蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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140 天下分け目の戦い 12日朝「BATTLE of ASHIHARA」

央暦1970年4月12日

真田藩 真田空軍基地

葦原連邦空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉

 

 陽が傾いた頃、続々と彰義隊の面々が集ってきた。

 ジェットの轟音が滑走路へ降るたびに、仲間が地上へとやって来る。

 

「ふっ……また地獄を乗り越えたようだな、良介」

 

「閻魔様は地獄が俺様に乗っ取られるのが怖いらしい」

 

 最初に降りて来た新選組隊長の歳三を迎え、

 

「よー、良介。ちゃんと借金返す用意しとけよな」

 

「言うに事欠いてそれか? 仮にも俺って死に掛けたんだけど?」

 

「だって、お前なんて殺しても死なないだろうし」

 

 と、新選組の鉄之助からは結構酷いことを言われ。

 

「おう若いの! 久々ぢゃな!

死に掛けたと聞いとったが、いつもと変わらんな!」

 

「あれれ、睦平のじいさんじゃないか。

今度の作戦に参加するの?」

 

「前線の野暮用が落ち着いたからのう。

船の守りならば、お主らよりもやり易かろう」

 

 彰義隊の中でもプロペラCOIN機である颶風を運用する部隊、精兵隊の奥村睦平少佐。

 彼らはその近接航空支援(CAS)適性の高さから、地上部隊の支援に引っ張りだこで最近まで彰義隊の作戦に参加出来ずにいた。

 

 空戦の役に立つとはお世辞にも言えないが、もし魚雷艇や駆逐艦が出て来てもSAM搭載の防空艦でなければ活躍してくれるだろう。

 

 睦平ら精兵隊の着陸が終わり、陽が落ちきった頃。

 見知った機体の姿が良介の目に入った。

 

 まずは、浅葱色のオロール。

 

「良介さんっ。わざわざお出迎えいただき、恐縮です」

 

「気にしないでよ。こっちがゆきちゃんの顔を見たかっただけなんだから」

 

 と、良介はいつものように軽口を叩き───

 

「良介さんは誰にでも、そのような事を申しているのですよね」

 

「そっ、そんな事はないぜ……? うん」

 

 顔をひきつらせたまま、良介が視線を逸らすと。

 突如、暖かい感触が胸部を覆った。

 

「……よかった」

 

「ゆ、ゆきちゃん……?」

 

 ハグだ。

 空知ゆきが突如、良介を抱きしめたのだ。

 

 密着した身体からは、どくどくと脈打つ心臓の鼓動を感じた。

 脈は───かなり早い。

 

 唐突な事態に良介の思考も凍りついてしまい、しばらくの間ふたりに沈黙が漂った。

 

 沈黙を破ったのは、轟音を発する機体から飛び降りた人物だった。

 

「良介っ!」

 

 声の方向に視線をやると、まず目に入ったのはYP-27。

 同じくペンギン隊のウィングマン、松代あくりの機体だ。

 タラップも待たず、彼女はコクピットから飛び降りたのだ。

 

「あ、危ないぞっ!」

 

 しかし、10時間近いフライトにも関わらず体が柔らかいもので、彼女は見事に着地した。

 そのまま猛烈な勢いで駆け寄ると、良介の背をドスっ! と軽く突いた。

 軽くないが?

 

「大馬鹿者ッ! お前はっ、お前はまた……」

 

「やらなかった方がよかった?」

 

 良介が尋ねると、彼女はしばし沈黙した後に答えた。

 

「……いいや。それでこそお前だ」

 

 背に回っていた彼女が良介の目前に出ると。

 目を細めて未だに抱きついているゆきを見た。

 

「ゆき。そろそろ放してやれ」

 

「……はい」

 

 体を覆う圧力が消え、良介はふたりと向き合う形になった。

 

「良介さん。大事ありませんか?」

 

「見ての通り、ちゃんと足だってあるぜ」

 

「?」

 

 どうやら、この世界の幽霊は足があるものらしい。

 我々の世界に幽霊など存在しなかったが。

 

「五体満足で無事ってこと。そっちこそ、トラブルはあった?」

 

「いいや。真田に迫った政府軍機を叩いたくらいだ」

 

 北の海では一部の政府軍機は協力する味方。

 一方、さほど離れていない本州ど真ん中では例外なく敵。

 

 戦史というものは道理に合う状況と、訳のわからない状況の連続なのが常だが───

 この葦原内戦もまた、謎な状況が頻発しているようだ。

 

「さすが。俺がいなくても大丈夫そうだな」

 

「……」

 

「……」

 

 良介は褒めたつもりだったのだが、ふたりからじとーっと睨まれてしまった。

 当然だ、状況を考えればシャレになっていないのだから。

 

「良介さん。あなたにはしばらく、単独行動を控えてもらいます」

 

「ああ。誰かがついていないと、今度こそ本当に死んでしまうからな」

 

「それって……プライベートでも、

ゆきちゃんやあくりちゃんがいてくれるって事?」

 

 おい、良介。

 彼女たちは真剣なのだぞ。

 

「……」

 

「……」

 

 恥ずかしいのはわかるが、そうやって茶化したりなどしたら───

 

「「馬鹿っ!」」

 

 ふたつの拳が良介の顔面に食い込んだ。

 プンスカ怒ったゆきとあくりは、肩を怒らせながら立ち去ってしまった。

 

「……いったーい」

 

 そりゃ、こーなるだろうが。

 わかっている癖に、どうしてこのような真似をした?

 

「……あんまり俺の生き死にで、空気悪くしたくないんだけどなぁ」

 

 戦場の空を飛んでいる以上、誰だって死ぬ恐れはある。

 お前とて例外ではないが───既に詰み状態だった幕府に本州の半分を奪還させてしまったのだ。

 それもあってお前は幕府、葦原連邦の広告塔になっている。

 

 殺しても死なないとか言っている方が特殊。

 ゆきやあくりのように、強く心配するのが普通ではないか?

 

「でも、兵士ひとりが戦況をどうのって話になるの、普通に不健全だぜ?

そりゃ、俺は戦況を変えうる戦闘機乗りだけどさ」

 

 どう捉えていいのかわからない、意味不明な自己評価をするな。

 我々は、良介とボスは日本に帰らなくてはならないのだ。

 

 状況を上手く利用しろ。

 それが一番の近道であり、安全な街道だ。

 

「戦争に近道も街道もあるかよ……」

 

 良介は自己批判から逃れるように、暗い空を見上げた。

 ジェットエンジンの騒音と共に、地上へ降りてくる機影。

 

 独特な形状をした主翼を持つ小型単発機。

 YJPS35Aナーガ。

 合衆国海軍向けに研究開発中の戦闘機であり、葦原連邦空軍における良介の予備機であった。

 

「相変わらず、型番がいちいち長いな……J35くらいに縮まらない?」

 

 まんまになるからダメ!

 そもそもこれはちゃんと合衆国海軍の命名規則に則った型番なのだ。

 現場ではPF-8のように省略される事が多いらしいが。

 

「ちぇっ……まあとにかく、準備は整ったわけだ」

 

 ナーガが駐機場で停止したのを確認すると、良介は自分の機体に歩み寄った。

 すぐにこの機体を受領し、明日の作戦に備えなくてはならないのだから。

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