蒼穹の魔王 ~F-2乗りのクソバカエース、異世界にて絶望的劣勢を覆す~   作:サークル『熊の巣穴』

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歪みによって生じるのは、必ずしも悪化とは限らない。
武士の終焉を間近に、武士たるものの生きざまを示した男たちがいた。
そんな彼らにも、歪みが別の使命を与えようとしていた───


09 夷俘島迎撃戦「歪められた歴史」

「歪められた歴史」

央暦1969年5月11日

夷俘(いふ)島南 果ての海上空

葦原政府空軍第4航空団第8飛行隊6番機

松代(まつしろ)幸村(ゆきむら)信昭(のぶあき)上等兵

 

 元来、松代幸村はこの空に消えるはずの人物であった。

 

 葦原政府軍が決定した五稜郭と屋岸市街地への空爆。

 この決定に真田藩の上層部は難色を示し、元真田藩空軍第1爆撃機隊1番機(元より1機しかいない部隊だが)、現8の6機長、松代信繁大尉もまた上層部と同じ考えを持っていた。

 

 松代信繁の部屋が捜索された際、父である藩主から宛てられた手紙が発見された。

 手紙にはこのような一節が綴られていた。

 

「今や、幕府の命運尽きたり。されど、政府にも士道にもとる行いあり。信繁よ、己が道を選べ。真田藩はそなたの道を支えん」

 

 この手紙が発見されて間もなく、真田藩主は幕府への内通を疑われ2年間投獄された。

 

 後世では批判的な論調で語られる事の多い政府軍による屋岸空爆。

 対して命を賭けてこの判断に抗議した彼らの勇気は、美談として語られている。

 

 この美談もまた、あのイレギュラーによって歪められた。

 

 松代幸村、諱は信昭。

 機長である松代信繁の親類である彼は武家の男として箔をつけるため、尾部銃座の射手を任されていた。

 

 迎撃機の攻撃に遭えば危険な配置だが、直掩機が機能していれば比較的安全な場所。

 そういった配慮が働いた結果の配置であった。

 

 しかし彼は当時まだ15、成人になったばかりの少年である。

 

「幸村! 銃座から手を離すな! しかし、絶対に撃ってはならんぞ!」

 

「はっ、はい!」

 

 回収されたレコーダーからは、信繁が一切の戦闘を禁じる旨の指示を出した記録が残っていた。

 推測される理由は単純。

 

 思うところはあり、命令に反抗するが、彼らは仮にも政府軍に属する身。

 民を能動的に巻き込む不当な命令に従えないが、同じ旗の下に集う味方を害するのもまた卑劣な行いと判断したのだ。

 

 時折、この判断に意を唱える声がある。

 ならば離陸前にボイコットして、空爆に参加しなければいいと。

 

 これに対する答えも至極単純である。

 命令不服従の人間は変えればいい話。

 

 減った分を足せばよい話で、足せる数がなくとも強行は可能。

 

 目的は、隠蔽が不能な事態を作り出すこと。

 そして言い出せずに迷っている仲間に行動を促すこと。

 

 空を飛ぶ武装した機体が命令に服従せず抗議する。

 そのインパクトが市井を駆け巡ることを狙った抗議なのだ。

 

「こちら栄えある政府……真田藩空軍第1爆撃機隊! 市街地への爆撃に反対し、ここに抗命権を発動! 転進する!」

 

「馬鹿な、あの田舎者は何を言ってる?」

 

「朝敵を殺す絶好の機会だぞ!」

 

「8の6、撤回しろ。さもなくば反乱分子として粛清を命じる」

 

 無線には爆撃機や護衛機、さらには司令部から。

 あらゆる政府軍関係者から疑問の声が寄せられていた。

 それでもなお、信繁は己を曲げなかった。

 

「繰り返す、真田藩空軍第1爆撃機隊は抗命権を発動する!

不当な命令に抗議する者は、我らに続け!」

 

 第8飛行隊6番機、8の6。彼らの通信は政府軍の暗号通信ではなく、全ての帯域で傍受可能な平文で行われた。

 

「おい、これ聞こえるか?」

 

「ああ。政府軍の爆撃機が、命令に抗議してるぞ……すげえ、すくーぷだっ」

 

 これは軍民問わず様々な無線機によって受信され、複数の記録が残されている。

 屋岸郊外のアマチュア無線、いわゆるハムの愛好家も音声記録を残していたほどである。

 

「こちら、良州藩空軍第1輸送隊! 真田藩空軍の義士へ、

我々も抗議に参加する!」

 

 良州藩、真田藩のすぐ南隣にある藩である。

 立地上険悪な関係の両藩であったが、この時ばかりは価値観を同じくしていた。

 

 抗議に参加したのはこの2機のみ。

 2機は宣言通り転進して、屋岸の街に背を向けた。

 

「これは最後の警告だ。8の3、8の6。命令不服従は反乱分子と認定するぞ」

 

「幕軍よ! 我ら真田藩は首を落とされようとも……

守るべき葦原の民に手を掛けず! 忘れるな!」

 

「良州藩空軍第1輸送隊、同じく!」

 

 この名乗りが、記録に残されている最後の交信であった。

 

 伝声管の蓋が開く音を、幸村は耳にした。

 機長から機内の全員に話すことがある時は、これを使って直接声を伝えられる。

 

「こちら機長、松代信繁だ。皆の者、今までよく頑張ってくれた」

 

 これは、今生の別れである。言葉にされなくとも、機内の全員が理解していた。

 間もなく、自分達に粛清命令が出される。直掩機が向かってくるか、あるいは地上から誘導弾が打ち上げられるか。

 

 運命は定かではないが、もう先は見えていた。

 

「これより本機は庄外空港へ帰還する。繰り返しになるが、応戦を禁じる。

士道にもとる行いはあれど、彼らは味方だ」

 

 幸村はその意見に賛同した。

 それでも、身体の震えは止まらなかった。

 

 なぜ自分はこんなところで、顔も名前も知らぬ人々のために死ななくてはならないのか。

 もういっそ、作戦に参加して非難されれば上官に責任を押し付ければ良いのではないか。

 

 そのような情けない考えが脳裏を掠める。

 奥歯を噛み締め、弱音を捨てる。

 

 そうやってズルズルと浅慮と惰性で戦争に参加していれば、いずれ沼にどうしようもないほど深くはまってしまう。

 死を覚悟してでも、後世で犬死と罵られるかもしれなくとも。

 

 やらねばならない事は、人にはあるのだ。

 

「こちら東征空軍司令、最高指揮官からの命令を伝達する。

第8飛行隊3番機及び6番機を反乱分子と認定、ここに粛清を命じる」

 

「馬鹿な、これほど早く天子様が……⁈」

 

「最高指揮官……天子(てんし)様かぁ」

 

 政府軍の最高指揮官は彼らが擁する帝、弘山親王である。

 顔すら知らぬ、自分より年下とされるこの国の指導者を想起しながら、幸村は呟いた。

 

 当時の葦原政府軍は超帝国やマランス合衆国をはじめとした外国勢力からの介入と、真剣に懸念されていた幕府勢力とのゲリラ戦を前に気が立っていた。

 

 自分の名だけでは、行動が遅れ反乱分子に与するものが増えるのではないか。

 実行する部下のために、可能な限り配慮するのが自分の仕事ではないのか。

 

 そう考えた政府東征軍空軍司令が最高指揮官の名を使い、独断で命じたことが後に判明している。

 

 責任を追求しようにも、判明した当時はマランス合衆国と超帝国を相手にした戦争の真っ最中。

 被疑者は既に、この世にはいなかった。

 

「了解。天子様の勅命により、反乱分子を粛清する」

 

 幸村の目に、接近してくる直掩機が飛び込んで来た。

 反射的に、指が機銃の押金に伸びる。

 

「信昭!」

 

「わ、わかってますっ!」

 

 撃ち返せば、彼らと同じところに堕ちる。

 本能と理性がぶつかり合い、親指を懸命に留める。

 

 迎撃はない、と直掩機は判断したのだろう。

 誘導弾は撃たず、真後ろではなく右エンジンの後ろへ。

 機関砲で推力を奪う腹づもりか。

 

 ドーム状の銃座で、幸村はその様子を見守ることしか出来なかった。

 そして。

 

───やられる!

 

 そう覚悟し、最期の景色を目に焼き付けんと見開いた。

 おかげで彼は、その一瞬を見逃さなかった。

 

「! 機影いちっ……」

 

 蒼い影が上空から低空へ過ぎ去って行った。

 わずか一瞬の間に機関砲を掃射した影は、自分達を狙う機体の尾翼を奪い取った。

 

 バランスを欠いた機体はフラットスピンを起こし、制御を失う。

 飛行士が機体から脱出する瞬間を見届けた幸村は、ようやく現実を認識した。

 

「た、助かった……⁈」

 

「幸村っ、信昭っ! 何が起きたか、そなたは見えたか!」

 

 伝声管から伝わって来た従兄の声に、幸村は答えた。

 

「見たことのない戦闘機がっ、戦闘機が助けてくれました!」

 

「……くっ、あれか? 蒼い機体……識別表に、ないな」

 

 幸村の視界にも、その機体が現れた。

 小型ながら、恐ろしく速い。主翼に紅の一つ星が見えた以外に、情報はろくに得られなかった。

 

「あれは、どこの機体だ?」

 

「機長、紅の一つ星が主翼にあった。見たことのない標章だ」

 

 8の6の乗組員に聞いても、知る者はない。

 まさしく突如として現れた、謎の存在であった。

 

 しかし幸村には、ひとつだけ心当たりがあった。

 

「信繁殿、あれは……神兵なのでは?」

 

「神兵……葦原建国の折に現れた、(つわもの)たちか」

 

 まさか、今さら命運尽きたと思われた幕軍につくのか。

 いや思い返してみれば───彼らは神々が遣わす兵だ。

 そのような、作為的な時期に現れるのは珍しくない。

 

 とはいえマランス合衆国皇帝の生命神暗殺以来、葦原に出現の報せはなかった。

 

 神兵の助けから間もなくして、通信機から伝わる戦況は阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 

「後方より敵機!」

 

「後方⁉︎ 神機隊は何をしている⁈」

 

「電探に感あり、正面からも敵機! 挟み撃ちだ!」

 

 この状況で、自分達より先に爆撃機隊の方がこの世を去るとは。

 

 ほっとするのも束の間。

 通信機の声が止むと、幸村の視界に2機の戦闘機が映った。

 

「後方! 機影2!」

 

「幕軍は、我らを帰してはくれないか……!」

 

 市街地の空爆に反対はすれど、幕府軍からしてみればいずれ味方を殺す人間だ。

 生かして帰す理由は薄いに違いない。

 

 幸村は双眼鏡を持ち、機体を伺う。

 主翼にあるはずの誘導弾はない。先の戦闘で撃ち尽くしたか。

 

「後方の敵機、誘導弾なし!」

 

「だとしても、なす術がないことに変わりはないな……!」

 

 機銃の押金に指を戻し、いつでも撃てる体勢に移る。

 それでも、撃てば間違いなく死ぬ。

 

 互いの距離が縮まり、間もなく射程圏内に。

 暴れ狂う心臓を抑えるべく深呼吸するも、その時は迫る。

 

 今か。今のうちに撃つべきか?

 幸村が覚悟を決めたその時、幕府軍の背後に、あの機影が現れた。

 

「また機影! ……蒼い機体!」

 

「先の神兵か⁉︎」

 

 まさか、彼は幕府軍を撃ってでも助けてくれるのか?

 都合のいい妄想が幸村の脳裏に浮かぶが、相手の動きは妄想を凌駕していた。

 

「うわわっ!」

 

 幕府軍の機体を悠々と飛び越し、急減速して降下。

 8の6と幕府軍の間に割って入ったのだ。

 

 幕府軍は8の6を射程に収めたはずだが、撃ってこない。

 恐らく、恩人の行動に困惑しているのだ。

 

 幸村は風防越しに蒼い機体の飛行士と視線を交わした。

 意図が理解出来ない。助けるつもりなのか、それとも───

 

 逡巡していると、彼は顔を覆う酸素マスクを外して素顔を晒した。

 笑顔。そして、親指を立てる。

 

 葦原にはない習慣だったが、なんとなく自分を安心させようとしているのは幸村にも理解出来た。

 そして何事か、恐らく幕軍に対して語り掛け。

 

 幕府軍の2機は、踵を返した。

 

「ば、幕軍の機体、離脱します……」

 

「ま、まさか。あの場から生きて逃れようとは……」

 

 信繁の言葉に、幸村は自身の生還を悟った。

 思わずボロボロと涙が頰を伝い、嗚咽を漏らしてしまった。

 

「幸村、泣くにはまだ早い。ここからが本番なのだぞ」

 

「はいっ、わかってますっ……」

 

「ただ、そうだな。そちらからも礼を言っておくと良い」

 

 機長命令に従い、幸村は彼に伝わるよう頭を上下させた。

 このオーバーリアクションも流石に伝わったのだろう。蒼い機体の飛行士は会釈をすると、反対方向へと遠ざかっていった。

 

 不当な命令に抗議した8の6の面々は、周囲から嫌悪の視線を浴びながらも無事帰投した。

 そうなればよかったのだが、当然粛清命令が出ている以上そうもいかない。

 

「8の3、8の6。やってくれたな……爆弾を満載したその機体で、

貴様らはどこへ行くつもりだ?」

 

 帰路の最中、憎悪が通信機から漏れ出してきた。

 東征軍の空軍司令だ。命令違反にご立腹の様子。

 

「これより、庄外空港へ帰投します。着陸の許可を願います」

 

「ああいいだろう。着陸を許可する」

 

 その言葉を素直に受け取れるほど、8の6の面々も油断はしていない。

 信繁は着陸許可を得ると、通信機の周波数を操作した。

 

「松代信繁である。感度はどうか? 問題ないのならば、

急ぎ父上へ伝えてほしい……」

 

 あとは、どれほど早く伝わり、どう動くかだ。

 下ごしらえを終えた8の6は無事着陸した。

 

 駐機場で乗組員達が地上に降りると。

 待っていたのは、完全武装した空軍守備隊と東征軍司令官だった。

 

「貴様らには粛清命令が出ている。忘れてはいまいな?」

 

「ええ。覚悟の上、帰って参りました」

 

 信繁以下、8の6乗組員は挙手敬礼で司令官を迎えた。

 

「貴様は自分のことを誇り高い武士とでも思っているんだろう……違うぞ。

ただの大義から逃げ出した卑劣漢だ」

 

「軍は……武士とは、民を守るべく武装を許された階級だ!

守るべき民を傷つけては、本末転倒ではありませぬか」

 

「ならば、此度の作戦の責は幕軍にある!

市街地のど真ん中に、砦を築いた奴らにな!」

 

 その指摘には明確な事実があった。

 ただし、歴史を考えれば無理筋というもの。

 

「五稜郭は冬天(とうてん)軍閥の侵攻を受けて築かれたものです。

人が集まれば需要が生まれ、需要を満たすべく商いが始まる。

街が出来るのは自然な話。あなたの故郷(おくに)でも、似たようなことはあったはず。

それを幕軍の責とするのは、些か乱暴というもの」

 

「貴様ッ、どっちの味方か! 幕軍、将軍の犬か!」 

 

「私は武士(もののふ)として、正しき行いをしたまででございます」

 

「馬鹿がっ! 新しき世に、武士など不要と言うに!

……やはり、反乱分子であったか」

 

 口論をしても筋悪と見たのだろう。

 司令官は階級という権限を用い、勝利を掴まんとした。

 

「憲兵! 連行せよ!」

 

 命じられた守備隊の面々は、顔を見合わせて銃口すら向けずにいた。

 

「おい、何をしている……お前らも反乱分子か、田舎者」

 

 お互い、田舎者だろうに。

 守備隊の兵も嫌々ながら8の6乗組員ににじり寄った。

 

 その時だった。

 猛スピードで駐機場を走る車が、彼らのそばで駐車した。

 

 扉には近衛兵団と銘打たれている。

 近衛兵は帝の守りを任された者達であり、同時に軍内部の規律統制を行う憲兵の側面もあった。

 

 各軍が持つ憲兵と違い、権限が強く複数の軍や地域を跨いだ捜査・介入が許されていた。

 帝の代行者たる彼らの行動は、やんごとなき者の意思と同義である。

 

「何者か! 危険であろう!」

 

「近衛兵団、税所(さいしょ)篤良(あつよし)少尉である! 中将、貴様に天子様から言伝です」

 

「天子、様……。聞こう」

 

「『朕は絨毯爆撃を許した覚えなどない。

朕の名を騙る不届者を取り調べよ』。以上」

 

 ここで、信繁の蒔いた種が芽吹いた。

 真田藩出身の通信隊経由で近衛兵団と連絡を取り、それが政府側の帝である弘山親王の耳に届いたのだ。

 

 政府軍の犠牲を減らすため、やむなくあのような爆撃の許可を出したか。

 そう考えていた信繁だが、帝から粛清命令が異常な早さで下った際に疑問が生まれたのだ。

 

 帝を通さず、無茶な作戦を実行しているのではないかと。

 信繁の懸念は、残念ながら当たっていたようだ。

 

「証拠は我が機の通信記録にあります。確かに、最高指揮官の命と仰せでした」

 

 東征軍空軍司令は視線を伏せ、篤良少尉は目を光らせた。

 

「……後ほど改めましょう。中将、ご同行願う」

 

「北の田舎者がっ、私に触れるなっ」

 

「中将。自分は幸彦(さちひこ)藩の生まれです」

 

 幸彦藩は葦原の最南端、葦原政府を生み出した藩のひとつである。

 周防(すおう)藩出身の司令官としては侮蔑の対象ではあるが、下手なことが言えない相手に違いなかった。

 

 怒りに頰を震わせながら、司令官は近衛兵に従った。

 しかし、この屈辱に耐え難かったのだろう。車に乗り込む際、身を乗り出して叫んだ。

 

「よかったな、裏切り者! お主の働きで五稜郭攻略は困難となり、

政府軍の多くが死ぬ! いいじゃあないか、武士は殺すもの!

武士の鑑だな!」

 

 その捨て台詞を最後に、車は去っていった。

 8の6の面々と基地守備隊、そして近衛兵団の篤良が駐機場に残された。

 

「私は……武士として正しい事を……」

 

 あの捨て台詞は、信繁の心に深く刺さったのだろう。

 市街地が健在となれば、幕府軍が身を隠す場所となる。

 身を隠せるのならば、銃弾や爆撃から身を守る遮蔽物に使える。

 

 結果、五稜郭の攻略は難易度が上がる。

 ひいては味方の死に繋がる。

 その分、戦も長く続くことになるだろう。

 

 最高指揮官、帝のことを歩く判子ぐらいにしか捉えていない司令官だったが。

 少なくともこの指摘は事実だった。

 

「信繁殿……俺は、間違っていないと思います。そう、信じたい」

 

 幸村は肩を震わせ動揺する従兄に告げた。

 しかし、あの論を跳ね除ける言葉は見つからない。

 

「松代信繁大尉。拘束はしないが、後ほど貴様にも聴取を行います」

 

「ええ。私は逃げも隠れも致しません」

 

 篤良は書類に目を通したまま、ニコリともせず言う。

 

「さるお方からの言伝です。『あなたの勇気に敬意を表します。可能な限り、

お守りしましょう』以上」

 

「それは……天子様の?」

 

「これは公式のものではありません。が、言った以上は全力を尽くすでしょう。

あの人は」

 

 記入を終えると、篤良はそれを手渡す。

 

「こちらに、そちらの言い分を。では後ほど」

 

 必要な事だけを行うと、あの近衛兵は足早に立ち去ってしまった。

 ようやく8の6の面々に気を抜ける時間がやってきた。

 

「な、なんとかなったぁ……」

 

「まったくだ。私も最善を尽くしはしたが、ヒヤヒヤしたよ」

 

 腰を抜かしてへたり込んだ幸村に、信繁は笑いかけた。

 信繁はなんとかその足で立っているが、他の乗組員は機体や仲間に寄り掛かり、本当の生還を喜び合った。

 

「あの、蒼い機体が奇跡を運んでくださいました」

 

「全くだな。彼がいなければ、我らはあの空に散っていただろう」

 

 日が落ちつつある空を仰ぎ、かの神兵に思いを馳せた。

 彼がいなければ、こうして地に足着くことすら望めなかったに違いない。

 

 しかしあの男は恐らく、幕軍の側についている。戦場で出会えば敵だ。

 

「さあ幸村。近衛兵殿とお会いする刻まで、まだ猶予がある。夕餉(ゆうげ)を頂こう」

 

「はいっ、兄上」

 

「その呼び名。もう辞めたのかと思ったぞ」

 

 思わず口から出た幼少期の口癖に、幸村は頰を赤く染めるのだった。





【挿絵表示】

旧真田藩空軍第1爆撃隊
現葦原政府空軍第4航空団第8飛行隊6番機
所属機体 ヤ11爆撃機
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