プロトコル『ラスト・リゾート』   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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ベリアルの憧憬③

 リオを倒したマコトは全速力でトリニティ総合学園とゲヘナ学園の境界地点を目指す。先生のことだ。既に矯正局から脱出して戦争を止めるために動いているだろう。マコトは走りながら、腕時計に視線を落とす。

 

 「そろそろか。……いや、もう始まっているようだな」

 

 微かだが、風に乗って爆発音が聞こえてくる。トリニティとミレニアムの連合部隊とゲヘナの部隊が戦闘しているのだろう。砲撃音から察するに、中盤戦といったところだろうか。

 

 「先生たちは、まだ到着していないようだな」

 

 周囲を見渡すマコト。先生やヒナの姿は無い。だが、アビドスの自治区が近いようで砂で汚れた廃墟が目に付く。マコトは速度を落とす。最短距離で戦場を目指すことも出来るが、建物を壊したことでアビドスの生徒と揉める訳にはいかない。

 

 ──カチ。

 

 作動音。瞬間、地面が爆ぜる。マコトは袖で口元を覆いながらバックステップ。一瞬で爆発範囲の外へ飛び出す。

 

 「地雷だな、防犯用か?」

 

 キヴォトス最高の神秘、小鳥遊ホシノが夜な夜な自治区のパトロールを行っていることは知っている。なら、カバー範囲を広げるためにトラップを仕掛けていても不自然ではない。周囲を警戒し、耳を澄ますマコト。足音。右横からだ。

 

 直後、建物の外壁が吹き飛ぶ。

 

 「ぬぅッ……!!!」

 

 舞い上がる粉塵をものともせずに突進してくる人影。ショットガンか、シールドバッシュか。腕を交差し、衝撃に備えるマコトに拳が突き刺さる。マコトは後ろに飛び、威力を殺す。それでも、建物を突き破りながら数十メートル先まで吹き飛ばされてしまう。

 

 「小鳥遊ホシノ、ではないな。誰だ?」

 

 煙が晴れる。そこに立っていたのは、薄いピンクのロングヘアに絵画に描かれる天使のような白い翼、そして「お姫様」が絵本から抜け出してきたような出で立ちの生徒。トリニティ総合学園の生徒会『ティーパーティー』のメンバーにして、パテル分派の首長、聖園ミカだった。

 

 「久しぶりだね。マコトちゃん」

 

 柔らかい笑み。マコトは銃を構えるが、リオと対峙したときに見せたキレは無い。無言で睨み合う2人。そこに、発煙弾が投げ込まれる。ほぼ同時、ミカが距離を詰めに動く。横へ飛び、突っ込んできたミカを側面から撃とうとするマコト。だが、ミカが無造作に薙ぎ払ったサブマシンガンに出鼻を挫かれる。ラリアット。縦に回転しながら吹き飛ばされるマコト。

 

 「クソッ! 怪力女が」

 

 マコトは悪態をつきながらも、凄まじい速さで接近する。ミカは狙い撃とうとするが、左右へジグザグに動かれ、上手く狙いが定まらない。だが、不意にマコトが体勢を崩す。足元に仕掛けられたワイヤーに引っ掛かったのだ。更に、ピンが外れた手榴弾が起爆。一帯が爆炎に包まれる。

 

 「ちょっとちょっと―! 私まで巻き込まないでよ!」

 「集中しろ、ミカ。クレームは後だ」

 

 爆炎でスカートの端を焦がしたミカの横に「アリウススクワッド」のリーダー、錠前サオリが着地する。薄い青色をした目が獲物を狙う肉食獣のように炎の向こうを見据える。瞬間、サオリはミカを突き飛ばしながら横に飛ぶ。刹那、黒い塊が炎から飛び出し向かってくる。

 

 「避けたか」

 

 地面を削りながらブレーキをかけるマコト。マントは煤け、髪の端は焦げて縮れているが、()()()()()

 

 「高火力、トラップ、面での攻撃。……確かに私の弱点だ。流石は先生、生徒の顔と能力をよく覚えている」

 

 そこまで言って、マコトは不敵な笑みを浮かべる。

 

 「だが、思い違いがある。私は別にお前たちと戦う必要はないんだよ」

 

 閃光弾を投げるサオリ。だが、周囲が白で塗り潰されるよりも早く、その場から逃走するマコト。

 

 「に、逃げちゃった……」

 「問題ない。追うぞ、ミカ」

 

 呆然とするミカの呟きに、サオリは淡々と返答する。そして、走りながら無線機を取り出す。

 

 『こちら、サオリ。マコトが移動した、私たちも後を追う』

 『りょーかーい。出番だよ、ハルカちゃん~』

 

 ビルの屋上、フェンスに腰かけたムツキは足をブラつかせながら合図を出す。数秒後、ムツキの視線の先で爆炎が巻き起こる。マコトに気付かれぬように、爆心地から距離を取っているにもかかわらず、ムツキの髪が爆風で大きく揺れる。

 

 『ハルカちゃん、気合入ってるね~。アルちゃんとカヨコっちの方は大丈夫そ?』

 『うん、問題ない』

 

 カヨコは廃墟の一室から爆心地を双眼鏡で覗きながら返事する。現場では、マコトが爆発で倒壊した瓦礫の下から這い出してきた。爆発は回避したものの、倒れてくるビルまでは避けきれなかったようだ。

 

 『ヒナと違ってマコトの火力と防御力は中の上くらい。機動力を削げばやりようはある』

 『そうみたいね。ハルカに手間取ってるみたいだし』

 『そろそろ、サオリたちが追いついてくる。そうなれば、マコトは最短距離で離脱しようとするはず』

 『そこを私が撃てば良いのよね』

 『そういうこと、風速とかは私が伝える。社長は狙撃に集中して』

 

 最終確認を終えたアルは大きく息を吐く。その目にはマコトの姿が映っていた。

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 ──私は、羽沼マコトに憧れた。

 

 パッケージ化した悪事を売り捌く、ブラックマーケットのフィクサー。『雷帝』の独裁政権に靡かぬ、生粋のアウトロー。冷徹で計算高い、悪のカリスマ。

 

 そんな羽沼マコトの姿に、私は憧れた。

 

 「そう、憧れていたの。私は、貴女に」

 

 ビルの上でスコープを覗きながらポツリと呟く。トリガーに掛けた指が、僅かに強張る。得物にライフルを選んだのも、アウトローを志すようになったのも、全ては彼女に憧れたからだ。

 

 だからこそ、私が彼女(羽沼マコト)を止める。

 

 憧れるだけなんて、アウトローらしくないから。

 

 『社長』

 

 トリガーを、引く。

 

 放たれた弾丸が、マコトを撃ち抜く。

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