異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが? 作:萬屋久兵衛
「──さて、それでは儀式を執り行いましょう。ひとりずつ魔結晶の前に」
「お、ようやく始まったか」
ちょうど演説が終わったらしくカリスタ大司教様は壇上から降りて横に捌けていった。
列を成す少年少女たちの最後尾にくっついて、儀式の様子を眺める。
魔結晶とかいうデカい結晶が壇上の台座に鎮座しているので苦もなく状況を確認できた。
様子を観察していると、ひとりの少年が進み出て壇上に登り始める。
少年の真後ろにいる関係上その表情こそ見えないが、動きがどことなくぎこちなくて少年が緊張しているのが手に取るようにわかった。
「では、魔結晶に手をかざして」
少年は魔結晶の前に立つと、魔結晶の隣で待機している司祭に促されて手を伸ばす。
途中一瞬だけ躊躇した少年だが、意を決したように手を魔結晶に近づけるとうっすらと発光していた魔結晶の輝きが増したように見えた。
「後はただ、アルトリウス様に力を授けてくださるよう祈り続けるんだ。そうすればアルトリウス様が君の信心に応えて恩寵を授けてくださる」
少年は手をかざしたままわずかに俯くようにしている。司祭の言うとおり、熱心に祈りを捧げているのだろう。
しばらくそのままの状況が続いたがやがて魔結晶の輝きが強くなり、次第にその輝きが魔結晶本体から少年のかざした手に集まっていくような錯覚を覚える。
……いや。これは錯覚でもなんでもなく、事実紫色の光が少年の手元で強く輝いていた。
その紫光はやがて像を造り実態を形成していく。
そして、光が収まる頃には少年の手に一本の剣が握られていた。
それを見て列に並ぶ少年少女たちがどよめく。
遠目に見ただけではあるが、剣には特に装飾らしい装飾もない。よく言えば実践向けの剣、悪く言えばただの数打ちといった印象の剣だった。
そんな剣が唐突に少年の手に現れている時点でとんでもない代物であることは間違いないのであるが。
「成功だ。アルトリウス様への感謝を忘れずに、精一杯役目を果たしなさい」
司祭の言葉に、呆然と手にした剣を見ていた少年が弾かれたように反応する。
「は……はい!ありがとうざいます!」
「恩寵武器は自分の意思で消すことも具現化させることも自在にできる。街で抜き身のまま恩寵武器を持ち歩いていると罰則対象となるから気をつけるように」
「はい!」
少年は司祭に頭を下げると、剣を握りしめたまま満面の笑みを浮かべて壇上から降りる。
恩寵を授けられたことがよほど嬉しいのか、彼は祭壇を降りても恩寵武器を消すことはしなかった。
「それでは次の者、壇上に上がって」
入れ替わりで列の先頭にいた少女が壇上に登る。最初の少年のように緊張した様子はなく、自分も早く恩寵を賜りたいと気が
後は流れ作業のように冒険者のたまごへ恩寵が授けられていく。
アルトリウス様から賜る恩寵は様々で、剣の他にも槍や弓もあればハルバードらしき長柄も授けられている。
同じ武器でも、例えば剣であれば刀身の幅だとか長さが違ったりしていて必ずしも同じ造りというわけではないらしい。
なるほどカプリ姉から話を聞いたとおりだった。
あれらが神へと登った救世主アルトリウス様から与えられる
普通の武器では傷つかない魔獣への唯一の対抗手段であり、魔獣を倒すことで成長する自分だけの武器。
目の前の儀式を見ている限り恩寵武器はその名の通り武具そのものであることが多いようだが、数は少ないながら杖やアクセサリーのような物を受け取る者も存在している。
そういった物は魔法の発動媒体となっていて、使える魔法の種類は人によりけりなんだとか。
攻撃魔法や付与魔法の使用者も重宝されるが、治療魔法の使い手は希少なため冒険者パーティーや冒険者の寄り合いであるクラン単位での奪い合いになることもあるなんて話も聞いたことがある。
「しっかし、実際どういう仕組みで恩寵武器なんてもんが出てくるのかね」
恩寵が現出する毎に湧き上がる冒険者のたまごたちを眺めながら、俺は正面を向いたまま背後にいるセーラに聞かせるつもりで口を開く。
「まさかとっくの昔に死んでるアルトリウス様がこの儀式を天国から見ていて対応してくれてるなんてこともないだろうし……いや、ないとは言えないのか?恩寵なんてよく分からん仕組みがまかり通ってるんだし、死んでも教会に協力してこうして力を貸してくれたりとかそんな感じで」
また教会の関係者に聞かれたら怒られるだけじゃ済まなそうな内容であったが、セーラならそんなこと気にもしないであろう。
それに、このやたらと博識なお嬢様がこの恩寵というシステムについてどう考えているのか興味があったのである。
果たして背後から返事が返ってくる。
「
その返事に、やたら棘があるのは予想外であったけれども。
思わず振り向くと、そこにはご機嫌のよろしくないお嬢様の姿が。
「セーラ?」
セーラはそれ以上のことは言わないつもりのようで、俺が声をかけてもつんとした表情で横を向いてしまっている。
なにか失言でもしてしまったかとセーラの後ろに立つキュベロを見るが、キュベロも困惑の表情を浮かべてセーラを見るばかりだ。
自分の言動を思い返してみても、どこにセーラの機嫌を損ねるところがあったのかよく分からない。強いて言えば、セーラの方が教会の機嫌を損ねるような問題発言をしていたように思うのだが……。
「次の者、壇上へ上がりなさい」
司祭の声に振り向くと、もうそろそろ俺たちの番が回ってきそうだった。この状況でセーラを問い詰めるわけにもいかず、俺は前を向いて出番を待つことにする。
そして俺はふと思いついたという感じで再び背後を振り返ると、最後尾に並ぶキュベロに話しかけた。
「キュベロ、お前先に行っとけよ」
「ええ……?別に良いけど、どうしてなんだあ?」
「いや、別に大したことはねえんだけどよ。一番最後なんて目立つ順番で恩寵を受け取るなんてお前が緊張するんじゃないかって思ってさ」
首を傾げるキュベロに俺は適当な言い訳を口にしたのだが、キュベロは今その事実に気がついたと言わんばかりに目を見開くと、よほど嫌だったのか慌てて俺の前に出た。
「セーラも前に行けよ。大トリなんて悪目立ちするぞ」
素知らぬ顔でセーラを促すが、俺には思惑があった。
キュベロやセーラに言ったのとは逆に、自分が目立つ立ち位置にいたかったのである。
そもそもこの儀式、恩寵だなんだとそれっぽい設定付けをしているが要するにスキルガチャだろう。
俺はこの世界に転生し自分が置かれた状況を把握したとき、歓喜した。
農民の子に産まれたことには多少落胆したものの、魔獣という人類の脅威とそれに対抗する冒険者、そして恩寵武器というシステムの存在はまさに前世で良く読んでいたウェブ小説の世界観そのものだったからである。
つまり、異世界転生者である俺のためにあるようなシステムだ。
転生者とスキルガチャが揃ってまさか平凡な結果で終わるはずがない。
だからこそ、恩寵授与の儀式の大トリでとてつもない結果を残して華々しい冒険者デビューを飾ろうという魂胆だった。
この場にいる教会の大司教様やご同輩の覚えも目出度くなること間違いなし。チートなパワーで無双しつつお金をざくざく稼いでうはうは、可愛い女の子からも尊敬されてもてもてなんて未来が約束されたも同然である。
だからこそ一団の中でも後ろの辺りに居座り続け、こうして理由を付けて最後尾の立ち位置を狙っているのだ。
そんな思惑を表には出さずに首尾良くキュベロを前に並ばせ、こうしてセーラも前に入れようとしたのだが。
「嫌よ。アクシア君が先に行ってちょうだい」
セーラはそっぽを向いたまま俺の提案を拒否した。
どうやらお嬢様の不機嫌は継続中らしい。
「嫌ってお前……ただでさえ家出中なのに大丈夫なのかよ?」
予想外の言葉に俺はセーラに言い募る。
「嫌なものは嫌なの。それに別に最後だからとか目立つからとかそんな理由で私は困らないわ」
困らないわけがないだろうと思ったが、そう言っても今のセーラは聞く耳を持たなそうだった。
なんとかこの
「……まあ、お前がそう言うなら別に良いんだけどな」
あまりしつこく揉めて騒ぐと悪い意味で目立ってしまうことになりかねないので、俺は仕方なく最後尾を諦めることにした。
まあいいさ。別に最後尾でなくとも目に見えてすごいと分かるような恩寵を引き当てれば良いのだ。
そうするとどんな恩寵が良いだろうか。
恩寵武器の排出比率や聞きかじった需要を見る限り、剣とか槍とかありきたりな武具が外れ枠で魔法系のロッドや装具が当たり枠ということになるだろう。
大当たり枠は治療魔法なのだろうが、どうしても後方支援に回らざるをえずあまり派手な活躍はできないだろうから俺的には微妙だ。
それなら攻撃魔法の方が目に見えた実績を残しやすいだろうか。それとも激レアな武具を手にして他とは違うのだというところを見せつけるか。
例えば乾坤圏とかなんてどうだろう。円形の刃を備える斬りつけて良し投擲して良しな中国の伝説上の武器だが、この世界にも同じようなものが存在しているのだろうか。
そんな風にあれが良いなこれが良いかと悩んでいると、例のぽっちゃり少年がとぼとぼと階段を降りてくるのが見えた。
その手に持っているのは小振りなナイフというどう見てもハズレな恩寵だ。
ああ、可哀想に。
あれではまともに魔獣と戦うこともできないだろうし、他の冒険者もパーティーを組んではくれないだろう。
ぽっちゃり少年もそれがわかっているのか、泣きそうな表情をしている。
周囲に視線を走らせると、既に恩寵を得た他の冒険者候補たちはぽっちゃり少年を小馬鹿にするように見たり憐れみの視線を向けたりしていた。
「次の者、壇上へ」
そして次はキュベロの番だった。
キュベロはぽっちゃり少年を辛そうな表情で見ていたのだが、司祭の声に反応して慌てて進みでた。
壇上に登るキュベロは相当緊張しているらしく、出来の悪いロボットのようなぎくしゃくした動作をしている。
「手を魔結晶にかざして」
なんとか転けることなく壇上に辿り着いたキュベロは、司祭から促されてもすぐには手を伸ばさなかった。
肝が小さいキュベロのことだ。悪い想像ばかりが頭を
直前のぽっちゃり少年の様子を見ていればなおさらだ。
「どうしたんだい?早く手を」
いつまでたっても手を出さないキュベロを司祭が促した。
口調こそ穏やかだが、あの表情はけっこう焦れている感じだ。
キュベロはその言葉を聞いて慌てて魔結晶に手を伸ばした。
しばらくそうしていると、魔結晶の光がキュベロの手元に集まり始める。
そうして光が実態を形成し始め……って、なんだか像が大きいような?
光が収まった後、キュベロの手元には大型の盾が握られていた。あれはタワーシールドというやつではないだろうか。
そして武器になるようなものは……なにも持っていない。
「……ええっとお」
キュベロは手にした盾を呆然と見つめてから、縋るように司祭の方を振り向いた。
司祭は特に驚いた様子もなく頷いた。
「それが君に与えられた恩寵だ。アルトリウス様への感謝を忘れず精進しなさい」
「は、はい……」
キュベロは重たそうな盾をえっちらおっちら運びつつ壇上から降りてくる。
「あ、アクシア……。おらあ盾だけでどうすれば」
先ほどのぽっちゃり少年と同じようにちょっぴり泣きそうな表情のキュベロに、俺は声をかけてやった。
「良かったじゃないかキュベロ。お前にぴったりの恩寵だな」
「え?けど、盾だけじゃあ魔獣を倒したりなんてできねえよお」
俺の言葉が予想外だったのか困惑した表情を見せるキュベロ。
そんなキュベロに俺は笑って答える。
「別にお前が魔獣を倒す必要はないだろう?この盾で自分と仲間を守ってる間に仲間が倒してくれるさ。なんならその盾で魔獣をぶん殴りゃあいい」
「た、盾でぶん殴るって……」
「それに、お前はカプリ姉のパーティーに入れてもらうんだろう?カプリ姉ならちゃんとお前のことをこき使ってくれるさ」
「それって良いことなのかあ?……けんども、確かに姉ちゃんに任せりゃなんとかなるかも」
俺が明るくそう言ってやると、キュベロはなんとか安心できたようである。
俺も、そんなキュベロを見て安堵する。
盾なんて他に授けられた者はいなかったし、それなりにレアな恩寵だろう。物が物だけに必ずしも良いとは限らないが、小心なキュベロは積極的に魔獣に打ちかかっていけないだろうし攻撃手段がなく防御だけを考えている方が性に合っているはずだ。
「次の者、壇上に」
そうして、ついに俺の番が回ってきた。