蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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125 操縦課程最終検定「F.N.G.」

央暦1970年3月29日

葦原連邦直轄領夷俘島 斗米空軍基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

「たった今報告が入ってきました。夷俘島南にて演習中だった連邦軍機が

停戦を違反し、領空を侵犯した卑劣な政府軍機による攻撃を受けたとの事です」

 

 デブリーフィングの最中、ホットな話題が鉄之助のラジオから飛び込んできた。

 各々が話す口が閉ざされ、耳を傾け始めた。

 

「連邦軍機は操縦資格を得るための演習中だったとの事ですが、

教官機と緊急発進したチェイス……

蒼穹の魔王によって全機撃墜されたとの事です。

以上。偶然演習の取材中だった、西国毎朝新聞社の四谷記者による報告でした」

 

 蒼穹の魔王?

 初めて耳にするふたつ名に良介は頭に疑問符を浮かべたが───

 

 思わぬ知り合いの名前が出た事で、注意はそちらへ向いた。

 

「わっ、早速使われた……!」

 

 困惑する面々の中でも、四谷だけが興奮の入り混じった表情でラジオを見ていた。

 そういえばボス曰く、着陸してすぐに電話で各所に報告へ向かっていたとか。

 

 西国毎朝新聞社は、厳密には武揚に本社がある毎朝新聞社の系列組織だ。

 西国と無印の毎朝新聞社は、繋がりがあるとはいえ別組織なのだ。

 

 夷俘島周辺においても、毎朝新聞社系列の放送局が発信している。

 その繋がりで四谷は情報を上げたのだろう。

 

「四谷記者、再び最前線でスクープをモノにする……か」

 

「死ぬような思いをした甲斐があった……くらいは言えるかな」

 

 前回は良介の命を狙う体当たり野郎だったが、今回はミサイルや機関砲を抱えた本物の攻撃だ。

 危険性は比べ物にならない。

 戦場カメラマンでも、ここまでの危険に晒されることは稀だ。

 

「蒼穹の魔王、ね……それも四谷ちゃんの仕業?」

 

「畏怖の魔王とか、幕府だか連邦だかの八咫烏より、

あんたらしいと思ったんだよね」

 

 そもそも、八咫烏や魔王のようなふたつ名が相応しくないのではないか。

 良介は表情で難儀を示したが、周囲はそうでもなかった。

 

「ハハッ! いいじゃないか蒼穹の魔王!

空を自由にカッ飛んで、無茶苦茶する良介らしくてさ!」

 

「同じ魔王でも、畏怖よりずっとらしい(・・・)しな」

 

 鉄之助と入道は、揃って四谷の評価に賛同した。

 このふたり以外からの感触も、見たところ悪くなさそうだ。

 

「皆、揃っているな!」

 

 一同が蒼穹の魔王について話し始めると、松平宗治郎───ではなく、松平吉宗が現れた。

 彼は葦原連邦のトップではないが、斗米基地司令であることに変わりはなかった。

 空自と同じく、連邦空軍も基地司令は飛行機乗りなのだ。

 

 彰義隊と訓練生の面々が、一斉に起立して彼の方を向いた。

 良介も少し遅れて、リラックスした姿勢で吉宗へ視線をやる。

 

「松代大佐。志村二尉。空知少尉。市村少尉。石川少尉。

此度の緊急出撃とその活躍、誠に大義であった」

 

 あくりとスクランブル発進した3人は答礼し、姿勢を正す。

 良介は───彼らほど硬くはないが、確かに答礼した。

 

「貴官から答礼を受けるのは、不思議な気分だな」

 

「うるさいな。でも、あんたは俺の正式な上官じゃない。

それは忘れるなよ?」

 

「無論だ……」

 

 良介に笑みを向けた吉宗は、続いてあの奇襲を生き延びた教官を見やる。

 

「鈴木一佐、六文銭の皆、教導隊諸君。よくぞ、彼らを生還させた。

まだひよっこだが、将来連邦の空を担う宝だからな」

 

「恐縮です」

 

 ボスは静かに答礼すると、教官陣を代表して一般的な返答を口にした。

 肝心なのは、生き延びた訓練生達の方だった。

 

「貴官らも、よくぞ生き延びた……だがしかし、この中でひとり。

看過し難い危険を冒した者がいる」

 

 言うまでもなく、これはオメガ1の事だろう。

 訓練生で一番の腕利きで、相応の自信を持つ青年。

 

 極限状態のアドレナリンが抜け切って冷静になったのか、顔を強張らせた彼は震えながらも敬礼の姿勢を崩さなかった。

 武装もなく奇襲してきた相手に格闘戦を挑み、殿を務めた。

 その活躍もあってか、結果的に死者は出なかった。

 

 しかし言うまでもなく、大馬鹿野郎だ。

 

 ただし───もし同じ状況に良介が置かれていたら、間違いなく同じ事をした。

 そういう確信があるので、非難する事は出来ないが。

 

「なぜ命令を違反し、殿を務めた? 理由を聞きたい」

 

 オメガ1のそばに歩み寄ると、吉宗は彼の顔を覗き込んだ。

 

 まだ正式な飛行機乗りにもなっていない新兵が、基地司令に詰問される。

 これはとんでもないプレッシャーだろう。

 

「……黙っていられませんでした。

停戦破りの卑劣な闇討ちで、自分や仲間がなす術なくやられるのは。

ですから一矢報いたいと、仲間が生き残ればいずれ一矢報いてくれると。

そう信じて、戦いました」

 

「お前……!」

 

 真っ青な顔で、彼は答えた。

 

 良介も同感だった。

 自己犠牲などという高尚な行いはガラではないが、卑怯な攻撃で全滅するくらいなら、仲間をひとりでも多く生かして仇を取ってくれる事を願う。

 

 よく知らない男だったが、その辺りは気が合いそうだった。

 

「それで。あっさりと一蹴され、無意味に終わる可能性は考えたか?

その浅慮のために、連邦の血税で拵えた機体を破壊するつもりか?」

 

「うっ……」

 

 まったく、訓練生の多くを救った人間にその言い草はなんだ。

 良介が口を挟もうとすると───

 

 不意に、袖を引かれた。

 犯人がゆきなのは明白だ。

 

 彼女へ視線をやると、静かに首を振った。

 事の次第を見守れと言いたいのだろうか?

 

「……哲也。彼の検定の結果は?」

 

 不意に吉宗がボスに尋ねた。

 

「技術・座学共に良好。しかし自信過剰な面が多々見受けられ、

実戦では足元を掬われる可能性大」

 

「……」

 

 オメガ1は決意を決めたように瞼を閉ざした。

 このような公開処刑を受ければ、誰でも失格どころか、操縦資格の剥奪も覚悟して当然だ。

 

「しかし、改善の見込みは十分にあり。

今後の成長を期待して、最終検定を合格とする」

 

「……え?」

 

 良介も検定で似たようなお情け合格を貰ったことがある。

 実に自衛隊的というか、日本的な結果である。

 

「そういう事だ。貴官らはこれより最終検定を合格とし、実戦部隊に配備される。

……なにせ、想定以上に早く頭数がいる事態になったのだからな」

 

 喜ばしい話題───ではないな。

 突然の事態に、喜ぶ間もなく呆然としている訓練生を横目に良介は尋ねた。

 

「世博停戦は終わり?」

 

「ああ……終わってしまった。今から話そう」

 

 頭を切り替えた一同は、聞く姿勢に入った。

 

「此度の奇襲を連邦政府は葦原政府へ正式に非難した。

だが、葦原政府はこれを否定した……先ほどまではな」

 

 否定していたのは、シラを切るため───と見るのが妥当だろう。

 

「というと?」

 

「ところが先ほど主張が一転した。幸彦藩出身部隊の独断だと申し、

葦原政府に責任はないと言い出した」

 

 主張を変えるにしても、急激過ぎる。

 これはシラを切っていたのではない。

 

 どうせ敵の言い出した偽情報、あるいは偽旗(ぎき)作戦の類───

 と思いきや、マジっぽい情報が続々と上がってきて事実だとわかり。

 これを自分達の仕業にされては困る、といったところか。

 

 言い方を変えれば───政府が軍の手綱を握れなくなったのだ。

 

「だが軍は政府が手綱を握ってるもんだ。

これで責任はないって言い草は通用しないな」

 

 ボスの発言に、皆が頷いた。

 

「その通りだ。

葦原政府は要請に従って軍に対し、停戦違反をせぬよう強く命じた。

こちらもそれを確認したが……此度の独断とやらが、

それで却って軍内部で広まってしまったらしい。

陸でも海でも、停戦違反攻撃の報告が上がっている。

特に陸では侵攻を企図する動きが確認された」

 

 葦原政府・大和幕府共に、軍の統制が取れていない気配は漂っていた。

 しかし、戦略的な目標や停戦を堂々と無視するほどではなかった。

 

 それに、奇襲してきた部隊の言い分が気になっていた。

 

「宗治郎。あの攻撃してきた部隊、真の幕府を作るとか抜かしてやがった。

その件に関して、何か情報は?」

 

「ある……が、心当たりが多すぎる」

 

「多いって、どういうこと?」

 

「葦原の各地方、各勢力及び軍派閥にそういう勢力があるのだ。

自分達こそが幕府、新たな葦原の支配者を目指す反体制勢力がな。

恥ずかしながら、我が連邦内部にもそういった組織がある」

 

「回帰を目指す反体制勢力ねぇ……この間の、陸軍部隊みたいな?」

 

「そうだ……どうやらその空気は、政府支配圏にもあるらしいな」

 

 つまり、だ。

 連邦・政府内部の反体制勢力とは。

 

 ほーん?

 そんなそれっぽい標語掲げて、結局は新しい葦原の支配者になるんでしょ?

 やりましょやりましょ、俺らも新しい幕府ね!

 

 と考えていたのだろう。

 が、どうも武士含めた階級の解体をマジでやるっぽいと見ると。

 

 は? 階級の解体マジでやるの?

 まーあかん、新しい世とか海外の世迷言をマジで言ってるのバカ、ダメだわ。

 ここは俺らが、真の葦原武士として正しい幕府をお見せしちゃおっかな───

 

 と、各地域や組織の軍が混乱に乗じて好き勝手やり始めているのだ。

 まだ連邦は戦災でボロボロになっていた分、各派閥に反乱の余力がなく統制が取れている方だが───

 

 京以西の地域は、葦原内戦の被害を受けていない分元気だ。

 その地域、とりわけ軍人が葦原政府という中央政府の意思を無視して、独自の軍事行動を始めたのだ。

 

「未だ、そういった勢力の出現を政府は認めていないが……

軍の独断専行がまかり通っている以上、いずれ表面化するだろうな」

 

 軍閥か、あるいは大名か。

 どちらにせよ、現代的な技術を用いた戦国時代の到来だ。

 

 敵側で起きた事態だとしても、喜ばしい話題ではない。

 なにせ連邦側でも同じ事を考えている勢力がいることを、良介達は身をもって知っているのだから。

 

「本当に、こんな事が……」

 

 小さく、ゆきが独り言を呟いた。

 その内容は気になったが、状況の説明が続けられた。

 

「何にせよ、停戦は終わりだ。

正式な決定はないが、一方的に攻撃を受け占領されるわけにはいかん。

彰義隊各中隊を招集し、準備に入る。

各員、急で悪いが休暇の申請はしばらく降りんぞ」

 

 吉宗としては和ませるために冗談を言ったつもりだったのだろうが───

 誰ひとりとして、冗談と受け取った者はいなかったらしい。

 

「了解!」

 

 と、良介除いた全員が至極真面目な表情で叫んだ。

 彼が少し微妙そうな表情を浮かべる辺り、読みは当たっていたのだろう。

 

「ところで、先ほど聞こえてきたのだが。

蒼穹の魔王、とはなんだ?」

 

 一呼吸おいて、吉宗は改めて空気を和らげようとし始めた。

 

 すると、周囲の視線が良介に向けられた。

 当の良介自身は、発起人である四谷へ視線をやる。

 

「あ、えーと。言い出したのあたしです……

彼の活躍を見て、まさに蒼穹の魔王だーって

ラジオ放送局に伝えたら、一発採用されちゃいまして……」

 

 蒼穹の魔王。

 政府軍将兵の呼び始めた畏怖の魔王と、蒼いF-2の機体から連想したのだろう。

 

 なんというか、ちゅうにちっくな二つ名である。

 

───畏怖の魔王よかマシだけどさ。

 

 何にせよ、吉宗はあまりいい顔をしないだろう。

 彼は元から、良介の事を幕府の八咫烏と呼んでプロパガンダに使っていた。

 

 自分の発案を急に出てきたペーペーに上書きされては、メンツも潰れるというもの───

 

「蒼穹の魔王、か……ふふ、なるほどな」

 

 と、思いきや。

 彼は笑みを浮かべて頷いているではないか。

 

「こら、宗治郎。お前が頷いてどうするんだよ。

幕府の八咫烏って、お前らの発案だろ?」

 

「……噂通り、宗治郎様にもこんななんだな」

 

 訓練生の誰かが囁いたが、この際は無視である。

 

「いやなに……幕府の八咫烏は実物(チェイス)を知らぬ俺が思いついた……

言うならば虚像の翼(プロパガンダ)だ。しかし蒼穹の魔王は違う。

戦場(げんば)で実物を見た人間の心境全てが現れた本物の翼(リアル・ヒーロー)

本物には勝てんと、そう思ってな」

 

「エースコンバットで聞いたような事言いやがって……

8ってどんな話だったかな?」

 

 むむっ、どういうわけだかまったく思い出せないではないか。

 良介はちゃんとプレイしていたはずなのに、まるでトレーラー映像が発表された時期のような、中途半端な思い出しかなかった。

 

「それで、哲也。此度の検定の訓練生……オメガ隊だったな。

全員合格か?」

 

「そうするしかないだろうよ。連邦空軍はただでさえ人手不足なんだ」

 

 蒼穹の魔王の話題は一区切りと見たのか、吉宗は訓練生の話を蒸し返した。

 戦略的な話には沈黙するしかなかったひよっこ連中の表情が強張る。

 

「よかろう。オメガ隊は俺が率いる」

 

「ええっ⁈」

 

 突然の発言に、訓練生からどよめきが上がった。

 幕府が終わり、将軍の兄という肩書きが消えたとしても、人の記憶から消えることはない。

 動揺して当然だ。

 

「他の中隊に俺が入っては、肩書きで指揮系統に混乱が生じるかもしれんからな。

新入り連中を俺が率いるのが、一番和を乱さん」

 

 それは、そうかもしれないが───

 

───じゃあ、ペンギン隊に来るって言ったらどうする?

ぶっちゃけ、俺は困るぜ。

 

 それは、確かに。

 元とはいえ大層な肩書きがある人間が、いきなり既存の集団に入っては連携が乱れる恐れがある。

 

 これが一番、穏便なのかもしれないな。

 

「六文銭。貴官らはどうする? 上官の松代大佐は、ペンギン中隊所属だが……」

 

 今回の功績者である、六文銭のふたり組は首を振った。

 

「彰義隊参加につきましては、謹んで辞退させていただきます。

姫様どころかペンギン隊の技量に、我々はついていけません。

それに少数精鋭の特殊作戦という性質上、これ以上頭数を増やすのは下策かと」

 

「む、そうか……」

 

 あくりは少しだけ、寂しそうな表情を浮かべた。

 

 彼女は今回、P-104の発展機を手に入れていた。

 生半可な技量とP-104では、ここから先難しいだろう。

 もっとも、彼女らの腕も連邦空軍の上澄みなのだが。

 

「頭数も少ないので、連邦空軍の一般部隊に編入させて頂ければと。

姫様のように、我々にはP-104に器用な動きをさせられませんので」

 

「……松代大佐。このままでは真田藩空軍の六文銭は消える事になる。

構わないのか?」

 

「問題ない。その名は兄上が駆る、弘山親王殿下御料機の名として残っている」

 

 そう、あくりの兄は政府側の帝である弘山親王の御料機機長を務めている。

 その機体に六文銭の名が残っているから、真田藩的にはオッケーなのだろう。

 

「……御料機にしては、少々縁起の悪い名な気もするが」

 

 言われてみれば、六文銭では三途の川の渡し賃ではないか。

 

「弘山親王も承知の上で、その名を冠している。

三途の川を渡る覚悟で葦原の内戦を治める。その心意気でな」

 

「なるほどな……」

 

 自分達を擁する相手に反抗しているのも同然なのだ。

 道半ばで死ぬ覚悟くらいはある、という事だろう。

 

「よし! では、各員。停戦は終わった。

連邦の勝利のため、今は休息をとるように! 解散!」

 

 解散が言い渡されるも、やはり吉宗が消えるまで良介以外誰も動けない。

 それを理解している吉宗は踵を返し───

 

「頼りにしているぞ。蒼穹の魔王殿」

 

「お前までそう呼ぶのか?」

 

「一番、貴官に相応しい二つ名だからな」

 

「はぁ……好きにしなよ」

 

 言いたい事を言い終えた吉宗は、赫助を伴って作戦室を去っていった。

 その姿を他の人間は見送っていたようだが、んな事知ったこっちゃない良介は作戦室の隅にある急須からお茶を注いでいた。

 

 ひと口、温かい茶を啜る。

 

「……ふぅ、あったかい」

 

 ゆきとあくり、六文銭の皆様───ついでに四谷の分も用意するため、良介は湯呑みを並べ始めた。

 他の男どもに用意しない辺りが、実に良介である。

 

「あのっ、蒼穹の魔王様っ!」

 

 背後から声。

 

「……なに?」

 

 男のものなので、良介のテンションはサゲサゲである。

 それもあったが、それ以上に蒼穹の魔王という二つ名が気に入らないのだ。

 

 振り返ると、目がキラッキラな訓練生改め、オメガ隊の面々が。

 

 そういえば、良介が彼らと直接話すのは初めてだった。

 当然だ、大政奉還の儀まで良介がチェイスであることは秘匿されていたのだから。

 

 ちなみに、このオメガ隊の命名者はボスその人である。

 エースコンバットのやり過ぎなのは明白だ。

 

「ぼっ、僕はあの日っ、5月11日! 屋岸で見てました!

港に迫る爆撃機を撃ち落とした、あの瞬間を!」

 

 オメガ2だった青年は背筋をピンと伸ばして宣言した。

 央暦1969年5月11日、良介がこの世界に飛ばされてきた日だ。

 初の実戦を経験し、屋岸の市街地空爆を未然に防いだあの日。

 

「……待てよ。って事は君ら、一年足らずの教育で操縦資格を?」

 

「はいっ。状況が状況なので!」

 

「そりゃ、そうだけどさ……」

 

 そう、良介が暴れてなんか本州を半分奪還する事態になっているが。

 幕府もとい葦原連邦空軍は内戦中盤に戦力の大半を喪失している。

 ガタガタな地盤の上に成立している組織という事実は変わらないのだ。

 

「こいつもっ、あの時いたんです!」

 

「おいっ……」

 

 オメガ1だった青年はそっぽを向いていたが、急に話題の中心に挙げられてしまった。

 自信過剰と評されるも、座学も実技も訓練生で一番の青年。

 

 彼は良介と視線を合わせると、溜まっていた感情を投げつけるかのように言った。

 

「あんたには、負けねーっ」

 

 宣言を終えると、彼は足早に作戦室を去ってしまった。

 なるほど、自信過剰なだけでなく跳ねっ返りと。

 

 良介と似ているようで、非なる人物であった。

 

「変なの。あいつ、普段はあんな事言わないのに」

 

「まあ、そういう事もあるよ……」

 

 奇妙な間が生まれてしまった。

 少し居心地の悪い沈黙が漂うのが我慢出来なくなった良介は、抱えたお盆を彼らに向けた。

 

「……飲む?」

 

 彼らはこれから先、戦場で背中を預ける事になる仲間だ。

 一年足らずの教育しか受けていない新入り(FNG)という点が、どれほど悪影響を及ぼすかわからないが───

 

 ひとまず、様子を見るほかないだろう。

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