プロトコル『ラスト・リゾート』   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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エピローグ

 漆黒の引割幕に記された、ゲヘナ学園の校章。自由と混沌を謳う校風らしからぬ、シンプルな美しさ。その厳然たる威容は無法の中に敷かれた秩序を体現しているようだった。

 

 三大校を巻き込んだ戦争の終結から数ヶ月、ゲヘナ学園に籍を置く全生徒が今、この議事堂に集結していた。そして、整然と並んだ列の先頭には著名なゲヘナ生たちが神妙な面持ちで立っている。

 

 「これより、就任式を始めるわ」

 

 司会を務めるのはミレニアムサイエンススクールの生徒会長、調月リオ。合理主義な彼女らしい、短い挨拶だ。そして、貴賓席にはトリニティの生徒会であるティーパーティーの面々が穏やかな表情で着座している。その光景は先の戦いを経ても、三大校の間にわだかまりが無いことを示していた。

 

 「丹花イブキ、演壇へ」

 

 リオに促され、黄金色をした長髪と黒の制服が良く似合う長身の生徒が登壇する。不意にマントがはためき、深紅の裏地が顔を覗かせた。そして、演壇まで進んだイブキは整列したゲヘナ生からの視線を一身に浴びながら口を開く。

 

 「丹花イブキ、ゲヘナ学園生徒会『万魔殿』議長の任を謹んで拝命いたします」

 

 一歩下がり、深く一礼するイブキ。静寂。どこからか聞こえる、パチパチという拍手の音。それはやがて、喝采の嵐へと変化する。

 

 「イブキ新議長、何か話すことはあるかしら?」

 

 ステージに顔を向けたリオ。すると、イブキは居住まいを正してリオの立つ司会台とその横にある貴賓席に身体を向ける。

 

 「まずはミレニアム、トリニティの両校に謝罪を。……本当にごめんなさい」

 

 頭を下げるイブキ。僅かに目を大きくするリオと驚愕の声をギリギリで飲み込むミカ。一方、ナギサとセイアは動揺することなく、平静を保っていた。

 

 「既にマコトから謝罪は受けているし、戦費に関しても話はついている。謝る必要は無いわ」

 「そうだとも。だから、どうか顔を上げて欲しい」

 「……ありがとう」

 

 顔を上げたイブキは4人に礼を述べ、聴衆に向き直ると大きく深呼吸をした。それを見て、僅かに口元を緩ませるリオ。

 

 「イブキ新議長、次を」

 

 浮かべた笑みを誤魔化すように、次を促すリオ。セイアはやれやれ、と首を左右に振る。イブキはコホン、と小さく咳払いをし、ゆっくりと宣言する。

 

 「これより、組織再編後のメンバーを発表します。万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)、前へ」

 

 イブキの合図で該当する生徒らは列を離れ、ステージに上がる。

 

 「書記、羽沼マコト」

 「情報部長、京極サツキ」

 「戦車長、棗イロハ」

 「議員、元宮チアキ」

 「議員、鬼怒川カスミ」

 「議員、下倉メグ」

 

 「「「「「「御身の前に」」」」」」

 

 淀みない宣誓。そして、6人は示し合わせたように舞台袖に移動し、再び整列する。

 

 「風紀委員会、前へ」

 

 先ほどと同様に、風紀委員会に所属する生徒らが登壇する。

 

 「風紀委員長、空崎ヒナ」

 「行政官、天雨アコ」

 「風紀委員、銀鏡イオリ」

 「風紀委員、火宮チナツ」

 

 「「「「御身の前に」」」」

 

 4人の声が重なり、1つとなる。そして、マコトたちとは反対の舞台袖に移動し、整列する。

 

 「給食部、前へ」

 

 フウカを先頭に、6人の生徒が列を離れる。

 

 「部長、愛清フウカ」

 「副部長、黒舘ハルナ」

 「部員、牛牧ジュリ」

 「部員、鰐渕アカリ」

 「部員、獅子堂イズミ」

 「部員、赤司ジュンコ」

 

 「「「「「「御身の前に」」」」」」

 

 呆れた表情を浮かべたフウカが笑顔のハルナに小声で耳打ちする。

 

 「部員になったんだから誘拐はもう勘弁してよね」

 

 すると、ハルナは頭を動かすことなく、返答する。

 

 「部活は健在ですので、悪しからず」

 

 せめて人員を、と死んだ目でボヤきながら舞台袖に移動するフウカにハルナたちが付き従う。

 

 「救急医学部、前へ」

 

 セナともう一人、見慣れぬ生徒がステージへと移動する。

 

 「部長、氷室セナ」

 「客員、申谷カイ」

 

 「御身の前に」「御身の前に」

 

 カイの宣誓が僅かに遅れるが、セナとイブキは沈黙を貫く。そして、2人は給食部の反対側に位置する万魔殿の列に合流する。

 

 「先の事件で活躍したそうですが、専門は?」

 「内科だ、部長殿は?」

 「外科です。是非、正式に所属を」

 

 セナが無表情のまま、打診する。カイは風紀委員会に視線を向け、肩を竦める。

 

 「考えておくよ」

 「そうですか」

 

 セナは小声でそう返すと前を向く。同じように、カイも前に意識を向ける。丁度、イブキが喋り出す直前だった。

 

 「以上、18名を生徒会のメンバーとします」

 

 演壇から一歩下がり、深々と礼をするイブキ。ほぼ同時、左右の舞台袖に整列していた生徒たちが一糸乱れぬ動きで礼をする。数十秒後、イブキが顔を上げる。一拍おいて、演壇の左右に控えていた生徒らが一斉に顔を上げた。衣擦れの音すら揃った、完璧な一致。

 

 「以上で、就任式を終わります」

 

 リオは落ち着きながらも力強い声で閉会を宣言する。

 

 万雷の拍手を背に退席するイブキたちを澄みきった青空が出迎える。

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