蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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本日連投です


07 夷俘島迎撃戦「IRREGULAR」

央暦1969年5月11日

夷俘(いふ)島屋岸 屋岸港

ロング(Long)イヤ(Ear)

エラ・アーロン

 

 空襲警報が鳴り始めてしばらく。

 エラ・アーロンが耳にしたのは爆撃の衝撃ではなく、遠くから響く空戦の気配だった。

 

 そっと船から抜け出して、南南西の空を仰ぎ見る。

 肉眼では細い糸屑のようにしか見えないが、魔力で光を捻じ曲げ───

 ともかく、魔力次第で遠くまで見える双眼鏡をのぞき込んで、ようやくそのシルエットが浮かび上がる。

 

 6機の爆撃機、方向と高度からして幕軍ではない。政府軍の爆撃機だ。

 同じく6機ずつの護衛機を伴って、こちらへ向かっていた。

 

 しかし、突如として状況が動いた。

 

 詳細はわからないが、編隊から2機の爆撃機が離脱、反転した。

 そこへ護衛機の1機が追いすがって、攻撃位置につこうとしていた。

 

 謎の同士討ちか、それとも敵前逃亡の粛清か。

 どちらにせよ、戦闘機に狙われた爆撃機の先は決まっている。

 

 定められた運命を受け入れんかの如く、水平飛行を続ける爆撃機。

 そして、制御を失い墜落した。

 

───戦闘機の方が。

 

 護衛機とかなりの高速ですれ違った影をエラは見逃さなかった。

 双眼鏡を覗き込んで、護衛機を墜とした機体に注目する。

 

「蒼い機体……あのシルエット……」

 

 かつてエラは神兵に取材し、異なる世界の兵器を描いてもらった事がある。

 その兵器群の一つに、よく似たものがあった。

 

 描いた者はひとりではなかったため、かなり普及した兵器と推測できる。

 

 あのスケッチとの相違点は、誤差と呼べる程度の機影の違い。

 もう一つは、その塗装だった。

 

 聞き取り調査でその機体はF-16と呼ばれ、灰色をしているとされていた。

 蒼いものは聞いたことがない。

 

 この世のものではない技術に思案を巡らせていると、戦闘はさらに激化した。

 蒼い機体と幕軍の戦闘機が瞬く間に護衛機を殲滅し、部隊の肝である爆撃機に狙いを定めたのだ。

 

「空の神兵……これは、初めて」

 

 一瞬の攻撃機会を逃さぬ瞬発力と洞察力。

 例え敵の砲火の中であろうと臆さず、機会を掴み取る度胸。あるいは狂気。

 

 そして何より、その機動は美しかった。

 

 動いている機体の性能もあるのだろうが、エラの長年の勘は搭乗するパイロットの技量によるものが大きいと分析した。

 

 182年の人生の中で、ここまで彼女の心を動かす戦いをした者はそう多くない。

 初代合衆国皇帝、タナト・ク・マランスを想起させる豪快な戦いぶりだった。

 

 降伏勧告をしていたのか、幕軍は爆撃機に対してしばらく攻撃の手を止めたが、やがて再開された。

 

 この頃にはもう目と鼻の先。

 爆撃機が爆弾倉の扉を開いているほどの距離感であった。

 

 銃座から放たれるマズルフラッシュと曳光弾が双眼鏡越しに見えた。

 それでも、戦闘機相手には嫌がらせ程度にしかならず。

 

 幕軍によって爆撃機は屋岸へたどり着くこと叶わず、次々と海に叩きつけられていく。

 そして、最後の一機。この機体だけは屋岸港を照準に捉えられる距離まで接近していた。

 

 残念ながら、彼らのフライトはそこで終了した。

 銃座の迎撃をかわしながら、幕軍の戦闘機がエンジンを破壊したのだ。

 

 制御を喪失した爆撃機は墜落を始めた。

 

───エラの乗る輸送船に向かって。

 

 十分予期出来た話だ。

 

 爆弾は落ちないにしても、戦闘の余波に巻き込まれる。

 予期して当然、出来て当然。

 エラがそれをしなかったのは───

 

 今まで無事だった自分が、そんなつまらない理由で死ぬなどあり得ない。

 長年の経験が自分を不死の傍観者であると、錯覚させていたのだ。

 150年物の慢心である。

 

 実際は違う。彼女は身を守る術を持たぬ当事者。

 戦場に身を置く者は、誰であろうとなんであろうと当事者のひとりなのだ。

 

 逃げ出すか。恐らく、下船は間に合わない。30秒後にはこちらへ落ちてくる。

 では海に飛び込むか。海中に落ちた爆弾の衝撃と沈没の海流が、自分を殺さなければいいが。

 

 ならば、船に避難するか。

 爆撃に対する装甲など一切備えない輸送船でも、多少はマシか。

 

 エラは船内に飛び込むと、机の下に身を隠した。

 直後、この世の終わりのような衝撃と爆音が船内を揺すった。

 

 これは、死の瞬間なのだろうか。

 自分が関わってきた多くの兵器は、多くの人々をこのような目に遭わせたのだろうか。

 

 そして今、報いを受けて。

 この身は爆圧を受け、床にへばりつく有機物に成り果てているのだろうか。

 

「……私は、まだ生きてる」

 

 恐怖が思考を支配したが、それはほんの一瞬間で終わった。

 耳鳴りと脳震盪で朦朧とする中、状況を把握するため甲板へ。

 

 船の至る場所には、銀色に輝く爆撃機の破片が突き刺さっていた。

 なんなら、波止場には地面に叩きつけられて潰れたエンジンの残骸まである。

 

 どう見てもこれは、墜落した爆撃機が直撃した後の光景ではない。

 まるで、空中で爆発でも起こしたかのよう。

 

 空から戦闘の気配は感じられない。

 エラが空を見上げるのとほぼ同時に、船の真上を背面飛行した戦闘機が通過していった。

 

 主翼に赤い点……葦原風に言えば、紅の一つ星。

 この国籍標章を表す異界の国に、エラは心当たりがあった。

 

「ジャパンの蒼い機体……あなたは、誰と戦うの?」

 

 空の彼方へ消えていく小さな機体に、エラはそっと語りかけた。

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