異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが? 作:萬屋久兵衛
カール殿下から猶予をもらったセーラは、翌日の朝になると俺を引き連れて隣国サンローランまで飛んだ。
文字通り、飛んだ。
セーラは俺諸共風の魔法で天高く飛び上がったかと思うと、雲を下に見る高さを飛行機よろしく高速で飛翔し始めたのである。
飛行機と違うのは、俺とセーラが生身ということだ。
俺たちは身体が凍り付いてもおかしくない高度を、台風なんて目じゃない風圧を受けながら飛んで行く。
そんな無茶苦茶な状況で無事に生きていられるのは、セーラが大気を魔法で操作して外気を完全遮断していたからだ。
感覚的にはセーラに手を引かれながらふわふわと空を浮かんでいるだけなのに、下を見れば雲とその切れ目から見える大地が面白い勢いで流れていくのである。
別にこれぐらいの速さは、それこそ前世で飛行機や新幹線に乗って経験したことがあったが、それだって生身ではなく鋼鉄の壁を隔てて高速で流れる景色をただ眺めていただけのことだ。
いくらセーラに安全を保障されようとも、未知の体験への潜在的な恐怖は消しようがない。
おかげで俺は飛翔している間中身体を強張らせ続けて、無事に目的地付近の森の中に着地した時には腰が抜けたようにへたり込んでしまった。
そんな俺の顔をセーラが覗き込んでくる。
「アクシア君、大丈夫?」
「……これが大丈夫なように見えるか?」
「全然」
あっさりとした返答が実に憎らしい。
とにかく俺がしばらくまともに立てそうもなかったので、その場で休憩することとなった。
俺は時間が空いたついでにセーラに質問を投げかける。
「それで、わざわざ隣の国まで飛んできて何が目的なんだよ」
「言ったでしょう?私が不在の間、私の代わりにアクシア君を守るための護衛を見繕うのよ」
「護衛を見繕うって……誰かあてでもいるのか?」
「ええ、とっておきのやつがね」
「へえ……」
よくわからないが、セーラの様子からしてその人物に余程自信があるらしい。
先日家出するまで箱入りお嬢様だったセーラに伝手があるとは思えないので、前世で出会った人物とかそういうことだろうか。
それ以上前の知人は生きていないか老いさらばえていることだろうし。
「まあ、セーラがそう言うんだったら間違いないか。……ああ、ところで」
「なあに?」
「国境とか普通に飛び越えてきたけど、大丈夫なんだよな?」
俺の問いに、セーラはにこりと笑って答えた。
「ええ。バレなきゃ大丈夫よ」
「……」
※
俺の足腰が回復してから、俺たちはセーラ案内の元徒歩で移動をし始める。
森から街道に出る時には巡回の兵士や冒険者に誰何されるのではないかとびくびくしていた俺だったが、特にそんなこともなく無事に街道に出ることが出来た。
緩やかな丘陵のような街道を進んで行くと、稜線の向こうからひょっこりと建物の頭らしきものが出現する。
その建物は丘を登っていくにつれて徐々に全容が見えてくるのだが、竹のように節くれ立った形をしている。
まるで土から伸びる竹の子を見ているような気持ちでその建物を眺めながら丘を登り切ると、そこから建物の全体像が一望できた。
「たっか……」
思わずそう漏らしてしまう程に屹立したそれは、この世界で見たどの建物よりも高層な建築物であった。
その無骨な威容を誇る塔の周りに、小屋やテントのようなものが点在しているのが見える。
ぱっと見町や集落のような感じではない。強いて言うのであれば、観光地の近くで出店している店とか屋台という感じだ。
かと言って、あの見るべき所のなさそうな素っ気ない塔が観光名所だとはとても思えないのだが……。
どんな施設なのか考えてもさっぱり判別できなかった俺は、諦めて案内人たるセーラに正解を聞くことにした。
「なあセーラ。ありゃあなんなんだ?」
「あれは墓所なのよ」
「墓所お?」
セーラの端的な答えに思わず素っ頓狂な声で聞き返す俺。
前世日本人な俺にとってお墓がある場所といえば寺や霊園がまず思い浮かぶ。
確かに共同墓地の中には屋内で遺骨を管理するようなものがあったと記憶しているが、つまりそれと同じようなものだろうか。
「ええ。あそこにはアルトリウス教のとある聖人が眠っていると言われているの」
「聖人って……あれか?アルトリウス教の説教によく出てきたりする……」
「そう。アルトリウス教が教義に基づき正義を行ったと認定した人物に与える称号よ」
聖人。
村にいた神父の爺さんが話す説教や昔話に頻繁に登場する、人民の守護者たち。
彼ら彼女らの事績はまさに奇跡としか言い様のないものが多く、山をくり抜いてトンネルを作り人々を安全地域に導いたとか、はるか昔に不死者の大群を率いて世界を滅ぼしかけた不死王ブラックモアをわずか四人で打ち倒したとか眉唾なものばかりだ。
魔獣が跋扈する世界に恩寵武器をもたらし人類に魔獣と戦う術を与えたというアルトリウス様の事績が可愛くみえる。
しかしなるほど。
聖人の眠る墓所ということなら観光地めいた周辺の様子も理解できるというものだ。
「それで、その護衛をお願いする相手ってのがここにいるのか?確かにやたら冒険者っぽいやつが多いみたいだが」
塔の周辺は遠目に見ても防具身につけた一団が多く目に付くし、考えてみればここに来るまでにすれ違う人々も冒険者らしき者が大半だった。
これだけ冒険者が集まるということは、この塔に眠る聖人とは冒険者に縁のある人物なのだろう。
それならば護衛のあてという人物もまた冒険者ということになるか。
そんな俺の問いをセーラは肯定した。
「ええ。お目当てのものはここにあるわ」
「ほおん、やっぱりか……ん?」
俺はセーラの言葉に納得しそうになったが、その言葉尻に引っかかりを覚えて首を傾げた。
「なあセーラ。ここに
「つまり、護衛役は生き物じゃないってことね」
これは流石に予想外だった。
護衛なんて言うからてっきり人を雇うのだとばかり思っていたのだが、そういうことではないらしい。
というか、人どころか生き物ですらないのかよ……。
「目的のものはこの地に眠る聖人が残したものなの」
セーラによると、この塔に眠る聖人は五十年ぐらい前にアルトリウス教会の聖騎士として名を馳せた女性であるらしい。
人呼んで聖騎士ヴァレリア。
彼女は国をひとつ滅ぼした強大な魔獣の討伐や、歴史書に名を残すものの長年場所が忘れ去られていた教会ゆかりのある
ヴァレリアは死の間際、自分の遺体を見つけた者に己が力を貸し与えるという謎の遺言を残し、魔獣が跋扈するこの塔に向かったのだとか。
その遺言を聞いた教会関係者や冒険者はこぞって塔の探索に詰めかけたが、未だに彼女の遺体を発見した者はいないのだという。
「へえ。つまり、今ここにいる冒険者たちは聖人の遺体を探してここに集まってるってことか。その聖人が言った力ってのはどういうことなんだろうな」
「私が前世で聞いた話によると、聖人の残した財宝だとか、生前使っていた防具だとか、聖人が幽霊になって力を貸してくれるだとかそんな風に言われているわ」
「たいして根拠のなさそうな眉唾な話ばかりだな。まあどれもありえそうではあるけどさ」
「他に手がかりがないんだから仕方がないのではないかしら」
「まあそうだけどさ。けど、そんななんなのかわからないものが本当に護衛の役立つのかよ」
「大丈夫よ。間違いなく役に立つわ」
「なんでそんなに自信を持って言えるよ?」
俺の疑問に、セーラはあっけらかんと答える。
「だって、自分が残した遺言の話ですもの。その内容については他の誰よりもちゃんと理解しているわ」
「ははあ。そりゃあそうだわな。自分が言ったことなら自分が一番よく知っていて当然……って」
俺は途中まで話してから、セーラの言葉の意味に気がついて彼女に視線を向ける。
そんな俺に向けて、セーラはにこりと笑みを浮かべた。
「それは当然、私が聖騎士ヴァレリアだったってこと」
それじゃあ……さっきまでの伝聞口調の説明はなんだったんだよ!