異世界転生したので無双できると思ったら既に現地転生者が無双していたんだが? 作:萬屋久兵衛
ギルドカードに刻まれた自分の名前をなぞる。
ギルドカードに刻まれた名前が発光する。
もう一回なぞる。
ギルドカードに刻まれた名前が発光する。
さらにもう一回なぞる。
「アクシア君、そんなにギルドカードが気になるの?」
馬車の荷台に座ったセーラに問われて、その隣で歩いている俺は頷いた。
「ああ。なんの加工もされていないただの金属板に血を垂らして指でなぞるだけで光るなんてこと、俺のいた世界の常識じゃ考えられないからな」
しかもギルドカードが光を発するのは血を垂らした本人がなぞった時だけだとかで、その性質を利用して冒険者の身分証明として使われているのだ。
馬車隊への合流の際に商人のおっちゃんにギルドカードを光らせてみせたのも、間違いなく冒険者ギルドから派遣された冒険者であることを証明するためだったのである。
しかし、ぶっちゃけ用途がニッチというか、この中世な時代にそんな機能いる?という感じの代物であるが、どういう理由でどのようにして作られたのだろうか。
……まあ、魔法の力でさっくりと、みたいに答えられたらそれまでなのだが。
「ふうん。そういえば、アクシア君がいた世界には魔法がないんだったかしら?」
「もしかしたら俺の知らないところで存在してたのかも知れねえが、世間的には魔法なんておとぎ話の中にしかなかったよ。それよりこれ、どういう仕組みなんだ?」
セーラならこういう物の仕組みを喜び勇んで解明しているだろうと踏んで聞いてみる。
案の定セーラは目を爛々と輝かせてこちらに身を乗り出してきた。
「知りたい?」
「知りたくはあるんだが……一応仕事中だし、手短に頼むぞ」
無論、他の冒険者たちと共に馬車隊にくっ付いて街道を歩いているだけなので仕事らしい仕事はなにもしていない。ただ、セーラの様子から話が長くなりそうな雰囲気を察してそう言っただけである。
「ええ~。まあ、確かにその通りではあるし仕方ないか。それじゃあ手短に説明するけれど、これは冒険者が持つ魔力の応用なの」
「魔力?俺の恩寵武器は魔法が使えるようになるようなもんじゃないぞ?」
「別に魔法を使う者だけが魔力を持っているわけじゃないわ。恩寵武器を具現化するのにだって魔力を使っているんだから」
「そうなのか?」
「そうなのよ。恩寵授与の儀式っていうのは、そもそも恩寵武器を使えるようにするためのものじゃなくて魔結晶の持つ力──所謂魔力と、人が潜在的に持っている魔力を共鳴、活性化させるためのものなの。恩寵武器を具現化できるようになるのはその結果に過ぎないわ。恩寵武器はあくまでも個人の資質の発現であって、アルトリウスなり他の誰かなりから受け取るようなものでは間違っても──」
「ちょっ!そんなヤバい話をデカい声でするな!」
俺は徐々に声が大きくなっていくセーラを慌てて制止する。
こいつ、特級の厄ネタを平然とぶちまけやがった!
「そう言われても、ギルドカードの仕組みを説明するためには必用な事前知識だし……」
「だからといって教会に睨まれそうな話を外でするんじゃねえよ……!今ので言いたいことは理解したから!」
周囲の様子を確認するとデカい声で制止したせいでこちらの方を何事かと見ている者はいるが、幸いにしてセーラの問題発言は耳に入らなかったのか咎めるような視線は見受けられなかった。
俺は安堵の息を吐いてから、頭を抱えてしまう。
恩寵授与の儀式の真実と共に、昨日セーラが教会を敵に回すと言っていた理由を理解した。してしまった。
恩寵武器は救世主アルトリウス様から与えられたものであるという触れ込みなのに、アルトリウス様はまったく関係ないなんて話をしたらそりゃあ教会は殺してでも黙らせようとしてくるだろう。
「アクシア君は慌てすぎよ。普通に話をしていれば誰も気になんてしないのに」
「そういう発言は自分の年齢と目立つ容姿を自覚してから言ってくれよ……」
俺の苦言に、セーラはにっこりと微笑んだ。
「あら、褒めてくれるの?嬉しいわ」
いや、確かにそういう意味で言ったけどそうじゃねえ。
……とは口には出さず俺はそっぽを向いた。後ろからセーラがくすくすと笑う声を聞きながら頬の熱を冷ます。
「まあ、その辺の詳しい話はまた追々ね。そういうわけで冒険者は儀式によって魔力を使えるようになるわけだけれど、私が調べたところ、その魔力は冒険者の血にも混ざっているみたいなの。だから周囲の魔力を取り込もうとする魔石の性質を利用して、ギルドカードに個人の魔力を覚えさせて冒険者本人の魔力と共鳴するように仕向けたってわけね」
「ほおん。そんな仕様になってるのか。というか、血液と魔力の関係性なんてよく調べようなんて……?」
俺はそこで言葉を止めた。
「……なあ。もしかして、このギルドカードの仕組みって」
俺の問いにセーラはにこりと笑った。
「ええ。私が解明した技術よ」
「やっぱりかあ……」
思わずため息を零す俺にセーラは語る。
「一時期魔石をもっと有効利用できないかって研究していたことがあったの。結局大した成果は出せなかったのだけれど、これもそんな成果のひとつということね」
「ちなみに、それは何代前の話なんだ?」
「転生し始めて最初の方だったと思うのだけれど……確か五代目とか、六代目とかの辺りだったかしら。もっとも、冒険者ギルドの仕組みが整備されたのもこの技術がギルドカードに利用され始めたのも随分後の話だけれどね」
「まあ、必ずしも発見された技術がその場その時代ですぐに役に立つとは限らないからなあ」
すぐに役に立たなかった技術ってなんだと聞かれても具体的に思いつかないけど。
「それにしても中世文化っぽい時代に本人認証システムができるなんて流石魔法がある世界は違うな」
俺が何気なく零した言葉に知識のにおいを感じたのかセーラが反応する。
「アクシア君のいた世界にも似たような仕組みがあったの?」
「あ、ああ……」
先ほど以上に身を乗り出して食い付いてくるセーラの勢いに押されて、俺は説明する。
「指の指紋ってあるだろ?あれを使ってスマホ……はわからねえか。扉の鍵を開けたりするんだよ。鍵を持ってなくても指先ひとつで開け閉めできるからけっこう便利でなあ」
俺の説明に、しかしセーラは首を傾げる。
「しもんって?」
「ああ、そこからなのか……。昔から認知されてるもんだと思ってたけど、意外とそうでもないのかね。指の先を良く見ると渦巻きみたいな模様があるだろ?それが指紋って言って、人によって形が違うんだよ。さっき説明したみたいに扉に自分の指紋を登録して鍵の代わりにしたり、手の脂でその辺に指紋の跡が残ったりするから犯罪捜査の証拠に使われたりするんだ」
「つまり、魔力を活性化させていない人でも個人の特定ができるってこと!?指先にそんな特徴があったなんて!」
セーラはちょっと大袈裟な程に興奮して自分の指先を穴が空くほど見つめたり、俺の手を掴んで自分の指先と見比べたりしている。
ううむ、これが知識チートの快感か……。
正直な話、千年も転生を繰り返しているセーラをあっと驚かせるのは実に気持ちが良かった。
……聞きかじった知識をひけらかす俺よりも、魔石の研究で実績を残したり騎馬民族の王様になっちゃったりしていたらしいセーラの方が圧倒的にすごいという説もあるが、気にしたら負けだ。
俺が異世界転生者の力を噛み締めていると、セーラが掴んでいた俺の手をぐいぐいと引っ張ってくる。
「そういえばアクシア君、指紋が犯罪捜査に使われるって言ったわよね?指紋の採取と保存はどうやってやっていたの?指紋を証拠とする法的根拠は?そもそも捜査機関はどこの管轄?ねえねえねえ──」
「いや……あの……」
そんな細かいところまで突っ込まれるとちょっと俺の知識量が足りないというか……。
セーラに拘束されて逃げられない俺は、しばらくの間彼女の質問攻勢に晒されて冷や汗をかき続けるハメになったのだった。