異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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恩寵授与の儀式2

 

 俺は壇上に向かってゆっくりと歩を進める。

 ぽっちゃり少年の恩寵武器はどう見てもハズレなナイフだった。

 キュベロの恩寵武器は武器らしくない大盾だった。

 ハズレ枠の後の特殊枠。次に来るなら普通の武具かレアな魔法が来る確率が高いのではないだろうか。

 いや、俺が思う確率なんて今見ていた試行回数の少ない恩寵の傾向と見聞きした情報からなんとなく類推しているだけのものだ。

 どんなものでも等しく当たる可能性があると思うぐらいがちょうど良い。

 たとえどんな恩寵を賜ることになろうとも、それがどんなにハズレな代物であろうともいくらでもやりようはあるのだから。

 一歩一歩階段を踏みしめて壇上に登り、俺は魔結晶の前に立つ。

 

「では、魔結晶に手をかざして。アルトリウス様に一心に祈るんだ」

 

 司祭の言葉に従って手を魔結晶に伸ばす。

 その手がわずかに震えているのに気がついて、俺はつい苦笑する。

 どんなに強がっても、今後の冒険者人生が決まるかもしれないこの瞬間の緊張感だけは覆すことはできないということか。

 そのまま魔結晶に触れそうなぐらいに手を近付けると、魔結晶から漏れる紫の光がわずかに強まった。

 俺は目を閉じると手の感覚にすべてを集中する。

 前世からして無宗教であった俺なので今まで信仰にもほとんど無関心だったのだが、今だけは救世主アルトリウス様に祈りを捧げる。

 死んで神に成ったというアルトリウス様が、俺の転生に関与しているのかはわからない。

 残念ながらこの世界に生まれ落ちる前に神様と邂逅することはなかったし、もしかしたらまったく関係ないのかもしれない。

 それでも、本当に神という存在が在って俺の祈りが届いているのならば。

 頼むから、俺が()()になれる力を授けてくれ。

 どうか。俺がこの世界に生まれ変わったことに意味があるのならば、どうか!

 直後、閉じた目蓋の向こうで光が強くなったと思うと手に確かな質量が現出していく。

 あやふやな感覚だったそれが次第にはっきりとした輪郭を持ち、無意識に握りしめた手のひらにしっかりと収まった。

 どうやら俺の恩寵武器は棒状のなにからしい。

 打撃武器にしては細い。手触りはでこぼこしていて、恐らく部品か装飾の類がくっ付いている。鈍器のような極端に重心の片寄った物ではなさそうだった。

 ……というか、なんだこれ?

 それがなにかわからないまま俺は閉じていた目をそっと開いた。そして手にしたそれを視認し、歓喜する。

 それは細長い筒だった。

 もちろんただの筒ではない。細い筒が真っ直ぐに伸びていて、お尻の部分だけわずかに太くなっている。

 でこぼこした手触りは筒から弾を発射するための引き金だった。

 そう、これは間違いない。

 この火薬を入れる火皿と火縄を挟む火ばさみはまさしく……って火縄?

 

「……これ、火縄銃じゃねえか!」

 

 俺は思わず手にした火縄銃を床に叩きつけた。

 

    *

 

 賜った恩寵をぞんざいに扱うなど不敬であると司祭にしこたま怒られた俺は、平謝りに謝ってなんとか許しを得ると壇上からすごすごと退散した。

 恩寵授与の儀式で違いを見せて格好良く冒険者デビューを飾る予定だったのに、想定外な恩寵を受け取って取り乱したせいで悪目立ちする姿を衆目にさらけ出すだけの結果となってしまった。

 

 

「なあにこれ!こんな武器見たことないわ!杖にしては形が妙だし、棍棒(グラブ)にしては細くて余計な部品が多いし……ねえアクシア君!これなんなの?というか、どうやって使うの?」

 

 俺がお説教を受けている間、しれっと俺のぶん投げた恩寵武器を拾っていじくり回していたセーラが俺に声をかけてくる。

 周囲には儀式を見ていた冒険者のたまごたちが集まってセーラの手にする火縄銃を見ているが、これはすごい!とかこんな良い物を!とか驚くような感じではない。

 むしろ『なにこの変な筒』『さあ?知らね』『とりあえず大したことなさそうだなぷぷぷ』みたいなことをささやき合っているに違いなかった。

 

「ねえアクシア君ってば!」

 

「……聞いてるって。そいつは火縄銃だよ。使い方は後でちゃんと教えてやるから」

 

 セーラがしつこく聞いてくるので、俺はため息と共に返事をしてやる。

 

「火縄銃?そんな武器聞いたことないわ!後でちゃんと教えてちょうだいね?絶対よ?嘘ついたら怒っちゃうんだから」

 

 俺の服を引っ張りながらやたら念を押してくるセーラ。火縄銃が気になるらしいが、それにしても食いつき方が普通じゃない。

 

「わかったわかった。ほら、お前で最後なんだから早く儀式を受けて来いよ」

 

 俺がセーラの手から火縄銃をひったくりしっしと追い払うように手を振ると彼女ははあい、と返事をして祭壇の方へ進みでていった。

 

「最後は……お嬢さんかね?」

 

 司祭は緊張感のない軽やかな足取りで壇上に登ってくるセーラを困惑した様子で出迎える。

「成人していない子息でも恩寵授与の儀式を受けることは往々にしてありますでしょう?」

 

「確かにそういった事例はないではないが……」

 

 セーラは平然とそんなことをのたまうのにたいして司祭は肯定しつつも奥歯に物が挟まったような口ぶりだ。

 たぶん未成年に対する恩寵授与の実績はあっても、見るからに良家の子女が下々の一団に混ざって恩寵授与の儀式を受けるという事例はないのだろう。

 

「それでは始めますね」

 

 このまま儀式を続けて良いのかと大司教の方へ視線を送っている司祭を無視して魔結晶へ手を伸ばすセーラ。

 

「あ、おい……!?」

 

 司祭が止める間もなくセーラの手は魔結晶にかざされて──瞬間、魔結晶が強烈な光を発した。

 

「な、なにごとです!?」

 

 閃光に目を焼かれあちこちで悲鳴が上がる中、大司教のものと思しき叫び声が聞こえる。

 俺も手をかざして光を遮りながらどうにか壇上の様子を確認しようとするが、とてもじゃないが見通すことはできない。

 室内を満たした光は、混乱が恐慌となる直前に減衰していった。

 ようやく視界が明瞭になって慌てて壇上を確認すると、そこには至近距離で光を直視してしまったのか目を押さえて転げ回っている司祭と平然と立っているセーラの姿があった。

 そのセーラの手には樫の杖が握られている。

 どうやら首尾良くレアな魔法の恩寵を得ることができたらしい。

 

「終わりました」

 

 司祭がそれどころじゃないのを見てとったセーラはひょいひょいと祭壇から降りるとカリスタ大司祭の前に立ち、何事もなかったかのように報告した。

 

「え、ええ……しかし今の光は……?」

 

「さあ……魔結晶が壊れてしまったのではないですか?」

 

「まさか、そんなことはあり得ませ……ん?」

 

 すっとぼけて適当なことを言うセーラに反論しようとしたカリスタ大司教は、なにかに気がついたようにセーラに顔を近付けた。

 

「……失礼、どこかでお会いしたことがありましたか?」

 

 セーラはカリスタ大司教の問いに首を傾げた。

 

「いいえ?私もロザーヌ市は初めてですし、間違いなく初対面だと思うのですが」

 

「……なるほど。しかし、確かにどこかで……いえ、それにしても記憶と年齢が合わないわ」

 

「大司教様」

 

 なにやらぶつぶつとつぶやきながら考え込み初めてしまったカリスタ大司教に、背後に控えていた司祭のひとりが耳打ちをする。

 思索を邪魔されたカリスタ大司教は一瞬顔をしかめていたが、司祭の耳打ちを聞くとなにかを思い出したように目を見開き頷いた。

 

「ああ……これですべての方に恩寵が授与されました。これであなた方は冒険者の資格を得たことになります。教会はあなた方がアルトリウス様と国家に精一杯の献身を捧げることを願います」

 

 カリスタ大司教はそう言ってまた胸に手をあてて敬礼すると、お供の司祭たちを伴って慌ただしく部屋から退出していった。

 後には呆然とする新人冒険者たちと案内役らしい司祭がひとり残るばかりだった。

 とりあえず俺はセーラに話しかけた。

 

「なあ、セーラ」

 

「なあにアクシア君」

 

「お前本当にさっきの光に心当たりはないのか?」

 

 俺の問いに、セーラはにこりと笑った。

 

「アクシア君はどう思う?」

 

 その言い方は百パー黒なんだよなあ……。

 

「ふたりとも、早くしないと置いてかれちゃうぞお」

 

 俺がここでセーラを追及するか悩んでいると、キュベロが声をかけてくる。

 振り向くと既に司祭が皆を部屋の外に誘導しているところだった。

 

「……とりあえず出るか」

 

 俺がため息と共に言葉を吐き出すと、セーラは頷いた。

 

「ええ、私もアクシア君からいろいろ話を聞きたいわ。後でゆっくりと、ね?」

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