異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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カールお兄様は人間がお好き

 

 異世界転生した先で見つけた転生仲間が公女様だった件。

 

 ……いや、以前はどっかの部族の長だったみたいなことも言ってたし今さらの話ではあるんだけれども。

 

「どうやってこんなに早く私のことを見つけられたの?予想ではもうしばらく時間がかかると思っていたのだけれど」

 

「恩寵授与の儀式でカリスタ大司教と会っただろう?カリスタ大司教は儀式の後、スタッフォードで私と会見することになっていたんだよ。折良く部屋に飾ってあった肖像画を見て君のことに気がついてね。大司教もその場で気がついていればと悔やんでいた」

 

「ああ……そういえばカリスタ大司教様はお母様の──」

 

 しかし、問題とすべきは過去の長よりも今の公女様と公太子様だ。

 家出した公女とそれを迎えに来たと思しき公太子の会談という、どう考えても一平民がいても良いわけがないこの状況でどう立ち回るべきか。

 答えは決まっている。

 

「こ、公女様、公太子様とは知らず、とんだご無礼をしやしたあ!」

 

 俺は叫ぶと同時にその場から跳びすさると、身体を投げ出して這いつくばった。

 いわゆる土下座というやつである。

 先日まで一般農民でしかなかった俺は雲上人への礼儀作法など知るよしもないが、まさか土下座以上にへりくだった礼儀作法など存在するまい。

 額を床に擦りつけて許しを請ういながらも内心で不敵に笑う俺に、呆れたようなセーラの声が降りかかる。

 

「アクシア君、そういうの良いから」

 

「へい……しかし、王族の皆様に不敬を働くなどとんでもねえこってす」

 

 俺の返事を聞いてセーラはため息を吐き、カール殿下はさも愉快だと言わんばかりの笑い声を上げた。

 

「いやあ、なるほど。セーラが気に入って傍に置くわけだね。ここまで敬意なく打算にまみれた土下座は初めて見たよ」

 

 どうやらばればれらしい。

 流石は一国の公太子様というべきか、こちらの意図をしっかりと読み取ってきた。

 ちらりと顔を上げるとカール殿下は口元に手をあててくつくつと笑っているし、セーラは恥ずかしいモノを見るような目で俺のことを見下ろしていた。

 

「そんなことをしなくとも、妹の友人を不敬罪で罰することはしないし今後も君に危害を加えることはないよ」

 

 カール殿下はそんなことを言ってくれるが、それでも俺は土下座を止めない。

 

「へい。誠にありがてえことでございやすが、尊い方々の心は移ろいやすいものと聞きますので」

 

「貴様!殿下がお言葉を違えると言いたいのか!?」

 

 俺の言葉を聞いてカール殿下の背後にいた青年が思いの外甲高い怒声を上げると、手に槍を具現化させた。

 先端だけでなく刃が横にも付いている、所謂十文字槍というやつだ。

 俺を手打ちにしようとしてかこちらにむけて踏み出す青年だったが、それはカール殿下の腕に阻止された。

 

「かまわないよ、パロマ。私はアクシア君の不敬を咎めないし、君がセーラとの関わりで何らかの不利益を被ることがあれば、可能な限り君を守ると公太子カールトンの名で誓おう」

 

「殿下!?」

 

 パロマと呼ばれた青年は驚愕の表情を浮かべてカール殿下を見るが、正直なところ俺も同じぐらいには驚いている。

 確かにできることなら己の安全を確固たるものにしておきたい、という思惑を持って土下座を敢行した。

 俺は知らぬ事とはいえ公女様に不敬を働きまくった身の上だ。

 セーラ自身はともかく、セーラの身内や周囲の人間にそういったことやそもそもセーラの傍に平民がいることを不快に思う輩がいてもおかしくない。

 パロマなんて、俺のことを不愉快なモノを見る目で睨んでくるし。というか、こいつもカール殿下に負けず劣らずイケメンだな……。ちょっとこっちの方が線が細くて耽美な感じだけど。

 まあそれはともかく、だからこそせめて公太子から身の安全に関する言質を取っておこうと画策したのである。

 そんな俺の思惑を、カール殿下は軽く超えて俺を庇護することまで口にしてみせたのだ。

 

「……よろしいので?」

 

 俺の問いに、カール殿下は泰然とした笑みを浮かべたまま首肯する。

 

「もちろんだとも。このような身内の騒動に巻き込んでしまった被害者を害したとなれば、我が家は恥の上塗りというものだよ」

 

 俺にとってはありがたいことに、どうやらカール殿下は大変話のわかる方でいらっしゃるらしい。

 

「ありがとうございます」

 

 礼を述べながら身を起こす俺に、カール殿下はにこやかに言う。

 

「私としてもろくに教育も受けていないはずの農家の子息がどのようにして私から言質を得るような駆け引きを覚えたのか、実に興味深いよ。君がセーラの冒険者仲間でなければ是非とも手元で飼っておきたかったのだが」

 

「……」

 

 俺が無言でセーラに視線を向けると、セーラは可哀想なモノを見る目で見返してくる。

 

「カールお兄様は人材マニアの変態なの。ちょっと良いなと思った人材にはすぐに飛びつく節操なしだから、お兄様の前で面白いことをしちゃうとすぐに粉をかけてくるわよ」

 

「そういうのは早く言えや!」

 

 というかこの公太子、人のこと飼うとか言ったぞ!?

 

「おいおいセーラ。人聞きが悪いな。私は少しばかり人間に興味があって、人の経歴や心の奥底まで知り尽くさないと気が済まないだけさ」

 

「へ、変態だああああ!?」

 

 俺はにこやかに人をドン引きさせる台詞を吐く公太子に、思わず絶叫し恐怖した。

 何が恐ろしいって、俺の不敬にたいして公太子本人が笑みを深めていることもそうだが、先ほどは俺の言葉を咎めたはずのパロマがこれについては何も言わずに沈黙していることだ。

 流石に苦虫を噛みつぶした表情を浮かべてはいるが、部下が否定できない辺りがホントヤバい。

 

「……いや、考えてみりゃセーラの兄貴だもんな。これぐらいぶっ飛んだ人が出てくるのもむしろ自然か?」

 

「ちょっとアクシア君。私をこんなのと一緒にしないでくれる?」

 

 俺の言葉にセーラが抗議の声を上げる。

 自分の兄をこんなの呼ばわりするなよ。

 

「自分の欲望を優先させて家出したようなやつが言えることかよ。お前と公太子殿下はどう考えても似たもの同士だろうが」

 

 人材欲のカール殿下と知識欲のセーラにどんな違いがあるというのか。むしろ家出騒動を起こしているだけセーラのが悪いまである。

 

「ふむ。つまりセーラの家出にも相応の目的があるということだね」

 

 俺たちの会話を聞いて、カール殿下が得心したように頷いた。

 

「ええ。私は生涯をかけて知識を深めたい。そのためには結婚なんてしてる暇はないの」

 

「そ、そんなことのために……?」

 

 セーラの言い分に、パロマが信じられないようなものを見る目でセーラに視線を向ける。

 パロマの視線を受け止めて、セーラは微笑みを浮かべた。

 

「そんなことが、私にとってはなによりも優先されることなのよ」

 

「そのような我が儘が許されるとお思いですか!?セーラ様はこの国の公女殿下なのですよ!?」

 

 パロマは悲鳴を上げるように糾弾する。

 

「あなたの捜索のために多くの人員が駆り出され、あなたの不在のために隣国との婚姻同盟に支障をきたし、あなたの安否を憂いてどれほどの者が心痛めたか!それをあなたは──!」

 

「──なるほど。確かに君がいなくなることで心安らかになる者がいないわけではないね」

 

 そんなパロマの悲痛な追及が、カール殿下の言葉に断ち切られた。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するパロマとは違い、当のセーラは特に反応を示さなかった。

 まあ、否定しない時点でお察しということだろう。

 

「まさか!?セーラ様がいなくなったところでなんだというのです!?セーラ様も含めてすべての公位継承者の方は正妃であらせられるフォルトゥナ公妃の御子!それに公位継承者として担ぐならばパーラメント様やガラム殿下の方が継承権は上です!政争の種にすらならぬお方を、誰が厭うというのです!?」

 

 なるほど。

 確かに公位継承権の低い公女が邪魔になるなんてことはそうそう考えられないだろう。

 政略結婚の駒は多ければ多いほど良いものなのだから。

 であるならばどんな理由が考えられるだろうか。

 公爵の子はすべて母親が正妃様というから、側室やその背後にいる貴族との権力争いなんてのもなさそうだ。

 家族仲が悪いがとかそんな風にも見えないし、そういう要素があるのであればパロマがここまでの反応を示すこともないだろう。

 ううむ。他にもいくつかの可能性を脳内で検討してみたが、内情を知らない俺には正解を当てることは難しそうだ。

 そんな俺やパロマを置いてけぼりにしたまま、セーラとカール殿下の間で話が進んでいく。

 

「君の考えは理解したよ。個人的には応援したいとも思う。しかし私も父上から必ず連れ帰るようにと指示を受けていてね」

 

「残念だけれど、私にも予定があるの。今すぐと言われても困ってしまうわ」

 

「どんな約束かは知らないが、君が王宮に戻るつもりであればその約束は反故にしてもらうしかないね」

 

「当然戻るつもりはないわ。だから約束を反故にするつもりもない」

 

「知の探求が目的だというのならば、嫁ぎ先でも支障はないはずだよ」

 

「夫婦生活だ貴族の務めだなんてやっている時間も惜しいの」

 

 カール殿下の説得に対してセーラは首を縦に振るつもりはないらしい。

 まあこれは予想通りだ。

 後はセーラを連れ戻したいカール殿下と絶対に帰りたくないセーラの根比べが始まるのだろうと思っていたのだが。

 

「やれやれ……仕方がないな。あまり強引な手段を取りたくはないのだが……」

 

 埒があかないと考えてか、カール殿下がそんなつぶやいた。

 その言葉に呼応するように、十文字槍を携えたパロマが一歩前に出てくる。

 

「……まあ、結局そういう話になるわよね」

 

 セーラもため息をついて自分の杖を具現化させる。

 

「ちょっちょっちょっちょっ!」

 

 完全に臨戦態勢に入ったふたりに、俺は慌ててストップをかけた。

 

「セーラ!流石にやり合うのはいろいろと不味すぎるだろ!」

 

「そうは言っても、向こうがやる気なんだから仕方がないでしょう?別に殺すつもりはないわ」

 

 ああもう!殺す殺さないの問題じゃないんだよなあ!

 

「セーラ様、まさか先日恩寵を授けられたばかりのあなたが、私のことを簡単に制圧できるとお思いで?」

 

 セーラの言葉を挑発と受け取ってかすうっと目を細めるパロマ。正直恐い。

 

「あら、あなたを倒すことなんてアクシア君にだってできるわよ」

 

「無駄に煽ってんじゃねえよ!出来ないとは言わねえが、俺がやったら殺しちまうっての!」

 

「ほう……」

 

「ひえっ」

 

 俺の言葉にパルマは殺意を漲らせてもうこちらに飛びかからんばかりだった。

 射撃準備が整った状態でスタートという前提なら三割ぐらいの確率で射殺してしまう、ということを言いたかったのだが言葉が足りなかったらしい。

 

「お、落ち着け落ち着け!宿を壊してまでここでやる必要はねえって!話せばわかる!」

 

「話してわかり合えなかったからこうなってるんでしょう?」

 

「まぜっ返すな!別に一回ぐらい戻ってやりゃ良いじゃねえか!」

 

 俺の言葉に、殺伐とした場の空気が僅かに和らいだ。

 俺はなんとか場を鎮静化させようと言葉を続ける。

 

「セーラだっていろいろなところに迷惑かけてるのは間違いねえんだろ?お前を探すために必死に動いたやつらに免じて一回ぐらい戻ってやれよ。それできっちり家と話をつけるなり縁を切るなりして戻ってくりゃいいんだから。今のお前ならそれぐらいわけねえだろう?」

 

「むう……確かにそうだけれど」

 

「正気ですか?」

 

 俺とセーラの会話にパロマが呆れたように声を漏らす。

 言っておきながら俺には手段の見当もつかないが、セーラ本人ができるつもりでいる以上間違いなく実行できるだろう。

 まあそこまで説明してやる義理はないが。

 

「けれど、カプリお姉さんとの約束もあるし……」

 

「それも延期してもらえばいいだろ。それぐらいでとやかく言うほどカプリ姉の器は小さくねえよ」

 

「……」

 

「ちょっと里帰りしてすぐ帰ってくる。それだけなら大して手間も時間もかからねえって。なっ?」

 

「……しょうがないなあ。ちょっと行って帰ってくるぐらいならまあ、良いか」

 

 俺の必死の説得が功を奏し、セーラは頷いた。

 やれやれ、なんとか高いお宿が壊れて出禁になるような事態は避けられたか。

 今さら拠点にする宿のグレードを下げろと言われても俺の精神が耐えられないからな。頑張った甲斐があったぜ。

 

「それじゃあ私は一度公都に帰るけれど、アクシア君はどうするの?一緒にこっちにくる?」

 

「嫌です」

 

 俺はセーラの提案を即答で断った。

 針の筵になるのが目に見えているのにわざわざ好き好んでそんな所に行くものかよ。

 

「それは残念だね。君のおかげでセーラが大人しく帰ってくれるのだから、国賓待遇でもてなそうと思っていたのだが」

 

「遠慮します」

 

 カール殿下のお言葉を謝絶している俺に、セーラは心配そうに問うてくる。

 

「それじゃあアクシア君は居残りになるけど大丈夫?ひとりで無茶したりしない?」

 

「無茶なんてしねえよ。カプリ姉やキュベロのパーティーに混ぜてもらうなり都市内の仕事を体験するなりしておくよ」

 

 なんなら宿に引き篭もるのも悪くないし。

 

「本当かしら……あ、そうだ!」

 

 セーラが何かを思いついたように声を上げる。

 

「お兄様、公都に戻る前に一日だけ時間をもらって良いかしら」

 

「構わないが、何をするつもりだい?」

 

「アクシア君に護衛を見繕おうと思って」

 

 …‥護衛?

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