異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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転生者と転生者 1

 

「ロザーヌいちの宿をうたうだけあって、出す料理も悪くなかったわね」 

 

 宿の部屋に戻ると、セーラはいかにも柔らかそうなデカいベッドに飛び込んで寝転がった。

 

「一般農民の俺にゃ味の善し悪しがわかるほど舌が肥えちゃいないけどよ。ロザーヌで一番の宿の料理が悪くない程度の評価なんて、どんな豪勢な生活してたんだよお前は」

 

「もちろんお姫様みたいに花よ蝶よと大切に育てられてきたわ」

 

 呆れる俺にたいして、いけしゃあしゃあとそんなことをのたまうセーラ。

 たぶん冗談とかではなく、本当にそんな感じの暮らしぶりだったんだろうなあ……。

 教会を出た後冒険者ギルドで諸手続を終えた俺たちは、キュベロをカプリ姉の拠点に送り届けてから宿をとった。カプリ姉にはせっかくだから泊まっていけと引き止められたが、セーラとの()()する予定だったので丁重に辞退したのである。

 けしてセーラがロザーヌで一番高い宿に奢りで一緒に泊まらせてくれると言ったからではない。

 

「そんな大切に育ててくれたご両親を裏切って家出してまでやることが冒険者なのかよ」

 

 圧倒的生まれの格差に、俺の口からはつい皮肉交じりの言葉が漏れ出てくる。

 どんな家に生まれたかは知らないが、冒険者はちやほやされて平穏無事に暮らす生活を捨ててまでやるような仕事ではないというのは断言できる。

 

「言ったでしょう?家にいたら成人と同時にお嫁に出されることになっていて仕方がなかったのよ」

 

「別に嫁に行きゃよかったじゃねえか。たぶんだけど、セーラは両親から溺愛されてそうだし、変な家に嫁がせようなんてことはしなかっただろう?それともあれか?家柄は良いけど相手の男がだめだったのか?年の差が離れすぎとか、生理的に無理とか」

 

「いいえ、そんなことはなかったわ。血筋も人柄も良いし、歳はたしか今年成人だったはず。それに、社交の場では大変おモテになっているそうよ」

 

「百点満点の嫁ぎ先じゃねえか……。それじゃあなんで嫌がるんだよ」

 

 まったく意味がわからない。

 冒険者にそんな超優良物件との結婚を蹴ってまでやる価値があるとはかけらも思えなかった。

 百人中百人が結婚を選ぶだろうし、俺だってTS転生してセーラの立場に収まってたら……いや流石に精神的BL要素は厳しいわ。

 俺が首を捻ったり嫌な想像をして顔をしかめたりしていると、セーラが口を尖らせて反論してきた。

 

「だって結婚なんてしたらこうして冒険者になったり遠くへ出かけるなんて自由がなくなってしまうじゃない。人生一回分を結婚生活でふいにするなんて時間の無駄だわ」

 

「いや、さすがに結婚生活を人生の無駄って言うのはどうかと思うが……ん?」

 

 まるで結婚願望のないキャリアウーマンみたいなことをのたまうセーラに苦笑していると、彼女の話に引っかかりを覚えた。

 

()()()()()?」

 

「ええ。人の一生は五十年なんて言うでしょう?いくら死んでまた生まれ変われるとしても待つには長すぎる時間だわ」

 

「なんだよ!お仲間なのかよ!」

 

 微笑むセーラの言葉を聞いて俺は叫ぶと、ベッドに倒れ込んだ。

 

「やっぱり、アクシア君もそうなのね」

 

 俺の方ににじり寄ってきて顔を覗き込んでくるセーラ。

 その笑みは先ほどまでの余裕のあるものとは違って見えた。

 おそらくその胸の内に、同胞を見つけた喜びが満ちているのだろう。

 俺の胸の内と同じように。

 

「その通りだよちくしょう。やけに世慣れしてるお子様だからそうかも知れねえかと思いはしたけど、まさか本当にそうだったとはな!」

 

「ふふ、アクシア君はわかりやすかったわね。農家の子にしてはやけに清潔にしていたりとか、教会の悪口を言ってみたりとか」

 

「俺が教会を悪く言ったみたいに言うな。ただやり方が世俗の垢に塗れ過ぎてると思っただけだよ」

 

「そういう口ぶりも農家の子らしくないわね」

 

 ころころと楽しげに笑うセーラ。

 こういうところは無垢な少女っぽさを感じる。俺が自覚症状がないのだが、やはり精神が肉体に引っ張られるということなのだろうか。

 

「で、お前何回目の転生なんだ?人生を一回分なんて数える発想、一回目の転生じゃ出てこないぜ」

 

「その口ぶりだとアクシア君は初めての転生なのね。私は、そうねえ……」

 

 セーラはちょっと考える素振りをみせる。

 

「最初の転生から数えて千年ぐらい経っているから、だいたい二十回ぐらいだと思うのだけれど」

 

「千年!?」

 

 俺は思わずベッドから状態を起こしてセーラを見つめた。

 精緻なまでに整った美しい少女の容貌で、吸い込まれそうなほどに深い碧の瞳が俺を見つめ返してきている。

 このまま見つめているとその瞳に魂を吸われるんじゃないかという妄想を視線と共に振り切って、俺は再びふかふかのベッドに背中を預ける。

 

「まじかあ。千年っつうとそれこそアルトリウス様が生きてたぐらいの時代だろう?そんな昔から転生し続けてるのかよ……」

 

 もし仮に俺がまた死んで、二回分の記憶を引き継いで生まれ直したらと想像してみる。

 二回目はまだ普通に生きられる気がするが、三回目四回目と何度も繰り返したらどうなっているのだろうか。

 あまりにも気が長すぎて想像することもできなかった。

 だから、直接経験者に聞いてみることにする。

 

「そんなに何度も転生して人生に飽きがきたりしないのかよ。それに、記憶だけを持ち越しても人間関係とか資産とか積み上げてきたものを何もかも失うなんて」

 

 一度転生しただけの俺だってファンタジー世界への転生に喜びはしても、残してきた家族への想いや人生への未練が過ることがあるのだ。それを十や二十も繰り返したらその喪失感はいかほどばかりか。

 俺の指摘に、セーラは考えるように下を向いた。

 

「確かにそうね……。家族も友人も皆死んで、私だけが生きながらえているとも言えるわ。それに、今まで誰にも転生のことを明かしてこなかったから以前の知り合いにあえて会いに行くようなことはしてこなかったし」

 

 セーラは顔を上げると俺に満面の笑みを見せつけてきた。

 

「けれど全っ然飽きることなんてないわ!」

 

「ええ……」

 

「だって、これだけの人生を繰り返しても世界は私の知らないことで満ち満ちているんですもの!この世のすべてを知り尽くすまで、私は何度だって繰り返すわ!」

 

 セーラの予想を大きく外れた反応に困惑する俺に、彼女は握りこぶしを作って力説する。

 その表情には置いてきたモノへの寂寥も、なくしたモノへの喪失もなく。そこにあるのは知識への渇望と未知への探究心だった。

 

「……人生楽しんでるなあおい」

 

 あまりに突き抜けた人生観を語るセーラにそんな言葉が口を突いて出るが、彼女は笑みを浮かべたまま頷いた。

 

「ええ、おかげさまで充実した人生を何回も送らせてもらっているわ」

 

「……」

 

 こいつはあれだ。趣味が生きがいになってて他にあまり執着しないタイプだ。

 

「まったく、知識欲を満たすだけのために千年も飽きることなくよくやるわ……。普通、転生してやることっつったらチーレムとかじゃねえのかよ」

 

 俺のぼやきにセーラが首を傾げる。

 

「ちーれむって?」

 

「なんだ、ウェブ小説(そっち)は未履修か?チート能力で無双して女の子囲ってハーレム築いたりするんだよ。ざまあ要素は今のところなさそうだけど、異世界転生なんてだいたいそんな感じだろ。ああ、元が女なんだとしたら逆ハーとか悪役令嬢とかそういうのが好みか?まあどちらにしろやることなんて大体変わらないわな」

 

 俺の説明に、セーラはいまいちピンときていない様子だった。

 

「ふうん……。言っていることはよくわからないけれど、アクシア君はたくさんの女の子を囲いたいのね。私も昔そういう風になったことがあったけれど、いろいろ大変よ?女の子達は皆ぎすぎすし始めるし、誰かに寵愛が片寄ったと思われると刃傷沙汰になったりするし」

 

「夢を壊すようなこと言うなよ……って、やったことあるのか!?」

 

「ええ、あれは確か東方の騎馬民族の族長をやるハメになった時だったと思うわ。まとめていた氏族がそれぞれ娘を送りつけてきてね。表の政争も厄介だけれど、奥向きのごたごたはそれ以上に厄介で大変だった。その国も私が生きている間はなんとかまとめていたのだけれど、私が死んですぐに分裂して崩壊しちゃったみたい」

 

 故国が滅んだという話をなんでもないように語るセーラ。

 完全に割り切ってやがるなあこいつ……。

 

「それより、アクシア君がいたところでは転生したらちーれむっていうのが浸透しているぐらいに転生する人がたくさんいるの?どうやって転生の術式を構築したのか興味あるわ!」

 

 ちょっと引いている俺のことなど欠片も気にも留めず目を輝かせて問うてくるセーラ。いやホントぶれないなっ!

 

「いやいや、確かに転生してチーレムしてえなんて思ってるやつはごまんといたかも知れねえが、所詮妄想の話だっての。俺だって実際自分が転生して初めて現実に起こるって知ったんだぞ」

 

「ええ~?転生なんてそんな偶発的に起こる事象じゃないと思うけれど……」

 

 どうやらセーラには俺の答えはセーラのお気に召さなかったらしい。

 

「というかそもそも、術式とかなんとか言ってるけど日本に魔法とかそういう類のものなんてあったのか?俺としちゃあそっちの方が気になるわ」

 

 かつて生きた故郷にそんなものが存在したのかと、興味ありきで疑問を呈したのだがセーラは再び首を傾げた。

 

「にほん?そこがアクシア君のいた国なの?」

 

「いやいやお前、そんなところで惚けるなって。いくらなんでも日本がわからないわけ……」

 

 そこで俺は、セーラが茶化したり冗談を言ったりしているような雰囲気はなく、至って真面目な様子であることに気がついた。

 とても嘘をついたり惚けたりしているようには見えない。

 しかし、世界で五指に入る経済大国の名前を知らないなんてことがありえるのだろうか?

 

「いや、百歩譲って日本を知らなくても銃の存在は知ってるはずだろ?火縄銃を見てすっとぼけちゃいたが、地球で暮らしていてあれの存在をしらないなんてことは……」

 

「銃っていうのは、アクシア君が手に入れた武器のことね。あれはアクシア君のいた国で普及しているの?」

 

「……」

 

 俺は思わず天を仰いだ。

 日本を知らないどころか銃の存在を知らないなんて、よほど未開の地の住人だとか銃が生まれる前の住人とかでもない限りあり得ないだろう。

 

「なあ、セーラ。お前、転生し始める前はどこの生まれだったんだ?」

 

 セーラは俺の問いにはっきりと答えた。

 

「今で言えば、ここから北の方にある聖地バージニアの辺りね。それがどうしたの?」

 

 その返答を聞いて、俺は叫んだ。

 

「異世界転生者じゃなくて、現地転生者じゃねえか!」

 

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