蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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119 操縦課程最終検定「F.N.G.」

央暦1970年3月20日

長坂 長坂空港

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 長坂空港のターミナルは、包囲されていた。

 プラカードを掲げた人々は口々にスローガンを叫ぶ。

 

「幕府は消えろ! 魔王討伐!

(がい)(はら)え! 大・葦原!」

 

 葦原政府軍には、五民平等を信じていない元武士の軍人は少なくない。

 平等を単なるスローガンと見て、現実に達成されると思っていないのだ。

 

 しかし、葦原政府を支持する大多数は違う。

 葦原人の平等と勝利を願い、そして葦原の繁栄を期待している。

 

 世界博覧会のスタッフや、訪れる客は葦原全体では少数派の変わり者。

 大多数は毎日の仕事に忙殺され、イベントなどいく暇がない。

 世界博覧会など、外国とつるむ金持ち共のけしからんイベントだと軽蔑しているのだ。

 

「……忙しくて、政治の流れなんて知る暇もない、か」

 

 だからこそ、報道は必要なのだ。

 状況を正確に咀嚼し、広めるメディアという存在が。

 

 良介は座席に突っ込まれていた新聞に視線をやった。

 葦原全国新聞という政府出版のメディア、その号外である。

 一面にはこうあった。

 

『集え憂国の志士! 団結せよ愛国の義士! 長坂空港に巣食う悪を打倒せよ!』

 

 内容は良介も目を通していないが、飯釜の言うところによると。

 

「政府がこれを配ったのだ。

参加すれば日当を支給し、休んだ仕事を不問とする……

どころか、参加者の特別休暇を政府の名の下約束させるとな」

 

 普段の仕事を離れて、立って叫ぶだけで報酬と休暇が出る。

 しかも権力のお墨付き。

 良介でさえ、食い付いてしまいそうな好条件である。

 

 大多数からしてみれば、わかりづらく、上から物を言う幕府よりも。

 隣で踊り歌いながら、わかりやすい勝利を喧伝する伊邪哭國男率いる政府の方がいい。

 だからこそ、葦原政府は内戦でほぼ勝利していたのだ。

 

 繁栄は、簡単に手に入るものではない。

 もしそうであれば、どこもその手段を使っているに違いない。

 簡単に手に入る手段がこの世にあるとすれば、それは簡単な手段を叫ぶ側に回る事だろう。

 

 葦原人は都合のいい報道や政治に惑わされ、安易な方向に流れてしまったのだ。

 WW2へと政治の背中を押した、かつての日本人のように───

 

 というのは、良介の考え過ぎだろうか。

 

───ま、とはいえ。

葦原の状況が戦争で一発逆転したくなるくらいヤバいってのは、わかるけどさ……

 

 空港を囲う彼らはその、葦原の大多数であった。

 

「どうする、入れそう?」

 

「……車で入れる場所は、多くないな」

 

 ターミナルは言うまでもなく、車両用の通用口も封じられている。

 逆に言えば、それ以外はがら空きである。

 

 さすがに空港の敷地全体を包囲出来るほど動員出来なかったのだろう。

 故に人の出入りがある辺りに集中させているのだ。

 

「管理棟は? あの辺りはあんまり空港ってイメージないと思うけど」

 

「……行けるかもな」

 

「事前に空港に連絡した方がいい。基本施錠されてるから」

 

「さっすがしむすけ、空の人だ」

 

 あくまで馬廻衆は将軍の護衛で選抜された旗本の武士であり、航空関係は素人だ。

 馬廻衆のひとりが魔力通信で交信を始め、管理棟の位置を把握した。

 

 一般車を装い、暴徒と接しないように通過し。

 ターミナルからそこそこ離れた場所にある管理棟付近までやって来た。

 

 その辺りは空港関連施設が立ち並ぶエリアで、ひと気はあまりない。

 そして幸いにも、長坂空港は敷地内に管理棟があった。

 

 管理棟ゲート前に到着するのと、職員と近衛軍が開錠しに来たのはほぼ同時であった。

 

「既に大和殿と春川親王殿下は御料機で待機中だ。

志村、お前の機体の準備はもう少し……」

 

 空港職員がゲートの錠を外した。

 直後、良介の隣で千夜が叫んだ。

 

「中に! 早くっ!」

 

 ダンッ、という衝撃と共に運転席の窓に亀裂が入った。

 銃撃、防弾ガラスでなければやられていた。

 

「くそっ!」

 

 運転手が強くアクセルを踏み、解錠されたゲートを突破するかのように飛び込む。

 その背後から銃弾が浴びせられた。

 

「うおっ……!」

 

「撃ち返せ! 遠慮なしだ!」

 

 銃器で武装している相手に遠慮は無用。

 近衛軍の耕作は自分の射撃班に指示を飛ばし、応戦を始めた。

 

「良介さんら! 先に格納庫へっ!

ここは俺らにお任せをっ!」

 

「頼んだ!」

 

 車体越しのくぐもった声に、良介は応えた。

 

 振り返れば、近衛軍は制圧射撃を行いながら門を閉ざし、職員から錠をひったくっていた。

 少なくとも、ここから暴徒がなだれ込む心配はない。

 

「……こりゃ、停戦は終わりだな」

 

「もとより、攘夷(じょうい)を掲げる政府の側が堪えていたのが不思議なものでした。

人々を惑わす理由に攘夷を使い、ここまでの行動を起こした。

もう、世界博覧会は続けられないでしょう……」

 

 ゆきは、消沈した表情で言った。

 せっかく楽しさを理解出来たというのに、この事態だ。

 

 とはいえその楽しさは、葦原の人々からすれば金持ちの道楽。

 批判しても、異国の利益を受ける悪党の叫びとしか聞こえないだろう。

 

 事態を劇的に改善する特効薬など、どこにもない。

 ましてや異邦人である良介には、今この状況を切り抜ける以外に出来ることはないのだ。

 

 そう、志村良介には戦う以外の術がないのだ。

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