蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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世界の東端、葦原。
数百年の平穏を保ってきた大和幕府だったが、央暦1969年、遂にその歴史に終止符が打たれる。
幕府は終わり、武士は消え、また新たな戦乱へとつながる。
しかし、その歴史に異物が現れた。
存在しないはずの、イレギュラーが───

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04 夷俘島迎撃戦「IRREGULAR」

遭遇戦

央暦1969年5月11日

夷俘(いふ)島南東 果ての海上空

日本国航空自衛隊第11航空団第114飛行隊

志村“Chase”良介二等空尉

 

 チェイスとボスが雲から出た途端、2機の機体が目前で散開した。

 

「BACライトニング⁈」

 

 ライトニング。BACならF-35の方ではなく、縦にエンジンを配置する特異な設計をしたイギリスのジェット戦闘機だったはずだ。

 

「こっちはミラージュ! だけど、なんか違う!」

 

 一方でチェイスの目前を横切ったのは台湾でも導入されているデルタ翼機、フランス製ミラージュ2000に見えたが───わずかなディテールの違いを感じた。

 

「台湾の奴らとは塗装もマーキングも違うな。史実版新選組って感じだ」

 

 ボスの指摘はもっともだ。

 彼らのミラージュもどきのカラーリングは黒のベースカラーで、主翼後部に白のだんだら模様が描かれている。

 台湾どころか、現代的な迷彩効果を企図した塗装には見えない。

 

 しかしいつの間に、この機体がロシアが誇る現用機のレーダーを積むようになったというのか。

 誤認にしても、乖離が著しすぎる。

 

 多機能ディスプレイ(MFD)を操作し、レーダー警報システム(RWR)の情報を呼び出す。

 

 現状は周囲にレーダー放射源なし。

 戦闘機が空戦中に? それは考えられない。

 

 正体不明放射源を表示させると、ほぼ全周囲に正体不明を表すUのマークが現れた。

 このライトニングやミラージュは、記録上存在しないレーダーを搭載しているのだ。

 

「データなし、周辺機体の正体不明!」

 

「映画の撮影にしちゃ、無茶が過ぎるな」

 

「イカれたMytuberとか、KnockKnokerかも」

 

 チェイスが睨む先では、目前で旋回した黒煙を吹くミラージュらしき機体があった。

 煙の根元では小さな炎が目視出来た。今の投影技術でも、あれほど鮮明な炎を映し出すことは出来ないはずだ。

 

 時代錯誤な名機たちは2機だけではなかった。

 ライトニングもミラージュも、後者が劣勢と思えるような状態で、チェイスとボスの様子を伺っていたのだ。

 

「ボス、どうする?」

 

「……刺激しないよう、離脱するぞ」

 

 50年代の機体が、空戦をしながら現代にタイムスリップしてきたか?

 もし日本の領空付近に殺気立った戦闘機が現れたとすれば有事(コト)だが───

 

 先の計器異常といい嫌な予感しかしなかった。

 

 180度旋回し、出てきた雲へ。

 

 ボスの後ろを飛びながら、チェイスは周囲の様子を伺った。

 仮称ライトニング、仮称ミラージュ。機体は違えど、それぞれの機体の主翼に描かれた国籍標章は同じ由来があるように思えた。

 

「金色と赤の四角と、白黒の四角か?」

 

 ならば、尾翼には部隊章でもあるのではないかと視線をやると、あった。

 ミラージュの方には金字で忠という字の描かれたマーク。もう片方は───

 

「こちら葦原政府空軍、加藤淳之介大佐」

 

 無線の発信。チェイスは通信内容に注意を向けようとすると、ミラーに映った機体の動きが目についた。

 直後、機体の主翼から火が噴く瞬間を目撃した。

 

「ミサイル!」

 

「くそったれ!」

 

 航空自衛隊初の、敵からの(・・・・)攻撃だ!

 

 RWRは鳴かない。それは即ち、あの機体から放たれたミサイルはレーダー誘導ではなく、熱源を追い掛ける赤外線誘導ミサイルであることを示す。

 しかもRWRが一瞬たりとも鳴かなかったということは、レーダー・スレイブ機能のない───端的に言えば、目標の熱源を指定出来ない古いタイプのミサイルだ。

 

 不幸なことに、このタイプのミサイルを探知する能力はF-2にはない。

 

 外付け(ドロップ)タンクを投棄し、カウンターメジャーを撒きながら急旋回する。

 雲を引き連れたミサイルはチェイスの脇を素通りし、目前を飛ぶボスの機体から右の翼をもぎ取った。

 

 死。それは、突然訪れるもの。

 チェイスは身をもって理解しているつもりだった。

 

 ボスを墜とした機体はチェイスに対しても攻撃位置につこうとしていた。

 十中八九、もう一度ミサイルを繰り出す気に違いない。

 

「そうはいくか」

 

 カウンターメジャーを投下し、反転して急降下を始める。

 

 ミラーがきらりと光った。

 ミサイルが発射されたと見るべきだが、後方を直接目視する余力はない。

 すぐ真下は幸いにも海面。何が起きても巻き込まれる人間はいないわけだ。

 

上昇せよ(プルアップ)! 上昇せよ(プルアップ)!」

 

 降下することで高度を速度に変換。しかし真後ろのミサイルはそれだけで振り切れるほど甘くない。

 座学が正しければ、相手はマッハ2.5。音の2.5倍速くカッ飛んでくる。

 

 避けるのは難しい。

 なら、海に食ってもらおう。

 

 急速に迫る海面とミサイル。

 両側から押しつぶされそうな圧迫感を受けながら、迎え角(AOA)リミッターを解除。

 

「オーバーG! オーバーG!」

 

 カウンターメジャーを撒きながら、通常は制限される急上昇を行った。

 人間の限界とされる11G、体重の11倍の加速度が全身を襲う。

 

 機体と背骨の軋む音を聞きながら、最期の瞬間まで操縦を続けなくては。

 尻から海に飛び込まないように、今度は出力最大で飛び上がる。

 

 運が良ければ、敵のミサイルは海面に向かうフレアをエンジンの排熱だと誤解してくれる。

 最善は尽くした。あとは、天命を待つのみ。

 

 高度100(30)フィート(m)50(15)フィート(m)

 コンマ数秒の、命を分ける時間。

 

 すぐ背後を数十キロの爆発物が掠め、海原に白い柱が立てられた。

 最初の賭けは、チェイスの勝利である。

 

 次の賭けは果たしてどうなるか。

 ボスの仇と対面する。

 

「今度はこっちの番だ」

 

 安全装置(マスターアーム)をSIMからARM(ON)に切り替える。

 

 現状積んでいる兵装は赤外線誘導の短射程ミサイル(SRM)2発に、標準装備の20ミリ機関砲だけ。

 先ほどまで演習に参加していたのだから、乱入者を追い払う最低限の装備だけで十分なはずだった。

 

 まさか、見知らぬ空へ飛ばされて空戦を強いられるなど。

 空幕はもちろん、地球人の誰一人として想像できなかっただろう。

 

 ないものをねだったところで仕方がない。

 

 撃つならGUNより射程が長いミサイルだ。

 しかし赤外線誘導ミサイルを撃つ上では、エンジンノズルから出る排気熱が視界に入る角度(アスペクト)が望ましい。

 

 正面から撃っても当たらないわけではないが、その場合ミサイルが追尾するのは機体と大気の摩擦によって生じる摩擦熱のみになる。

 この高度と速度では、道しるべにもならない。

 

 明確な敵はいても、明確な味方はいない。

 敵が圧倒的数的優位にある以上、貴重なミサイルの無駄は避けるべきだ。

 

 正面のライトニングが同一機体なら、既に空対空ミサイル(AAM)は撃ち尽くしているはず。

 捨て駒(チープショット)のミサイルは来ない。

 

 距離が縮まると、レーダー警報システム(RWR)が鳴き声を上げた。

 ミサイルなしで照準用のレーダー波を探知したということは、向こうも考えは同じということ。

 

 HUDの機関砲(GUN)照準器をドッグファイトモードにセット。

 

 通常、GUNは1500(450)フィート(m)ぐらいまで近づいてから撃つものだが、敵は一人ではない。

 だから、早めにケリをつける必要があった。

 

 FCSがロックするまで待つ時間はない。HUDの弾道予測図と目測を頼りに照準を合わせる。

 距離は推定5000(1500)フィート(m)

 本来なら散らばり過ぎて当たらない距離だが───やるしかない。

 

 ここだ。そう確信した瞬間に短く発砲する。

 一呼吸する間に曳光弾が弧を描いて、敵機のシルエットと重なった。

 

 結果は、敵の旋回と黒煙が示した。

 

「待て、神兵よ! こちらに戦う意思はない!」

 

 通信機から流れてきた声は信用できない。

 ボスはあの声に注意を逸らされたのだ。

 

 実際、ライトニングの連中からは戦意に満ちた挙動が見て取れた。

 正面から接近し、主翼から炎!

 

「懐かしいな、このファン(・・・)の数!」

 

 機体のオーバーホールだの、故障だの。

 命のやり取りの最中に考える暇はない。

 

 カウンターメジャーを投下し、右へ大きく旋回。

 そして機体を翻して反対方向へ急旋回するクランク機動で敵ミサイルを翻弄する。

 

 必要な運動エネルギーを欠いた火を吹く矢は、チェイスの描いた雲の線を両断した。 

 

 今でもチェイスが生きている辺り、どうも彼らのミサイルは赤外線誘導のなかでも、比例航法(先読み)さえせず、単純に熱源だけを追いかける旧式らしい。

 もちろん、熱源が弱くなる正面角度からの攻撃というのもあるだろうが。

 

 それにしても、なぜそんなAAMが令和の時代に運用されているのか。

 定かではないが、思考を割くのは戦いの後だ。

 

 撃ってきた敵機と正対、上昇して回避中だが食らいつける。

 距離は1400(450)フィート(m)、撃つなら今だ。

 

 GUNの引き金を引き、着弾。

 機首の下部で火花が散った直後、敵機は煙を吐く以外の反応を失い。

 そのまま虚ろな挙動で空へと消えていった。

 

 これが恐らく、チェイスの最初の殺しだった。

 

 平文の通信ならば、互いに意思疎通が可能なことはわかっている。

 怒りと、そして挑発の意味を込めて。チェイスは発信した。

 

「誰にケンカ売ったか教えてやるよ」

 

 宣戦布告を終えると、件の煙を吐くミラージュの姿が目に入った。

 どうやら戦域を離脱しようとしている様子だったが、その背後に食らいつこうとするライトニングが見えた。

 

 他人を狙っているほど、容易い敵はいない。

 曳航される標的機の感覚で照準を合わせ、発砲。

 

 機体の土手っ腹を撃ち抜かれたライトニングは一瞬で炎上し、間もなく爆散した。

 脱出どころか、あの爆発でパイロットは即死した事だろう。

 

「蒼いの! 右後方に敵機!」

 

 AWACSの支援がない現状、側面の状況をレーダーで把握する事は出来ない。

 反射的に右旋回し、敵機の射線から遠ざかる。

 

 すると、確かに。ミラーの鏡面を黒い影が一瞬過ぎった。

 

 狙っているのはミサイルか、あるいはGUNか。

 どちらにせよ、真芯に捉えられるわけにはいかない。

 

 緩やかに降下して速度を稼ぎつつ、機体を翻して左に急旋回。

 右手、あるいは真上を曳光弾が機体を掠めていった。

 

 さて、どう逆転するべきか。チェイスの思考に一つの議題が増えた直後。

 爆発が出現したばかりの議題を葬った。

 

「こちら大和幕府空軍第1師団第35飛行隊『新選組』兼定隊3番機、竜司!

義によって助太刀いたす!」

 

 その宣言の直後、ミラーにミラージュが映りこんだ。ダジャレではない。

 ともかく、敵をひとつ墜としてみせたのだ。このミラージュっぽいのは敵ではない。

 

 少なくとも今は。

 チェイスはそう記憶した。

 

「……『新選組』?」

 

 歴史上で目にした名前に疑問があるが、現状で名前などに意味はない。

 あるのは、敵か味方かだ。

 

「竜司、支援に感謝する」

 

 ふと見てみれば、状況は一変していた。

 

 チェイスの攻勢で生じた隙をついたのか、ライトニングはミラージュ───個に多数で連携する新選組に各個撃破され、徐々にすり減らされていた。

 

 たとえ圧倒的な練度があろうとも、技術があろうとも、勝てる見込みはある。

 世界最強と謳われていたF-22も、状況次第では近接航空支援専用機A-10に負ける事もあるのだ。

 

 もちろん、攻撃が当たるのならば。

 あと付け入る隙となる慢心があれば。という前提はあるが。

 

 0.5秒だけ戦況の把握に努めていると新選組が2機、立て続けに撃墜された。

 その機体の垂直尾翼には黄色い線が引かれている。

 

 直感的に、これが隊長機だと判断出来た。

 そして恐らく、ボスが撃墜される隙を作ったあの声の主だと。

 

「お礼参りに来たぞ、イエロー・ライン」

 

 チェイスはあの時の意趣返しに、攻撃前に宣言した。

 警戒を解くために名乗るような、卑怯は真似はしないと。

 

 淳之介と名乗った機体の主は、宣言を受けると同時に回避機動を始めた。

 

───偉そうな口調なだけはある、他とは違うぞ。

 

 旋回する翼が雲を引き、チェイスの射線からするりするりと逃れていく。

 

「蒼い機体の飛行士。あなたを神兵とお見受けする」

 

「驚きかもしれないけど、俺は空挺じゃないんだ……

空挺と一緒に訓練した事はあるけどさ」

 

「あなた方にとって、神兵が何者かは存じ上げない。

だが、我々にとってあなたは神兵なのだ」

 

 命のやり取りの最中、繰り広げられる会話。

 淳之介は驚くほど落ち着いた、理知的な声だった。

 

 そして、この状況でなければ愉快な奴だったに違いない。

 チェイスは不思議と、そう確信していた。

 この淳之介はそういう、独特な魅力のある男だった。

 

「この件は部下の暴走。将として、不徳の致すところで起きた事故だ」

 

「事故ですごめんなさいで許せって?」

 

「いいや。しかしこちらとしても、部下を死なせすぎた。

私一人の腹では足りそうにない。それに……」

 

 淳之介の機体からオーグメンターの炎が消え、上に急旋回。

 優れた推力重量比で急減速からの急加速を行い反転。チェイス達と正対した。

 

「あなたとの戦は楽しそうだ」

 

 一瞬の出来事で互いに照準が追いつかず。

 すれ違った直後、それぞれの機体が帯びる衝撃波がぶつかり合った。

 

「ふん、野蛮なおやぢ(・・・)だ」

 

 チェイスは表情をゆがめた。

 

 オーグメンターを起動し、速度を殺さぬように最大の出力で旋回する。

 見れば、健気にも竜司もそれに追従しようとしていた。

 

 理由はわからないが、あの機体ではF-2に追い縋るのは厳しいだろう。

 

「竜司ちゃん! 無理にこっちを追う必要はない、

連携して多方向から攻めよう!」

 

「了解っ!」

 

 垣間見える機動から、この場に相応しくない拙い動きに見えた。

 教科書的というか、基礎は完璧でも応用まで踏み込んでいないというか。

 

 昔の、T-7のプロペラを回していた頃の自分を想起した。

 つまり、吹っ切れれば凄いという意味である。危険の間違いだろうに。

 

 上昇能力に余裕のあるチェイスは上昇しつつ反転、一方エンジンパワーに不安のある竜司は降下しつつ反転。

 上下二方向から淳之介と相対する。

 

「弱いところから切り崩す、戦の常道だ」

 

 旋回する淳之介のパニッシュから炎が迸った。

 機首は下を向いていた。つまり狙いは下から迫る竜司の方だ。

 

「竜司、カウンターメジャー!」

 

 ミサイルの回避は上昇と反転が一般的だ。

 速度の素となる推進剤は数秒で燃え尽き、以降は慣性のみで飛翔する。

 背を向けて逃げ出し、速度と上昇の余力を奪うのだ。

 

「熱囮ありませんっ、攻撃を!」

 

 この距離と方位では間に合わない。

 ましてや、ミサイルを惑わす熱囮───フレアなしではなおのこと。

 

 どうせやられるなら敵を墜とせ。

 一理はある。竜司はそれを理解して、あえて囮を買って出たのだろう。

 

 大した度胸。あるいは、別の感情か。

 

 なぜ殺すためにそこまで出来るのか。

 相手の事情はわからない。顔も本名も知らないのだから当然。

 

 しかし知らない尽くしだとしても、もう仲間を亡くしたくない。

 

「そうはいくかよ」

 

 チェイスは攻撃を放棄し、ほぼ垂直に降下した。

 

 竜司の機体が放つ熱目掛けて突進するミサイル。

 ならば、熱源を増やしてやろう。

 

 チェイスはカウンターメジャーを撒きながら、上昇する竜司とすれ違った。

 指定された熱源の中で、最も強いものを追うようプログラムされたミサイル。

 そいつの目の前で重なることで、撹乱を狙ったのだ。

 

 誘導装置に複雑な照準はできなかった。

 強力なエンジンを持つチェイスのF-2と、フレアに狙いをつけた。

 しかし追尾するにしても旋回は間に合わず、体当たりしようにも速すぎた。

 

 結果。ミサイルは2機の間を突き抜けて完全に標的を見失った。

 

「……いっ、生きてるっ⁈」

 

「見事だ神兵。だが、首を獲る機会を逃したな」

 

 ミサイルの優位は言うまでもなく、誘導するという点である。

 赤外線誘導となると加えて最後まで狙いをつける必要がなく、撃った後すぐに別の行動が可能となる。

 これを撃ち(Fire)っぱ(and)なし(Forget)能力という。

 

 淳之介の機体はミサイルを発射してすぐ上昇し、同じく上昇して速度を失った竜司の機体をGUNの射線に収めようとしていた。

 

 そう、撃ちっぱなし能力が赤外線誘導ミサイルの優位。

 チェイスにもまだこの優位は残っていた。

 

 それも、正面以外(オフボアサイト)にも撃てるという別の優位があった。

 機体を引き起こし、上昇。真上に彼の機体を捉えた。

 

「頼むぜ、M菱重工……!」

 

 この空戦は機体が壊れかねない無茶な機動の連発だった。

 もしミサイルに不具合が起きていれば、竜司は助からない。

 

 命を賭けた攻撃。それでも、やらねばならなかった。

 この機体と同じメーカーのミサイルを信じ、HMDを介してミサイルに捕捉させる。

 

「ペンギン6、FOX2!」

 

 翼端に視線をやり、初めてこのミサイルが敵に向け飛翔する瞬間を目視する。

 火を吹く矢は放たれた直後、機体から受けた情報をもとにほぼ垂直に上昇。

 50Gを超える加速度の宙返りしながら淳之介の駆る機体を目指した。

 

 完全な死角から放たれた、想定外の挙動で飛翔する攻撃。

 淳之介が反応出来るはずがなかった。

 

 竜司の機体に射線が合う直前、淳之介の機体は爆散した。

 彼は恐らく、死ぬと自覚する間すらなかっただろう。

 

「……そんなに殺し合いが好きなら、あの世で好きなだけやれ」

 

 周囲を見渡す。見える範囲にライトニングはなく。

 ごく少数生き延びた新選組の面々がチェイスに追従しようとしていた。

 

 中でも、竜司と名乗った人物の機体が距離を寄せて視線を合わせてきた。

 

 風防とヘルメット越しに交差する視線。

 

 チェイスはこの瞬間、助けた新選組の面々と、先ほど撃墜した相手が人間なのだと実感した。

 そう。人を殺すことで救ったのだ。

 

 感傷に浸りたい気分だったが、まだそうするわけにはいかなかった。

 

「蒼い機体の……こちら、飛行隊士竜司。新選組を代表して、御礼申し上げる」

 

「それはいい。それよりも、まだ奴がいる」

 

「奴、とは?」

 

「ボス……俺と一緒にいた人をやった奴だ」

 

 チェイスの報復は、全員を仕留めなければ終わらない。

 そうでなければ、ボスの死は完全に無駄になってしまう。

 

 記憶の限りでは、墜ちた機体の中にあの損傷した機体はなかったはずだ。

 

「誰か、あの機体を討ち取った者は?」

 

 竜司がチェイスに代わって新選組の人間に尋ねるが、色良い返事はなかった。

 

「くそ。あの野郎、どこへ逃げやがった」

 

 目視、レーダー、赤外線監視装置(FLIR)。あらゆる手段で機影を探す。

 すると高度30000(10000)フィート(m)方位240度、西南西の方角にレーダーが機影を捉えた。

 

 ライトニングとは比べ物にならない、とても大きな機影だ。

 飛行高度から見てもかなり大型の機体と推測出来た。

 

 相手に苛立ちをぶつけては、ダサいだけだ。

 軽く呼吸してから、チェイスはここに来て初の友人に問い掛けた。

 

「あー、竜司ちゃん。デカい影を複数、レーダー……電探? で見つけた」

 

「それは五稜郭を狙う爆撃機です!」

 

「ごっ、五稜郭? 函館の?」

 

「はこだて、という地名は存じません。五稜郭は屋岸(やぎし)の市街地の中にある

幕府軍司令部です」

 

 脳髄が湧き上がる義憤からくる闘争本能と、状況を理解しようという理性の狭間で沸騰しそうになっていた。

 

 ボスを殺した犯人は間違いなく機体を損傷している。

 同時に、大型爆撃機が───市街地へと向かっていた。

 

「……五稜郭は、屋岸って街のど真ん中にあるんだよね?」

 

「はい。高高度の爆撃で照準など望めません。街ごと焼き払うつもりでしょう」

 

 この物言いでは、誘導爆弾の類は選択肢にないのだろう。

 もっとも、今時大型爆撃機を使った爆撃など、巡航ミサイルでもなければ絨毯爆撃と見るのが自然である。

 

 市街地狙いの雑な空爆。きっと、酷いことになるだろう。

 隣国が雑に始めた侵略が、頭の中を過ぎる。

 

 またストレス源が増えた。

 

「こちら、日本国航空自衛隊第11航空団第114飛行隊……」

 

 これは、チェイスの発言ではない。

 聞き覚えのある声が、通信機から響いてきたのだ。

 

「こちら114飛行隊(ファーストペンギン)のチェイス! ボス!」

 

「よう、ナンパ野郎。下から見せてもらったぞ」

 

 下。そう言われて、チェイスは思い至った。

 ボスのF-2は翼を撃ち抜かれて撃墜された。ならば、脱出している可能性だって十分あるではないか。

 少しだけ、心中に落ち着きが戻ってきた。

 

「くそっ、死んだかと思ったぞ」

 

「パラシュートの確認ぐらいしろ! ……と、言いたいところだが。

あの空戦じゃ難しいわな」

 

 脱出したのなら、ボスは非常用装備にある救命用通信機で交信しているのだろう。

 現在地の気候は把握していないが、あの大きな積乱雲が間近にあるのだ。

 海上はかなり厳しい環境に違いない。

 

「ミラージュの奴らに頼んで、救助を要請してみる」

 

「頼むぞ……嵐が近い」

 

 この空の上では、ボスを助けるのは難しい。

 新選組の力を借りて、救助隊を派遣させなければ。

 

「あー、竜司ちゃん? 頼みがあるんだけどさ」

 

「私も聞いていましたので先ほど、司令部に捜索救助の要請を出しました。

大まかな位置も通達済みです」

 

「話が早くて助かるよ」

 

「それと司令部からの伝言です。支援がある限り、こちらも最大限協力する。

以上です」

 

 助けがあるのならば、機体は諦めるほかないがボスは助かる。

 

 とはいえ。竜司の口調から、救助のために何らかの条件が課せられるのは目に見えていた。

 残念ながら、断れそうになかった。

 

「ちぇっ。昔読んだ架空戦記みたいなことになるんだろうな」

 

 これから先に起こる戦争への加担に暗澹たる気持ちになりながら、何気なくレーダーに視線をやる。

 爆撃機と比べて、とても小さな反応。

 

 高度は40000(12000)フィート(m)

 その反応は、西に向かっていた。





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葦原新政府空軍国籍標章
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