蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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120 操縦課程最終検定「F.N.G.」

央暦1970年3月20日

長坂 長坂空港

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 ひとまず、良介たちは落ち着く猶予が与えられた。

 

「まったく……良介、少しは懲りたか?」

 

「どうかな。またやるかもね」

 

 少なくとも今回の件、良介の存在で車両が余分にひとつ必要になったのは事実だ。

 しかしそもそも、元将軍の兄弟が幕府館にいたのだ。

 

 結局馬廻衆の活躍は必要になった事だろう。

 

「しかし、元将軍と宗治郎のおっさんはどうやってあの包囲を突破したんだ?」

 

「文字通り、突破したんだよ。数人跳ねてな」

 

 ボスが指差す方向を見ると、ボンネットとフロントガラスに赤黒い模様を浮かべた車があった。

 なるほど、文字通り突破したわけだ。

 

「数人殺して突破するか、銃撃されるか……

どっちがマシなんだろう?」

 

「さあな。少なくとも、政府側世論に影響が出るだろうな」

 

 政府側の情報機関は飛び上がって喜んでいるに違いない。

 プロパガンダのいい材料を用意してくれたと。

 

「……くそ」

 

「そう言うお前だって、かなり無茶をしたみたいじゃないか」

 

 ボスが言っているのは、あの少年の存在だろう。

 良介を仇として、刃物で暗殺を試みた刺客。

 

 良介に制圧されたうえに、本当の仇はゆきであると知らされていたが。

 彼は今も拘束され、外に転がされていた。

 

「なんで連れてきた?」

 

「多分しくじったら、消されてたでしょ」

 

「どうだろうなぁ……何が起きても放置じゃないか?

良くも悪くも、鉄砲玉ってそういうものだろ?」

 

「さすが古い時代の人間、古い時代の戦術に精通してるな」

 

「うるせぇ……ま、聞くところによると偶然を同時多発的に起こすような奴が

後ろにいるんだろ? 背後関係を洗っておくに越した事はないだろうな」

 

 人間に最低限の情報を与えて、自分の意思で行動していると錯覚させる。

 しかも複数人の行動を同時に起こすよう制御している。

 

 並大抵のプランナーではない。

 もしや、政府側のフィクサーと呼べる存在の仕業ではないだろうか?

 

 しかしそれほどの実力があるフィクサーならば、現状のようなカオスにならないよう制御しているはず───

 

「……こういうの、今考えるのはよそう。

それよりもさ。あれ、F-2の修理って終わってるよね?」

 

 見れば、整備隊はF-2から離れて新選組やキンシの整備を行なっていた。

 飛行に必要な部品の交換は終わっているのだ。

 

「ああ、その通り。これから来るのは、F-2に積むための装備だ」

 

「……装備? 兵装って事?」

 

「そうだ。お前に代わって、アーロン女史に聞いてやったぞ。

曰く、『目に見える武器があるだけで、抑止力になるからね』だとよ。

……この状況だ、ありがたい限りじゃねぇか」

 

 陸では手段を厭わず暗殺を目論み。

 では、空では何が起こるか?

 行きのように、兵器を用いた攻撃を受けても不思議ではないな。

 

「政府も、増援用の装備は許しても俺ら用は許さなかったからな。

……こりゃ、連中も相当混乱してるみてぇだな。どこも一枚岩じゃない」

 

 かたやトップの失態から、要求を飲まざるを得なくなり。

 かたや、民間人を悪用して暗殺を目論む。

 

 トップが下の統制を取れなくなっている様子が目に浮かぶようだ。

 笑えないのが、敵も味方も被害を受けているところだ。

 

「どう思う? 軍と情報機関で割れてるとかさ」

 

「なんとも言えねえよ……俺らはよそ者なんだからな」

 

 ふたりの間に沈黙が漂うと、途端に鼓膜が騒音を捉える。

 整備隊の怒鳴り声、動き出すエンジン。

 そして、空港を取り囲む暴徒たち。

 

 武装した工作員の入り込んだ、官製暴動だ。

 

 ボスが腕時計を一瞥すると、自分のヘルメットを抱えた。

 

「そろそろだな。搭載が済み次第、出発だ。お前も準備しとけ」

 

「ああ……」

 

 時間通り、滑走路に接近する機体が姿を現した。

 軍用機ではなく、民間の輸送機───

 一方で、積荷は武装勢力に供与するための兵器。

 

 すなわち、これは正規のフライトではない。

 

 ロング・イラの文字を持つ機体は着陸すると、彰義隊の格納庫前に駐機した。

 続いて、キンシを護衛するため新選組が離陸準備を始める。

 

「へぇ、おたくが畏怖の魔王?

畏怖するってツラじゃないな」

 

 果たして、この男はどの手の人間なのだろうか。

 合衆国の暗部を担うであろう老齢の輸送業者は、人好きのする笑みを浮かべていた。

 

「どうも……陽光とは違うんだな」

 

「ああ。こりゃ、あれだよ。増槽(ドロップタンク)ってヤツだ」

 

「どー見ても違うだろ、おい」

 

 合衆国が持って来たのは、自称ドロップタンクの───ミサイルであった。

 しかし、単なるミサイルと言っても対空ミサイル(AAM)とは明らかに異なる。

 

 増槽というのは、書類上の建前というヤツだろう。

 イギリス人でもあるまいし、タンク違いではないか。

 

「じゃ、なんに見えるんだい?」

 

 この太さ───想定される炸薬量から導き出される答えは。

 

空対地ミサイル(AGM)

 

「はははっ、ご明察……現物はもうこの世にないが、

元は神兵がヘリに積んでた代物をバラして、こっちで図面引いたもんさ。

あれだ、デッドコピーって言うのかね」

 

 思えば、米軍が運用していたマーベリックミサイルによく似ている。

 ヘリに積んでいたという話は───あまり聞かない。

 

 米軍がヘリに積む空対地ミサイルといえば、ヘルファイアではないだろうか?

 マーベリックはヘルファイアと比べて随分と大型で、ヘリが相対する戦車には性能過剰だ。

 小型のヘルファイアでも十分、戦車の装甲を破壊出来るとされている。

 

 あるいは───その神兵とやらは、良介の知る米軍とは違う存在なのかもしれない。

 

「ふーん。運用方法は?」

 

「こっちじゃ、おたくらの機体みたいにアビオニクスを色々積めないからな。

AAMと同じ要領で出来るようにしてある。

シーカーに熱源教えて、ピュー……ドカンだ」

 

 赤外線誘導の対地ミサイル───

 タイプ次第だが、確かマーベリックにも赤外線誘導モデルがあると聞く。

 

 搭載可能な電子機器の類が小型化されていないこの世界では、戦闘機搭載の兵器にレーダー誘導は難しい。

 良介は葦原製AAMの陽光を対地転用していたが───

 

「……そういえばエラちゃん、陽光の対地攻撃に興味を持ってたな。

あれから着想を得たのか?」

 

「はっ。あの婆さんらしい発想だ。

昔っから、他人の発想を組み合わせて自分の発明の如く扱うんだよ」

 

 もっともあれは、感度が過敏過ぎてAAMとしては使いづらいという欠点でもあるのだが。

 ともあれ、それならば運用にそこまで手間は掛からないだろう。

 

「それも才能だろ?」

 

「ああ、才能さ。

ニコイチだって、くっつけりゃうまくいくわけじゃないんだからな」

 

 ちょうどその頃、合衆国の作業員がF-2の中央ウェポンステーションにパイロンごとAGMを搭載した。

 それ以外の武装はないが、予定では帰還の行程に障害はないことになっている。

 

 本当に何の問題もなければ、こんなものを抱える必要はないのだが。

 

「これ、機体のFCSは認識するの?」

 

「もちのろん、抜かりはないぜぇ。対地攻撃用途だから戦闘機は難しいが、

300(555)ノット(キロ)くらいでタラタラ飛んでるヘリなら落とせちまうよ」

 

「それは普通のヘリの最高速度越えじゃないか?」

 

「へっ……俺ぁ、マッコイ。リアル・マッコイだ」

 

 老齢の輸送業者は笑みを浮かべると、そう名乗った。

 

「へぇ。本物(リアル)の?」

 

「へっへっへ。そうそう、リアル・マッコイさ」

 

 良介は英語の勉強をする際に、英和辞典を隅から隅まで暗記するという手法を用いた。

 故に慣用句も頭に残っている。

 

 (The)リアル(Real)マッコイ(McCoy)は英語における慣用句で、『本物』という意味合いがある。

 

 神兵の謎翻訳機能はジョークもある程度翻訳するが、ここまで細かいエスニックジョークは上手く通じない。

 しかしこのジョークが通じるということはこの男、リールランド語話者ではない。

 

 良介と同じか、かなり近い世界の英語話者だ。

 マッコイという名も、偽名かもしれない。

 

「何の因果か、見知らぬ土地で死を売って回る事になった……

ただのおいぼれさ」

 

「まさか、俺ら以外にも神兵がいるとはね」

 

「勘弁してくれよ。

俺は軍人じゃなくて、おまけで巻き込まれた軍属の清掃業者なんだ。

神兵って奴とは扱いが違うの!」

 

「そういうものなの?」

 

「複雑怪奇な事にな」

 

 マッコイは背を向けると、P-20への搭載作業がもたついていた作業員に向けて叫んだ。

 

「とっとと終わらせろ!

また葦原人の追跡を撒かなきゃならねぇんだからな!」

 

 どうやらここまで来る行程でも、政府軍に嫌がらせを受けていたらしい。

 あの中型輸送機で戦闘機を撒くというのも、また凄まじいが。

 

「清掃業者ってのも、何かの暗喩?」

 

「マジモンの清掃業者、前職の掃除夫だよ。

じゃあな、日本人(JAP)! また会おうぜ」

 

 ここまでストレートに差別用語を出されると、逆に清々しいものがある。

 本当に最低限の整備を済ませた輸送機は慌ただしく離陸準備に入り───

 あっという間に空へと戻ってしまった。

 

「歴史に残らない神兵……いや、異世界人か」

 

 以前、宗治郎が言っていたな。

 軍人ですらない異世界人は、歴史の闇に埋もれているであろうと。

 その闇の下にいる人間がひとり、合衆国にも居たわけだ。

 

「でも、神兵とは扱いが違うって、どういう事なんだろう?」

 

「良介! もう出発だ、準備しろよ!」

 

 機付長から指摘されて、良介は頷いた。

 今、マッコイのことを考えていても仕方がないだろう。

 

「それもそうだな……エンジン始動!」

 

 JFSを起動させ、機体のエンジンを始動させる。

 計器、エンジンの駆動音───異常はなし。

 

「機体に異常なし、離陸準備よし!」

 

「それじゃ機付長、向こうでまた会おうぜ」

 

「そりゃ無理だ。また休暇をもらうからな」

 

 互いに肩を叩き合い、チェイスと機付長はしばしの別れとなる。

 F-2周辺から整備要員が退避し、安全が確認された。

 

「こちらペンギン1、離陸許可を求む」

 

「了解、誘導路への移動を許可」

 

 滑走路ではすでに新選組が離陸し、続いてキンシが離陸位置へ移動していた。

 

 キンシ。

 あの機体には将軍や老中のような、旧幕府の重鎮だけではない。

 葦原連邦の象徴となる現公や、千代も搭乗しているのだ。

 

 なお良介の知り合いに加わった四谷は、この後離陸する整備隊を乗せてきた輸送機で斗米へ渡るらしい。

 

 攻撃されるとすれば専用の塗装が施されたキンシか、良介の乗るF-2だ。

 上空で新選組が警戒態勢に入っているが、相手は無反動砲を持ち出す輩だ。

 無防備なタイミングで撃ち込まれれば、どうしようもない。

 

 キンシが滑走をはじめ、離陸への準備に入る。

 これで地上攻撃でもされれば一大事だが───

 

 加速し、陸地から脚が離れ、空へ飛び立った。

 飛行開始直後の無防備なタイミングでも攻撃はなく、無事に飛行を開始した。

 

「キンシの離陸を確認! よかった……」

 

 竜司が安心した声を漏らした。

 

「さあ、今度は俺たちの番だ」

 

「チェイス、竜司! 上から俺たちが見張ってる!

安心して上がってきてくれ!」

 

 新選組の鉄之助が上空から宣言した。

 お言葉に甘えて、チェイスはスロットルレバーを押し倒した。

 

 出力を上げても、エンジンの違和感はない。

 

「ペンギン1、離陸する。長坂空港へ、幸運を祈る!」

 

「……畏怖の魔王へ。そちらも、幸運を」

 

 果たして、次ここへ来るのは戦うためか。

 あるいは問題が解決して、観光のためか。

 

 せめて後者であることを願って、チェイスは空へと旅立った。




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