プロトコル『ラスト・リゾート』   作:ユウ/伽藍堂(本舗)

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幕間:ベルフェゴールの憂鬱

 マコト先輩が風紀委員長を連れて矯正局の視察に向かったようですね。

 

 風紀委員長、空崎ヒナの無力化は計画における最大の難所。彼女を無力化しない限り、計画は絶対に成功しないでしょう。そして、このゲヘナで()()が可能な人物は前議長の『双翼』として風紀委員長と肩を並べたマコト先輩しか居ません。

 

 だからこそ、マコト先輩は絶対にやり遂げるでしょう。どれほど卑怯な手を使おうと、どれだけ不様な姿を晒そうと必ずやり遂げるに違いありません。

 

 「......私にもまだ、他人に期待する心なんてものが残っていたんですねぇ」

 

 私は私を嘲るように呟いた。乾いた笑い声に合わせて、視界の端で伸びきった赤毛が小さく揺れ動く。きっと、私は心の何処かで期待してしまっているのだろう。思い出の中で燦然と輝くあの日々が、再び戻ってくることを。

 

 ──全ては虚しいもの(vanitas vanitatum et omnia vanitas.) だというのに。

 

 他人への期待も、未来に向けた努力も、全ては水泡に帰すものだというのに。あの事件を機に、一切の希望を棄てると決めたはずなのに。──私は期待してしまっている。議長と過ごした日々が戻ってくることを。

 

 「……議長が今の私を見たらきっと、励ましてくれたんでしょうねぇ」

 

 あの事件が起きず、今も議長が健在ならチアキが病的に写真を撮るようになることも、サツキ先輩が非科学的な催眠術に傾倒することも無かったのでしょう。

 

 エデン条約だってそうです。元々は雷帝への対抗策として連邦生徒会長が提案したものでしたが、肝心の雷帝が失脚したことで条約は未締結のまま、放置されていました。それに目を付けた議長は条約の内容を敢えて曲解し、歴史的にも根深い対立関係にあるトリニティとの不可侵条約に仕立て上げたんです。

 

 アリウスの横槍が入ることも無かったでしょう。なにせ、当時のマコト先輩と風紀委員長が議長のもと、連携していましたから。間違いなく、事前に防げたはずです。まあ、机上の空論ですが。

 

 「さて、やりましょうか。面倒ですが」

 

 私は風紀委員会に電話を繋ぎます。呼び出し音。少し待つと苛立ちを隠しきれていない声が耳に飛び込んできました。もう既に電話を切りたい気分です。

 

 『風紀委員会、行政官の天雨アコです。用件は何でしょうか?』

 『万魔殿、議員の棗イロハです。風紀委員会に便利屋68の逮捕を要請します』

 『委員長が不在ですので却下します』

 『風紀委員長の不在は承知していますが、これは議長命令です。便利屋68を逮捕してください』

 『被害の後始末をするのは私たちなんですよ!?』

 『つまり、風紀委員長が居なければ治安維持活動も出来ないと。では、来期の予算は大幅カットという方向で構いませんね?』

 『なんでそうなるんです!? むしろ、装備や訓練の為に予算は増やすべきでしょう!?』

 『では、風紀委員長抜きでも治安維持活動が出来ることを証明してください。属人的な組織に割り振る予算はありませんので』

 『言わせておけばッ!? 良いでしょう。やって見せますともッ!』

 『では、お願いします。……ああ、言い忘れるところでした』

 『何ですッ!?』

 『アリウスの生徒と便利屋68が接触しているらしいとの情報があるので、逮捕後は必ず万魔殿に身柄を引き渡してください。それでは、よろしくお願いします』

 

 通話終了のボタンを押し、電話を切ります。最後に行政官が喚いていましたが、──聞かなかったことにしましょう。これで、風紀委員会は便利屋68の4人と錠前サオリを風紀委員長抜きで逮捕しなければいけなくなりました。最終的に逮捕することは出来るでしょうが、風紀委員会側にも相当な被害が出るでしょうねぇ。

 

 軽く伸びをしてクッションに体重を預けようとしますが、すぐに無線が鳴ります。恐らく、マコト先輩でしょう。

 

 『ベルフェゴール。準備が完了した、決行しろ。オーバー』

 『アドラメレク。了解、プロトコルを実行します。オーバー』

 『……たった今、急用が入った。帰投が少し遅れるが、気にするな。アウト』

 

 ふむ、どうやら風紀委員長こと空崎ヒナの無力化には成功したようですね。




 こういう「独白」的な文章を書いたことが殆ど無かったんですけど、前回の出来るだけ自然な展開にしつつ、必要な情報を開示するのとはまた違う難しさがありますね。
そもそも、一人称視点が難しい。
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