蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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124 操縦課程最終検定「F.N.G.」

観覧対象: PENGUIN1 | CHASE

北緯42度20分02秒 東経141度56分4秒

葦原連邦直轄領夷俘島斗米基地南

1336

 

《あの蒼鷹っ、一瞬で2機やりやがった!》

 

《魔王は機体を選ばないという報道があった……奴なのか?》

 

《あり得るな、隊を分けるぞ。橙はあの蒼鷹を狩れ!》

 

 演習、それも操縦過程最終検定とはいえ仮にも葦原は内戦中。

 教官機のうち1機は、申し訳程度の武装を搭載しての検定となる。

 

 この武装した教官機は、ボスの役割だった。

 

「ボス、やるじゃないか」

 

 彼を死なせないためにも、間に合わせるしかないぞ。

 それも、竜司ら他のスクランブル発進機はF-2の最大推力には追い付けない。

 

 しばらくは、単独で戦うしかないのだ。

 

「ペンギン1! 撤退する訓練生、間もなく敵機の射程圏に入ります!」

 

 先ほど斗米基地から上がったフツノミタマのゆかり管制兵が報告してくれた。

 

 AWACSだけでなく、F-2のレーダーでも敵機を捕捉している。

 数は18───いや、8機が反転して孤立した味方機に向かっていった。

 

 この孤立した味方機が誰なのかは、想像に難くなかった。

 

「蒼鷹の足じゃ逃げ切れないよなぁ……了解、味方の撤退を支援する。

マスターアームオン」

 

 主翼にぶら下げたAAMのシーカーを始動させ、全ての兵装の安全装置を解除する。

 この世界で最も危険な飛行機がここに誕生した。

 

 もっとも、こちらと敵機の間には味方機がいる。

 いつものようにミサイルを乱射するのは危険だ。

 

 たとえ、擬似的なレーダースレイヴ方式で発射するとしても、所詮は熱源を追いかけるヒートシーカー。

 誘導中に違う熱源を追尾してしまい、誤射に繋がる恐れがあるのだ。

 

「こちらオメガ1っ、このままだと後ろから撃たれて終わりだ!

こうなったら、格闘戦に持ち込んで時間を稼ぐ!」

 

「オメガ1、撤退を続けてください! 交戦は禁止!

間もなく増援が到着します!」

 

「無理だ、待ってられない! 背中を撃たれて死ぬくらいなら、

一矢報いてから死んでやるっ! いいよなっ⁉︎」

 

「武装もないのに⁈ そんなの自殺行為だ、誰か助けて!」

 

 すると、レーダーの反応に動きがあった。

 オメガ1なる訓練生が、機体を翻して敵機に向かって行ったのだ。

 

「無茶な奴だ。そんな飛び方したら死ぬに決まってるじゃないか」

 

 機体、兵装、頭数───

 どこをどう考慮しても、勝ち目のない戦いだ。

 後席の教官は何をしている?

 

「いや、後席の教官と意見が一致したんだろう。

俺も同じ状況だったら、同じ事をする」

 

 まったく、我々が日本生まれでよかった。

 お前と一緒に戦時下で訓練を受けていたら、命が幾つあっても足りなかっただろうよ。

 

《なんだ? 逃げ出した敵機が1つ、こっちに向かって来た》

 

殿(しんがり)を務める気か。その意気や良し! (おい)が全身全霊を以って相手とする!

残りはへなちょこ共を仕留めろ!》

 

 敵は油断もなく、完全に乗り気だ。

 それも、それはそれとして頭数を活かして追撃も続ける。

 

 状況は何も改善していない。

 

「……こちら六文銭! 我が隊も敵機と交戦する!」

 

 オメガ1に影響されたのか、教官機の六文銭も足止めのために旋回を始めた。

 だがそれも、たったの2機。

 対処するにもやはり、頭数が足りなさ過ぎた。

 

 誠に遺憾だが、認めてやろう。

 この状況を一変させられるのは、お前だけだ。

 

「正面の機影、速いっ……! どこの機体だ⁈」

 

 オーグメンターを吹かしたF-2の推力は、見る見るうちに撤退する味方編隊へと迫り。

 やがて、彼らと超音速状態ですれ違った。

 

 互いが帯びる衝撃波がぶつかり合い、機体が爆発したかのような音と共に揺れる。

 その時、チェイスには練習機の人間と視線が合ったのがわかった。

 

「主翼に紅の一つ星……!」

 

「八咫烏だ!」

 

 絶望的劣勢を覆してみせろ。

 いつもやってる事だ、慣れっこだろう?

 

クソ使えねぇ新入り

OPERATION : N/A

契約322日目

北緯42度20分02秒 東経141度56分4秒|天候:晴れ|1340(現地時間)

葦原連邦直轄領夷俘島付近|果ての海|公海

 

「ペンギン1、交戦」

 

 既に殿を決意した六文銭とオメガ1は格闘戦に入っていた。

 機体をぶつけるくらいしか、相手を撃墜する術のない絶望的戦闘だ。

 実際、脅威とすら思われていないのか大した数も割かれず1対1だ。

 

 ミサイルを撃つには、状況は混乱し過ぎていた。

 

「オメガ1、六文銭。後はこっちが代わる」

 

「こちらオメガ1、お断りだ! いくらあんたでも、この数を相手じゃ無理だ!

誰かが引き付ける必要がある!」

 

「六文銭同じく! 我らもこの場に踏みとどまります!」

 

 武装もないというのに、なんと剛毅な。

 空の上では、言葉と武力以外に説得する手段はない。

 

 交渉はフツノミタマに任せ、チェイスは敵に集中した。

 

 FCSを操作し、GUNの照準器をHUDに表示させる。

 目標は逃げる訓練生を追尾する政府軍機。

 

《……奴だ! 畏怖の魔王、御命頂戴!》

 

 曳光弾の列がすれ違い、やがて数トンの巨体同士が空気の流れをぶつけ合った。

 すると機影がひとつ、翼端から火を放ちながら砕け散っていった。

 機関砲の弾が翼端に搭載したAAMに着弾、誘爆したのだ。

 

《へっ、間違いないっ……! 隊長、魔王だ!

魔王が来やがった! 紺4があっさりとやられた!》

 

《練習機は捨て置け! 目標は畏怖の魔王、ただ一人だ!》

 

 またしても、お前のファンが暴走しているらしいな。

 レーダー上では既に練習機を狙う編隊が転進し、お前の方へ向かっているぞ。

 

「野郎っ……! 俺らなんざ、脅威にもならないってか⁉」

 

 オメガ1や六文銭を狙っていた敵機も、完全にチェイスへ針路を変え始めた。

 手早く片付けなければ、包囲されるぞ。

 

「こんな遠くまで、よくお越し下さって……」

 

 HMDを起動し、六文銭のP-104から離れた敵機を捕捉させる。

 

「歓迎しなきゃな。ペンギン1、FOX2」

 

 シーカーが覚醒済みの陽光は、指定された熱源目掛けて真っしぐら。

 

《撃ってきた、回避!》

 

 敵機はフレアを投下しつつ、横を向くように急旋回した。

 その反応速度は素晴らしく、フレアに撹乱されたミサイルは空の彼方へと消えていった。

 

 しかし、旋回した結果減速した機体は完全に無防備だった。

 チェイスの本命は、ミサイルではなかった。

 

 GUNの照準器が、腹を向けた敵機ど真ん中に重なる。

 その瞬間に、引き金を絞る。

 

 20ミリ機関砲が火を吹き、曳光弾が無防備な腹部を貫いた。

 中央部に数十発の弾を受けた機体は即座に炎上し、脱出する間もなく爆散した。

 

 撃墜の報告をする間はないぞ、既に敵機がお前の背後目掛けて接近中だ。

 

「知ってるよっ……!」

 

 最大出力を維持しつつ、降下を始める。

 敵機が全てチェイスを狙っているというのなら、訓練生達は一旦放置しても問題ない。

 

 危険なのは、未だ夷俘の魔王疑惑を掛けられたままのボスの方だ。

 向かってくる曳光弾をかわしつつ、敵機とすれ違う。

 

《こいつ、俺らを無視する気か⁈》

 

《味方を救う気か。我らの追尾を受けながら、果たして出来るかな?》

 

 ミラーには変わらず、追尾する彼らの姿が映る。

 ミサイルについては───彼らに理性があるのなら、針路上に味方がいる状況での発射は避けるだろう。

 

「ボス、状況は!」

 

「8機に頭を抑えつけられてる!」

 

「さすが、よく生きてるもんだ!」

 

 敵機は五式打撃戦闘機、高性能ではないが蒼鷹では太刀打ち出来ない相手だ。

 数を減らしてやろう。

 

《橙、そっちに魔王がいくぞ! 練習機相手になにを手こずっている⁈》

 

《こいつっ、うまい具合に射線をかわしやがる!

魔王でなくとも相当な腕、いい手柄首だ!》

 

 そうはさせるか。

 HMDで目標を指定し、ボスを狙う敵機をロックする。

 

「ボス、ホップアップ!」

 

「頼むぞ!」

 

 チェイスの合図で、ボスは急上昇。

 重力と旋回によって大きく減速し、敵機の機動が明らかに甘くなった。

 

 好機と見たのだろうが、それはチェイスからしても同じだった。

 

「FOX2!」

 

 3発のミサイルが飛翔し、敵機へと向かっていった。

 五式はオーグメンターを搭載しているため、全力で吹かしていればその熱量は蒼鷹の比ではない。

 さらには、レーダースレイヴモードで目標を指定している。

 

 距離が離れていれば、誤射はない。

 

《橙っ、魔王が誘導弾を!》

 

《馬鹿な、味方ごと撃つつもりかっ⁈》

 

 敵機が慌てて散開するも、蒼鷹の速度に合わせて上昇していたのがよくなかった。

 陽光のシーカーは正確に熱源を捕捉し、機体を貫いた。

 砕け散った破片の残骸が、海へと降り注いでいく。

 

《橙7が魔王にやられた!》

 

《練習機なんざ相手にしてられん!》

 

 ボスは見事な操縦で失速状態の蒼鷹から機体制御を回復させ、海面スレスレで飛行を始めた。

 もう既に、敵はチェイスしか見ていない。

 離脱を邪魔する敵はいないだろう。

 

「ボス、残るなんて言わないよね!」

 

「わかってる……ペンギン3、離脱するっ。

チェイス、死ぬな!」

 

「私が死なせないっ!」

 

「俺らだっているんだからな!」

 

 この場に来たのはチェイス単独ではない。

 多少遅れはしたものの、味方はまだいるのだ。

 

「ペンギン2、交戦します!」

 

「新選組1番隊鉄之助、交戦っ!」

 

「同じく入道も交戦する!」

 

 同じペンギン隊の竜司と、新撰組の鉄之助と入道だ。

 彼らが追い付いて、敵編隊と戦闘を始めたのだ。

 

《後方より敵3機! 増援だ!》

 

《味方を救うため、先行して単騎駆けとはな!

やはりぼっけもん好きのする野郎だ!》

 

《やり甲斐があるってもんだ!

数は少ないが油断するな! 連中を魔王と合流させるなよ!》

 

 竜司と新選組に敵本隊を任せ、チェイスは5機の敵機と交戦状態に入った。

 

 現在、F-2には6発のAAMが残っている。

 全弾を使って全弾命中させたとしても、まだ敵は8機いる。

 竜司と新選組がいても、こちらは十分な頭数とは言えない。

 

 小学生並みの計算でも明らかなほど、不利な状況だ。

 

《増援は分断した! 数で魔王を囲い込め!》

 

 敵編隊は2機と3機で部隊を分け、別方向からチェイスへと向かってきた。

 どの編隊に食らいついても、どちらかが背後を狙って来る。

 

「邪魔だっ、卑劣な賊軍めっ!」

 

《見えた! 増援はオロール! 新選組とかいう、広告塔のザコ共だ!》

 

 チェイスは3機の方へ狙いを定め、上空へ逃れる機影を追いかけた。

 2機の方は思った通り、チェイスの後方へ向かうように旋回している。

 

 一方、その視界の隅で竜司たちの戦いが垣間見えた。

 あちらも数で押されている状況が明白で、竜司は散開した敵部隊からの追跡を受けていた。

 

「竜司ちゃん! 背後に注意(チェックシックス)!」

 

 今まさに、3機の敵編隊が彼女のコントロールゾーンに入り込もうとしていた。

 誘い込もうとしているかのように、無防備に見えた。

 だがそれは、あまりにも危険な賭けである。

 

「大丈夫っ……今ならっ!」

 

 フライ・バイ・ワイヤ制御がされていないオロールは、その気になれば操縦桿をぐいと引くだけで、一瞬のうちに失速状態に陥る危険飛行が可能だ。

 言い換えれば、簡単に減速できるという事でもある。

 

 コブラと呼べない程度の上昇はあったが、あっという間にオロールは減速。

 最適な位置に入り込まんとしていた敵編隊は、竜司の背を追い越した。

 

 オーバーシュートだ。

 

《押し出されたっ⁈》

 

《大丈夫! あの減速、加速は間に合わん!

誰かこの隙を突け!》

 

 しかし、この急上昇からの急減速では再加速が間に合わない。

 ましてやオロールは旋回時のエネルギー保持が悪く、エンジンの性能も釣り合っていない機体だ。

 致命的な隙となるのが普通なのだが───

 

 竜司のオロールには、秘密兵器があった。

 

 オロールの胴体下から、炎が迸った。

 急加速用の外付けロケットブースターだ。

 

 チェイスは今回、新選組と足並みを揃えるためにこれを用いた離陸を許可していなかったが───

 まさか、これほどうまく活用するとは。

 

 チェイスが思っていた以上に、彼女は成長していた。

 

《オロールが火を噴いてる、誰がやった?》

 

《いいや違うっ、あれはロケットだ! 加速してくるぞ!》

 

 ロケットブースターの力によって、オーグメンター以上の推力を得たオロールは機動のための速度を得た。

 かなり辛そうな-G機動で機首を下げると、押し出した3機編隊を正面下に捉える。

 

 状況は一瞬にして逆転した。

 

「竜司、撃つ!」

 

 わずかな間隔をあけて、2発の陽光を発射。

 さらに機関砲を照準して残る1機を攻撃。

 

 陽光はそれぞれ別の敵機に命中し、最後の1機は追い抜くように砲弾を当てた。

 小さな五式の機体に、30ミリの直撃は致命傷となった。

 

《紺3から6がやられた、一瞬でっ! 浅葱色のオロールだ!》

 

《浅葱色のオロール……聞いてるぞ。魔王の手下だ》

 

 竜司のオロールはエラの改修を受けた、通称スーパーオロールだ。

 しかし黒のだんだら模様をしている新選組オロールと区別しやすくするため、浅葱色の特別な塗装が施されている。

 

《紺各機へ! 浅葱色のオロールは俺が引き付ける。

その隙を討ち取れ! だが合流の阻止が最優先だ!》

 

 竜司と新選組、舐めてはいたが想像以上の技量に面食らっているらしい。

 戦争において、相手が嫌がることを率先して行うのは当然のこと。

 

 今回もまた、相手の嫌がることをしてやるべきだろう。

 

 チェイスは素早く追跡をやめ、竜司らの方向へ離脱した。

 

「竜司ちゃん、今からそっちへ合流する!

そっちの背後に対処する!」

 

「了解! チェイス殿の背後もお任せを!」

 

 敵はチェイスが増援と合流するのを最も嫌がっている。

 離脱を許したりはしないだろう。

 

《魔王が逃げたっ、味方と合流する気だ!》

 

《誘導弾発射を許可するっ! 俺ごとやれ!

釣りは十分出る!》

 

《了解ッ、互いに撃ち合うぞ!

死んでも文句は言いっこなしだ!》

 

 本当に、フツノミタマの支援があって助かった。

 事前にこの交信を盗聴出来ていなければ、この事態に対処出来なかったかもしれない。

 

「各機、ミサイル来るぞ! カウンターメジャー用意!」

 

「っしゃあっ! 来い!」

 

 竜司と相対すると、彼女の背後に入り込まんとする機影。

 囮を買って出た、敵の隊長機だろうか。

 

 離脱の報告を聞いて、攻撃のチャンスだと見たのだろう。

 そうはいかない。

 

 チェイスはFCSをGUNに切り替えた。

 直後、竜司の背後に炎と煙が見えた。

 

「竜司、ミサイルだ!」

 

「そちらも同じく!」

 

 フレアを投下しつつ、わずかな変化を交えたバレルロール。

 2つの軌跡は交わることなく、隙間のない円柱を形成し───

 互いを見上げる形ですれ違った。

 

 チェイスは照準器が敵機に重なった瞬間、引き金を引く。

 曳光弾の線が敵機の機首レドームを引き千切ったのが見えた。

 

《この機動の最中に、照準を……っ⁈》

 

 竜司とすれ違うと、爆発。

 そして信管が作動しなかったミサイルが次々に追い抜いていく。

 

 チェイスが振り返ると、浅葱色のオロールが機関砲で1機のコクピットを破壊する瞬間が目に入った。

 ミサイルが直撃したのは、チェイスがレドームを破壊した五式だ。

 木っ端微塵に爆発し、果ての海に散らばっていた。

 

《隊長が撃墜された! どっちの攻撃だ⁈》

 

《魔王だ! 畏怖の魔王にやられた!》

 

 果たして、これをチェイスの戦果にしていいのかは議論の余地があるが───

 敵が減ったのは、間違いなかった。

 

 この小さな勝利は、戦闘の勝利に繋がる一歩に過ぎない。

 頭数は向こうの方が上なのだから。

 

 最大推力で上昇し、Uターンするインメルマンターンを行って背後を向く。

 竜司を敵のど真ん中に放置は出来ないのだから。

 

「こちらフツノミタマ、戦闘に参加中の全機へ!

南西より味方が1機接近中、誤射に注意!」

 

「1機? どこの機体だ?」

 

 鉄之助の呟きと同時に、F-2のレーダーにも機影を捉えることが出来た。

 スキャンが行われるたびに、明らかに味方機は接近している。

 とんでもない速さ、マッハ2以上は出ている。

 

 ひとりだけ、チェイスには心当たりがあった。

 

「この速さ……姫様っ⁈」

 

 未だ戦線に踏みとどまっていた六文銭が口に出した。

 直後、ミサイルのような速さの機体が六文銭を追う敵機に機関砲を掃射した。

 

「こちらぺんぎん4。私は六文銭を支援する」

 

 ペンギン4、大助だ。

 彼女はP-104の改修機を受け取るため、連邦領で最も西にある故郷真田藩に向かっていた。

 その帰る足で参戦したのだ。

 

「ありがとう、大助。大いに助かる!」

 

「……くくっ、ちぇいすやめろっ。戦闘中に笑かすな」

 

 こんなしょうもない冗談で笑ってしまうとは、相変わらず変な女である。

 だからこそ、面白いのだが。

 

「六文銭、おめが。お前たちは退け。ここは私たちで対処する」

 

「了解。姫様、ご武運を」

 

「おいっ、勝手に決めるなよっ……」

 

「オメガ1、これが潮時だ。我々は十二分に役目を果たした。

ボスさんすら退いたんだ、あとは八咫烏に任せよう」

 

 ただでさえ、武装していない彼らは無理矢理戦場に留まっていたのだ。

 犠牲者ゼロの時点で、大金星である。

 

「……オメガ1、離脱する」

 

 六文銭とオメガ1が撤退を始めた。

 これで守るべき味方は撤退した。

 あとは───戦える者と、倒すべき敵がいるだけだ。

 

 チェイスが戦況を引っ掻き回した影響か、竜司は多数を相手に各個撃破で対応していた。

 さっきまでチェイスを追っていた5機は3機に減っている。

 

───もしかして竜司ちゃん、俺よりヤバいんじゃないのか?

 

 演習では今のところ、お前に勝ったのは有利なシチュエーションで数える程度だ。

 しかし、彼女はサトリ───特殊能力者。

 停戦が終わって本格的な戦闘が続けば、実戦の戦果は超えるかもしれないな。

 

 とはいえやはり、無理をし過ぎだ。

 背後に敵機が1つ。

 

 気づいているのだろうが、撃墜を優先しているように見える。

 

「誰かが助けないとな!」

 

 竜司を追う敵機を、チェイスがさらに追尾する。

 ミサイルは使用できない、GUNで照準。

 

「竜司ちゃん、追われながら墜とすってのは無理があるぜ」

 

 射線に彼女がいないことを確認し、発砲。

 

《こちら橙2、機体炎上っ!》

 

 被弾によって背中のパネルが剥がれ落ち、燃料タンクが炎上───

 間もなく、爆発した。

 

「助かりました!」

 

「俺が来なかったらどうするんだよ?」

 

「あなたなら、来ると確信していました」

 

 竜司がミサイルは放ち、撃墜。

 続いてチェイスも最後の1機をミサイルにロックさせた。

 

「ちゃんと言葉にしてくれ。俺はサトリじゃないんだ」

 

 囮役のために速度を殺していた敵機に、ミサイルを回避するための速度は残されていなかった。

 空中分解する敵機を横目に、チェイスは大助と新選組の戦いへ視線を向けた。

 

 意外にも、新選組と大助は相性が良かった。

 

 新選組はオロールの機動性で踏みとどまり、大助は新型機の速度性能を活かした一撃離脱で削り取る。

 大助に業を煮やして追跡しても追いつけず、そこを鉄之助や入道が突く。

 

 どちらかを削れれば、敵が有利になるが───

 削れなかった時点で、戦いの趨勢は決した。

 

 20機いた敵機は、もう4機しか残っていなかった。

 圧倒的数的優位が、均衡するどころか逆転していた。

 

《くそっ、20機用意してこのザマか……!》

 

「こちら葦原連邦空軍、AWACSフツノミタマ。

葦原政府軍機へ。決着はついた。武装解除し、斗米空軍基地へ着陸せよ」

 

 彼らの想定外は、AWACSによる索敵支援と交信の盗聴だろう。

 これがあったからこそ、チェイス達はこれほどの活躍が出来たのだ。

 

 葦原内戦の武揚攻略戦では、政府軍は別動隊を編成してまで幕府軍のAWACSを狩っていた。

 これほどの優位が覆るのだから、そこまでした気持ちもよくわかるというものだ。

 

《フツノミタマ。こちら幸彦幕府空軍、第7戦闘団。

ご厚意に感謝するが、ここまでした以上おめおめと帰るつもりはない!》

 

───幸彦幕府(・・)

 

 政府軍ではなく、幕府を名乗る。

 その点に、チェイスは強い違和感を覚えた。

 

 政府という立場に関心の薄い、武士出身者は藩空軍を名乗っていたが───

 色々な人間に言われた、内戦の激化と分裂。

 

 そこから、葦原政府内部の最悪な状況が想起できた。

 

 こいつらは政府の指揮から完全に逸脱して、故意に停戦を破ったのだ。

 戦争を再開させるため、世界博覧会を完全に破壊するため、政府のメンツを潰すため。

 

 それも、部隊単位などと言う小さな話ではない。

 かつての藩軍という、武装勢力による武装蜂起(ほうき)───

 軍閥の誕生だ。

 

「こいつら、戦争を始めたいのか……!」

 

《聞こえたぞ! 戦争など、とうの昔に始まっていた!

終わった瞬間など一瞬もない! もはや弱腰の政府、神祇官など関係ない。

我々こそが、真の幕府となるのだ!》

 

 ああ、始まってしまった。

 元から葦原政府とは、倒幕運動によって寄り集まったかつての藩だ。

 その諸勢力がトップである葦原政府を見限り、勝手な行動を始めたのだ。

 

 5年前のイラン、革命防衛隊の暴走を思い出す。

 各地域にいる武装勢力のトップがそれぞれの戦争を始めれば、葦原は内戦どころではない。

 国内外にケンカを売り始めて、戦乱は完全に制御不能になってしまう。

 

「ど、どういう事……? 真の幕府? 何を言ってるの……?」

 

 竜司がこの宣言に、困惑の声を上げた。

 直後、旋回して急接近した大助は最後の1機を撃墜した。

 

「難しいことではない。弱い葦原政府に天下が獲れるなら、我らにも出来る。

もっとうまく天下を獲り、采配出来る……

地方の武士(だいみょう)共はそう確信した。それだけの話だ」

 

「戦国時代の突入だよ……くそ」

 

 現代の技術を抱えた、中世の武士。

 それが、この葦原の世に誕生したのだ。

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