プロトコル『ラスト・リゾート』   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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ベリアルの憧憬②

 ヒナたちが矯正局から脱獄する少し前、トリニティとミレニアムの連合部隊とゲヘナの部隊がトリニティ総合学園とゲヘナ学園の境界地点で睨み合っていた。

 

 「では、最終ブリーフィングを始めますね」

 

 前線から少し離れた位置に設営された、ゲヘナの指揮所でチアキがイロハとサツキに声をかける。

 

 「全体の指揮は私が。イロハちゃんは戦車部隊を、サツキ先輩は歩兵部隊を指揮してください」

 「棗、了解」

 「京極、了解」

 「マコト先輩が到着するまで耐えるのが大目標です。では、持ち場へ」

 

 虎丸に乗り込み、前線へと向かうイロハ。ほどなくして、戦車部隊と合流する。少し離れた位置ではサツキが歩兵部隊に情報を共有している。

 

 「合図がありました、開戦します」

 

 サツキからの合図を確認したイロハが敵陣の中央に砲撃する。それを合図に他の戦車も砲撃を始めた。途切れることなく撃ち込まれていく砲弾。無論、連合側も黙ってはいない。トリニティの砲兵部隊が中心となって撃ち返してくる。

 

 「戦力の質・量ともに我々が優位です。落ち着いて反撃を!」

 

 陣の中央で檄を飛ばすのは正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミだ。そこへ、ミレニアムから通信が入る。

 

 『こちら生塩。敵方は第136回の合同火力演習と同じ動きをしています。よって、プランA2の実行を進言します』

 『羽川、了解。自陣両端の静山と仲正を動かします』

 『了解。AMASを動かし、フォローします』

 

 配置されていたAMASが遠隔で起動し、射撃に加わる。弾幕を盾に動く正義実現委員会。それを確認したチアキからイロハたちに通信が入る。歩兵を動かすサツキ。それに合わせてイロハが号令をかける。戦車部隊の一部が壁となり、連合側からの射線を遮る。

 

 『戦略はミレニアムが、現場はトリニティが仕切ってるっぽいです』

 『まぁ、そりゃそうですよね』

 

 空を見上げるイロハ。太陽に隠れて分かりづらいが、ミレニアムのドローンが飛んでいるのが確認できる。

 

 「取り敢えず、やりたいようにやって貰いますか」

 

 イロハはサツキに合図を送り、徐々に後退していく。追いかけるように正義実現委員会が左右から囲んでくる。急発進。イロハ率いる戦車部隊は機動力を生かして敵陣の中央に突貫しつつ、挟撃を振り切ろうとする。

 

 『こちら白石、破損したAMASを自爆させる。巻き込まれないように注意を』

 

 轟音とともに戦車部隊の先頭が吹き飛ぶ。だが、ゲヘナ側に動揺は無い。事前に、情報部から「エンジニア部が自爆機能を搭載したがる」ということは知らされていた。爆発によって生じた黒煙で視界が遮られたこと以外、問題は無い。

 

 『爆発、してますね』

 『ですねー』

 

 イロハは陣形を組み変える正義実現委員会を砲撃で妨害しつつ、次々に爆発していくAMASを遠い目で見つめる。

 

 『お相手、なんとしても囲って叩きたいみたいですね』

 『どうします? かなり、陣形が広がってるのでクロケルを動かしても良さそうですが』

 『もう少し待ちます。……北東に敵影。少人数なのでミレニアムのC&Cっぽいですね』

 『こちら、メフィストフェレス。コールサイン04は居るかしら?』

 『ベルゼブブ、報告を』

 『こちら、ベルゼブブ。コールサイン01から03を確認、04は居ませんわ』

 『アガリアレプト、了解。ベルフェゴール、相手の陣形を乱せますか?』

 『可能です。動きますね』

 

 イロハが動くと同時、正義実現委員会も展開を終える。後退するゲヘナの部隊を包囲するべく、号令をかけるハスミ。

 

 『こちら羽川。左舷端の静山、右舷端の仲正、聞こえていますか?』

 『静山、問題ありません』

 『仲正、問題ないっす』

 『警戒を怠らず、包囲を……』

 

 無線が、途切れる。更に、AMASが次々と機能停止していく。一瞬で指揮系統が麻痺する連合側。混乱の隙を突き、ゲヘナの部隊が打って出る。

 

 「ちょっと! 何が起きてるの!?」

 「ほぼ全てのコンピュータや通信がダウンしている。ハッキングかい?」

 「いや、直前まで何の問題も無かった。これは?」

 

 混乱しているのは正義実現委員会だけではない。ミレニアム自治区も大混乱に陥っていた。ミレニアムタワーを始めとする重要施設は予備電源で動いているが、長くは持たない。通信は全て不通。復旧しようにも、原因が分からない。

 

 「トキさん、居ますか?」

 「分かっています。先行しますので通信が復旧次第、先輩方に帰投を」

 

 トキは武装を手に、非常階段から外に飛び出す。着地。大通りへ出ようとする。瞬間、背後から聞き慣れた声が聞こえる。

 

 「待て、トキ。犯人は温泉開発部だ、一筋縄じゃいかねえぞ」

 「ネル先輩。……なるほど、手分けしてインフラを破壊したのですね」

 「そういうこった」

 「では、私が部員を。ネル先輩は下倉メグと鬼怒川カスミをお願いします」

 「ああ、人のシマを滅茶苦茶にした責任は取って貰わねえとなぁ!?」

 「……すみませんが、言動がカタギのそれじゃありません。ミレニアムの品位が疑われます」

 「いつもこんな感じだろうがッ!」

 「今日は特に気合が入ってます」

 

 路地裏から大通りへと出る2人。その姿を雑居ビルから確認したカスミが本部に連絡を入れる。

 

 『こちらクロケル、目的は達成。また、コールサイン00と04を確認』

 『了解。では、ベルゼブブ。作戦通りに』

 『承知いたしましたわ。予定通り、我々は左舷端を』

 

 カスミたち温泉開発部が通信網を破壊したことで混乱する正義実現委員会。そこに、ハルナ率いる美食研究会が襲いかかる。それと同時、サツキが指揮する歩兵部隊が右端に殺到する。

 

 「私たちは中央を攻めます。全速前進!」

 

 更に、イロハの号令で戦車部隊がハスミの居る中央に火力を集中する。即座にトリニティの砲兵部隊が対抗砲撃をしようとするが、上手くいかない。アンテナが破壊されたせいで目視で砲撃を行わざるを得なくなっているのだ。

 

 「かくなる上は……」

 

 ハスミが愛銃を構える。スナイパーライフルだが、彼女の腕なら戦車が相手でも有効打となる。だが、それが火を噴くことは無かった。

 

 「気持ちは汲むけど、容赦はしない」

 

 紫のオーラを纏った弾丸が次々に戦車を破壊していく。風紀委員長、空崎ヒナだ。

 

 「このまま、押し返して構わないかしら?」

 「ええ、問題ありません。……風紀委員長」

 「貴女たちの部長も一緒よ。多分、右端を援護しに行ったんじゃないかしら」

 「そうですか、ツルギが……。マシロの方はどうなっていますか?」

 「左端にはミレニアムのゲーム開発部が援護に向かったわ」

 

 思わぬ助っ人の登場に沸く連合側。対して、ゲヘナ側は一様に渋い顔をする。当初の予定では温泉開発部が通信網を破壊し、美食研究会と歩兵部隊が両端を攻撃。更に、イロハたちが中央を攻めて突破する予定だった。

 

 『風紀委員長らの参戦で当初の作戦は瓦解。体制を立て直し、遅滞戦闘に切り替えます』

 

 消耗したヒナたちが相手ならば、防御に徹することで時間稼ぎが可能だ。そう考えたチアキは全部隊に遅滞戦闘を指示する。

 

 「時間はかかるけど、負けることは無い。あとは、マコト次第ね」

 

 ヒナはマシンガンで戦車を薙ぎ払いながら、呟く。

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