セシリアとの決闘騒ぎが終わり、俺のクラス代表が決定してしばらくした、いつもの朝のことだった。
山田先生がどこかそわそわした様子で入室してHRを始める。
……が、様子がおかしい。
いつもならすぐに終わるはずなのに、時間稼ぎをしているような……
そんな様子を見かねて、少し離れた位置に座っていた女子が声をあげた。
「山田せんせー、普段よりキョドってるみたいですけど、どうしたんですかー?」
「はぇっ!?あー、えっとー……その、ですね?」
質問されても帰ってくるのはどうにも要領を得ない……というか一切情報が返ってこないような返事ばかり。全員の頭の上に疑問符が浮かぶ。
時折時計をみながらあわあわしている先生を眺めていると、突然ドアが開き、誰かが入ってきた。
「悪い、大幅に時間を過ぎてしまった。色々と時間がかかってな」
「お、織斑先生~……!」
どこか泣きそうな声で山田先生が入ってきた人……千冬姉に泣きつく。
「……あ、そういや今日朝からいなかったな千冬ねッ!?」
「学校では織斑先生だと何度言わせる」
ソウデシタ……と頭を抑える。
あ、相変わらずの出席簿ブレード……
出席簿を縦にして、硬い部分でおもいっきり頭に振り下ろす千冬姉マジ千冬姉……あ、頭が……
「あぁ、今日の山田先生が時間を稼いでいた理由だがな。ちょっとした紹介の準備があったからだ……入れ」
ようやく頭のダメージが引いてきたので、再び開いたドアから入ってきた人物に目を向ける。
教室中が更にざわつく。
まずは制服だが、首から下はごく一般的なIS学園の制服だ。
しかし首から上は少し……いや、かなり変わっている。
改造制服であることを活かしてフードを着けているのはまだいい。が、その人物はフードの中……顔に当たる部分にガスマスク……それも顔全体を覆い隠すタイプの……を着けていたのだ。
濃い藍色の髪を三つ編みにしてフードと首の間から一本垂らしているのがわかる。*1
しばらくざわつきが収まらなかったが、千冬姉が一喝するとそれもすぐに収まった。
「本来貴様らと同じタイミングで入学する予定だったが、諸事情により本日より入学となった山崎だ」
ほら、自己紹介を頼む。と、千冬姉が山崎さん?に促すと、こくりと頷いた。
どんな声だろうかとドキドキしていたら、想像の斜め上の方法で自己紹介された。
《はじめまして、山崎蒼です。諸事情で声を出せないので、このようにホログラム画面に文を投影*2してやり取りすることになると思います。少し入学が遅れましたが、よろしくお願いします》
「「「……!?」」」
「ククク……そうなる気持ちもまぁわかる。そういうわけで、今後山崎とのコミュニケーションをとることは構わんが、山崎からのレスポンスが声で返ってくることはまずないと思っておいてくれ。席は……そうだな。廊下側の一番奥が空いてるな、そこだ」
少し悪戯っぽい笑いを浮かべてそう言う千冬姉。
山崎さんの紹介をもってHRは終了した。
それと同時に、多くのクラスメイトが山崎さんに押し掛けていく。
俺は少し離れて見守るに留めたけど。
なんにせよ、すごい人が同級生になったなぁ……
少し時は遡り、俺の入学の前々日の朝のことである。
俺は大型のトラックを運転*3してIS学園へ向かうモノレールの始発駅、その貨物積み込み倉庫に来ていた。
IS学園は東京湾沿岸の離島だが、本土からの移動手段は空からのIS等を用いた移動を除けば海上モノレールのみである。
よって、普段から物資の運搬の際もモノレールを利用するそう。
今回は、俺の山にあった開発・研究機材を一通りトラックコンテナに詰め込み、これをモノレールを使った貨物列車に積載、校舎の整備・開発室に運び込む手筈になっている。
本来よりも入学が遅れたのはこの整備室の一角を改装し、俺の簡易開発ラボに改造するのに時間がかかってしまったからというのも一因である。
無茶言ってすいません、助かります……
なお、持ち上げは以前にウチに訪ねに来てくれた二人が担当するらしい。
ISってすごいね……俺のLBXも負けちゃいないがな!
というわけで変身ターイム。
トラックの荷台に上がり込み、いそいそと
実は前回来て貰ったときに話したことなんだが。
おそらく!何のバックもない俺がバカ正直に名乗りをあげたところでまず確実に研究施設送りでモルモットにされるだろう。
学園に逃げ込むことに成功したとてどっかの政府とかどっかの
そうじゃなくてもまず間違いなく上野のパンダ状態になるッ!!
ので、ある程度IS乗りとしての知名度を上げて下手に無視できない力をつけるまでは女装して過ごすことにしたのだ。
その事を提案したところ、最初こそ反対されたものの懸念事項を伝えると渋々折れてくれた。
ものわかりがよくて大変助かります。
女装のモチーフは生前プレイしていたソシャゲ……ブルーアーカイブのキャラの秤アツコちゃん。
顔面全体を覆い隠すマスクのデザインが良かったので採用しました。
髪は切るのが面倒でかなり伸ばしていたのでウィッグを用意する必要もなく。
一本の三つ編みを編んで肩にたらし、大きなフードをかぶり、行動に違和感がでない程度に胸にパッドを入れて制服のボタンを閉じて。
件のガスマスクを顔に被せれば……完成!
ちなみにこのガスマスクは内側からの遮音機能も搭載。声出したら流石にバレちゃうからね。
代わりにホログラム筆談機能を搭載している。
伝えたい思考を文字にできるのだ。
(この世界での)現代科学とLBX世界の科学技術を実現できる頭があるなら3日で作れたよ。やったね!
っと、迎えが来たかな?
モノレール駅からアナウンスが聞こえてきたのでコンテナから降りてコンテナを施錠。
駅の方を向いて待つ。
暫く待っていると、ホームから見覚えのある二人が降りてきた。
そのままこちらに向かってくると、山田先生が駆け足で一足先にこちらに向かってくる。
「あの!」
……おや、この目。さては……
「この辺りで男性を見ませんでしたか?ここで待ち合わせる予定だったんですが!」
俺が件の男性だって気付いていないな?
ちょっとからかってみよう。
《さて、見ていませんね。どのような手段で来ると言っていましたか?》
「えっと……確か……トラックを運転してくると……」
《では奥にいるのかもしれませんね》
「そ、そうかもしれません!先輩、ちょっと探してきます!」
「不要だ、少し落ち着け」
山田先生が慌てて中に駆け込んでいこうとするのを溜め息を吐きながら制止する織斑先生。
こっちは気付いてるな。
「え、だって山崎くんが……」
「問題ない……真耶は純粋なんだ、あまりからかわないでやってくれ」
苦笑しながらそう言う織斑先生。うーん流石。
《これは失礼》「流石に騙されませんでしたか」
「あれぇっ!?山崎くん!?え、でも身体は女の子で……!?」
ガスマスクを外して顔を見せると、面白いくらいに同様する。
こっちはこっちで叩けば良い反応をしてくれるから面白くて困る。
「女装して暫く過ごすと言われた時はかなり驚いたが……なるほど、確かにその出来なら数ヶ月程度はバレずに過ごせそうだな」
私も一瞬騙されそうになったぞ、と苦笑する織斑先生。これなら行けるな、ヨシ!(現場猫)
「声を出すこともないので、下手なボロを出さない限りはバレないかと思います。しばらくはこれで行こうかと」
とまぁそんな世間話も程々に、コンテナの移動作業に入る。二人がISを纏い、両側から持ち上げて浮上、貨物用の車両に積載する。
因みに二人のISは共通していて、以前俺が乗れてしまった[
あれから軽く調べたが、攻撃にも防御にも向いた所謂万能タイプの第二世代のISで、日本の倉持技研なる会社が作ったものらしい。あのどこか和を感じるフォルム、嫌いじゃない。
と、眺めている内に積載が終わったらしい。
そのまま改札を通り、モノレールに乗り込む。
なお、この車両はIS学園が専用で運用しているもので、普段から食料や部品をはじめとする物資を運搬するのに使用しているらしい。
今回はそれに便乗させて貰った形だ。
……他のIS学園行きの一般車両はって?
まだ時間的に運行していない。
物資搬入は普段から始発前に行われているのだ。
(現在時刻04:45)
積載確認を終えた二人が乗車してきて、対面に座る。
そのまま改めて簡単な自己紹介や、質疑応答、雑談などをして到着までを過ごした。
「因みにコンテナに描かれていたロゴはなんだ?」
「あー、気にしないでください。趣味です」
ダンボール戦機WARSに登場する仮想国家『ハーネス』のロゴである。
意味はない。強いて言えば趣味。
『私の趣味だ、いいだろう?』というやつである。
学園に到着。そこから整備室に開発器具や整備器具などを運び込んでいく。
車が使えるわけでもないので、コンテナだけを下ろして中から機材を運び込んでいく。朝方なので人が少ないのはよかったが数少ない人と遭遇すると怪訝な目で見られた。
……まぁガスマスクを着けてる人って基本いないからね。仕方ないね。
とまぁそこからデータ取りのための実技試験を受けたり、軽い講習を受けたりしたのがその日のこと。
その日の内に部屋の鍵を貰ったので私物を持って部屋に向かったのだが、そのタイミングでは部屋には同居人がいなかった。
のでこれ幸いと使われていない方のベッドを使用すること、あまり部屋には戻らないこと、飾ってあるロボには触れないで欲しいということを明記したメモを机の上に置いておいた。
ロボと言うのは無論LBXである。
素早く80㎝程のガラス棚を組み上げ、部屋の角に設置。そこにいくつかのLBXを収納した。
因みにそれをノータイムで敢行したのは同居人も似たような趣味であるらしいことがすぐに判ったからである。
様々なアニメ、特撮*4のDVDやフィギュアが飾られた棚には俺も唸らざるを得なかった。
こやつ、わかる側の人間か。
機会があれば是非とも語り尽くしたい所存。
ダン戦以外のサブカルも大好きだからね。
即時反映だから筆談⇔声でのやり取りも余裕だし。
ただまぁ、普段この部屋に戻ってくることはないだろう。それこそ寝る時くらい?……それすらも戻ってくるか怪しいな。
……というのも。整備室の一角を大掛かりな改装もとい改造してもらってラボにしたのには理由があって。
なんと、学園側から初期化済みのISコア一つを融通してくれるという提案があったのだ。
そんな貴重なものをいいのかとも思ったが、ちゃんと条件もあり。
俺のLBX開発に使っている技術を一部融通してほしいとのこと。要は交換条件だ。
正直よっぽどヤバイの*5でない限りは大丈夫なので、門外不出を条件に強化ダンボールをはじめとする技術をいくつか渡させて貰った。
さて、ISコアが手に入ったと言うことはそれを使わなければ始まらない。
ネットサーフィン程度で仕入れることのできた第三世代のISの持つ固有能力だのは流石にお出しできないが、つまるところ俺のLBXをISとして纏うことが出きるということ。ならばやるしかあるまいよ!
出力や防御力はこっちが上!どうにでもなるはずだ!……飛べない?うるせぇ何とかするんだよ!
ということで暫くは授業以外寝る間も惜しんで缶詰めもとい開発漬けになる予定なのでしばらく仮眠などもここで取る予定なのである。
まぁなので基本ラボで生活する俺的にはしばらく部屋には戻らないのである。
……授業に出る以外大して今までと変わらんな。
とまぁそんなこんなで二日目はオール開発デイでありました。
飯の時間すらほぼ殴り捨ててゼリーでの補給を行い、LBXの文字通り骨格となるコアスケルトン*6は俺の身体でどうにかなるので、身体の動きをよりスムーズに反映させたりするシステムの構築を急ぐ。
要は本来ISスーツがあれば全て解決するものをそれなしでやろうとしているわけだ。
ISスーツなんて着用しようものなら身体のラインで性別がバレるからね。仕方ないね。
というか
LBXに量子変換機能とか反重力装置なんざねぇかんな!?*7
新技術にワクワクが止まらねぇ!フゥゥゥゥ!↑*8
え、これが学会に発表されたとき笑い飛ばされたとかマジですか。えぇ……(引)学者研究者辞めたら?
とこんな感じで朝方までちょっとおかしなテンションで解析・開発・研究していたら気付いたら背後にいた織斑先生の出席簿アタックで意識を刈り取られ、再起動にかなりの時間を要した。これが遅刻の原因である。
なお、教室ではフードを被っていたからよかったが、その下にはたんこぶができていたことは……まぁご愛敬である。
なお、蒼は今年の4月頭で19歳だ