TSウミガメのスープ 作:AJT
『彼女は、殺された。でも、誰も彼女が死んだことに気づかなかった。なぜか?』
放課後、部室棟の階段を上りながら、例の“声”が唐突に問いかけてきた。
何の前触れもないのはいつものこと。タイミングは完全にランダム。だけど──今回の問題、ちょっと引っかかる。
「死体は発見されなかった?」
『YES』
「遺体が人目につかない場所にあった?」
『NO』
ん?じゃあ見えるところにあったのに、誰も気づかなかったってこと?
「彼女は人間だった?」
『YES』
「彼女の見た目は変わっていた?」
『YES』
やっぱり、何かしら“死体”が“彼女”に見えなかったってことか。
「死後、何かに加工された?」
『YES』
「その加工によって、死体だと認識されなくなった?」
『YES』
「展示物とか、芸術作品として扱われていた?」
『正解です』
ふぅ。
答えはこうだ──彼女はアーティストの恋人だった。嫉妬から彼に殺されたあと、遺体はそのまま彼の“立体作品”に組み込まれ、ギャラリーに展示された。
誰も彼女が“作品”になっているとは思わず、事件は長らく発覚しなかった。
自分で言うのもなんだけど、ちょっとホラー寄りだなこれ。
「ったく、朝から物騒なものを……」
誰にともなくそう呟いて、私は階段を上りきった。
ドアの向こうで待っていたのは、私の“協力者”──もとい、もう一人のスープマニアだった。
部室のドアを開けると、すでに彼女──
彼女は私のクラスメイトで、同じミステリ研の部員で、スープマニアで、そして私がこの“異常な現象”を唯一打ち明けている相手だ。
「また出たの?」
「うん。ギャラリーに展示された女の死体のやつ」
「うわぉ、それめっちゃ有名なやつじゃん。ネットで一時期バズってたやつでしょ」
「え、これって既出問題なの?」
「うん、似たのがあった気がする。“死体を現代アートに加工したから気づかれなかった”ってやつ」
楓はそう言って、スマホの検索履歴を辿り始める。
彼女は、“私が頭の中でスープを出題される”っていう異常事態を、まともに信じた数少ない人物だった。
いや、信じたというよりは「面白そう」と言って首を突っ込んできた、が正しいか。最初に話したときも、
『へー、脳内AI的な? それとも、神の啓示?』
みたいなノリだったし。
けど──
「最近さ、出題されるスープが、ちょっとリアルじゃない?」
「……リアル?」
「うん。事件としてありそうっていうか、なんなら現実で起きててもおかしくないっていうか」
「遺体を現代アートに加工はさすがにないと思うけどなぁ……」
私の言葉に、楓がスマホから目を上げた。
「……ねえ、あんた今までの出題って、記録してる?」
「メモ帳アプリにざっと。なんか気持ち悪いし」
「ちょっと見せて。データベースにしてみない?」
「データベース?」
「スープの出題傾向を分析すんの。もしかしたら何か法則あるかも。解いた順番とか、ジャンルとか、日にちとか」
おぉ、その発想はなかった。
いつもただ、出されたら解くだけ。気にせず忘れてた。けど──
もしそこに“意味”があるとしたら。
もしそれが、私にしか解けない“事件”の伏線だとしたら。
「いいよ、送る」
「サンキュー。帰ったらスプレッドシートにまとめとく」
本当に“ただのスープ”なら、それで済む。
翌日、スープに出題されたのは──“まだ起きていない事件”だった。