プロトコル『ラスト・リゾート』   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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ベリアルの憧憬①

 矯正局の壁が轟音とともに吹き飛ぶ。壁の向こうから現れたのは地面に届くほど長い髪をした小柄な生徒、天童アリスだった。その後ろにはアリスと同じゲーム開発部に所属する姉妹、モモイとミドリが銃を手に立っている。

 

 「アリス、ネル先輩を助けに来ました!」

 「うわ、すっご。木端微塵じゃん……」

 「ネル先輩、無事ですか?」

 

 ゲーム開発部の見知った面々を見て警戒を解くネルだが、すぐに怪訝な表情を浮かべる。

 

 「なんでお前らが出てくるんだ。それにおでこは居ねえのか?」

 「貴女たちは第3サンクトゥムの遊園地で一緒だった……、どうしてここに?」

 

 ネルと同様に、ヒナも疑問を口にする。そのとき、ツルギがモモイとミドリの後ろに誰かが居ることに気付く。

 

 「せ、先生?」

 「うん、遅くなってごめんね。みんな無事みたいで良かった」

 

 現れたのは先生、そしてユズとコユキだった。2人とも、先生のシャツを握りながらネルをジっと見ている。その視線に気づいたアルが耳打ちする。

 

 「……貴女、先生の後ろに居る子たちに何かしたの?」

 「あん? まあ、チビの方は何度か捕まえて反省部屋送りにしてるが」

 

 おでこの方はただの人見知りだろ、と首をかしげるネル。

 

 「全部、リオから聞いたよ。ビデオメッセ―ジで、だけどね」

 

 先生は簡単に説明を終えるとヒナに視線を向ける。ヒナは深呼吸をして瞼を開く。彼女の目から、迷いが消える。

 

 「先生、マコトの計画は最初から破綻しているわ」

 「そうだね。計画が失敗しても成功しても、その先が無い。自傷行為みたいなものだ」

 「私は、マコトを止めたい。だから、力を貸して欲しい」

 「勿論だよ。皆でマコトを止めよう」

 

 先生の袖が引っ張られる。ユズだ。それに、複数人が廊下を走ってくる音が聞こえる。先生は振り返り、コユキを見る。

 

 「にはは、お任せください! ポチっとな」

 

 コユキがタブレットの画面をタップすると矯正局の管理システムがダウン。隔壁に通路を塞がれ、立ち往生する看守たち。

 

 「よし、今のうちに逃げるぞ」

 

 ツルギを先頭に、アリスの開けた穴から脱出しようとする先生たち。だが、一行を呼び止めるように正面の牢屋から声がかけられる。

 

 「……ところで先生、ゲヘナの元議長を元に戻す方法はあるのかい?」

 「久しぶりだね、カイ。山海経での一件以来かな」

 「矯正局で再会するとは思わなかったがね。……私なら、力になれると思うのだが?」

 

 憑き物が落ちたような、それでいて胡散臭さの抜けきらない微笑を浮かべるカイ。

 

 「解放しましょう、先生!」

 

 アルが沈黙を破る。

 

 「利害の一致した相手と脱獄なんて凄くアウトローだもの!」

 「……ふふ。そうだね、分かった。お願い出来る?」

 「にはは、任せてください。こんなの、ちょちょいのちょいですよ」

 

 コユキが牢屋の扉を開き、アリスが手錠を引きちぎる。カイは身体を軽く伸ばし、ほぐす。

 

 「当然、恩は返すとも。私の専門は内科だ、薬剤が原因なのだろう?」

 「それじゃあ、行こうか」

 

 牢屋から脱出した一行は外で待っていた便利屋のメンバーと合流する。

 

 「別に、支障は無いけど……。先生、少し遅かったね?」

 「ちょっと、ね」

 

 矯正局の裏手で待機していたカヨコは脱獄してきた先生たちを見て声をかける。

 

 「取り敢えず、情報共有からだね」

 「そうね。私が説明するわ、構わないかしら?」

 

 ヒナが一歩、前に出る。無言の肯定。ヒナはこれまでの経緯とマコトの目的をカヨコに伝える。

 

 「くふふ、アルちゃんホントに退屈しないね~?」

 「はぁ。ムツキ、煽らないで」

 「あ、アル様の邪魔をするやつは、許しません!」

 

 アルはショットガンをリロードし、暴走寸前のハルカを慌てて宥める。

 

 「……私もイブキ議長には戻ってきて欲しいと思ってる」

 「そりゃ分かったが、具体的にどうするんだ?」

 

 銃の整備を終えたネルが訊く。先生も頷き、カヨコに今後の計画を尋ねる。

 

 「じゃあ、まず現状を整理するね」

 

 そう言ってカヨコはヒナから共有された情報を整理し、組み立てていく。

 

 「まずはイブキを元に戻さないとダメだね。今のマコトを説得できるのはイブキ議長しかいない」

 「だが、相手は未知の薬剤。それなりに時間が必要だよ?」

 「そう、だから時間を稼ぐ必要がある。……それぞれのね」

 「カヨコ、それぞれっていうのは?」

 「まずはマコト、こっちは既に先生が手を打っている。そうだよね?」

 「うん、もう頼んであるよ」

 「分かった。あと、トリニティとミレニアムも止める必要があるね」

 「何故だ?」

 「さっき、ゲヘナが両校に宣戦布告した。多分、マコトの差し金」

 「ま、ゲヘナでも風紀委員長抜きで三大学園の相手は無理そうだよね~」

 「ムツキの言う通り。けど、トリニティとミレニアムも弱体化してる」

 

 カヨコはツルギとネルに視線を向ける。

 

 「順当に考えれば消耗戦になる。三大学園が弱体化すれば、キヴォトス全体のパワーバランスが崩壊するかも」

 「やばいじゃん! けど、ユウカが戦争なんてするかな?」

 

 モモイが素朴な疑問を口にする。トリニティとミレニアムがゲヘナからの宣戦布告を無視すれば、マコトを止めるだけで済む。だが、カヨコは残念そうに首を振った。

 

 「先手を打たれてる。マコトがミレニアムの生徒会長を倒したみたい」

 「リオ会長を倒しちゃったの!?」

 「水を差すようだが、トリニティは確実に参戦するだろう」

 「なんで!? お嬢様学園じゃないの!?」

 「トリニティとゲヘナは確執があるからな。それに、今のトリニティはエデン条約の一件で政治に空白がある。確実に、どこかの派閥が動くだろう」

 「……マコトは両校が動くように布石を打ってる」

 「政治的な問題が絡むと、シャーレの権限も使いづらいね」

 

 口元を指で触りながら、先生が呟く。

 

 「長々と説明されたがよ。つまるところ、あたしらで戦争を止めれば良いんだろ?」

 「なら、一足先に私と先生はイブキの元へ行かせてもらうよ」

 「そうだね、今は時間が惜しい。行こう、カイ」

 

 トリニティの救護騎士団の元へと向かう先生とカイ。だが、アルが先生を引き止める。

 

 「先生、お願い。助っ人の場所を教えてくれないかしら?」

 「私も行くよ、社長。スポッターが必要でしょ?」

 「わ、私もついていきます!」

 「アルちゃん一人だと心配だもんね~。私もついていくよ」

 

 その光景を見ていたヒナが大きく息を吐く。

 

 「決まりね。先生たちはイブキ議長の元へ、便利屋はマコトの足止め。それ以外のメンバー全員で戦争を止めに行きましょう」

 「じゃあ皆、気をつけて」

 

 先生の声を合図に全員が動き出す。




 久しぶりの投稿です。卒論を書いたり、夏コミに行ったり、コロナになったりしてました。
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