異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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転生者と転生者 2

 ふて腐れる俺から事情を聞き出したセーラは、目を輝かせた。

 

「つまり、アクシア君はこの大陸どころかまったく違う世界から転生してきたのね!そこはどんな場所だったの!?人口は!?文化は!?どんな歴史を辿った国だったのかしら!ねえねえねえねえねえ──」

 

「だあっ!人が落ち込んでる時に根掘り葉掘り聞いてくんじゃねえよ!」

 

 俺の腹に馬乗りになったセーラがゆさゆさと身体を揺さぶるので気分が悪くなった俺は、セーラの身体を横にぽいっと放り投げた。

 無駄に受け身をとって器用に着地したセーラが顔を上気させ、鼻息荒く主張する。

 

「だって、目の前にまったく別の世界から来た未知の塊みたいな存在がいるんですもの!私、このままじゃ興奮しすぎてどうにかなっちゃいそうだわ!」

 

「お嬢様がはしたないことを言うんじゃありません!」

 

 容姿の滅茶苦茶整った女の子が興奮して迫ってくる様にちょっとどぎまぎしつつ俺が叱り飛ばすと、だってだってと子供みたいに駄々を捏ね始めるセーラ。

 その姿はとても千年の間転生を繰り返してきた人物とは思えない。

 俺はため息をひとつ吐いてから口を開く。

 

「別に教えないとは言ってねえだろ?……今はちょっといろいろと衝撃が強くて、そんな気分になれないだけだ」

 

 なにしろこの異界の地で初めて自分と対等に話せる相手を見つけたかも知れなかったのだ。

 この世界の両親やキュベロとカプリ姉他、村の皆が嫌いというわけでもなかったのだが、前世である現代日本の文化的な暮らしに慣れてしまった俺と娯楽のない牧歌的な農村暮らししか経験したことのない彼らとの間に溝を感じるというか、物足りなさを感じてしまうことが度々あった。

 無論、こっちが勝手にそう思っているだけのことで、それが文化的優越からくる傲慢な考えだということは理解していたがこればかりはいかんともしがたい。

 そんな中で突然出会ったのが目の前にいる、自称転生者のお嬢様だったのだ。

 確かにセーラも異世界転生とは言っていなかったし、考えてみればおかしな点がいくらでも思い当たったが、自分という異世界転生者が存在するのだから他の転生者もそうだと勘違いするのは仕方のないことだろう。

 だからこそ、同郷の人を見つけた喜びが勘違いだとわかってこうしてへこんでいるのである。

 そんな俺の様子を頬を膨らませて見ていたセーラだったが、良いことを思いついたと言わんばかりの表情をして目を輝かせた。

 

「それならアクシア君の恩寵武器を見せてちょうだい!火縄銃だったかしら?あれの説明をしてくれるって約束だったんだし、見るぐらいなら構わないでしょう?」

 

 たしかにそんなことを言ったなと思いだして俺は一瞬顔をしかめたが、すぐに思いなおして火縄銃を具現化するとセーラに放ってやった。

 セーラは火縄銃を受け取ると喜んでいじくったり観察したりし始める。

 予想通り、おもちゃを与えていた方が面倒がないようだ。

 

「それで、これって結局どういう武器なの?この筒の中からなにかが飛び出すんじゃないかって予想はしているんだけれど」

 

 セーラが火縄銃の銃口を覗きながら問うてくる。

 

「へえ。そういうのって知らなくてもわかるもんなんだな。セーラの予想する通り、その穴の中に鉛玉を詰めて火薬の力で飛ばして当てるんだよ」

 

「つまり飛び道具ということね!その火薬っていうのは?」

 

「なんていうかこう……火を付けたりすると爆発したりする粉?」

 

「へえ、そんな物騒な粉があるのねえ。性質は魔石が近いかもしれないけれど……あれは火に近付けても燃えるだけで爆発したりなんてことはしないし」

 

 それは俺も知っている。

 この世界において魔獣から採取される魔石の使い道は大体が燃料である。

 特定の術式を刻んだ魔道具にくべることで、火を付けたり明かりを灯したりすることができるのだ。

 もっとも、魔道具なんてのは高級品なのでうちみたいな田舎じゃ持っているのは一握りの家庭だけ。一般家庭では普通に薪や油が使われていた。

 魔石なんてのも実にどこかで聞いたことのある設定というかアイテムなのだが、用途が燃料ってのがな……。

 せっかくファンタジーな世界で魔獣と命がけで戦うのに、それで得る報酬が炭鉱で採掘する石炭とかと同等というのはなんだか夢がない。

 

「……ん?そういや鉛玉とか火薬ってどうやって調達すりゃいいんだ?」

 

 何度も転生を繰り返している知識欲の塊みたいなセーラが知らないなら、火薬が発明されていない可能性が高い。

 

「やばいぞ……火薬の存在しない世界の火縄銃なんて使い勝手の悪い棍棒にしかならねえ」

 

 火縄銃を振りかざして強大な魔獣に殴りかかり、あっさりと返り討ちに遭う自分を想像して俺は青ざめる。

 そんな俺に、セーラがあっさりと解を示した。

 

「要は弓にとっての矢が欲しいのでしょう?そういう武具への付随品であれば具現化できるはずよ」

 

「なんと?」

 

 試しに火縄銃を出す要領でむんっと念じてみれば手のひらに巾着袋が具現化する。

 中を開いてみると鉛玉やら火打ち石やら火薬が入っていると思しき小袋等々の付属品が入っていた。

 

「おお……すげえなこれ。マジでどういう理屈でこんな風に物を具現化してるんだ?」

 

 感嘆の声と共に漏れ出た俺の何気ない疑問に、セーラがずずいと寄ってくる。

 

「知りたい?」

 

 その目は蘊蓄を語りたくてしょうがないと激しく主張している。

 たぶんこれ聞いたら朝まで語り続けるやつだ。

 

「いえ興味ないです」

 

 俺がはっきりとノーを突きつけると、セーラは不満そうに口を尖らせた。

 

「ええ~!せっかくアルトリウス教会を敵に回しちゃうから仕方なく黙ってた恩寵授与の儀式の仕組みを一から十まで教えてあげようと思ったのに!ざっと三日間ぐらいぶっ続けで!」

 

「それを聞いてなおさら聞きたくなくなったわ!お前の胸の内に封印しとけそんな厄ネタ!」

 

 気になるか気にならないかで言えばものすごく気になる内容であるが、セーラの語りを延々と聞かされた挙げ句にうっかり口を滑らせたら教会に殺殺(ころころ)されてしまうような話は絶対に聞きたくなかった。

 

「ほら、もう夜も遅いしさっさと寝ようぜ。明日から冒険者として本格的に活動し始めることになるんだしよ」

 

「むう……。まあそれもそうね。この身体もそろそろおねむの時間みたいだし」

 

 ご不満な様子だったセーラだが、興奮が落ち着いてきて睡魔が襲ってきたらしい。俺も生まれ変わってしばらくはそうだったが、精神が成熟してるからといって身体が欲する睡眠欲には勝てないのである。

 

「明日はアクシア君の火縄銃がどんな武器なのか、余すことなく観察させてもらわなきゃ。私、胸がどきどきして眠れなくなっちゃいそう!」

 

 胸の前で手を組み陶然とした表情を浮かべるセーラ。あどけない少女がそういう表情をしているのは心臓に悪いのでやめてほしい。

 

「はあ……まあ、火縄銃の使い方を教えるって約束だしな。しかし、銃は銃でも火縄銃だからなあ……」

 

「?何か問題でもあるの?」

 

「問題といや問題なんだが……。ま、その辺も実際に見てもらった方が早いか。それじゃあ明日はパーティーを組んで動くってことで良いんだな?」

 

「ええ、もちろん」

 

 俺の確認に、セーラは頷くと続けてこんなことを言って寄越してくる。

 

「けれど、私は明日だけと言わずこれからもアクシア君と一緒にいたいと思っているわよ?」

 

「そりゃあ俺の頭ん中にある異世界知識が欲しいからだろ」

 

「それもあるわ。でも……」

 

 肩を竦める俺の言葉を、セーラはあっさりと肯定しながらも続ける。

 

「せっかく自分と同じ境遇の人に巡り会ったんですもの。もっといろいろなことをお話ししてみたいわ」

 

「……」

 

 はにかむような笑みを浮かべるセーラに、俺は鼻白む。

 自分の欲望のために千年もの間転生を繰り返し、都合が悪ければあっさりと家出してみせるろくでなしからこんな言葉が出てくるとは予想外だった。

 彼女が今までどんな風に人生を歩んできたかは推し量ることができないが、なんだかんだ寂しさのようなものを覚えていたのかも知れない。

 

「……ま、しばらくは一緒にいてやるよ。俺もセーラからこの世界のことをいろいろ聞いておきたいしな」

 

 前世を含めればいい大人が一緒にいようなんて言うのが気恥ずかしくて、ついつっけんどんな返しをしてしまったのだが、セーラはそんな俺の態度を気にすることもなく肯定した。

 

「ええ、これからよろしくね。一緒にいる間は、宿代は私が出してあげるわ」

 

「一生付いていきます!セーラ様!」

 

 俺はベッドの上から飛び降りてセーラの足下に這いつくばった。

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