異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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都市ロザーヌとアルトリウス教会

 

 我が今生の故国であるモーリス公国の都市ロザーヌは、この地方で一番大きな教会が存在している。()()、冒険者ギルドの支部もこのロザーヌに存在しているのだ。

 それが何故かといえば、冒険者や冒険者ギルドを運営する者たちにとって必須と言っても良い利権を教会がおさえてしまっているからだ。

 冒険者たちに『恩寵』を与える権利を。

 

 

 冒険者送りにされた俺たちに冒険者志望の家出娘を加えた一団は、昼過ぎにはロザーヌに到着した。

 都市の入口で不審なお嬢様が衛兵に見咎められ、その衛兵がお嬢様から怪しい皮袋を受け取った結果前後の記憶を失うという悲しい事件があったような気がするが俺たちはなにも見なかった。

 

「ふわあ……」

 

 正門から都市に入るとキュベロが思わずといった風に声を上げたのだが、その声があまりにも図体のでかさに似つかわしくなくて俺は思わず吹き出した。

 

「キュベロお前、変な声だすなよ」

 

「だってようアクシア。おらあこんなにたくさんの人見たことねえよ。それに、背の高い建物がこんなに」

 

 ふむ、とあらためて街を見回すと確かに暮らしていた村やここまでに通ってきた街に比べて格段に人が多い。

 キュベロほど大袈裟ではないが、馬車に乗ってきた面々はきょろきょろとあちこちに視線を向けていて落ち着かなそうにしている者が多い。

 道中でセーラが教えてくれたことであるが、ロザーヌはこの地方の交通の要衝かつ中心地であり公国で最も商業の発達した都市ということだ。

 西の公都スタッフォード、東の商都ロザーヌなんて扱いであるらしいから、日本でいうところの大阪ぐらいの位置付けなのだろう。

 つまり俺たちはど田舎から集団で上京してきて初めての都会に圧倒されるお上りさんみたいな感じか。

 

「まあ、確かにすごい人通りだわな」

 

 だから俺はキュベロの言葉を肯定したのだが、隣に立つセーラに興味なさげな態度を見咎められてしまった。

 

「あら、その割にはアクシア君はあんまり驚いていなさそうね」

 

 別にロザーヌの人の集まり具合がすごくないとは言っていない。

 転生してからというもの人口ウン十人かそこらの農村でしか生きてこなかったので、これほどの人通りを見たのはこの世界に生を受けてから初めてのことだ。

 ただ、前世でこれよりも酷い通勤ラッシュ(人混み)を嫌と言うほど見てきたので今さら驚くほどのことではないというだけのことで。

 まあそんな話をしても頭がおかしくなったとしか思われないだろうし、俺は適当に誤魔化すことにする。

 

「いや?ちゃんと驚いてるよ。ただキュベロの反応を見てたらそれが引っ込んじまったってだけで」

 

「ふうん」

 

 もともと大した疑問でもなかったのだろう。

 セーラは俺の言い訳に対し、特に追及してくるようなことはしなかった。

 

「ほれ、さっさと教会に向かうぞ。通りを真っ直ぐ進むだけだから問題ないと思うが、誰かがはぐれて道に迷っても探してやらないからな」

 

 御者代表の号令を聞いて皆は慌てて集合して移動し始める。

 よほどはぐれたくないのか皆周りに引っ付くようにしており、女子の中には手をつないで離ればなれにならないようにしている者たちもいてほっこりする。

 俺はそんな初々しい集団を最後尾で眺めながら歩く。

 学校の集団行動よろしくぞろぞろと大通りを進んでいくと、正面に遠目に見てもわかるでかい建物が見えてきた。

 

「おお……!」

 

 その建造物は誰かが驚嘆のため息を漏らすほどに優美かつ荘厳で、とてつもなく金がかかっていそうな建物だった。

 あれが目的地であるアルトリウス教会。うちの農村にあった小さな教会とはまったく似ても似つかない。

 一団が教会の前に辿り着くと、正面口の前で古代ローマのトーガみたいでやたらと装飾過多な衣装を着た老婆が背後に似たような衣装の者たちを従えるようにして俺たちを出迎えた。

 

「ようこそ救世主の庭へ。私はアルトリウス教の東モーリスを管轄する大司教を努めております、カリスタです。我々は公国のため矛となることを志すあなた方の勇気と献身に敬意を表します」

 

 そう言って手を胸にあてて敬礼すると、後方に居並ぶ司祭たちも一斉に同様の仕草をした。

 大司教とかいう大物が示した自分たちへの態度に、冒険者のたまごたちはどよめいた。

 アルトリウス教はこの世界で一番、というかおそらく唯一といってもいい宗教だ。

 俺たちの村にあった教会でも司祭の爺さんが村人達に説教をしていたのだが、村の中でもけっこうな権力を持っていたように思う。

 実際俺も両親からは司祭の爺さんを敬えと口を酸っぱくして言われていたし。

 そんな風に国の末端まで浸透している宗教の、見るからに偉そうな人たちに一般庶民がやたら持ち上げるような態度と供に出迎えられたらどうなるか。

 普通に生きていれば言葉を交わすことすらできないであろう相手にのまれてしまっていた一団は、御者から教会に引き渡されてカリスタ大司教によって教会の中に(いざな)われる。

 大きなステンドグラスやら高そうな絵画やらが並ぶ廊下を進む中で多少落ち着いて冷静になった少年少女たちは、先ほど聞いたカリスタ大司教の言葉の意味を考えるだろう。

 

「家でも穀潰し扱いだった俺に大司教様があんなに期待をかけてくれるなんて……!」

 

「冒険者なんてろくな仕事じゃないって聞いてたけど、教会が支援してくれるならなんとかなるんじゃないか?」

 

「考えてみりゃ冒険者の仕事も国を守るために必要な仕事なんだよな」

 

 教会のもてなしを好意的に解釈した彼らからはそんな言葉が持て聞こえてくる。

俺たちは祭壇の上にやたら大きくてうっすらと紫色の光を発する結晶の鎮座する部屋に案内された。

 結晶の前に立ったカリスタ大司教は集団に向かって朗々と語りかける。

 

「ここにあるのはあなた方に恐ろしい魔獣と戦う力を授けるための秘蹟。この魔結晶の前に立ち救世主に祈りを捧げることで救世主から恩寵を賜ることができるのです」

 

「ああ……!」

 

「救世主様!」

 

「ありがてえ……ありがてえ……」

 

 冒険者となる少年少女たちは、文字通り神を仰ぎ見るかのような有り様でカリスタ大司教と結晶を見ている。

 それを見てカリスタ大司教は機嫌良く講釈し始める。

 

「そもそもこの儀式は救世主アルトリウス様が──」

「まったく、儀式ってのも馬鹿にできないよな」

 

 そんな光景を眺めながら思わず俺の口からこぼれた言葉に、何故かキュベロの後ろに隠れるようにしていたセーラが反応した。

 

「アクシア君はお気に召さなかった?」

 

 聞かれたくないところにばかり目敏いお子様である。

 あまり話を広げない方が良いかとも思ったが、俺はセーラの問いに答えることにした。

 

「別にそんなことねえよ。恩寵とやらをもらえるのはありがたいと思ってるさ。ただ、教会の権威付けやらなんやらに付き合わされるのが面倒くさいってだけで」

 

「け、けんい……?」

 

 一緒に聞いていたキュベロはあんまり俺の言葉の意味がわかっていなさそうだが、セーラには通じたようでくすくすと笑っている。

 

「アクシア君たら怖いことを言うのね。司祭様たちに聞かれたら大変よ?」

 

「みんな儀式に集中しているし誰も聞いちゃいないって。それに、セーラだってこれがそういうものだってのは理解しているんだろう?」

 

「ええ、そうね。まったく嘆かわしい話だわ。こんなくだらない政治のためにとっておきの儀式が使われるなんて」

 

「……ん?」

 

「な、なあ。つまり、どういうことなんだあ?」

 

 ため息を吐くセーラと、彼女の口ぶりに引っかかりを覚えて首を傾げる俺にキュベロがおずおずと問うてきた。

 ちょっと会話が婉曲的だったこともあってか理解できなかったようだ。

 

「つまり、教会はこうやって大袈裟に儀式をして冒険者を支援しているようにみせることで、俺たち冒険者たちが教会に感謝して支持するように仕向けているってことだよ」

 

「う、ううん……?」

 

 わかりやすく説明してやったつもりなのだが、根が単純なキュベロにはそれでも難しいようで首を捻るばかりである。

 俺がどう説明したものかと考えていると、セーラが横から口を挟む。

 

「そうねえ。キュベロ君はこの儀式を見てどう思った?」

 

「ど、どうって……よくわかんねえけど、あの人はすんごい偉い人なんだろお?そんな人がおらあたちを助けてくれるんだから、ありがてえ話だと思うけんども」

 

「そうよね。それじゃあキュベロ君、これはもしもの話なのだけれど。あなたはこの後教会の助けを借りて恩寵を授けられて冒険者になるでしょう?」

 

「う、うん……」

 

「もしもキュベロ君が冒険者として大活躍してたくさんお金を稼いだとして、教会が喜捨を募っているのを聞いたらどうする?」

 

「え、ええとお……」

 

 図体のでデカいキュベロがちっちゃなセーラと会話するために背を丸めるながら、考えを巡らせている。

 

「おらあがそんな風になれるかはわかんねえけどよお……お金をたくさん持ってたらたぶん、喜捨をするんじゃねえかなあ。教会にはこうして助けてもらってるんだし」

 

「うんうん。キュベロ君がけちでもない限りそうするわよね。けれど、もし恩寵を授けてくれるのが教会じゃなくて冒険者ギルドだったりしたら、同じように教会に喜捨をしようと思うかしら?」

 

 キュベロはそのセーラの問いにまたちょっと考えた後、おずおずと答える。

 

「……たぶんしないか、ちょっとだけしか喜捨しないんじゃねえかなあ。おらあたちを助けてくれるのは教会じゃなくて冒険者ギルドなんだろお?」

 

「まあ、あくまでも仮の話だけれどね。つまり、キュベロ君は教会がこうしてキュベロ君を助けてくれるから喜捨をしても良いかと思うぐらい教会に感謝するのであって、そうでもないと喜捨をしてくれないってこと」

 

「べ、別におらあ教会に喜捨をしねえってわけじゃあ……!」

 

 セーラの結論にキュベロが焦った様子で反論しようとするのを、俺は押しとどめた。

 

「まあ落ち着けよ。別にお前が不信心なんて誰も思っちゃいないさ。要は、教会はこういう儀式で冒険者を助けますよってアピールすることで、冒険者たちに感謝されたりちょっと喜捨をしても良いかなって思ってもらいたいってことが言いたいだけだ」

 

「そうそう。それに大司教様なんて偉い人がわざわざ出てきてくれたら、もっと感謝したくなるでしょう?」

 

 俺とセーラの言葉にキュベロはなるほどお、と何度も頷き、そして視線を未だ演説を続けているカリスタ大司教様に向けた。

 

「それじゃあ……あの人はおらあたちからお金を集めるためにわざわざ出てきたってことなんだなあ」

 

「ぶふっ……!」

 

 キュベロの物言いに、俺は思わず吹き出しそうになった。

 

「た、確かにその通りだな……世界的宗教の大司教様が俺たちから小銭を引っ張るためにああして頑張ってるわけか」

 

「もちろんそれだけじゃないわよ。喜捨だけじゃなくて冒険者たちの信心も得られるし、教会が困っているときに有力な冒険者が助けてくれるかもしれないもの」

 

 そう言いながらもセーラの表情には深い笑みが湛えられていた。当のキュベロは俺たちが笑いをこらえる様を不思議そうに見ていたが。

 

 

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