死んでも治らぬ努力嫌い男の異世界世渡り記 作:テムテムLvMAX
王都バルバンナードへ行こうとした俺を引き止めた幼馴染と電撃結婚したと思ったら村によく来る行商人さんが襲われている!
よく出来たあらすじだよ、次から次にイベント盛り沢山だ! もうたくさんだ!
「うぉわぁー! 助けてー! ママー!」
あの行商人積み荷と一緒に恥も投げ捨ててるよ、南無三、ちゃんと助けて恥かかせてやるからな、死んだら恥ずかしがることもできないからさ。
「なんであのバカ護衛の一人も連れてこなかったんだ!」
呑気に考えても馬車に護衛の一人もいなかったのが災いしてると思うんだ、行商人は積荷を投げ出して錯乱状態で大事な積荷を投げてどうにか襲撃者の気を逸らそうとしている。
襲われた場所は村外れの広場、木こりたちが森を切り開いた跡地だ、切り株だらけで椅子には困らないが最低限通れる道を作ってあるだけで切り株が邪魔して馬車が逃げられなくなっている。
で、肝心の襲っているのは誰かと言うと。
槍のような湾曲した双角、鎧のような毛皮、引き締った四つ足、何より馬より大きい背丈を持つ鹿型野生生物。
「オオツノシカシラか……一匹だけだが、なんだあの大きさ初めて見るぞ……」
「猟師のおじさんがそう言うって相当だな、狩れるんですか?」
「ロミア、ありゃあちょっと無理かもしれん……元々毛皮のせいで矢が刺さりにくいが、デカ過ぎて矢が役に立たんぞ……それに見ろあの角のキズを……修羅場を潜ってきた猛者だ。
あと! 猟師のおじさんじゃなくて
猟師のオッサンが言うなら間違いなく危険だな、普段から野生生物を相手に命のやり取りしてるから、その言葉には信用しか無い。
だがオオツノシカシラは普段温厚で草食性だと冒険ガイドブックにはある、積み荷を襲う必要は無いはずだが何に反応した? 考え事してたらアルミスが俺の背後へやって来た、何やってんだ危ないな!
「あのシカシラ……怒ってる?」
「アルミス、危ないぞ下がってな……いや怒ってると言ったか、その理由は?」
「だって見てよ、あそこの木陰にシカシラの子供が居るよ」
「子供を守るために……それだと納得がいくが……今までなかったろうこんな事」
この村の近辺で、俺が過ごしてきた十数年の間で行商人が襲われるなんてことは無い、野生生物の被害に遭うのは木こりや猟師のように森の奥、山の深い所へ入っていく人間だ。
この村のように辺境で暮らす人間は野生生物を恐れて敬いすらするが、野生生物側も人間を恐れて森へ隠れているのが常だが、何故今になって人里近くの街道、それも子供を連れて来たんだ、やはり引っかかるのはそこだ、それが分からないうちにあれを狩ってしまえば何か……取り返しがつかなそうな、そんな予感がする。
猟師のオッサンが俺に近寄ってくる、その手には使い込まれた弓と鋭利な矢じりの矢が握られていた。
「ロミア、弓は使えたか?」
「おじさん程じゃないけど練習はしてた」
「理由はどうあれ、あの巨体だ、人を恐れなくなった獣ほど怖いものはない、事情はおじさんも気になるけど後回しだ、足を狙って撃て。あと
娘に咎められて露骨にしょげるとは親バカだったのかおじさん。
しょげるのも程々にして真新しい弓と矢を何本かを渡された、なんで新品持ってるんですか?
「ちとアレだが、ご祝儀な」
そういうことなら遠慮なく使わせてもらおう、弓は扱い慣れている、ちゃんと狙えば当たるくらいにはな、後はオオツノシカシラが暴れて無ければ完璧。
「仕留められないから追い返す事を念頭に、ロミア、やるぞ」
「はいよ!」
未だ馬車に夢中なオオツノシカシラの太く強靭な脚を狙い矢をつがえ、弦を引くが……ちょっと硬いな、張りが強いが慣れるさ、その内。
右弦を引く手をギリギリまで引き絞り頬の真横に弦がつく辺りで止め、弓を支える手で狙いをつけ……今!
__ドヒュン!
「キィ──ーン!?」
「当てられたが……やっぱりか」
脚を貫くことは無かったが表面を削り取り矢は地面へ落ちていく、おじさんの言う通り硬いな、矢がまともに刺さらないとは。
だが俺の一射でオオツノシカシラの注意はこちらに向いた、馬車に向けていた槍のような双角を俺の方へ向け、左右に揺らす、威嚇だ、今から刺し殺すぞという合図。
しかし猟師のおじさんは咄嗟に位置を変え、森へ追いやるように矢を放つ、なんと番えた矢は3本、同時に撃つ。
__バシュン!
俺の弓の数段上の張りを持って弓で放たれた三本の矢は大きな双角と眉間へ向けてブレなく飛んでいく。
「キュオォ──ン!?」
全部当たった、変態かよ、それでも矢は傷口をつけるだけで致命傷を与えられ無い、しかし今ので十分にこちらを危険視したオオツノシカシラは後退り始める、良いぞそのまま去ってくれ。
「この野郎! シカシラのクセに!」
「おいバカ! 何やってんだ!!!」
と、うまくいきそうな所で我に返った行商人が積荷に入っていた、爆薬に火をつけオオツノシカシラへ投げつけた、バカなことしやがって! 爆薬程度で死ぬ生き物じゃないんだぞ!
「(このまま爆破したら確実にアイツは殺される、暴れ狂ったオオツノシカシラは……村を滅ぼす事もあると知らないのか!)チッ!」
導火線についた火は丸められた爆薬へ近づいていく毎にそれを見ている間は時の流れがゆっくりとしたものになる感覚がある。
やれるか……? 導火線を……ここから走れば火を消せる……!? 無理だ距離が空いて間に合わない、しかし爆破してしまえば……村の皆が……! どうする俺! 上手くやる方法はないのかっ……!
「貸して!」
「うわっ! アルミス何を!」
「こうすんのよ! 硬ぁぃぃ!!」
アルミスお前……まさか導火線を撃つのか!?
彼女の構えは猟師のおじさんと同じく膝立ちになり手ブレを抑え、正確に狙うための構え、俺でも硬いはずの弦を口では硬いと言いながら軽々と引くと淀みなく矢を放った。
「ふんっ!」
__ズバン!
「や……、やりよった……いやさすが娘……お父さん感服……!」
「どうよ? 自慢の妻でしょ?」
「言う事無しだな……いやほんと」
「これでも猟師の娘なんですよ私」
導火線が矢によって切り落とされ火が爆薬に届くことはなく、そのままコロコロ転がっていく、ほっと一息胸を撫で下ろしていると、オオオツノシカシラは子供を連れて森の奥へ去っていった。
何とか、無事に収まった、オオツノシカシラの背中を見送り、バカの行商人へ言う文句を考えながら馬車馬をなだめすかしていた。
「はぁ〜、また1日王都へ遠のいたな……」