異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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ターキッシュリーフ 3

 

「あ、また外した」

 

 目の前で足下を凍らされたまま元気に藻掻いている小型の野犬の姿を見て、俺は構えた火縄銃を下ろしながらつぶやく。

 

「また?」

 

 セーラはそんな俺に呆れたような声を漏らした。

 ターキッシュリーフに侵入してから半刻ほど。

 俺とセーラは出てくるたぬきやら野犬やらの魔獣を狩りながら進んでいた。

 出てきた魔獣はセーラが足下を凍らせて足止めし、それを俺が火縄銃で打ち倒すというお手軽進行である。

 せっかくだから火縄銃の威力がどのぐらいの魔獣まで通用するか試してみようということでひたすら火縄銃を撃ち続けているのだが、いかんせん命中率はあまりよろしくないし装填に時間がかかっているので思っているほどは進んでいない。

 今のところ狙ったところに当たれば一撃なので、普通の初心者冒険者よりは格段に早いとは思うが。

 

「恩寵武器は遣い手の分身。故に武器を触ったことのない素人でもその武器をどう使えば良いのかは魂が識っているわ。けれど、身体がそれについてこれるかは別問題。武器を十全に扱うにはとにかく魔獣を倒して魔獣の魔力を取り込み強くなるしかないの。体内の魔力が増えれば恩寵武器も形を変えて強力になっていくしね」

 

 俺はなにやら唐突に語り始めたセーラの話を聞いて前世で遊んだいくつかのRPGゲームが思い浮かべた。

 

「へえ、魔獣を倒すとそんな恩恵があるのか。つまり魔獣を倒して経験値を稼ぎ、レベルを上げりゃあいいってことだな。しかもレベルが上がっていくと恩寵武器が進化していくと」

 

「レベル……というのはよく分からないけれど、だいたい想像したとおりだと思うわ。だからこそ恩寵武器をすぐに上手く扱うことはできないし、弓矢みたいな飛び道具は百発百中とはいかないの。頭に思い描いた通りに矢を飛ばそうとしても身体が思い通りに動かないんですからね。けれど、いくらなんでもここまで外すことはそうそうないわ。装填にもすごく時間がかかるし」

 

 恩寵武器の性質について説明するとみせて、火縄銃のダメなところをちくちくと突っついてくるセーラ。

 いちいちごもっともなので思わず頷いてしまいそうになったが、俺の他に誰がダメな子(火縄銃)の擁護をするというのかと気を取り直して反論する。

 

「仕方ないんだよ。元々火縄銃は数を揃えて音と弾幕で敵軍を制圧するのが主要な使い方だったんだ。狙撃なんてのは名人でもない限り不可能だ」

 

 確か織田信長も火縄銃で狙撃されたが軽り傷程度ですんだという話を聞いたことがあるし。

 

「なあ。これって装填が完了した状態で火縄銃を具現化できたりとかしないのか?」

 

「言ったでしょう?恩寵武器はあなたの分身だって。だから自分が出来ると思ったことはできるし、出来ないと思ったらできないわ」

 

 セーラの説明に、いったん火縄銃を消した俺は再度火縄銃を具現化させようと念じる。

 装填が終わって射撃準備が整った火縄銃を強くイメージする、が。

 

「ああ、ダメだわこれ」

 

 直感的に不可能だと理解して、俺は普通に火縄銃を具現化させた。

 

「やっぱり難しいかあ。弾込めが終わった火縄銃を具現化して撃ったら消してまた具現化、みたいなことができりゃ連射できるんじゃないかって思ったんだがなあ」

 

「そもそも武器本体を消したり具現化したりを繰り返したらすぐに疲れてしまうと思うわよ?」

 

「なんだよ……武器の具現化ってMP(マジックポイント)制なのかよ……」

 

 なんとなく馴染みやすい世界観をしているくせに、そう都合よく無双はさせてくれないらしい。

 

「ライフル銃になればライフリング──弾道が安定する構造になるはずだから、武器がそこまで進化してくれるまで頑張って育てるしかないか……」 

 

 そこまで到達するのにどれぐらいの期間が必要なのだろうとうんざりする。

 いや、そもそもここからライフル銃とか自動小銃とかに進化するとも限らないか。

 同じ火縄銃でもサイズを大きくした大筒とか逆に小さくした短筒とかあった気がするし。

 どっかの時代劇で銃身を束ねて弾を一斉発射するとんちきな火縄銃を見たこともあったから、そういう方向に進化する可能性すらあるのだ。

 せめて火縄からは卒業したいのだが、真剣にアルトリウス様に祈っておくべきだろうか。

 いや、セーラが言うにはアルトリウス様は関係ないってことだし、意味はなさそうか……。

 あれこれと悩む俺の袖を、何者かがくいくいと引っ張る。

 隣を見下ろすと、セーラが目を輝かせてこちらを見上げていた。

 

「ねえねえ、ライフリングって?」

 

    *

 

 そこからしばらくは、出てくる魔獣をしばきたおしながら順調に森の中を進んでいった。

 相変わらず火縄銃の命中率はいまいちで、特にたぬきみたいな小型の魔獣相手になると三割ぐらいは狙った部位と別のところに当たり、もう三割は完全に外れてしまうような状況だ。

 魔法によって拘束したうえでこの程度の命中率であれば、動く的が相手になるとどこまでの精度で当てることができるのやら。

 セーラはセーラで俺からライフリングの理論を聞き出すと嬉々として実証実験をし始め、丸い氷をそのまま飛ばした場合と円錐の氷を螺旋回転させながら飛ばした場合との威力や弾道の安定具合を比較していた。

 小動物に向かって笑顔で氷の塊をぶつける少女という絵面はいかがなものかとも思ったが、動けない魔獣を銃撃している俺も人のことは言えないなと思いなおして気にしないことにする。

 森の奥へ奥へと分け入っていくと、出てくる魔獣の種類も違ったものになっていった。

 やたら角のデカい鹿が突っかかってきてセーラの氷にさくっと打ち倒されたり、やたらくちばしの鋭い鳥が木の上に留まっているのを火縄銃で狙撃して外してみたり。

 そんな獣っぽい魔獣のエリアの更に奥では二足歩行で犬顔な魔獣が茂みから飛び出してきた。まあこれも氷による拘束からの火縄銃のコンボで倒してしまったのだが。

 塵に還る犬顔を眺めながら、セーラが首を傾げる。

 

「変ねえ。コボルトが単独行動していて、それも人の前に飛び出してくるなんておかしいわ。コボルトって力がない代わりに頭の良い魔獣だからそんな無謀なことはしないはずなのだけれど」

 

「ああ、やっぱりコボルトだったのか今のやつ。まあ慎重な種族の中にも一体ぐらい無策で突っかかってくる跳ねっ返りがいたってことじゃないか?人間にだっているだろ、そういうやつ」

 

「確かに個体差で説明がつくといえばそうなのだけれど、それにしても違和感があるような気がするの。なんとなく焦っていたようにも見えたし」

 

「ふうん。何かから逃げでもしてたのかね」

 

 深く考えずに俺がそんなことを口にすると、コボルトが飛び出してきた茂みからがさがさと騒がしく音がし始めた。

 思わずセーラと顔を見合わせてから茂みの方を見ていると、のっそりと図体のデカい生物が現れた。

 

「なるほど。さっきのコボルトはこいつに追い掛け回されていたのね。アクシア君の予想は大当たりだったみたい」

 

「当たったところで別に嬉しかねえなあ……」

 

 呑気に頷いているセーラに答えた俺の言葉はちょっぴり震えていたかもしれない。

 茂みの向こうから出てきたのは一匹の熊だった。

 黒い毛並みのそいつは熊らしからぬ大きな牙を生やしていて、興奮しているのかふしゅるふしゅると荒い息を吐いている。

 たぬきだとか鹿だとかコボルトだとか、あまり脅威を感じさせない魔獣ばかりを的当て感覚で狩っていたところに露骨な脅威が現れて俺は顔を引き攣らせた。

 熊がいかに危険な生き物であるかは前世のニュースやネットでも嫌というほど耳にしていたが、実際に目の前にするとその威圧感に身が竦んでしまいそうになる。

 

「な、なあセーラ。一応確認するけど、こいつもさっきみたいに拘束できるんだよな?」

 俺は隣で平然としているセーラに半ば縋るような気持ちで問うた。

 

「ええ。これぐらいの魔獣ならわけないわ」

 至極あっさりとした答えに、俺はどっと息を吐いた。

 

「だ、だよな!いやあここにきて無理とか言われたらどうしようかと思ったわ!しっかし熊かあ……。流石に火縄銃じゃ一発とはいかんだろうなあ」

 

「このぐらいになるとベテラン冒険者でも簡単にはいかないわ。一撃で倒すなら首を刎ねるか魔法を使わないと」

 

 俺たちがその場で会話をしている間熊の魔獣はじっとこちらを観察していたが、やがて立ち上がると威嚇するように咆哮した。

 熊の魔獣がこちらに飛び掛かるを態勢とり、セーラが熊の魔獣を拘束すべく杖を掲げる。

 ひとりと一匹が同時に動こうとした刹那──。

 

「待て!」

 

 飛来した矢が熊の魔獣の身体に突き刺さると同時に、俺たちと熊の間に誰かが飛び込んできた。

 

「君たち、怪我はないか!?」

 

「は、はい……」

 

 飛び込んできたのはどうやら女性冒険者であるらしい。

 彼女が熊の魔獣に剣を向けながら問うてきたので俺は反射的に頷いた。

 

「よかった……君たちは下がっているんだ。こいつの相手は私たちがする」

 

 その人物の声に呼応するかのように道の向こうから三人の男女が駆け付けて来るのが見える。

 どうやら助太刀、ということらしい。

 

「あら、どうやら獲物を取られちゃったみたいね」

 

 セーラが小声でそんなことを言うので、俺は思わず苦笑する。

 

「向こうからすりゃあ小さな女の子と素人くさい男が魔獣に襲われているように見えたんだろうよ。まあ俺としちゃあ悪くない展開だ。普通の冒険者がどんな戦い方をするのか見ておきたいからな」

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