと狙って……」

 

 俺は再び銃を構えると、狙いがぶれないように意識しながら引き金を引いた。

 大きな破裂音の後、ほとんど間を置かずにたぬきの悲鳴が上がった。

 

「お、今度はちゃんと当たったな」

 

 確認すれば一番手前にいたたぬきが倒れ込みつつ、塵に還るところだった。

 すぐに消滅してしまったので一瞬しか見えなかったが、額のあたりに穴が空いていたので今回はちゃんと狙ったところにとんでくれたらしい。

 俺はセーラの方を振り向いた。

 

「どうよ、火縄銃の威力は?」

 

「……うん。確かに当たったときの威力はありそうだし、あれだけの早さで飛ぶ弾を回避できる魔獣はそうそういないと思うけれど……」

 

 セーラは火縄銃の力を賞賛する言葉を口にするが、なにやら言いたげな御様子。

 

「アクシア君、さっき火縄銃は子供でも簡単に使えてちょっと触っただけで人が殺せるとか言ってなかった?」

 

「だれもそんなこと言ってねえよ」

 

 セーラの指摘を俺は言下に否定する。

 

「俺が生きていた時代の『銃』はそれぐらい便利だったけど、『火縄銃』はそれより五百年ぐらい前に作られた最初期の銃なんだぞ。現代の銃となんざ比べものにもならねえよ」

 

「……」

 

 セーラは無言で手にした杖を振り上げた。

 

「わあ待て待て!誰も嘘は言ってねえだろう!?……たしかに誤解するような言い方はしたけど」

 

 セーラは制止する俺の言葉を聞いて、問答無用で杖を振り下ろしてきた。

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