転生したら織田信広だったので信長(妹)をコマそうと思う。 作:鴉の子
ありがとうみなさん……!
「ぶっ殺す!」
「わはは、頑張れ頑張れ」
どうも、織田信広です。現在、庭で棒切れ持った信勝に追いかけ回されています、可愛いやっちゃなこいつ。
信勝って言ってるけど幼名知らんのよねこいつの、教えてくんないから名乗るつもりの名前しか知らない。
そんなに俺のことが嫌いかと言うと『嫌いではないけど姉上と一緒にいるから嫌い』とか言ってくるところは面白い。
「デコピン」
「ぐえっ──っ!?」
あっ吹っ飛んで納屋に激突した。まぁ生きてるだろ、俺らに似て丈夫だし。
「吉法師〜」
「お、鬼ごっこは終わったか?」
「おう」
吹っ飛んで気絶した信勝を置いて、縁側にいる吉法師に手を振る。うん、今日も可愛い。
派手な女物の着物に簪で着飾っており、これがまた大層似合う。
これで頭も良くて俺の次くらいには強いから凄いぜ。
「そろそろ元服だろ、親父殿はなんか言ってたか?」
「家督やるんじゃってよ、信勝じゃなくてわしに。揉めるぞ〜」
「だろうなぁ、安心しろ安心。謀反とかぶち殺せるから俺」
織田家家臣に俺に勝てる奴いないし、というか100人くらいなら全然殺せると思う。寝てるところ襲われたら流石に死ぬかもしれない。
「安心〜なわけないじゃろ。ぶち殺したら人が減って困るんじゃが」
「そこはほれ、頭のいい奴出世させればいいだろ」
「兄上がちゃんと勉強してくれたらもっと楽なんじゃが?」
うりうりとこちらの脇腹を突いてくる目の前の女の頬をお返しに突き返す。
「んー」
まぁ、出来ないこともないだろうが、人並みが限度だろう。知っていることは多いけれど、俺は“先”が見えない。なんというか、感じ取れる時はあるけど。
それは獣が危険を匂いで感じ取るのと同じだ、多分、俺の中で理論立っているのかもしれないけれど、言葉には出来ない。
「お前がこう、見えたものを言葉にするだろう?」
「うむ」
「それが正解かはわかる。でも、俺はそれを言葉にできない。だから、お前がやってくれ」
「あ、やっぱわかるんか、兄上」
「おう、匂いでわかる」
「凄い、意味不明じゃの!」
「わかる」
何故かめちゃくちゃ楽しげな妹の急な機嫌の良さはよくわからない、こわ。かわいいね。
「やっぱあれじゃな、呂布じゃな、呂布」
「あんな強くないけど」
ロボじゃないし、呂布がロボってなんなんだろうな? 為朝公もロボだったらしいし最強の武将はロボじゃないとダメなのかもしれん。
「この前一人で500人くらい殺したって言っとったぞ、誰かが」
「それは盛り過ぎ、多分……100……?」
「十分じゃろ」
でもこの世界の武将って平気で1000人くらい殺せそうな奴らゴロゴロいるんだよな、それと比べたらまだ弱いと思う。鍛え方が足りないのかもしれん。
……ん? 気配。
「寄らば死ね────ーい!!!!」
あ、蘇った信勝が今度は棒に石をくくりつけた手製の槌で殴りかかってきた。裏拳で破壊する、勢い余って顔面にも一撃。
「ぶべっ」
「後ろから殴りかかる時に叫ぶんじゃありませんよあんた」
「うるさい! 兄上のくせに指図するな!」
「兄上のくせにって何?」
こうは言うけど俺のこと庶子とは呼ばないんだよなこいつ、なんていい奴なんだ。土田御前は俺のことめちゃくちゃ嫌そうな目で見ているのに。
「う──────っなんで姉上は……ずるいぞ!」
「そんなこと言われても困る……」
「おうおう、放っておけ。ヤキモチ妬いとるんじゃそいつ、可愛いじゃろ?」
「うむ」
「ムキ──────ーッ!」
顔が真っ赤である、吉法師にそっくりなのでほっぺを突きたくなるがすると怒るのでやめる。
「それで、なんでまた俺のとこ来たんだよ」
ここは清州城、親父殿の居城である。城主やってるとはいえ四六時中いるわけでもない、鷹狩りとか行くし、何より大事な話は直接会ってすることも多いのでちょくちょくこっちに来る。
まぁそれが名目で吉法師に会いに来てるんだけど。
なのに今日は珍しく信勝がいてびっくりした。俺のこと嫌いそうなのに。
「あ、そうだ忘れてた」
「ん?」
「今度姉上が元服だろ? その時に父様は家督の話をすると思うんだけど」
「おう」
「多分みんな僕に家督押し付けようとして大変なことになるから、そのときどうしようかなって」
あっ死臭、こいつ死ぬ気だ。拳骨。
「いったぁ!? 急になんだよ!?」
「ははーん? お主あれじゃな? 謀反起こしてわしに討伐させるつもりじゃったろ」
「流石姉上! その通りです!」
「兄上、もう一発やってよいぞ」
「よし」
今度は一本拳で拳骨、いってぇのであるこれが。親父殿に昔やられて大変なことになった。
「ぐぇぇぇぇえ!?! なんか……鼻から出ちゃダメな液体が出そうなくらい痛い……!!!」
「出てない出てない、馬鹿だなお前……」
「何がだよ!」
「お前、担ぎ上げられる、お前、適当こいて家臣を集める。俺らに伝える、俺が殺す。お分かり?」
「蛮族みたいな喋り方で説明されるの腹立つ……!」
なんでこいつが死ぬことになるんじゃ、訳がわからん。
「こういうやつなんじゃ、昔からな」
「……昔って言うけど、信勝の言うこと、わかんの?」
「いんや、全然。聞こえなくてもわかるくらいは出来るじゃろ?」
「ああ、そういう」
頭いいってこわいな〜! うちの親父殿と吉法師は本当にとち狂ってるのかってくらい頭がいい。まーじでこいつら思考を端折って発言するんだもんな、なんとなくわかるからいいけど。
「最近はマシじゃな、マシ。多少は聞き取れる」
「……そっか」
「兄上のおかげじゃぞ?」
「そうなの?」
はて? 何かした覚えもないが。
「兄上が間に入ると多少マシじゃの、多少」
「バカの緩衝材というわけね」
「そういうことじゃな!」
「否定されないの傷つく〜!」
「いちゃつくんじゃね────っ!」
デコピンで吹き飛ぶ信勝が、青空に舞う。平和な一日であった。
兄上は嫌いだ。
姉上の言っていることが、わかるのが嫌いだ。
姉上が、見たことない笑顔を向けるのが嫌いだ。
僕をいじめる城下のやつを、顔がわからなくなるほどボコボコにしたのも嫌いだ。
姉上も一緒にやってたけど、やりすぎだと思う。
……兄上といると、母様が怖くなるから、苦手だ。
でもまぁ……優しいとは思う。
姉上の笑顔が、寒々しい青空のような物じゃなくなった。少しだけ、温かいものがあの人にもあるのだと、わかるようになった。
少しだけ、姉上の話もわかるようになった。多分、合わせてくれてるのだろうと思う。そういう変化が、兄上によるものだというのも、ちょっと嫌だ。
でも、二人でいるのは楽しそうだから、僕は役に立っていなくなったら姉上にとってはいいなと思ったのだ。
そうして兄上に話したら、ぶん殴られた。
姉上は聞いてないだろうと思ってたら、普通に姉上にもぶん殴られた。ちょっと嬉しい。
二人とも笑っていたが、あんまり目が笑ってない。今までで一番こわい顔をしていた。
拳骨を喰らったところがまだ痛い、あの馬鹿力め。
……これは痛いから泣いてるのであって、それ以外じゃないからな。そうったらそうなんだ。
わしって全然人の話聞けんのじゃよね!
まぁ、そんなふうにおちゃらけてみても、正直もう長くはないと思うくらいにはしんどいものはある。
父親以外、まともに会話ができない。会話が繋がらない、意図が伝わらない。だって考えればわかることを、何故丁寧に口にせねばならないのかがてんでわからなかったから。
同じことを考えていられると信じられる、それが人間という共同幻想だとするのならば自分はおそらく人間ではないのだろう、と思う。
極端な思考能力の差は、断絶を生む。それが理解されるような時代でも、配慮があるような時代でもなかった。
故に、緩やかに一人で死ぬのだろうと、そう思っていたのだが。
「あっバッカお前、わかるけど、それじゃ伝わるもんも伝わんないだろ」
「……わかるか?」
「今の“仲良く石合戦しようぜ”が“石を持ってそこに並べ”になるくらいの差あるぞ」
「そうなのぉ?」
「そうなのぉ」
兄上は、自分より賢いわけでもない。ただ、とにかく勘がいい。それに、なんとなく人の心に入り込める人だった。多分、これは己とは別の方向の頭の良さだと気がついたのはしばらく後のことだった。
織田信広という男は、無意識に正解を導き出すし、無意識に人の心に寄り添える男だった。
だから、自分という隔絶を飛び越えたのだと思う。それは、優しい奇跡だと思った。
それで、少しだけ会話を合わせる手段を得た。
兄上曰く『チャンネルを合わせる』だのなんだの言っていたが、何処の言葉なんじゃろうな?
後に、同じ思考を備えた男が家臣に入り、大層喜ぶことになるが、織田信長曰く。
『……あれはあれで面白いが、そういう対象は無理じゃなアレ! 草履懐でハァハァ言いながらあっためんのはキモイわ!』
『え? 妹に手を出す兄? うーん……わしがいいならいいんじゃない?』
次回小豆坂無双編、まぁこの辺から実際の歴史を外してやっていくぞぉ!(調べ物を減らす)
信広くんは大体ニュータイプです。遺伝の頭の良さと野生の勘と本人の優しさの気質が合わさったタイプ。悪用するので戦いでも全然強い。