蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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日本海での演習中、葦原なる謎の地域に転移してしまった志村良介二等空尉。
混乱の中で突如、政府軍を名乗る機体に攻撃を受け、なし崩し的に戦闘に突入した。
かろうじて危機を脱した良介だったが、偶然共闘した幕府軍から援助を求められる。
上司にして親友、ボスの安全と引き換えに───

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08 夷俘島迎撃戦「IRREGULAR」

「夷俘島迎撃戦」

央暦1969年5月11日

夷俘(いふ)島 屋岸

日本国航空自衛隊第11航空団第114飛行隊

志村“Chase”良介二等空尉

 

 どうやら、チェイスは1940年代の過去ではなく異世界に来てしまったらしい。

 歴史よりも非現実、実に現代チックではないか。

 

「でも、拓銀令嬢は似て非なる現代が舞台だぜ?」

 

 やめろ、話をややこしくするな。

 話を戻して。

 

 このように奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)な状況下にあっても、困惑出来る程の猶予はない。

 

 竜司が上司───大和幕府空軍なる、悪いオタクがキャッキャしてそうな。

 そんな名前をした珍妙な組織に代わって提案した内容は、実にシンプルだった。

 

「屋岸の街は政府軍を名乗る賊軍の爆撃機に狙われています。

どうか、ご助力願えませんか?」

 

 転移して来て早々女の子(推定)に助力を請われるという、この流れも含めて実に現代チックである。

 

───ああ、そこはなろうチックかも。ドンと来いだ。

 

 黙れ。

 

 しかし───調子に乗ってはいけない。お前は仮にも自衛官という公務員であり、日本国民の僕なのだ。

 ヒーロー気取りで武力を行使するなど、あってはいけない事態だ。

 

「俺ってさ、こう見えて日本って国の自衛官……軍人なんだぜ?

葦原とか屋岸とか……空爆を受けるのは酷い話だけどさ。

まったく知らない土地で、勝手に武力を行使するのは良くないと思うんだ」

 

 といいつつも、チェイスは進路を東北東にとっていた。

 爆撃機編隊の背後を取れる位置取りだが、同時にボスを撃墜した敵機を追う形にもなっていた。

 

 エンジンに損傷を受けた機体だったが、空戦の間に随分と距離を離された。

 爆撃機の阻止か、追撃か。二つに一つだった。

 

「ご助力頂けるなら、我が幕府空軍はあらゆる援助を惜しまぬ所存です」

 

 竜司の口振りからは感じられなかったが、後ろにいる幕府空軍とやらの目論見は透けて見えていた。

 

───撃墜されたお前の仲間を救いたくば、敵を殺せ。

 

 言外にはそういった意図が含まれているのだろう。

 もし戦時中とはいえ理性が働いているのであれば、帰るところのない所属不明機には着陸を指示するのが妥当だ。

 

「空襲が迫ってるとはいえ、所属不明機に迎撃を要請?」

 

 相手に聞こえないように、良介はつぶやいた。

 それはまともな軍事組織のやる事ではないだろう。

 

「……でも、そんなのが相手だからこそ下手なことは言えないぞ」

 

 今現在、幕府軍なる組織はボスの生殺与奪の権を握っている。

 上司であり親友でもあるボスは救助がなければ、あの嵐が吹き荒れる海に取り残されてしまう。

 

 つまり、チェイスのやれることは一つだけだった。

 

「わかったよ」

 

「かたじけない……えっと」

 

「チェイス。空ではそう呼ばれてる」

 

 竜司、そして新選組の面々は仲間として信用してもいいだろう。

 しかしその背後にいる、幕府。

 

 彼らにだけは心を許してはならない。

 チェイスはそう深く心に刻んだ。

 

「竜司ちゃん、五稜郭の守りは? SAM……地対空ミサイルの配備は?」

 

「……先日の空襲により被害は甚大。まるで、配置がわかっていたかのように

精密な攻撃だったとのこと……お恥ずかしい話ながら、乱破(ニンジャ)による工作かと」

 

「じゃあ、他に迎撃部隊は?」

 

「屋岸上空に中隊が待機していますが……私たちと同じく元飛行学校の生徒で、

皆これが初陣です」

 

「そ、それ以外は……あるんだよね?」

 

「……ありません。以上が、幕府空軍の防空戦力となります」

 

───SAMなし、航空機新兵揃い……お、オワットル……!

 

 その言葉は流石に無礼が過ぎる。

 自己批判の精神に注意されずとも、チェイスにも口に出さぬ程度の自制心はあった。

 

 しかしなるほど。

 よくわからんが、幕府とやらも馬の骨であるチェイスに加担させたがる理由にも納得がいく。

 猫の手ならぬ、ナンパ野郎の手も借りたい訳だ。

 

 領土・戦力ほぼ全喪失、そんな絶望的状況で戦うことを強いられる。

 

「エースコンバットじゃないんだぞ」

 

 チェイスは独り言をこぼした。

 そうでもしないとやっていられないが、やるしかない。

 

 ここは、自分達の知る地球ではなく。

 そしてボスが唯一自分を知る友人であり、このF-2が最後の日本なのだから。

 

 そうしなくては、生き延びることは出来ない。

 

「……今は、生き延びないと。帰り方はその後だ」

 

 改めて、チェイスは覚悟を決めて状況に臨んだ。

 

 数分経ち、チェイスと後に続く新選組は爆撃機編隊への攻撃に最適な位置につかんとしていた。

 そこまで接近すると、交信が届くようになった。

 

「こちら栄えある政府……真田(さなだ)藩空軍、第1爆撃機隊!

市街地への爆撃に反対し、ここに抗命権を発動! 転進する!」

 

 抗命権───またの名を、抗命義務という。

 端的に説明すれば、軍人であっても不当な命令に抗議し、遂行しない権利または義務が生じるというものである。

 

 自衛官はその辺りがあやふやだが───それはともかく。

 どうやら市街地への爆撃に反対する政府軍の人間がいる様子だった。

 

「繰り返す、真田藩空軍第一爆撃隊は抗命権を発動する!

不当な命令に抗議する者は、我らに続け!」

 

 チェイスにこの宣言が聞こえているという事は、あえて幕軍側にも聞こえる平文で発信しているのだろう。

 

 雲の陰から、直接爆撃機隊の姿を目視出来るようになった。

 

 6機いる爆撃機の中で1機、いや2機。左旋回して編隊から離脱する機影が見えた。

 

「こちら兼定隊暫定指揮官、竜司。護衛機、次いで爆撃準備中の機体を優先せよ」

 

 まだまだひよっこの印象がある竜司だったが、最低限の指揮は出来るらしい。

 ひとまず安心したチェイスは離脱する爆撃機に意識をやった。

 

 既に180度反転して空域から離れ始めた爆撃機だが、護衛機がひとつ編隊から離れた。

 

「護衛機にもまともなのがいたか?」

 

 そう考えるのは、早計で楽観的というものだろう。

 チェイスは出力を最大にして、オーグメンターを起動した。

 

「幕軍よ! 我ら真田藩は首を落とされようとも……

守るべき葦原の民を手に掛けず! 忘れるな!」

 

「良州藩空軍第一輸送隊、同じく!」

 

 どうやら、当事者の片割れはチェイスと同じ意見らしい。

 その心意気を持つ貴重な色男達を、無意味に死なせる気はなかった。

 

 わずかに高度が合わない。

 反転して背面飛行に入り、機首を上げて(・・・)降下。

 GUNの照準を合わせている敵護衛機に狙いをつける。

 

「そういうのはカメラの前で言え」

 

 短く連射し、敵護衛機の脇を過ぎ去る。

 

 手ごたえはあった。

 ミラーで戦果を確認すると、垂直尾翼が消えた敵機は水平に(フラット・)回転(スピン)を起こして墜落していった。

 

「兼定隊、攻撃はじめ。賊軍をひとりたりとも生きて帰すな」

 

 まさか背後から敵が来ると思っていなかった護衛機と新選組の戦闘が始まった。

 新選組は先の戦闘でミサイルをほぼ撃ち尽くしていたが、近距離の背面から攻撃を始めるという大きな優位がある。

 

 忘れがちだが、戦闘機に積まれたレーダーは基本正面しか走査(そうさ)出来ない。

 50年代の面影を感じる彼らの機体は、下手をすればレーダーすら積んでいない可能性すらある。

 

 そう、背後は基本的に目視確認となるのだ。

 なにせ、チェイスの駆る4.5世代のF-2ですら背後は味方頼みなのだから。

 

 新選組が爆撃機の銃座をものともせず、護衛機の懐の間合いに飛び込んだ。

 ここで注意すべきポイントは爆撃機の銃座は広い範囲に撃てる一方、敵味方の識別などはガンナー頼みという点だ。

 

 人は緊張と恐怖に強い生き物ではない。

 乱戦ともなれば、もう動くものすべてを撃ちまくる事になる。

 

 離脱する爆撃機を支援したチェイスは遅れてこの乱戦に飛び込んだ。

 護衛機を追う新選組が、また別の護衛機に狙われている。

 

 そこへチェイスが横槍を入れ、すれ違いざまにGUNを発砲。

 攻撃は外れたが、目前を横切る曳光弾に驚いたのか追尾を諦めた。

 しかしそこへ、爆撃機の銃座が狙いをつけてしまった。

 

 不幸にも放たれた銃弾の一発が垂直尾翼を直撃。同士打ちだ。

 墜落はしなかったが動きは大きく制限され───チェイスにその隙を突かれた。

 

 エンジンに被弾した機体は黒煙を吐き、間もなく爆散した。

 

「護衛機を排除。爆撃機攻撃に移れ」

 

 竜司から飛び出した過激な言葉に、チェイスは慌てて横槍を入れた。

 

「ちょっ、ちょっと待て! 相手は完全に無防備なんだから、

一旦降伏か離脱の勧告をするべきじゃないの?」

 

「賊軍の言葉など信用なりません。

それに、彼らは転進すらしないではありませんか」

 

 それは、その通りだった。

 実際、銃座は射程圏外まで逃げたのに未だチェイスを狙って銃撃している。

 

 彼らの戦意は萎えていない。

 軍事基地と周辺にある市街地への爆撃を諦めてはいないのだ。

 

「悪かった、忘れてくれ」

 

「……チェイス殿のお気持ち、理解できます。

しかし、賊軍は誅さねばなりません」

 

 爆撃機の銃座は尾部───つまりケツに一ヶ所あった。

 ミサイルがあれば撃墜は容易だが、残りは一発だ。なるべく消耗は避けたかった。

 

 だから高みの見物、というわけではないが。

 チェイスは爆撃機の攻撃に参加せず、尾部機銃の射程外から戦況を睨んだ。

 

 竜司ら新選組もこれといって言及はせず、陸からやってきた味方部隊と共に連携して対応した。

 1機が攻撃を命中させ、尾部機銃の注意を誘って残りが要のエンジンを破壊するという見事な戦術だ。

 

 屋岸の港は徐々に近づく。

 仲間が撃ち落される間も、爆撃機は進路を変えない。

 

「おい何やってんだよ、さっさと進路変えて帰れよ……!」

 

 理解出来ない。たとえそこに敵の司令部があるとして、周囲に住む民間人はどうでもいいのか? 自己責任だと切り捨てるつもりか?

 同じ国の人間でも。彼らにとって、幕府軍はそこまでして殺したい相手なのか?

 

 わからない。

 あくまで自分はよそ者に過ぎない。ここで生きる人々と価値観すら、日本人とは相容れないのかもしれない。

 

 そんな中でも確実なのは自分の心だけだ。

 不本意ながら、今後は幕府軍とやらと協力することになるだろう。

 

 この見知らぬ地で、恐らく日本どころか地球ですらない土地ではそうするより他ないのだから。

 だからこそ、自分を強く持たなければ。

 

 遂に新選組は最後の一機を狩り始めた。

 先ほどと同じく胴体部分に弾を当てた一機が銃座の注意を誘い、完全に右側方へ意識が逸れたところに竜司が左エンジンにGUNを叩き込んだ。

 

 被弾したエンジンはあっという間に火だるまになり、爆ぜて左翼を真っ二つにした。

 左右の速度バランスを失った機体は反時計回りに迷走しつつ、墜落していく。

 

「くそっ、あれは港に墜ちるぞ」

 

 しかし、落ちる先が問題だった。

 島の端にある港。住民の貴重なインフラである。

 

 抱えた爆弾と共に墜落すれば、幕府軍はもちろん市民の生活にも悪影響が出る。

 さすがに住民や船員は港から避難しているだろうが───行くしかない。

 

 最大出力で降下し、墜落する爆撃機を追う。

 20ミリ機関砲は爆撃機も撃墜可能な威力を持ち合わせているが、撃墜と破壊は必ずしもイコールではない。

 

 今必要なのは、この残骸を木っ端微塵に出来る破壊力なのだ。

 

「残弾……」

 

 コクピットのモニタ(MFD)に視線をやり、GUNの残弾を確認。

 

 ROUNDS 010

 

「だよな」

 

 残るは左翼端のSRMのみ。

 

「やるしかないっ」

 

 SRMの弾頭に仕込まれた調整破片は貫通力こそあるが、爆撃機の装甲化されたキャビン全てを破壊できるかは怪しかった。

 例えば、WW2で東京を焼いたB-29は対空砲でキャビンを穴だらけにされながらも帰還した記録が残っている。

 

 それだけの損傷を受けてもなお、爆撃機というやつは飛べるのだ。

 機関砲だけでは、完全破壊には足りない。

 SRMを一緒に叩きつけても、怪しい。

 

 ならば、相手の持つ力を利用してやろう。

 

 幸いにも機体のシステムは墜落中の爆撃機を捕捉してくれた。

 火器管制システム(FCS)でロックし、機体の中心部に照準、発砲する。

 

 20ミリ機関砲は毎分6000発もの砲弾を叩き込む能力がある。

 わずか10発の弾は瞬きする間に撃ち尽くされた。

 

「GUN、残弾なし」

 

 機体のシステムが20ミリの欠乏を告げた。

 しかし、この10発は爆弾倉の扉を破壊して搭載された爆弾を剥き出しにした。

 

 既にSRMの捕捉は済んでいる。

 翼端から一筋の雲を吐き出すと、チェイスは大きく左に離脱した。

 

 ミラーの向こうで大きな爆発が起きた。

 当然だ、トン単位の爆弾があの機体に収まっていたのだから。

 

 爆砕された機体は爆発物をなくしながらも港に舞い落ち、一隻の船に降り注いでいた。

 

「……俺は、最善を尽くしたぞ」

 

 残念ながら、それは私も認めねばなるまい。

 兵装は全て使い尽くし、燃料も(Bingo)残りわずか(Fuel)

 

 あらゆる手を尽くして市街地を守ったのだ。

 特別に褒めてやろう。今回きりだが。

 

「ちぇっ、自分をもう少し素直に褒めろよ」

 

 被害を確認するため、チェイスは降下して被害を受けた船を見上げた(・・・・)

 至る箇所に爆撃機の残骸が突き刺さっていたが、船が沈むような損害ではない。

 隣の波止場ではエンジンが潰れていたが、火事が起きている様子はなし。

 

 人が被害を受けた様子は見受けられなかった。

 

「……よし」

 

「こちら新選組竜司、チェイス! 応答を!」

 

「どうも、こちら屋岸の救世主」

 

 調子に乗るな、愚か者。

 

 それはさておき、チェイスは再び上昇して新選組の編隊に加わった。

 竜司もチェイスの姿を見つけると、機体を寄せて視線を合わせてきた。

 

「まさか、ここまでして頂けるとは……この竜司、感服しました」

 

「いいさ。カタギの皆様が傷つくのは、俺だって見たくない」

 

「もう、屋岸は問題ありません。残敵の掃討は味方に任せて、

我々は帰還しましょう。案内(あない)します」

 

「……残敵?」

 

 護衛機も爆撃機も、全て撃墜したはず。

 竜司の言う残敵とは、一体?

 

 いやな予感がした。

 

「おいおい、待てよ……!」

 

 チェイスは機体を翻し、方位を南西にとった。

 

「私が向かう、兼定隊は斗米(とまい)へ」

 

「警告! ビンゴ・フューエル! 警告! ビンゴ・フューエル!」

 

「ご忠告どうも」

 

 燃料欠乏のマスターコーションを止め、出力を最大に。

 

「チェイス殿、どちらへ!」

 

「残敵ってのは、引き返した爆撃機だろ!」

 

「奴らも賊軍です!」

 

「まともな連中だった!」

 

「敵前逃亡の処罰は受けましょうが、いずれ我々を殺します!」

 

「いずれ殺すで殺すのが、武士って奴なのか⁉」

 

「武士ならば、敵は全て誅するまでっ!」

 

「分からず屋め!」

 

 竜司の説得を諦めたチェイスは正面に意識を向けた。

 どうせ、彼女の駆るミラージュもどきはF-2に追いつけまい。

 

 オーグメンターの加速力で離脱する爆撃機を目視距離に捉えた。

 レーダーでは遅れて現れた新選組の機体が攻撃位置に着こうとしていた。

 

「待て!」

 

 エアブレーキを展開して急減速、加えて一瞬だけランディングギアを出して空気抵抗を最大化。

 強引な減速で速度を合わせ、チェイスは爆撃機と新選組の間に割り込んだ。

 

「蒼い機体っ⁈ 何故、邪魔立てする!」

 

「馬鹿な真似をしようとしてるからだよ!」

 

 チェイスはピッタリと爆撃機の背後につき、新選組の攻撃を妨害した。

 ミサイルを撃とうが、機関砲を撃とうが、何かを撃てば真っ先にチェイスに当たる。

 

「貴様っ、どっちの味方だ!」

 

「知るかよ! 気付いたらここにいて、最初に撃ってきたのが

政府軍だっただけだ!」

 

 理不尽な状況にある程度順応しようと努力してきたが、チェイスという男には堪え性がない。

 気に入らない理不尽があれば、居ても立ってもいられない性分だった。

 

 正面の爆撃機を睨む。

 尾部機銃の銃座につく射手と視線が合った。

 

 彼は機銃の押金に指を当てながら、緊張した面持ちでチェイスを見ていた。

 可哀想に、随分と年下の───少年にも見える年頃だった。

 

 酸素マスクを外し、ニッと笑みを浮かべ、親指を立てる。

 

「チェイス殿っ! 聞こえますか! お辞め下さい!」

 

 竜司が追いついて、チェイスに呼び掛けた。

 

「チェイス殿っ。我々新選組は隊長の歳三以外、皆夷俘(いふ)の生まれ。

私も屋岸で育ちました! ……故郷を焼こうと、いや。

焼いた者どもを生かして帰そうと思えませぬ!」

 

「ああ、そうかもな! でもこいつらはそんな蛮行に抗議して、

処罰覚悟で帰ろうとしてる! それも、おたくらに追われても無抵抗だ!」

 

 尾部機銃につく少年は、恐らく機内の上官から攻撃を禁じられているのだろう。

 強張った表情は震えていた。

 

「俺は今、銃座の射手と顔を合わせてる。まだ子供だ!

そいつらが勇気を出して抗議してるのに、君らはそんな人々の背中を撃つのか⁉︎

あんたらの憎む虐殺者と、何が違う!」

 

「よっ……よそ者にっ……よそ者にっ、何がっ……」

 

「ああ。おたくらを助けて、戦争に巻き込まれたよそ者だ」

 

 生かし、生かされ。

 互いに命を救った関係にあるチェイスと竜司は、繰り出せる言葉がなくなってしまった。

 

 チェイスは覚悟していた。

 この程度で引き金を引く相手なら、早晩関係は破綻する。

 

 関係が破綻すれば、恐らく地上で暗殺されるだろう。

 もちろん、彼らにとって未知の技術である最後の日本(F-2)を取り上げた上で。

 

───意味もわからないうちに寝首を掻かれるくらいなら、

いっそ空の上で木っ端微塵になってやる。

 

 半分破れかぶれ、もう半分は義憤で。

 死ぬ覚悟を決めた。

 

「……少し活躍したからって、よそ者がいい気になるなよっ」

 

 聞き覚えのない声、竜司ではない。恐らく背後の新選組の機体。

 

「だめっ!」

 

 竜司の制止する声を、通信機から流れる声が遮った。

 

「こちら斗米空軍基地司令、幕府空軍奉行松平(まつだいら)宗治郎(そうじろう)である。

新選組全小隊へ、戦闘行動を止めて聞け」

 

 基地司令、そして斗米という地名。

 先ほど竜司が口にした新選組の基地で、最も偉い人間の言葉と見えた。

 

「新選組清光隊、任務は終了。帰投せよ」

 

「えっ……? ですが総裁っ、まだ残敵が……!」

 

「命令不服従か? 復唱せよ」

 

「……清光隊、帰投します」

 

「よろしい」

 

 新選組のミラージュが旋回し、空域を離れた。

 この場はもう、兵装の残った戦闘機はいなくなった。

 

「蒼い機体の……チェイスと言ったな?」

 

「こちら日本航空自衛隊第11航空団、第114飛行隊。空ではそう呼ばれてる」

 

「燃料はもうないな? 民間空港だが、屋岸空港への着陸を許可する。

細かいところは、陸で話そう」

 

「その前に一つ、聞きたい事がある」

 

「貴官の上官は現在、救難隊が保護している……今のところはな。

回答は十分か?」

 

 その言葉の全てを信用するには、彼らの印象は悪過ぎた。

 しかし、疑っていても空の上で真実など知りようがない。

 

「了解、感謝する」

 

 短く感謝を告げると、離脱する爆撃機に視線をやる。

 銃座の少年と視線が合うと、状況を察したのだろう。

 涙を流しながらしきりに頭を下げていた。

 

 勢い余ってか、機銃までもが上下していた。

 

 まったく、彼らを見殺しにしなくて正解だった。

 チェイスは片手を挙げて会釈すると、旋回して屋岸に進路をとった。

 

「こちら真田藩第一爆撃隊。蒼い機体、聞こえるか?」

 

 通信機から身に覚えのない交信が入った。

 真田藩という所属から、背後で帰投する政府軍の爆撃機と推測した。

 

「こちら多分、そっちの言う蒼い機体、感度良好。真田藩だっけ?

六文銭でもくれるの?」

 

「その程度では、この借りは返せないな。貴官の支援、深く感謝する。

幕府軍ではないのか?」

 

「聞いてたかもしれないけど、よそ者でね。

そっちの戦闘機に撃たれたから、成り行きで」

 

「どいつか知らないが、馬鹿なことをしたものだ。謝罪する」

 

「気にするな、安全な旅を。チェイス、交信終了」

 

 彼らの正念場は、まだ終わっていない。

 政府軍がいかなる組織かわからないが、同国民への市街地爆撃を厭わないほど極まった(・・・・)組織だ。

 

 銃殺刑などに処されなければいいが。

 もっとも、チェイス自身も他人事では済まないのだが。

 

 特に、先ほどから無言でチェイスに追従する竜司。

 恐らく燃料の問題であちらも同じ屋岸空港へ着陸する事だろう。

 

 果たして、どうなる事やら。

 

「Web小説で多かったよな? なんか助けたら、可愛い女の子にモテまくるやつ。

ああいうのがいいな」

 

 今回ばかりは、下らない妄想に耽ることを許可してやろう。

 きっと、真逆の辛いことが待ち受けているのだから。





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大和幕府空軍国籍標章
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