異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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サンローランの聖騎士 3

 

 セーラは塔へ続く街道を逸れると、塔の近くにある雑木林の方に入っていった。

 林の中になにかがあるのかと思っていたのだが特にそんなこともなく、ただひたすらに木々の間を縫うようにして歩いて行く。

 

「……なあ。塔に向かうんじゃないのか?」

 

「向かってるわよ。こっちに道があるってだけ」

 

 俺は草が生い茂り歩きにくい地面に辟易としてセーラに問うが、彼女はそんなことを言うばかりだ。

 塔に向かうのになんでこんな所をと訝しんでいると、セーラが立ち止まった。

 周囲を見渡してもそこかしこに木が林立しているだけで、今まで歩いてきたところとなんら変わりは無い。

 

「これが道よ」

 

 そんなことを言ってセーラは目の前にある木を叩いた。

 

「道い?これが?」

 

 何を言っているのかと首を傾げた俺だったが、そこでセーラの言わんとしていることに気がついた。

 

「……まさか、抜け道か?」

 

「その通り!この林の中には色々な種類の木があるけれど、コイーバの木はこれしかないのよ」

 

「言われてみれば確かに……いや、まったくわからん」

 

 目の前の木がなんとなく普通より橙っぽい色味をしているなあと思いはするが、他の木と見比べて見分けがつくかと言われるとさっぱりだった。

 周囲の木と目の前の木を見比べる俺をよそに、セーラは木の根元にしゃがみ込むとごそごそとなにかをし始める。

 しばらくすると、木の根元の間に人がひとり通れるぐらいの穴が開いた。

 穴の先は階段になっている。

 階段の先に広がる暗闇に吸い込まれるような錯覚を覚えて俺は生唾を呑み込んだ。

 

「それじゃあ行きましょう」

 

 セーラはそんな俺のことなどお構いなしに杖を具現化すると、杖先に魔法の光を灯してさっさと階段を降り始めた。

 

「ちょっ待てよ!」

 

 俺はセーラに置いて行かれないように慌てて彼女を追いかけると、仄暗い穴の底に降りていく。

 魔法の光に照らされた地下は石造りで、カビ臭さと埃に満ちていた。

 

「うへえ……」

 

 俺が思わずうんざりとした声を漏らすと、唐突に風が吹いて嫌な臭いがどこかへ行ってしまった。

 どうやらセーラが風の魔法で空調を利かせてくれたらしい。風魔法ってマジで便利だな……。

 こりゃあ魔法使いが重宝される訳だ。戦って良し、生活の補助に使って良しなのだから。まあ、セーラ以外の魔法使いがこうも巧みに魔法を使うことができるのかどうかはわからないのだけれども。

 長い階段を降りきると、平坦な通路が続いていた。

 通路を歩きながら俺はセーラに質問する。

 

「なあ、この通路は塔に続いているってことでいいんだよな?」

 

「ええ、そうよ。このまま進むと塔の地下一階に続いているわ」

 

「まあそりゃあそうだろうな。俺の予測だと、この通路は塔から外への脱出口だと思うんだが」

 

 何しろ入口とは別にわざわざあんな人目につかない場所に、ひと目じゃわからないように出入り口が作られているのだ。

 普通に考えれば用途は緊急用の脱出口と考えるのが自然と思われた。

 

「けど、この塔を建てさせた王様は政変でこの塔から投げ落とされたって言ってただろ?王様はなんでこの道を使って逃げなかったのかね」

 

 首を捻る俺に、セーラは応えた。

 

「ええ。確かにここは非常時の脱出口として作られた通路よ。けれど、王様がここを使わなかったことにはちゃんとした理由があるの」

 

「へえ。この通路まで逃げてくる時間もなかったとか?」

 

「いいえ。王様が予算をケチったせいで地下から一階へ上がる階段が作られなかったからよ。つまり、塔の中からこの通路に出るためのルートは存在しないの」

 

「ええ……。いやいや、ここまで作っておいて?そんなことあるかよ」

 

 どんな判断だと困惑する俺に、セーラが笑って理由を話してくれた。

 

「元々地下と脱出口は設計に入っていなかったのだけれど、王様の思い付きで急遽作られたのだそうよ。その時は当然地下階へとつながる階段も作られていたわ。問題はその後。地下も含めて塔が完成してレイノルズが地下階の追加工事費を請求したら、王様が費用の支払いをしてくれなかったみたいで……」

 

「えええ……」

 

「それでレイノルズが怒ってしまって。王様に黙って地下への階段を埋めてしまったらしいの。それに気が付かなかった王様は、政変の時に逃げられなくなってしまって」

 

「えええええ!?」

 

 そういうことかよ!?

 いや、そりゃあ金払わなかった王様が悪いけど、そんなネットでよく見るざまあ案件みたいなことあるのかよ……。

 

「これはレイノルズ本人から聞いた話だから間違いないわ。私がここを知っているのも、彼から直接聞いたからなわけだし」

 

 他の人間が同じことを言ったのならただの与太話であるが、転生を繰り返すセーラが言うのであれば間違いはあるまい。

 

「やべえなレイノルズ……いや、金払わない王様が一番悪いし自業自得なのはわかっているんだが」

 

「本人は王様の末路を聞いて酒場で祝杯を挙げていたわ」

 

 やっぱりやべえなレイノルズ。気持ちはわかるけど。

 

「そういうわけで、この先はレイノルズの塔の地下につながっているけれど地下と地上はつながっていないの。だからいくら地上を探してもヴァレリアの遺体は見つからないってわけね」

 

「ひでえなおい。上で頑張ってる冒険者たちは頑張り損かよ」

 

「塔を攻略すればサンローランから報奨金も出るのだし、損することはないわよ。ただ彼らが思っていた程の褒美は受け取れないってだけ。それに、遺体を見つけられないのは彼ら自身の責任よ」

 

 そりゃあその通りなんだが、遺体は塔にありますなんて宣言しておいて塔の部分にないのはちょっと詐欺っぽいような……。

 

「そんなことより、そろそろ到着よ」

 

 セーラが言葉と共に杖の先を通路の向こう側に向ける。

 灯りが照らす先にはただ通路が続いているだけだ。

 強いて言えば視界にうっすらと(もや)がかかって、地面や壁に何かが付着しているのだが……あれは──。

 

「──氷?」

 

 氷は壁に点々とくっ付いているぐらいだったのが、通路を進んでいくにつれてどんどん面積を広げていきやがて通路のすべての壁をびっしりと覆っていった。

 

「な、なんだこりゃ……」

 

 俺は思わず声を漏らす。

 この辺りは気候も穏やかな地域だし、季節的にはそろそろ暖かくなってくるぐらいの時期だ。

 いくら陽の当たらない地下といえども、通路が凍り付くことなど余程の寒さでなければあり得ないだろう。

 驚く俺にセーラが説明する。

 

「私の魔法よ。人と魔獣避けも兼ねていて、この先には普通の方法では誰も近づくことができないわ」

 

「いやあまさか……」

 

 確かにぱっと見めちゃくちゃ寒そうな環境ではあるが、誰も近づくことができないは言い過ぎだろう。

 それなら今ここにいる俺たちはどうしてこうして立っていられるというのか。

 俺が自分の言葉を信じていないのに気がついてか、セーラは魔法で拳大の水球を生成すると通路の向こうに打ち出した。

 打ち出された水球はしばらく真っ直ぐ突き進んでいったが、急に勢いを無くして地面に落下した。

 そのままはじけて水たまりに……なることもなく、球を保ったまま地面に転がる。

 よくよく見てみると、水球はいつの間にか氷の球になっていた。

 

「……」

 

 ……これは動画で見たことあるやつだ。

 北国のめちゃくちゃ寒い地域で、コップに入った水やお湯を宙に放ると地面に落ちる前に凍ってしまうというとんでも現象。

 しかも水の塊があんなにガチガチに凍ってしまうのであれば、周囲の気温は氷点下何十度とかそういうレベルではなかろうか。

 それじゃあなんで俺たちは無事で寒さを感じないのかと今さら疑問が湧いて出てきたが、すぐにセーラが風の魔法で空調を利かせていたのを思い出した。

 今セーラの魔法の制御下から出てしまったら、動画で見た外国の人たちのように睫毛からなにまで凍り付いてしまうのだろう。

 なるほど。そんな環境下で冒険者がまともに活動できるとも思えないし、魔獣とて寒さに強い耐性を持つ種でもない限り棲息できまい。

 同時に、うっかりセーラが魔法の制御を誤って空調を解除してしまったら、外套を羽織るぐらいの防寒対策しか取っていない俺たちはたちまち凍え死ぬだろう。

 身を切るような寒さと凍傷でぼろぼろになりながら、最後には眠るようにして死ぬ自分を想像して顔を引き攣らせる。

 セーラがそんな俺の様子など気にも留めずに氷の道を進み始めたので、仕方なく後を追う。

 凍りついた道で何度も滑って転びそうになりながら地下道を歩く。

 このままだと目的地に辿り着く前に、転んだ拍子に氷に頭をぶつけて死ぬんじゃないかと危惧し始めた辺りで通路の終点に辿り着いた。

 目の前に立ちはだかる氷の壁の中には、いかにも経費をケチりましたと言わんばかりの粗雑な木製の扉がうっすらと見える。

 氷の壁はちょっとやそっとの力では壊れなさそうだし、派手に壊そうとすると通路ごと破壊してしまいそうな気がする。

 そうなると火の魔法とかで溶かしていくのがベターなのだろうが……この分厚いやつ、溶かせるのか?

 

「なあセーラ、これはどうやって──」

 

「えいっ」

 

 俺が尋ねるよりも先に、セーラは杖の先端で氷を叩いた。

 どういう理屈か氷壁にひびが入り、そして音を立てて崩れ去った。

 そしてセーラが炎の魔法で火炎放射よろしく辺りを炙ると、氷はほとんど溶けてしまう。

 後に残るのはちょっぴり氷がこびりついた扉とびしゃびしゃになった通路だけだった。

 

「……」

 

「どうしたの?早く行きましょう?」

 

 平然としているセーラに俺は何気なく質問する。

 

「なあ、今氷の壁が崩れたのはどうやったんだ?」

 

「知りたい?今この場にある氷は自然現象的に発生したものではなくヴァレリア──というか私の魔力によって召喚、構成された氷なの。それ故に氷に残留した私の魔力によって氷が維持され続けていたわけだけれど、それはつまり氷の組成に私の魔力が含有されているということ。他人の魔力に干渉することは難しいけれど、自分の魔力であれば干渉は容易いから。あ、けれど別に他人の魔力はどうにもならないってことはなくて、魔力が形成する属性や強度によって魔力を打ち消すことも──」

 

「ああもういい!だいたいわかったから!」

 

 唐突に立て板に水を流すような勢いで語り始めるセーラを、俺は慌てて制止した。

 こいつ……!油断するとすぐにこれだ!

 セーラの厄介なところは知識を貪欲に収集するだけでなく、際限なく垂れ流したがるタイプのオタクなことだ。

 せめて時と場合を考えて……いや、時と場合を考えたとしても嫌だな……。

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