異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが?   作:萬屋久兵衛

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初めてのお仕事

 

 恩寵授与の儀式を受け、セーラとお互いの事情を明かしあった翌日。

 俺とセーラは冒険者ギルドへと赴いた。

 朝の冒険者ギルドはその日の仕事を求める冒険者でごった返している。

 特に依頼掲示板(クエストボード)の前ではバーゲンセールに群がるおばちゃんよろしく冒険者が殺到し、依頼の書類をつかみ合って怒鳴り合う者までいる混沌の坩堝となっていた。

 俺たちはそんな掲示板周辺の喧騒をスルーして受付に直接向かう。

 俺たちの目的は依頼とは別にあるのだ。

 

「おはようございます、お姉さん!ターキッシュリーフ行き二人でお願いします!」

 

 セーラは受付のお姉さんに元気よく挨拶して自分の身分証明書(ギルドカード)を受付に置いた。

 ギルドカードは金属に魔石を混ぜた合金でできているとかで、ぱっと見は盾の前で剣と杖をクロスさせた冒険者ギルドの紋章と登録者の名前が刻み込まれた薄い板だ。

 このギルドカードもウェブ小説的でよく見たやつだが、特に実績によって銀になったり白金になったりとかそういうことはないようだ。

 というか、ギルドで冒険者のランク判定みたいなこと自体やっていないようだ。

 それでは依頼の難易度と実力のギャップが発生し向こう見ずな冒険者がいたずらに死んでいくだけじゃないかと思っていたら、一応似たようなものは存在しているらしい。

 ギルドカードを作る際名前を彫られた部分に自分の血を垂らすのだが、それを行ったカードは冒険者の実力があるほど紫の色が濃くなっていくのだという。

 そして過去の蓄積からカードの濃淡によって冒険者の実力と依頼とのギャップを埋めているという話なのだが、強さの基準が色の濃さなんてなんとも不親切な仕様である。

 これがゲームだったらそれだけでクソゲー判定されてもおかしくはない。

 

「ほら、アクシア君も早く!」

 

「はいはい……」

 

 セーラに急かされて俺もギルドカードを提出したのだが、お姉さんは困ったような笑みを浮かべて口を開く。

 

「ええと……ターキッシュリーフの間引き、ということでよろしいですか?」

 

「はいっ」

 

 お姉さんの確認にはっきりと答えるセーラ。

 しかしそんな彼女にお姉さんは困惑を深めるばかりのご様子。

 間引きというのはその名の通り魔獣を間引いて減らす仕事だ。

 都市や村の近くにある魔獣の棲家を放置していると魔獣がぽこぽこ増えてしまい、棲家をあぶれた魔獣が人里近くに降りてくるので数を減らす必要があるのである。

 特にノルマもなく完全出来高制なので実力があれば稼ぎ放題、魔獣を倒せなければタダ働きという仕事である。

 

「……ねえ。ふたりとも、昨日講習を受けたばかりでしょう?」

 

「そうですね」

 

 俺は言葉遣いがフランクになったお姉さんの言葉を肯定する。

 昨日アルトリウス教会で恩寵授与の儀式を受けた後に冒険者ギルドでギルドカードを作成したのだが、それと同時に冒険者ギルドの仕組みや依頼の受け方などについての講習も受けていた。

 

「それなら初めのうちは都市の中か少なくとも近場で受けられる依頼をこなすことを推奨しているのは聞いているでしょう?」

 

「ええ、はい」

 

 この問いにも俺は肯定をしてみせる。

 確かに講師からはそんなことを説明されていた。

 これはせっかくの新人冒険者が無知や慢心故にいたずらに命を落とすことを防ぐための措置らしい。

 講師曰く人類が魔獣と戦う術、恩寵武器を手に入れてからというもの、魔獣は人が多く開拓された場所を避けて暮らす傾向がある。

 強力な魔獣ほど森の奥地やら険しい山野やら人里から離れた場所に住み、縄張り争いに負けた弱い魔獣が人里近くに住むのはそういう理屈だ。

 それ故にほぼ素人な新人冒険者が都市から離れた場所に向かい強力な魔獣に殺されることを避けつつ、安全に仕事の流れを覚えさせるために講習で注意喚起をしているのだとか。

 つまり、遠くへ行くのは都市の近くでレベルを上げてからにしましょうということだ。

 

「だったら」

 

 お姉さんは苛立たしげにこつこつとテーブルを指で叩く。

 

「あなたたちがするべき仕事はこんな間引きではなくて、都市内やロザーヌと近所の街の間を行く馬車の警備とかではないかしら?」

 

「ええ、そうなるでしょうね。ですが……」

 

「ですが!?」

 

 お姉さんの言葉を肯定しつつもなおも反論しようとする俺を睨みつけるお姉さん。正直恐い。

 

「ですが……あれで近所の警備なんてお仕事、残ってますかね?」

 

 そう言って背後の掲示板を示す俺。

 掲示板に張られた依頼の書類は半分以上が剥がされていて、その前には新人らしき冒険者が泣きそうな目で残された書類を見ている。

 おそらく先ほどまで巻き起こっていた依頼争奪競争に出遅れて、近場の楽な仕事を他の冒険者たちに根こそぎ持っていかれたのだろう。

 残った仕事なんて今日の飯代にもならないようなしょぼい仕事か、人があまりやりたがらないドブさらいとかそんなものだけに違いない。

 

「……」

 

「最近の冒険者って、その日暮らしが板に付いちゃってて上を目指そうとかもっと稼ごうとかそういう意識があんまりない人が多いのよねえ。一昔前はここまで酷くなかった気がするのだけれど、なんでかしら」

 

 引きつった顔で沈黙するお姉さんをよそに訳知り顔で一昔前を語る未成年。

 

「わ、我々としてもあなた方新人冒険者たちが手を付けやすい依頼をこの時期に集めたりと努力はしているのですが……いかんせん、新人だけを優遇するなという一部の冒険者たちの声も無視することはできず……」

 

「そうやって一部のデカい声を拾っているから新人がああやって躓く原因になっているのでは?」

 

「……」

 

 俺の指摘にお姉さんはぐうの音も出ない様子。

 まあ、前世でも自分の権利や言い分をデカい声で主張するやつはいたし、冒険者ギルドの悩みも理解できなくはないのだが……。

 

「あんまり外部の人間が言うのもなんだけれど、時にはだれかが決断して思い切った施策を採らないとなにも改善しないと思うの」

 

「…………」

 

 幼い少女にド正論で殴られた(諭された)お姉さんが引きつった顔のまま固まってしまったので、俺は慌てて話を戻した。

 

「ま、まあそんなわけで、俺たちは生活にも余裕があるんでちょっと間引きの狩り場を覗いてこようかと」

 

 なにせお子様の癖にやたらと金持ちなセーラと彼女のパーティーメンバーである俺は生活に困るほど切羽詰まっていないのである。

 セーラはともかく俺は実質未成年の少女のヒモなのだが、ふかふかなベッドと美味い飯のためならばどこまでもクズになる決意を固めているので、どんな批判でも甘んじて受け入れる覚悟ができている。

 お姉さんはしばらく悩んだ様子であったが、やがて諦めたようにため息を吐いた。

 

「……承知致しました。ちょうどターキッシュ最寄りの街までちょうど馬車隊が出ますので、護衛がてら同道してください。安価ですが報酬も出ますので」

 

 そう言いながら書類をささっと作成すると、それに印を捺してこちらに渡してくれる。

 

「ありがとうございます!お姉さん!」

 

 書類を受け取ったセーラがにぱっと笑みを浮かべて礼を述べると、渋い顔をしていたお姉さんの顔がだらしなく緩んだ。

 こやつ、自分の愛らしい容姿の使い方が実によく分かっている。

 

 冒険者ギルドを出た俺たちは馬車の出発時間までを使って装備の調達をした。

 ちょっと良い外套と背嚢、保存食やら替えの衣類やらの雑貨。

 そして関節や急所を守る最低限の防具。俺もセーラも直接戦闘するタイプじゃないので動きやすさを優先している。

 これらのブツもセーラの懐から……なんてことは流石にせず、ちゃんと自分の財布から出している。

 冒険者たるもの、身の回りの物ぐらいは自分の手で揃えねば成るまい。

 まあ、大半の資金はセーラからもらった金貨なのだが、これは正統な(?)権利によって得た対価なので恥じ入ることはなにもない。ないったらない。

 買い物を終えて指定された合流場所である南門前に向かうと、数台の馬車とそれを取り巻く商人やら冒険者っぽい人々を見つけた。

 あれがターキッシュリーフ最寄り行きの馬車隊だろうか。

 

「すみませ~ん!」

 

 隣を歩いていたセーラは物怖じすることなく馬車隊に突撃すると、ぱっと見偉そうな感じの人と会話をし始めた。

 昨日ぐらいに見たような光景だなと思いつつゆっくりと近づきながら様子を見ていると、セーラがこちらに手を振ってくる。

 

「やっぱりこの馬車隊がターキッシュ最寄り行きなんですって!ほら、アクシア君も早く!」

 

「はいはいはい……」

 

 商人のおっちゃんに冒険者ギルドで受け取った書類を渡し、ギルドカード見せる。

 ギルドカードの所持者が名前の彫られた部分を俺がなぞると、カードが淡く発光した。

 それを見て商人のおっちゃんは頷く。

 

「……よし、あんたらの身元は確認した。準備ができたら出発するから待ってな。ああ、お嬢ちゃんはそっちの荷台に乗っていてくれ。荷物のついでで悪いがな」

 

「良いんですか?ありがとうございます!」

 

 満点笑顔のセーラにだらしなく顔を緩ませるおっちゃん。

 これはさっき見たような光景である。

 デレデレしているおっちゃんをなんとなしに眺めていると、俺の視線に気がついたおっちゃんは咳払いをして厳めしい顔を作ると俺に言った。

 

「……おめえはちゃんと歩けよ。いざという時の護衛なんだからな」

 

「……わかってますよ」

 

 当然そのつもりであったのだが、まったくもって理不尽だった。

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