異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが? 作:萬屋久兵衛
目的地である塔はレイノルズの塔と言う。
この塔はこの地をサンローランが統治する前の国の王が当時の著名な建築家だったレイノルズに命じて建てさせたものだ。
建築家レイノルズが建てた塔だからレイノルズの塔。あまりにも安直なネーミングである。
王はレイノルズに王家の威信が高まるような建物を作れというなんともふわっとした注文を付けた。
そのうえ指定された土地も実に小さなもので、予算は威信をかけるにしてはいまいちな額だったのでレイノルズは大いに頭を悩ませた。
壮大さを現すために空間を贅沢に使うことは限られた敷地では不可能で、建物を華美な装飾で飾り付けたり造りに工夫を凝らすには金がかかりすぎる。
そんな無理難題を、レイノルズは見事に解決してみせた。
土地の狭さは建物を横に広げるのではなく縦に積み上げることで解決した。
構造物を空に伸ばしていくために建材は頑健であることが優先され、余計な装飾を廃することで予算の足りなさをカバーした。
後はレイノルズの持つ類まれな建築技術と彼が抱える土木技術に精通した土魔法使いの集団のマンパワーによって、天を仰ぎ見るほどの長大な塔は完成した。魔法の力ってすげえ。
時の王はレイノルズの建てた塔があまりにも無骨で面白みのない造りだったので、自分が予算等をケチったことを棚に上げて不満を漏らしたという。
レイノルズはそんな王の巫山戯た発言にぶち切れることなく、王の前に跪くとこう伝えた。
確かにこの塔は華美さや荘厳さとは無縁でございます。
しかしこの塔は遠くからでも視界に収めることができますので、多くの人々が王の建てた塔を見ながら暮らすことになるでしょう。
そして、この塔を下から見た者は文字通り天を見上げることになります。
逆に申し上げれば、塔の最上階からはそんな人々を見下ろすことができるのです。
最上階に立った人物は、人々が遙かな下界から自分を仰ぎみているように感じられることでしょうなあ。
レイノルズの話を聞いた王は大喜びしてレイノルズを褒めそやした。別に追加の褒美とかは出さなかったらしい。
王は塔の最上階で下界の人々を見下ろし悦に浸っていたが、余程塔からの景色が気に入ったのか徐々に塔から降りてくる頻度が少なくなり、やがて政務も放り出してまったく塔から降りなくなってしまった。
そして無事に政変を起こされた挙げ句、塔に殺到した兵士たちに塔の最上階から投げ落とされておっ死んだのである。
かくして王の国はサンローランに取って代わられた。
レイノルズの建てた塔は悪しき権威の象徴として取り壊されることになっていたが、政変のごたごたで放置している間にいつの間にやら
「──そういうわけだからサンローランとしてはなんとしてもこの塔をつぶしたくて、塔から魔獣を駆逐した者に莫大な賞金を出すとしているわ。ただ、塔に棲む魔獣たちは強力だし階段を登ったり降りたりが思いの外体力を消耗するのもあって冒険者たちからは倦厭されていたの」
セーラのレイノルズの塔に対する一通りの説明を聞いて、俺は感心して頷いた。
「へえ。こんな観光地にもならなそうな塔にそんな謂れがあるとはな。で、そこに聖騎士ヴァレリアの話が出てくる訳か」
「その通り。
なるほど、それは実に夢のある話だ。今向かっている塔が賑わうのも理解できる。
「しっかし、なんで急に塔に魔獣が現れるようになったんだ?というか、そもそも魔獣ってどうやって生まれてくるんだ?」
棲み処から弾き出された魔獣が他所からやって来たのであれば、塔に居着く前に近くの街や都市で誰かしらが移動中の魔獣を目撃しているだろう。
「実は、魔獣がどうやって生まれてくるのかは良くわかっていないの。基本的には人里から離れた場所を棲み処にしているし、倒すと直ぐに塵に還ってしまうから生態系に関してはさっぱり。レイノルズの塔みたいな人里近くの建造物や洞窟に突然まとまって現れることもあるし、レイノルズの塔に棲む魔獣の数が減ったなんて話も聞かないわ」
「ふうん。そうすると、その場で自然発生的に生まれてきているとかそんな感じなのかね」
「それが一番可能性としてはあり得るわね。もしくはどこか別の場所から転移してきているか……」
「空間転移的なやつか?そんな無法がそんな雑にまかり通るのかよこの世界は」
「確かに強力な魔獣ならそういうことができる可能性もあるけれど……。そんな魔獣がたくさん塔の中に詰まっているのなら、サンローランはとっくに滅びているわ」
なあにそれだとか、そんなことできないとか言わないあたり、空間転移的なやつが無いではないらしい。
そんなことしてくる魔獣と出くわすことがないことを切実に願うが……。
「わかっていることは、ダンジョンと化してしまった場所は最奥まで制圧されてしまえば魔獣が出現しなくなるということね。だから、制圧した塔を壊してしまえば魔獣は出現しなくなるはずなのだけれど……」
「現在までこのダンジョンが攻略されることはなかったと。そんなやべえ塔を攻略しなきゃならんとか、めちゃくちゃ気が重いんだが……」
ヴァレリアがこの塔に入ってからどれほどの年月が経ったかは知らないが、少なくともウン十年もの間冒険者が詰めかけながら見つからなかったのだ。
ちょっとそこまで入っていって取ってくるような気軽さではいられないだろう。
恐らくヴァレリアの遺体と財宝があるのは塔の最上階。
俺の絶妙に残念な恩寵武器ではその辺のたぬき相手には必殺になり得ても、強力な魔獣にはおそらく傷ひとつつけられないだろう。
そうなるとセーラのチートパワーが生命線なのであるが、セーラ本人はともかく金魚の糞な俺が戦闘の余波で雑に死ねる可能性が高かった。
そんな危険地帯に向かうのは御免被るので、俺は逃げを打つことにした。
「セーラ、考えてみると俺がいたら戦闘の邪魔になりそうだし外で留守番してるわ!いやあ塔の中に入ってみたかったけどなー俺もなー!ちょっと足手まといになりそうだからなー仕方ないな-!」
いかにも口惜しいと言わんばかりに主張する俺に、セーラは呆れたような視線を向けた。
「びっくりするぐらいに見え透いた言い訳ね……。安全なルートしか通らないから留守番なんてする必要ないわ」
「俺のいた世界では絶対安全とかこの時期までには終わるなんて話は死亡フラグ──良くないことが起こる前口上とされていてな」
「もう!その死亡なんとかみたいなことは絶対にないから!いいからさっさと動いて!」
「いやいやいやいや」
乗り気じゃない俺に業を煮やしたらしいセーラは、俺の背後に回るとぐいぐいと俺の腰を押し始めた。
なんとか抵抗しようと足でブレーキをかければ、非力な美少女であるセーラにはどうしようもなく……俺の反抗に気がついたセーラは俺の腰を的確にド突き始めた。
少女の手とは思えない衝撃に押されて俺の身体は跳ね飛ばされるように前へ進んだ。
「うおっ!?おいおいそんなに強く押すな……っていうか滅茶苦茶痛え!」
腰を支点に身体がくの字に折れ曲がりそうな衝撃の連続に俺はたまらず悲鳴を上げる。
この前しばかれた時といい今回といい、あの小さな身体でどんな技を使ったらこんな痛いことができるというのか。
「わかったわかった!行くよ!行けばいいんだろ!」
どかんどかんと突いてくるセーラに俺は音を上げた。
「まったくもう!危険なことは無いって言っているのに……」
ぷりぷりと怒るセーラに、俺は腰の無事を確認しつつ言い訳をする。
「そんなこと言ったってさあ。いくらセーラが強くても魔獣の棲み処に侵入するのに危険がゼロってことはありえないだろ。俺は塔に入らないことで危険を完全なゼロにしようとしてだな……」
そんな俺に、セーラはため息と共に言った。
「そもそも魔獣と出くわす可能性がゼロなのよ。あの塔には向かうけれど魔獣のいるエリアには一切入らないから」
「……へ?」