「バフォメットが失脚しました」
情報部の生徒から報告を受けたマコトは椅子に深く腰掛けたまま瞑目し、大きく深呼吸する。
「キキキッ! まさか、自らスキャンダルを起こすとはな」
マコトは堪えきれないとばかりに笑みを漏らす。──不知火カヤ。先日、主席行政官であるリンに対してクーデターを敢行。実権を奪い取る形で連邦生徒会長代理に就任した人物だ。そして、雷帝によって連邦生徒会に送り込まれた人物でもある。事実、彼女の暴君気質や恐怖政治を是とする思想は雷帝の影響が色濃い。
だが、カヤと雷帝では政治手腕に雲泥の差がある。結局、カヤは失脚。私兵として連れまわしていたFOX小隊と共に矯正局送りとなった。
「奴のことだ。何か言い残したのだろう?」
「はい。『いずれ本当の超人が現れ、誰もが私の意思を理解する』と」
「キキキッ! 防衛室長ともあろうお方が負け惜しみとはな」
下を向いて肩を揺らすマコト。そして、読み終えた報告書を机の上に放り投げる。
「……ご苦労だったな。もう下がって構わん」
「かしこまりました。では、失礼いたします」
後ろ手に組み、踵を揃えて直立した姿勢で待機していた情報部の生徒は一礼し、執務室を後にする。マコトが窓の外に目を向けると空が徐々に白みつつあった。
「私も帰るとするか」
席を立つマコト。次の瞬間、卓上の電話が鳴る。
「キキキッ! こんな時間に何の用だ、ヒナ」
「アビドスで雷帝の遺産が見つかったわ」
「何だと?」
先ほどまでの軽薄な態度が消え失せ、席に座り直すマコト。
「アビドス……、シェマタか?」
「ええ。人員を回してくれるかしら?」
「分かった。私もすぐに向かう」
そう言ってヒナからの電話を切った瞬間、先ほどとは違う情報部の生徒が息を切らして執務室に駆け込んできた。
「議長! アビドスにて雷帝の遺産が見つかった、との報告が」
「分かっている。アビドスに人員と爆薬を回せ」
「では、温泉開発部に連絡して解体準備を……」
「必要ない、現地には空崎ヒナが居る。私も今から向かう、何かあればイロハに言え」
マコトは指示を飛ばしながら壁に掛けてあったコートに袖を通す。そして、返事を待つことなくアビドスに向かった。
「待たせたな。状況はどうだ?」
「解体処分で問題ないわ。許可も取ってある」
「そうか、分かった」
マコトは手短に確認を終えると遅れて到着した『
シェマタが解体処分されたことを見届けたマコトはすぐさまゲヘナ学園に引き返す。
「おや、もう戻ったんですね。マコト先輩」
「イロハか、すぐにサツキたちを集めろ。プロトコル『ラスト・リゾート』を開始する」
読んでいた本を閉じ、ソファから立ち上がるイロハ。
「……ようやくですか。待ちくたびれましたよ、マコト議長」
「ああ。これまでの長きに渡る憎悪の負債、その全てを清算する時だ」