転生したら織田信広だったので信長(妹)をコマそうと思う。   作:鴉の子

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リアルが……ゴタゴタしすぎ……!!!!(マジのガチで落ち着いた)
遅れて申し訳ないです……!!!

今回は三者三様の色々。


十三話:鉄のララバイ

 

 ────敗残兵は、雨に負ける。

 

 降る雨の冷たさは、力を奪い、意志を挫き、敗北した男たちを地べたに座り込ませ、そうして命まで奪う。

 

 その日もそうだった、明日の糧を求めて戦に乗り込んだ雑兵たちは皆落武者狩りに怯え、泥に塗れる。

 

 だが、それを許さぬ者がいた。

 

「織田の兵だなぁ! 明日の飯が欲しけりゃ俺について来い! 今川ぶち殺すぞ!」

 

 遠くから、声が聞こえる。恐慌を引き起こすに足る、雷鳴の如し怒号が響く。

 

 だが、兵士は歓喜に沸く。

 

『ああ、命と、飯の心配が消えた!』

 

 追い立てられるのではなく、追い立てる側になったのだと信じている怪物の声は、無根拠な安心と自信を与えて敗残兵を無邪気な兵士へと変貌させる。

 

「走れ走れ! 金と明日の飯と、テメェの命のためだ! 死にたきゃ殺せ! 殺したきゃ立ち上がれ! 俺が馬乗らねえで駆けずり回ってんだぞ!!」

 

 哄笑と共に焔が地上を駆ける。織田信広という男の走る軌跡に、焦げ跡と極光の残滓が残った。

 

 疲れた兵士たちはそれを辿る、辿っていけば、栄光と、明日が。そして、少なくとも今日を掴めると走る。

 

 焔が、戦場の寒さを埋める。

 

 狂奔。

 

 飢えと寒さに挫けた心に、狂気を流し込み、駆動させる。

 

「────織田信広がテメェらの大将だ! 走れ! 走れ! 走れ!! 報奨欲しけりゃ俺のところだぞ!」

 

 大嘘である。だが、わかりやすい方がいい。兵士は愚鈍ではないが、欲に忠実だ。そうでなければ、人は生きていかれぬのが戦国の世だった。

 

 泥に塗れた兵士たちが、よろよろ立ち上がり、歩き出し、走り出した。

 

 それは次第に大きなうねりとなり、波濤となる。戦場の荒野を、黒い塊となって軍団が走り出す。

 

 血と泥に汚れ、見窄らしく、矢の刺さったままの兵士すらいる。だが、幽鬼のような軍勢が、皆笑みを浮かべている。

 

 先頭には、焔を纏った一人の男。柄を叩き折った長巻に、ボロ布を巻いて野太刀にした美丈夫が、自分たちと同じように泥に塗れて走っている。

 

 その顔には、獣のような笑みが浮かんでいた。それに、肩を落としていたはずの敗残兵が続く。

 

 雨は、容赦なく降り注ぐ。それでも、皆、地を踏み締めている。日が沈む、夜が来る。夕日に背を向けて兵士たちは叫ぶ。足を引き摺る負傷兵すらも、血に染まったような赫い光を背負って。

 

 誰もが、己の命で影を刻んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────雨、か」

 

 雨は好きだ。竹千代は馬上にて一人そう思う。

 

 少なくとも、雨に降られていた時の部屋は、僕と“私”の二人だけの世界だった。二人の竹千代、名が世界と己を分かつ楔だとするならば、僕らは名を与えられなかった。

 

 だから、僕ら二人は世界そのものであったし、それでよかった。

 

 だけど、部屋の外はそうではない。何もかもが僕らを傷つけようとしてくるのだから、戦うしかない。だから僕は耐えた、“私”も耐えた、耐えて、耐えて、耐えた先に。

 

 僕らは二人になってしまった。

 

 千夜姫、元康、うーん、正直いまだに慣れない。だって、そもそも僕らは同じだったのだから。

 

 まぁ、でもこれはいいことなのだろう、部屋から外に出て出会った人はちょっと怖いけれど。

 

 そして何より、自分の意思で戦えるというのは少し気分がいい。

 だから、眼前に迫る大軍を見据えて尚、元康は困った顔をするだけで済んだ。

 

「……そうは言っても怖いですね!」

 

 空元気、あくまで耐えるだけの囮とはいえ流石に恐怖はある。だが、強行軍で疲れている肉体を、勝利の酔いで誤魔化している軍団を睨め付ければ、その恐怖も消えた。

 

「勝ってここに来たんですよね、意気揚々と殺してここに。そうして、何もかも思い通りになった気分でここまで」

 

 そうではないのだろう、兵士の苦しみもあれば、指揮官の煩悶もあるのだろう。だが、勝ち戦はそれらを塗りつぶす。

 

 ならばこそ、耐えるだけでいいのだ。槍を一つ防ぐたびに、相手の心にヒビが入る。隣の戦友が一人死ぬたびに、酩酊は覚めていく。

 

 だったら簡単だ、慣れているのだから。

 

「総軍、偃月に陣を組んで。僕と、松平の最精鋭を以て迎え撃つ」

 

「危険です……が、殿が言うのならばやりましょう」

 

 松平家に仕える家臣陣が進言するように見せて、同意をする。そうだろうさ、お前たちはそういう態度を好むだろう。

 

 父上から続く家臣たちを出して、そして自分が前に立つことで士気を上げる。

 

 そうしたら、皆が喜んで敵を殺しに行くだろう。喜んで、槍衾の前に飛び出していくだろう。

 

 ────そして、死んでください。

 

 まず、家を己の物とする為に必要な算段を、元康は冷徹に立てていた。己の影響力の下にない家臣達を、擦り減らす。

 

 武功を立てさせる暇などない、少なくとも陣の配置は一般的なものに見せかけているが、敵陣の背後に信広殿らが追いつけば、死に物狂いで敵兵が走り出すであろう位置に彼らを配置する。

 

 運が良ければ、あるいは本当に有能であるならば生き残るだろう。そうして残ったものの中から、家臣団を再編する。

 

 皆、子供の時分から可愛がってくれた人達だ。顔も、名前も、彼らの家族も、鬱陶しさも、優しさも知っている。

 

 死ねば悲しむのだろう、彼らの泣く姿を見ることにもなるのだろう。それでも、己はそのような行いを迷いなく行った。

 

「……人でなしの才能、本当にあるみたいだなぁ」

 

 嫌だなぁ、と言うつぶやきは、雨音の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────で、あるか」

 

 森の中、そこは桶狭間の只中、雨の中で本陣が停止したと言う知らせを信長は受ける。おそらくは、松平の軍を見て警戒したか。

 

「奇襲を仕掛けるならば今か、いや」

 

 雨の中、笠も無く刀を肩に担いで立っている。

 

 刻一刻と、時間は迫る。松平の軍は精強だが、今川相手に直接ぶつかればそう長くは保たないだろう。いや、元康ならば幾らか耐えるか、死人が何人出るかは知らんが、アレはそういう男だ。

 

 ならば、適度にアレに働かせた上で、兄上とわしが勝てる方法を考えなければならない。どうすっかなと顎を撫でれば、視界の端で供回りをさせられていたサルが何か思いついたような顔をしている。

 

 ふむ? 

 

「ろくでもないこと、思いついたか?」

 

「いえいえ、某の策など……とか言わなくていい感じですな? 誰もおりませぬし」

 

「おう、言ってみい」

 

「信長様と本隊が先んじて本陣に突撃します」

 

「おう? 謀反か?」

 

「違うでござるよ!!!!!?? 最後まで聞いて欲しいでござるな!?」

 

 ほう、ほほう。

 

 なるほど、“わしを囮にする”か。出来なかないの。

 

「上手くいけば奇襲が決まり、上手くいかなければブチギレた信広殿が飛んでくるという算段でござるな。最悪、元康殿にも攻め込ませましょう」

 

「上手くいくかは兎も角、わしが負けそうになることは算段に入れておらんなぁ」

 

「信長様ならやれるでござるよ!」

 

「…………」

 

 こいつ、本気で出来ると思っている。

 

「ふむ、是非も無し」

 

 どうせ負けりゃ逃げ帰って勝ち目のねぇ篭城戦じゃ、あーやだやだ、わしこういう博打好きじゃないんじゃけど。

 

 

 

「あ、おぬしも来いよ。先陣の名誉くれてやるんじゃからな♡」

 

「えっ」

 

 足軽大将になんて栄誉なんじゃろな〜わしって優しい!




今川義元、考えてみるとかなりのレイドボス。
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