転生したら織田信広だったので信長(妹)をコマそうと思う。   作:鴉の子

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ちょっとピンチになったりする回。


十四話:射手座⭐︎午後9時Don't be late

 

 暗雲、雨は冷たく、雹すら混じる濁流となった。

 だが、焔は消えずに疾走する。敵陣目掛けて何処迄も走る。

 

 雷が落ちる、構わないと信広は走った。

 

 何か、嫌な予感がする。というより、直感でわかる。己の命に等しい女が、死地にいるとわかった。

 

 否、ここが全て死地なのだ。この、桶狭間は既に死の匂いに満ちている。既に、十数人の兵士が倒れ伏している。いまだに戦端にすら辿り着かずに、力尽きた者たちだった。

 

 構わない、その全てを見届ける。名を覚えた、その痛みを見た、その熱狂を背負う。死ですら、お前達を俺が見放す理由にはならないのだから。

 

 ────そして、見えた。今川軍、雨に戸惑い行軍を止めた姿が見える。

 

 太刀を振る、炎を纏った刃が大鎧ごと人体を両断する。

 

「走れ! 殺せ! 殺せ! 何処迄も前に進め!」

 

 眼前の兵士の群れを切り捨て、拳で兜の上から頭蓋を砕いて。背後で野犬のように喰らいつくこちらの兵士たちの雄叫びが聞こえる。そうだ、死に物狂いの狂気に、人は怯えるだろう。

 

 勝って当然の戦に、人間らしくやってきた奴らに勝つにはそうするしかない。当然、そんな闘い方をさせれば大勢死ぬだろう。

 

 つくづく、戦争は碌な物ではないと思う。

 

 そんな思考は疾走の速度に置いていかれて。肉体は、半ば反射的に最も危険な気配へ向かって突き進む。

 

「──────あ?」

 

 一瞬、身を捩る。ほぼ無意識に取った回避行動、神懸かった直感にて行われたそれを、槍と見まごう“矢”が木々を薙ぎ倒しながら飛来した。

 

 掠めるだけで、大鎧が抉れ、破壊された。衝撃が内臓を損傷させる。即座に、丹田に呼吸を以て己の焔を(ふいご)の如く吹き込む。内臓、全身表面の傷を焔が埋め、焼き繋げる。

 

「はっ、バケモンが……!」

 

 己を棚に上げていることは承知で吐き捨てる。

 

「海道一の弓取ってそういう意味じゃねぇだろ……!」

 

 視線の遥か先、烏帽子、陣羽織を纏い大弓を構えるは、今川義元! 遥か遠くより感じられる覇気と威圧感、そして、殺意。

 

 距離にして、約1km。その豪弓、地を穿ち、違いなく先陣の将を狙う。すかさずの第二射を太刀にて打ち払う。刃と鏃が衝突、雷と紛う程の轟音を響かせながら、歩みは止めない。

 

 ここから辿り着くまでに、足元に焔を爆発させ、全力の疾走を行って15秒。そこまでに行われる射撃、およそ5射。いや、確実に殺すならば渾身の3射か。

 

 ならば、と考えたところで。気がつく。

 

 妹の気配がない。この戦場のどこにあってさえ、わかるはずの女の命の気配が消えている。

 

 いや、いる。眼前の敵の近くに。

 

 そして、血の匂い。朱い、焔と花の匂いがした。それは馴染み深く、最も好むもの。

 

 

「──────────きち、ほうし?」

 

 

 焔が、爆発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半刻前。

 

 織田信長、総大将率いる部隊が沓掛より桶狭間へ出た敵本隊への奇襲。雨の混乱と、火縄による奇襲にて敵陣の意気を挫く。

 

 概ね、上手くいった。銃火器による攻め手は相手を酷く恐怖させる。一撃で殺傷する威力、そして、銃声という爆音。奇襲に用いられれば、その効果はより増す。

 

 “お前は今殺される”という事実を極めてわかりやすく、誇張して提示するのが戦においては重要だ、その点、火縄銃は実に優れていると信長は思っていた。

 

 そして、通じぬ例外がいることも知っている。

 

 暗紫の大鎧、陣羽織。戦場に似つかわしくない烏帽子には返り血。

 

 海道一の弓取。なるほど、その名に似つかわしい威容であり……故に、我々を恐れていない。

 

「わしの首を取りに来たか、やはりな。その攻め気、お前は信秀の子だな!」

 

「……あ〜〜嫌じゃ嫌じゃ。全然油断しとらん」

 

「油断などするか、織田信長よ。お前の父は、このわしと戦い続けてきた男。その子相手に何を甘く見る必要がある」

 

 壮年、薄い戦化粧をした男がにやりと笑う。

 

「────なるほど、流石は。では、全霊でお相手しましょう」

 

 いつもの口調ではない、敬意を込めて、刀を抜く。正直、勝てる光景はてんで思いつかないが、まぁ仕方あるまい。

 

「総軍、わしに命を預けろ。残念じゃが、死んでもらう」

 

「え──っ、某も!?」

 

「サル! うるさい! わしが死ねばお主も終わりじゃからな!?」

 

 その辺の長槍を持っているサルが嫌そうな顔をしているが知ったことではない。

 

 渾身の力を込めて刃を振るう。兄のそれとは違う、赤黒い焔が迸る。

 

「総大将一人、何するものぞ!」

 

 完全な奇襲、いや正直目の前になんで総大将がいるのかとか全然わかんないんじゃが、これ以上ない好機。これで勝てなかったらもう絶対勝てん、命の張り時よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────天稟か、幸運か。

 

 今川義元は眼前に迫る敵将を見てため息を吐きそうになる内心を抑え込む。この身ならば問題なく対処できるだろう、だが、この奇跡とも言えるような奇襲と、その幸運を掴み取る確かな才覚。

 

 今、仕留めなければ面倒になると判断したのは間違いではなかった。そう確信して、眼前の未だ若き将を見つめている。

 

 悪鬼、そう、アレは悪鬼の素質なのだろう。だが、極めて理知的であり、狂気を知らぬ。故に、この者は負ける、このわしには勝てん。

 

 この者は武田のなりふり構わなさを知らぬ、上杉の狂気を知らぬ。戦場の狂気に身を浸すには、経験が足りていない。故に、今叩かねばいつか負ける。

 

「若き悪鬼よ! この矢、時をも穿つと知れ。過たず、お前の未来をここで断つ」

 

「ぬかせ、公家気取り! そのお歯黒で碁石作ってくれるわ!」

 

 四方から兵士が槍を持ち義元へ突撃する、腰から抜き放った左文字でそれを槍と鎧ごと切り捨てる。

 

 一人、二人、三人、切り捨てれば怯んだ織田の軍の隙を見て今川の軍が態勢を立て直す。軍勢は方陣を組んで織田の兵士の攻勢を跳ね除け始めた。

 

 信長も近づいてくる雑兵を斬り、進み、進み。だが、越えられぬ。

 

 そうして、距離が空けば。

 

 ────豪弓、装填。

 

 義元の大弓に、槍と見紛うほどの矢がつがえられる。引き絞る音が、雨の中で信長の耳には何故かひどく鮮明に聞こえる。

 

「……いかん!」

 

 信長の体感時間が引き延ばされる、そう叫び、母衣を前へ投げつけ、刃を前面に構えて咄嗟の防御行動を行った。

 

 だが、間に合わない。

 

 一矢、音と、空を切り裂いて。

 

 ぱん、と水の入った袋が弾けたような音がして、信長の胸を矢が穿った。

 

「信長様!!!!」

 

 供回りの藤吉郎が叫ぶ、二人は義元の行動は読めていたが、戦場の混沌の中で咄嗟に回避をすることが間に合わない。

 

 それほどの絶技、類稀な技量であった。

 

 

 

 

 

「──────馬鹿が! 終わると思うたか!」

 

 

 だが、それで倒れる女ではない。義元が弓を放ち、仕留め切ったと判断した瞬間に刀を投げ捨て、筒を構える。

 

 南蛮より齎された銃、本来ならばその銃身は滑腔銃砲身であり命中精度は殆ど期待出来ないものであったが、ライフリングの施された銃自体は既に存在していた。高度な金属加工技術が必要な点から、戦争に使われる汎用兵器ではなかったが、貴族の狩猟、娯楽用に彫金師などが加工したそれらのワンオフの銃は珍重されたという。

 

『ほれ、新しい銃欲しがってただろ』

 

 兄が、どこからか仕入れてきた細やかな金細工と、複雑な機構が仕込まれた歯輪式(フリントロック)ライフル。これ一つで城が買える程の、それを、血に濡れた手で構える。

 

 引き金と共にぎゃりん、と歯車が回転し、火花を散らす。そして、引火した火薬は焔を纏って、通常のそれより一回り大きい鉛弾を射出する。

 

 

 ────ばちゅん、と義元の右眼が弾け、灼けついた。

 

「ぐぅ……!?」

 

「ごほっ……咄嗟に避けるとか、バケモンじゃなマジ……」

 

 肺が潰れている、呼吸に水音が混ざる。血が逆流し、口から漏れる。

 

「────片目一つなど安いものよ! 織田信長、討ち取っ……」

 

 義元は全身が焼け付くような、殺意と熱気を背後に感じた。残された片目が、遥か遠くで、焔が弾けるのを捉えた。

 

 咄嗟の迎撃、撃ち放たれた矢は、切り落とされた。焔はさらに膨れ上がり、さらに加速する。続く一射は回避される、片目を潰された故か。

 

 続く二射、大太刀にて弾き飛ばされる、矢切の絶技であった。そして、最後の三射、眼前の男に着弾する前に焔がその矢を()()()()()()

 

 間に合わなかった。眼前が、巻き上がる炎に赤く染まる。

 

 

 

 

 

 

「今川、義元ォ!!!」

 

「────見誤った、真の鬼とはこちらであったか」

 

 憤怒に満ちた表情を浮かべて、織田信広が、全身から灼熱を纏って、現れた。

 

 




射手の前で遅刻したので死にかけるよ!(そういう意味ではないだろ)
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