転生したら織田信広だったので信長(妹)をコマそうと思う。 作:鴉の子
早朝、清洲城に、何かを打ち付けるような音が響いた。
「謀反ですか?」
「グワ──ッ!?!?」
「謀反ですか?」
「グワ──────────ッ!?!?!?!」
「謀反ですか?」
「ハイ……助けて……ヤリマセン……」
ヨシ! 言質取りました、織田信広です。
この前の会議から数日後、早馬走らせて清洲城へ乗り込み、今信勝を担ごうとしている家老とかを片っ端からタコ殴りにしています。
この手元のボロ雑巾は柱に頭ぶつけ続けたら素直になってくれたようです、かわいいね。
とりあえず血判状書いてね♡
「そ、それは……」
「あ? 嫌?」
「やります……」
ちなみに目の前のボロ雑巾は林くんです、なんかいたらしいけどあんまり覚えていない。次は柴田の権六をしばきます、嫌だなあいつ、強いんだもん。話してわかるかな。
「じゃ、よろしく! ありがとな!」
書かせた書状を懐に入れて、次に向かう、多分今相手は素手なのでこっちも素手で向かう。全力ダッシュにて5秒。
すぱん、と障子を開け放ち、一言。
「権六ぅ! 謀反か!!」
「ゴホッ」
あっ咽せた、お茶飲んでる最中だったらしい、ごめんね。
「いきなり何をおっしゃる」
「いやだって、どうせ信勝がなんか言ってるだろ。姉上は相応しくないとか色々」
「…………」
すごい、なんて嘘が下手くそな男なんだ、視なくてもわかる。というか冷や汗すご。
「やる?」
「…………信勝様が、立つというのならば」
「あ、じゃあいいよ、あいつ多分やる気ないし」
「…………は?」
「権六は単純だからなぁ」
かくかくしかじか、おおよそあの馬鹿弟の思惑を纏めて伝える。吉法師の敵を纏めて、一斉に排除するつもりなのだろうという旨だが……伝わるかな。
「信勝様……! あの方は……」
泣き始めちゃったよ。大丈夫なのかこのオヤジ。
……まぁ、予想はしていた。二人の仲の良さを知っている人だ。朴訥な性格だ、信勝が吉法師のことを思ってやっているのも薄々理解していたがゆえだろう。勿論、吉法師のことを信じきれなかったというのもあるだろうが。
「うし、じゃあ俺帰るね!」
「待たれよ信広殿! 秀貞殿も、この謀反に参加を……」
「ああそっちはもうやった」
「嗚呼…………」
なんだそのアチャーみたいな顔は。えっ? 『あなたのことですから、林秀貞殿の顔面の形が変わるほど殴っているでしょう?』うん、大丈夫、医者呼んだし。
「私から説明いたしたというのに……」
「権六殿と違ってなぁ、理屈で立てないとわからんタイプでしょ、あの人」
人並み以上に優秀な人だけど、飛んだ理屈は理解し難いタイプだ。信勝がわざわざ死ぬために謀反やるつもりとか、わかんないだろう。
だからタコ殴りにした、まぁ恨まれて殺しに掛かってくるならそれはそれでいい。いなくなったらそれなり以上に苦労はする人だが、うちの妹ならなんとかするだろう。
というわけで全員終わったのであとは本丸の信勝と……土田御前の説得である。まぁ前者は、なんとかなるだろう。ちょうど今頃は……二人セットでお話中と言ったところだろうか。
と、なれば、乱入しかあるまい。親子水入らずの会話に申し訳ないがな!
「────信勝」
黒い、焔が見えた気がした。目の前で、長い黒髪が揺れている。金色の瞳が、僕と、母上を睥睨していた。
姉上とは違う、何処までも見透かすような、でも優しげな瞳。
母上は、それを忌々しげに睨め付けている。
「残念ながら、家老たちは全員こちらについた。悪いこと言わねぇから出家しろ信勝、寺には話をつけてある」
「……姉上の差配ですか」
「ん、俺とあいつの、案はうちの嫁さんのだけど」
「……化け物共……」
「犬に犬コロめと言ってもしょうがないでしょうあんた」
ケラケラと兄上が笑っている。太刀を差しただけの普段着だが、漂う死の匂いは拭えない。多分、僕を助けようとしているのだとはわかるけど、姉上のためなら殺すことも厭わないだろう。
「兄上、母を」
「ああ、殺すかって? どうする?」
言葉にする前に、理解られてしまう。ああ、恐ろしい人だ、姉上も恐ろしいが、この人も同様に。
「助命を、お願いします」
「ん、そうか」
「信勝……! 貴方が、貴方こそが当主に相応しいというのに、従うのですか……!」
恐怖する母を、憐れむ。この人は、最後まで姉上のことを理解できなかった、それが、とても悲しい。
愛されたからこそ、それを受け取らなかった姉上の隔絶と、失われたものを強く意識してしまう。
「御前、残念だがな」
兄上が、見たことのない、悲しげな顔をする。
「あんたなりに、あいつを愛してたのは知っている。でもな、信勝が当主になったところで、あんたが吉法師を産んだことは変わりない。どんなに己の血を否定してもな」
「黙れ!」
「黙らんよ、俺は、俺と母の血に通った炎を恥じたことはねぇ」
「…………っ」
母上は、目を伏せる。兄上の母、紅玉は、母上の世話役だった。土田の分家であり、混血の血を色濃く受け継いだが故に、本家からは切り離されたモノ。それでも、妹分だったと昔聞いたことがある。
だから、己から、何か化け物のようなモノを色濃くついだ姉上のことを、無意識に苦手だと思っていたのだろう。それが、後ろめたさと、姉上を当主に据えることの恐怖につながった。
本当に、バケモノになるのではないかと。
だから、僕の行動は、姉上のためでもあるし、母上の一時の慰めでもあった。それが、僕にできる僅かなことだと信じて。
「……貴方は、血を恨まないのですか」
「何も。二本の足で立って、笑って生きている」
「……そう」
「それとな、あんた勘違いしてるようだけど」
「……?」
「吉法師、あんたのこと好きよ? 気にしすぎだ」
「……どうして」
「どうしてってそりゃ、あんた頑張ってたじゃないの」
にかっと、明るい笑顔で。苦手なりに、恐怖したままに、母親やろうとしてたじゃないかと。
子供の時分から僕らを見つめていた、金色の瞳は、僕ら家族のことを誤解なく映していた。
「…………貴方、アレね」
「?」
「紅玉によく似てるわ」
「そりゃどうも、たまにはうちの母にも会ってやってください」
ぺこりと、冗談めかしてお辞儀をして。なるほど、敵わないわけだ。
しかし、出家の準備か……兄上のことだから近場で会えるようにはするんだろうけど、などと考えて。
先程の会話の違和感を思い出す。
“うちの嫁さん”?
「兄上?」
「うん?」
「嫁とはどういうことですか? 姉上は?」
「あっ」
野郎、姉上というものがいながら嫁を取ったな。偽装でいいって父上も言ってたくせに。
「いやほら、面倒見なきゃいけない娘が増えて……」
「でしょうね、でも許さん」
「やっべ逃げろ。藁人形やめろよ! ゾワゾワすんだよ!」
ぶっころしてやる!!!!!
「信勝〜ほどほどにするのよ、吉法師のことに関して聞きたいことあるから」
「ほどほどに殺します!」
土田御前としてはバケモノだと思って無意識に怯えてしまったのが負い目+この子がトップになったら怖いの合わせ技で信勝を担ぎ上げてしまったという感じ。信勝は気持ちもわかるので付き合った面もあり。
切り替えの速さは実はこっちの血筋と言える。元気がなさすぎただけで本来は多分子供二人同様に変な人なんじゃないかな。